「っと言うわけで、ユーノ君達も一緒に行かない?」
「ごめんなのは……何がと言うわけなのかサッパリわかんないんだけど……」
日曜日の昼下がり。
いつものごとく、仕事の合間の休憩時間を利用してうちの喫茶店へとやって来たなのはにそう返す。
因みに今はお客さんは彼女以外にいないので、僕はカウンター席に座っているなのはと向かい合う形で話している。
「にゃはは、ゴメンゴメン。実はね……」
どうやらさっきのはなのはの冗談だったらしく、今度こそ本題へと入った。
その本題の内容は、来週からの四日間…なのはやフェイト、そしてヴィヴィオやその学校の友達を含めたみんなで『無人世界カルナージ』へ春の大自然旅行ツアー&オフトレーニングをするらしい。
それで、僕達一家も誘いに来たらしい。
「でも、何で僕たちまで?」
「それはね、今回旅行とオフトレも兼ねて、ユーノ君が帰って来たお祝いもしようかな~って思ってね」
「お祝いって……そんな大袈裟な……」
「大袈裟じゃないよ! 私やフェイトちゃんだけじゃなくて、他のみんなだってもユーノ君がいなくなって凄く心配してたんだからね!」
「ご…ごめん」
なのはの余りの剣幕に、つい謝罪の言葉を口にしてしまった。
「それで、どうかな?」
「うーん……」
なのは達と旅行か……まぁ最近大忙しだった喫茶店も落ち着いてきたし、それに娘達と旅行なんて地球以外どこにも連れて行った事もないし……いいかな。
「わかった、行くよ」
「本当!? よかった、ヴィヴィオも喜ぶよ」
ヴィヴィオか……そう言えばヴィヴィオと会うのも久しぶりだなぁ。確か今年で10歳だから、娘達と同い年か。いい友達になれるといいけど。
「そう言えばシュテル達は?」
「奥でお昼ね中だよ。どうも昨日夜更かしをしたみたいでね」
「そうなんだ~……ねぇ、寝顔を見てきてもいい?」
「ダメ。起こしたらどうするの?」
「起こさないようにするから!」
「それでもダメ。それに、子供の寝顔を見るのは父親である僕の特権だからね♪」
「ケチ!」
「ケチで結構。この特権は誰にもわたさないよ」
「……何だかユーノ君、お父さんに似てきた気がするの」
「えっ?」
僕が? 士郎さんに?それってつまり……親バカってこと!!?
「……マジで?」
「マジなの」
いやいやいやそんなハズないよ。確かに娘達は好きだけど、親バカって言うほどじゃ……
「……ユーノ君、シュテル達に彼氏ができたらどうするの?」
「バインドを何重にも掛けたあとそいつらを宇宙空間に転送する」
「ほらやっぱり」
「………………」
どうしよう……何も言い返せない。考えるより先に口が出ちゃった。
「僕って……親バカだったのか……」
「そんなにショックを受けることなの?」
修行してた頃に、士郎さんの親バカっぷりを引いた目で見てたからね……まさか自分が傍からじゃ同じように見えていたなんて……
「でもまぁ娘を愛するのは悪い事じゃないよね」
「立ち直り早っ!?」
認めてしまえば案外どうってことないんだよ。
「話を戻すけど、とりあえず旅行の件はわかったよ。たぶんシュテル達も喜ぶと思うし」
「うんわかった! 楽しみにしてるの!」
「僕も楽しみだよ。なのは達と旅行に行くのは初めてだからね」
「…………え?」
あれ?なのはが止まった?どうしたんだろう?
「なのは、大丈夫?」
「えっ…あ…うん! 大丈夫だよ!!」
「そう? ならいいけど……」
「うん……それじゃあ私、休憩時間も終わるから行くね! 紅茶ごちそうさま!」
「うん。仕事頑張ってね」
「またねー!」
なのはから紅茶代を受け取り、僕はそのまま仕事へ戻るなのはを見送った。
「……フゥ……」
なのはを見送ったあと、僕は小さく息を吐いた。
ダメだなぁ……どうにも、なのはを前にすると気持ちが落ち着かない。今までは作り笑いと演技でどうにか誤魔化してきたけど、いつバレることやら……
それにしても……さっきのなのは、何だか様子がおかしかったような……気のせいかな?
「うー……おとーさん?」
「あっ…レヴィ、起きたの?」
ふと視線を移すと、レヴィが寝ぼけ眼で目を擦りながら歩み寄ってきていた。
「んー…ボクおなかすいたー」
「そっか。じゃあシュテル達も起こして、お昼ご飯にしようか?」
「うん……」
未だに寝ぼけているレヴィに苦笑しながら、僕はレヴィを抱き上げて店の奥へと向かった。
なのはの事は…たぶん気のせいだろう。
因みに、昼食時に娘達に旅行の件を話したら、三人とも大喜びしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
なのはside
その日の夜……仕事が終わって家に帰って来た私は、ヴィヴィオと一緒に晩ご飯を食べて、お風呂に入って、あとはもう寝るだけだったんだけど……中々寝付けずにいた。
その理由は、ユーノ君を旅行に誘いに行った時に、彼が言った言葉……
『なのは達と旅行に行くのは初めてだからね』
あの言葉が妙に引っかかった。
私…ユーノ君と一緒に遊びに行った事なかったっけ?
ううん、そんなハズない。ジュエルシード事件の時に行った温泉旅行とか。あ…でも私、あの時はユーノ君が人間って知らなかったし、旅行って感じじゃなかったかな……
でもでも、みんなでお休みが取れた時なんてよく一緒に……一緒…に……
「アレ……?」
おかしい……なんで? なんでユーノ君と一緒に行った記憶がないの!? フェイトちゃんやはやてちゃん、それにヴィータちゃんたち守護騎士のみんなと行った覚えはあるのにどうしてユーノ君だけ!?
「私……疲れてるのかな?」
そうだよ……今の私は仕事で疲れて、ちょっとド忘れしてるだけだよ! うん、きっとそうだ。今日はもう早く寝ちゃおう! 明日になったら、きっと思い出せるから!
私は自分を半ば無理矢理そう言い聞かせたけど……やっぱり寝付く事ができなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ユーノside
時は流れて、旅行当日。
僕達一家は次元空港へとやって来た。
「りょ・こおー♪りょ・こおー♪」
「レヴィ、落ち着いてください」
「まったくだ。今からそんな調子では、向こうでくたびれてしまうぞ?」
「だいじょぶだいじょぶ! ヨユーOK♪」
一人ハシャいでいるレヴィにシュテルとディアーチェが注意を促しているけど、今のレヴィには通用しないみたいだね。
でもその注意をしている二人も、本当はレヴィみたいにハシャぎたいんだよね。何だかんだで楽しみにしてたし。
「さてと……確か集合場所はここら辺のハズだけど……」
「ユーノくーん!!」
「あ…いたいた」
声のした方を見ると、そこにはすでにみんな集まっていた。
「ゴメン、待たせちゃったかな?」
「ううん、全然」
「私達も今来たところだから」
「そう? ならよかった」
なのはとフェイトの言葉に僕は少し安心する。すると……
「ユーノ司書長!!」
「お久しぶりです!!」
なのはの教え子であり、現在は防災士長である『スバル・ナカジマ』と執務官である『ティアナ・ランスター』が僕に敬礼をしながら挨拶をしてくる。
「スバルにティアナ、久しぶりだね。元気そうでなによりだよ。それと、僕はもう司書長じゃなくて一般市民なんだから、敬礼はしなくてもいいよ」
「あ…すみません」
「ついクセで……」
まぁ、僕が司書長を辞めてから全然会うこともなかったから、仕方ないか。
「ノーヴェも、久しぶりだね」
「お…おう……」
僕の挨拶に歯切れが悪そうに答えるノーヴェ。
無理もない。僕とノーヴェが会ったのは、彼女がまだ海上隔離施設にいた頃に、僕がそこの更生プログラムの講師として一度だけ赴いた時に会ったけだからね。
「ユーノさーん!!」
「あぁ、ヴィヴィオ。ヴィヴィオも久しぶり、大きくなったね」
「はい♪」
そう言って僕はなのはの娘であるヴィヴィオの頭を軽く撫でてあげる。
「あ、ユーノさん! 私の友達を紹介しますね!」
ヴィヴィオがそう言うと同時に、三人の女の子が前に出てきた。
「ヴィヴィオの同級生で、リオ・ウェズリーです!!」
一人は活発そうで、どこかレヴィと似たような雰囲気の女の子。
「同じくヴィヴィオの同級生の、コロナ・ティミルと言います」
もう一人は礼儀正しく、優しい雰囲気の女の子。
「初めまして。St.ヒルデ魔法学院中等科…ハイディ・E・S・イングヴァルトと申します。アインハルトと呼んでください」
最後の一人は、三人の中でも年長者で、ヴィヴィオと同じ虹彩異色の女の子だった。
イングヴァルトって、もしかして……古代ベルカ時代にあったシュトゥラ王国の国王『覇王イングヴァルト』の末裔かな?
……まぁいいや。あまり詮索しないでおこう。
「僕はユーノ・スクライア。クラナガンにある喫茶店『翠屋』で店長を務めてます。みんなも、よかったら来てね」
「「「「はい!」」」」
僕の自己紹介&宣伝に、三人だけじゃなくヴィヴィオまで返事を返してくれた。
「それじゃあ、僕の娘達も紹介するよ。ほらみんな、自己紹介して」
「はい。私はシュテル・スクライアと申します。シュテルとお呼びください」
「ボクはレヴィ・スクライア!! レヴィって呼んで!!」
「我はディアーチェ・スクライア。好きに呼ぶがいい」
ヴィヴィオ達を見習って元気良く自己紹介をする娘達。
「ふわぁ…本当になのはママとフェイトママとはやてさんにそっくり!」
「当然だ。我らはオリジナル共が基になっているのだからな」
「でも性格は全然似てないね」
「それは人それぞれの個性と言うものですよ、ヴィヴィオさん」
「ヴィヴィオでいいよ!」
「そう? じゃあよろしくーヴィヴィオ! あとリオとコロナとアインハルトもね!」
子供組はさっそく馴染んだみたいだね。やっぱり子供は適応力高いなぁ。
「さぁみんなー! そろそろ出発するよー!」
『はーい!!』
そんななのはの号令を聞いて、僕達一行は臨行次元船へと乗り込んで出発した。
こうして……四日間の短いようで長い僕達の旅行が始まった。
つづく