僕の経営する喫茶店がなのは達に見つかって約二週間。
なのは達に見つかってからと言うもの、彼女達は仕事の合間に時間を見つけては、よくこの店に来ている(特になのははほぼ毎日のように)。今ではもう立派な常連だ。
だけどそのせいで、ここ最近のお店の忙しさは今までの比ではない。
管理局のエース・オブ・エースのなのは。
本局で美人執務官として有名なフェイト。
古代ベルカの稀少スキルを持つ最後の夜天の書の主、はやて。
管理局の中でも有名人であるこの三人が常連客である為、そんな彼女達をひと目見ようとお客さんが押しかけて来るのだ。主に男性客が。
喫茶店の店主としては嬉しい話なんだけど……正直毎日は辛すぎて無理。
でも今日はそんな心配はいらない。何故なら、今日は週に一度の定休日なのだから。
と…言うわけで
「今日はどこかに出かけようか?」
ガタン!
朝食の時間…僕が何気なく言ったひと言に、娘の三人が反応した。
「お出かけ!? やったぁ! 行きたい行きたーい!!」
「本当か!!? 父上と出かけるなぞ久しぶりではないか?」
「確かにそうですね。喫茶店がオープンしてからは色々忙しかったですし」
そうそう…オープンしたての頃はやることがたくさんありすぎて忙しかったんだよなぁ。今日みたいな定休日でも、家でのんびりする日が多かったし。
「ここ最近は本当に忙しかったけど、三人共よく頑張ってくれたからね。何か欲しいものがあれば、何でも買ってあげるよ。モノにもよるけどね」
僕からのささやかなご褒美のようなものだ。
「本当!!? じゃあボク、カッコイイ服が欲しい!!」
「父上! 我は料理の本が欲しいぞ!! 新しい料理の研究をしたいのだ!!」
「二人共、落ち着いてください」
何か買ってもらえると聞いて大はしゃぎをする二人を、シュテルが宥める。でも僕の目は誤魔化せない。ああ見えてシュテルも内心とてもワクワクしている。その証拠に、彼女の口角が僅かに釣りあがっているから。
「それじゃあ、今日はデパートにでも行こうか」
「「「はーい!!」」」
それから30分後、身支度を終えた僕らは車でクラナガンのデパートへと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、僕らはクラナガンの大型デパートへとやって来た。
のは…いいんだけど……
「ボクの服が先だ!!」
「ならぬ!! 王たる我の用事が優先だ!! 本屋へゆくぞ!!」
「…………」
服屋が先か本屋が先かで言い争いをするレヴィとディアーチェ。そしてそんな二人を静かに傍観しているシュテル。こんな調子でかれこれ10分は経過している。
「シュテルは何か欲しい物はないの?」
「……特に、これといって」
「そう……」
何というか…シュテルって二人に比べるとまったく欲がないんだよね。子供なんだから、もっとワガママを言っていいのに……っと、そろそろあの二人を止めようか。
「ほらほら二人共落ち着いて。喧嘩するような子には何も買ってあげないよ?」
「「ごめんなさい!!」」
うん、素直でよろしい。
「じゃあとりあえず、二手に分かれようか。僕とレヴィが服屋に行って、シュテルとディアーチェが本屋へ行く。これでいいね?」
「そうですね。その方が効率的だと思います」
「いいよー!」
「我も異論はない」
満場一致で決まりだね。
「それじゃあシュテルとディアーチェにはお金を渡しておくから、欲しい物があったらコレで買っていいよ。ただし、一人一つだけね。あと何かあったらすぐに念話で連絡すること。わかった?」
「はい」
「承知した」
「それじゃ、各自用事が終わったらここに集合ってことで。行くよレヴィ」
「はーい!」
こうして僕とレヴィ、シュテルとディアーチェの二手に分かれて、それぞれ目的のお店へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「~~♪~~♪」
二手に分かれてからと言うもの、さっきからレヴィがやけに上機嫌だ。鼻歌まで歌ってるし。
「レヴィ、何だか嬉しそうだね?」
「うん! 嬉しいよ! 何だかおとーさんを独り占めしてる気分だからね!!」
独り占めって……お父さんはみんなのお父さんだよ?
「ボクもシュテるんも王様も、おとーさんが大好きだからね! こうやってボク一人だけでおとーさんと一緒にいられる事なんてあんまり無いんだよ?」
……そう言われてみれば、基本的に三人一緒に相手をしてるから、一人だけ相手をしてあげるって事はあまり無いかも。
まぁやったとしても、途中から残った二人が乱入してくるのは目に見えてるけどね。
「だから! ボクは今のうちに、おとーさんにい~~~っぱい甘えておくんだ~♪」
そう言って僕の腕に飛びつきながら天真爛漫な笑顔を浮かべるレヴィ。ああもう! 自分の娘ながらホント可愛いな!! 今ならなのはを溺愛してた士郎さんの気持ちがよくわかるよ!!!
……で、そんなこんなをしてる間に子供服売り場についた。
「それで、レヴィはどんな服が欲しいの?」
「カッコイイ服!!」
「……とりあえず、見て回ろうか?」
「うん!」
手を繋ぎながら店内を見回る僕とレヴィ。
それから、店員さんからの助言をもらいつつ、レヴィが好きそうな服を一式購入した。
「~~♪~♪~~♪」
お店から出てから、レヴィは服の入った袋を抱えながら、先ほどよりも上機嫌に鼻歌を歌っている。よっぽど買った服が気に入ったんだね。
「よかったねレヴィ、いい服があって」
「えへへ♪でも、嬉しいのはそれだけじゃないんだ!!」
え?違うの?
「ボクはね、この服を大好きなおとーさんに買ってもらったことが凄く嬉しいんだ!!」
「!!」
満面な笑顔でまっすぐと僕を見ながらそう言ってくれるレヴィに、僕は自然と笑顔を浮かべた。
あぁ……僕は本当に……いい娘を持ったなぁ……
「? おとーさん、どうしたの?」
「……いや、何でもないよ。行こうレヴィ、シュテルとディアーチェも待ってると思うから」
「うん!」
僕は…こんな何気ない幸せを噛み締めながら、レヴィと手を繋いで集合場所へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「遅いぞ父上にレヴィ! 待ちくたびれたわ!」
「おかえりなさい。いい服はありましたか?」
「うん! おとーさんに買ってもらった~♪」
集合場所につくと、そこにはすでにシュテルとディアーチェの姿があった。
「お待たせ。二人は何を買ったの?」
僕がそう聞くと、シュテルとディアーチェは持っていたレジ袋を見せる。
「我は新しい料理の本だ! これでまた、我の料理のレパートリーが増えるぞ!!」
誇らしげにそう宣言するレヴィ。
うーん……これ以上ディアーチェが料理上手になったら父親としての尊厳がなくなる気がする。
「私は……コレです」
次にシュテルが恥ずかしげな様子で袋から取り出したのは……
「……ぬいぐるみ?」
なんとも可愛らしいクマのぬいぐるみだった。
「そ…その……可愛かったので、つい……」
恥ずかしそうにぬいぐるみで顔を隠しながらそう呟くシュテル。
あぁ、そう言えばシュテルは小動物とかぬいぐるみとか可愛いもの系が大好きだったね。
「ダメ…だったでしょうか?」
何の反応も見せなかった僕を見て、不安そうな顔をするシュテル。
「ううん、全然。逆に安心したよ。シュテルって欲が無さそうだったから、ちゃんと自分の欲しい物を買ってくるか心配だったからね。君がこうやって自分のワガママを言ってくれて、僕は嬉しいよ」
僕はそう言いながらシュテルの頭を撫でる。
「ありがとうございます……お父様」
僕に撫でられながら、どことなく嬉しそうな顔をするシュテル。あぁ…シュテルのこういう顔…何だか癒される。いやまぁ、娘達の笑顔なら誰でも癒されるけどね。
「さて、時間も時間だし、お昼ご飯でも食べに行こうか?」
時計を見ると、時間はすでにお昼の1時を過ぎていた。ちょうどこのデパートには大きめのファミレスもあるし、そこで昼食を済ませよう。
娘達の了承も得て、ファミレスへと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「いらっしゃいませ。えっと……4名様でよろしいでしょうか?」
「はい。あと禁煙席でお願いします」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
店員さんに案内され、席に着く僕ら。その際に、誰が僕の隣に座るかで三人娘が
そして、今はそれぞれ注文した物を食べている。
「おいし~♪」
「ハァ……レヴィ、また口元が汚れてるよ。ほらジッとして」
「んー」
相変わらず乱暴な食べ方をして汚れているレヴィの口元をナプキンで拭き取る。いつになったら落ち着いた食べ方をしてくれるのかなぁ……
「ってコラ、シュテル?」
「(ビクッ)な……なんでしょうか?」
「露骨に目を逸らさない。またそうやってニンジンを除けて……」
シュテルの皿の上は、明らかにニンジンだけが他の料理と隔離されている。
「ニンジン……嫌いです」
「好き嫌いはダメだよ。ちゃんと食べなさい」
「…………………はい」
随分間が長かったような気がするけど、顔をしかめながらもちゃんと食べてくれた。
「まったく仕方がないな、シュテルは」
「偉そうに言ってるけどディアーチェ、君のお皿の上に残ってるそのプチトマトは何かな?」
「……………」
どうしてこの子達は自分の立場が悪くなると露骨に目を逸らすのだろう。
「ディアーチェ、シュテルを見てご覧。頑張って苦手なニンジンを食べているんだよ?」
「ぐっ……」
「ディアーチェは三人の中で一番上のお姉ちゃんでしょ? 妹が頑張ってるのに、お姉ちゃんが頑張らないでいいのかなぁ?」
「ぐぬぬ……!」
「ディアーチェ」
「ええーい! もうわかったわ!! 食えば良いのだろう食えば!!」
「わかればよろしい」
こうやって娘の好き嫌いを直してあげるのも父親の務めだ。
「ごちそーさま!!」
そうこうしている間にレヴィが一番に食べ終わっていた。この子は基本的なんでも食べるから好き嫌いとかないんだよね。もうちょっと食べ方を何とかしてくれれば言うことなしなんだけど……
「お父様……食べました」
「我もだ」
そう言ってシュテルとディアーチェは空になったお皿を見せてくれる。うん、ちゃんとニンジンとプチトマトも食べてあるね。感心感心。
「それじゃあ三人とも、残さずキチンと食べたご褒美に、デザート頼もうか?」
「「「やったー!!」」」
その後…三人はそれぞれ食べたいデザートを注文してそれを食べ終えたのち、僕たちはファミレスを後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
それから僕らは、しばらくデパート内を自由に歩き回った後、車に乗って帰路についていた。
「………ふふっ」
運転席からバックミラー越しに見える光景に、僕は思わず笑みを浮かべた。そこに映っていたのは……
後部座席で仲良く身を寄せ合って寝息を立てている娘達の姿があった。
ずっとハシャいでたから疲れたんだろうなぁ。かく言う僕も、結構疲れてるんだけどね。
けど…それがいい。働いて疲れるより、思いっきり遊んで疲れるほうが何となく清々しい。
その証拠に、後ろで眠っている娘達の寝顔はいつにも増して可愛らしい。まぁ僕の娘達はいつも可愛いんだけどね。
そんな愛娘達の寝顔を尻目に、僕は家に向かって車を走らせたのだった。
つづく