なのはSide
『なのはちゃん、フェイトちゃん。今日このあと時間空いてるか?』
本日の分の教導が終わって、私が帰る準備をしていると、はやてちゃんが通信モニター越しにそう尋ねてきた。その隣の通信モニターにはフェイトちゃんの姿も映し出されている。
「私はもう今日の分の教導が終わったから大丈夫だけど?」
『私もちょうど今仕事が終わったところだけど……』
『そうか? ほんならちょうどええわ。今から本局のロビーに来てもらえるか? 大事な話があるんよ』
大事な話? なんだろ?
「わかった。今から行くね?」
『私もすぐに向かうよ』
『おおきに。ほんなら待っとるで』
その言葉を最後に、はやてちゃんとフェイトちゃんとの通信モニターが消えた。はやてちゃんが真剣な顔だったから、よっぽど大事な話なんだろうなぁ。
そんな事を考えつつ、私は待ち合わせ場所である本局のロビーへと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「えっと……」
「なのはちゃーん! こっちやこっち!!」
ロビーに着いてすぐ、はやてちゃん達を探してたら通路の向こうからはやてちゃんが手を振っているのが見えた。その隣にはフェイトちゃんもいた。
「遅れてごめーん!」
「ええよ。私らもさっき来たとこやしな」
「うん。気にしないで」
二人に謝罪しつつ、私は二人が座っているソファの上に腰を下ろす。
「この三人で集まるのも久しぶりだね」
「せやなぁ、ここの所みんな急がしかったからなぁ」
「それではやて、大事な話ってなに?」
フェイトちゃんがそう聞くと、はやてちゃんは「せやったせやった」と言って、さっそく本題に入った。
「まず二人共、これ見てくれるか?」
そう言ってはやてちゃんがテーブルの上に置いたのは、私の実家とかでよく見たケーキとかを入れる紙の箱だった。
「この箱がどうかしたの?」
「その箱に書いてある店の名前を見てみぃ」
はやてちゃんにそう言われて、私は箱を手にとってお店の名前を確認する。えっと……
「えぇぇ!!? み…翠屋!!?」
「えぇ!!?」
思わず大声を上げてしまう私とフェイトちゃん。だって、そのお店の名前が……私の実家の喫茶店とまったく同じだったんだから……
「せや。カリムんとこでこれを見た時は私もビックリしたわ。私はな、この店は何か地球に関係しとると思うんよ」
「で…でも、偶然名前が一緒だっただけじゃ」
フェイトちゃんの言うとおり、名前が似ているお店なんてたくさんある。それに私たちの故郷である地球は管理外世界……いくらエース・オブ・エースって呼ばれている私の実家だからって、わざわざマネする人なんていないと思う。
「私もそう思ったんやけどな、それやったら『ミッドチルダ店』なんて付けへんと思うんよ」
……確かに、名前に『ミッドチルダ店』って付いてるから、チェーン店だと思うけど……私の実家以外で『翠屋』なんてお店は聞いた事がない。
「これは偶然とは思われへん。絶対に何かあると思う」
「何かって……何が?」
「それを今から調べに行くんやんか」
調べに行くって……今から!!?
「とりあえず今日は普通のお客さんとして行って、そこが普通の喫茶店やったら別によし、少しでも怪しいと感じたら後日に捜査官として調べる。それだけや」
うーん……はやてちゃんは一度言ったら聞かないところあるしなぁ。ふと、フェイトちゃんと目を合わせると、フェイトちゃんは諦めたように苦笑いを浮かべていた。まぁ、私もちょっと気になるからいいかな。
「ほんならさっそく、レッツゴーや!!」
……あとでヴィヴィオに連絡しておかないと。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「えーっと……確かこの辺りのハズなんやけどなぁ」
「あ、アレじゃないかな?」
フェイトちゃんが指差す先のお店の看板には、確かに『翠屋・ミッドチルダ店』と書かれていた。お店の中を確認したいけど、窓がすりガラスだから確認できない。
「ここみたいだね」
「本当に翠屋って書いてある」
「とりあえず中に入ってみようや」
三人で小さく頷き合うと、私が代表してドアに手をかけ、ゆっくりと開いた。
カランコローン!
同時に、来店を伝えるベルが鳴る。そして、中から店員らしき人がやってくる。
「いらっしゃいませ。何名さまで…しょう……か……」
「え? あ…あれ……?」
「なっ……!!?」
「えっ!?」
「うそ……!?」
「な…何で?」
迎えてくれた三人の店員さんを見て、私達三人は言葉を失った。だってその三人は……
私達の幼い頃の姿にそっくりだったから……
『………………!』
私達全員が言葉を失っていると、いち早く復活した私にそっくりな女の子が口を開いた。
「………なるほど。貴女達が、私達のオリジナルですね」
私にそっくりな子がそう言うと、フェイトちゃんにそっくりな子と、はやてちゃんにそっくりな子も口を開いた。
「ふぇ~~ボク達のオリジナルって大きいんだね~」
「阿呆! そんな暢気な事を言ってる場合ではなかろう! どうするのだ!? 面倒な事になったぞ!!」
「落ち着いてくださいディアーチェ。とりあえず、まずはお父様を呼んできましょう。さすがにこの事態は私達の手にはおえないです」
「そ…そうだな! よしレヴィよ、父上を起こしてくるのだ!!」
「りょーかーい!」
そう言ってトコトコとお店の奥に消えていくフェイトちゃんのそっくりさん。
「き…君達は一体……?」
「せ…せや! 君らは何モンなんや!?」
ようやく我に返ったフェイトちゃんとはやてちゃんが問い掛ける。すると、私のそっくりさんはペコリと頭を下げた。
「申し訳ありませんが、その話はお父様が来てからにしてください。それまでの間、どうぞお席へ」
そう言って私のそっくりさんは近くのテーブルに私達を案内してくれたので、私達三人は戸惑いながらその席に腰を下ろした。
「お父様って……君達の父親?」
「はい」
私の問いに静かに頷く私のそっくりさん。
「まぁ…血は繋がっておらんがな。それでも我ら三人にとっては大切な父親だ」
血は繋がってないって事は、私とヴィヴィオみたいな関係なのかな?それにしても、そのお父さんはこの子達に愛されてるんだね~
『おとーさんおとーさん!! 大変だよっ!! 起きてーーー!!!』
ドスーーーン!!!
『ごはっ!!!』
『……アレ? おとーさん! どうしてまた寝ちゃうの!? ねぇ!! それに何で白目剥いてるの!!? おとーさん!? おとーさーん!!?』
『『『……………』』』
上の階から聞こえてくる元気な声と男の人の悲鳴のような声に、思わず無言になる私達。って言うか、何だか凄い音がしたんだけど……
『ほらほらおとーさん早く!! 大変なんだってば!!!』
『わ…わかった……わかったからちょっと待ってレヴィ……君の膝が…思いっきり僕の鳩尾に……』
それからしばらくして、再び聞こえてくる元気な声と男の人の弱ったような声。
……たぶんだけど、さっきの凄い音の正体は、フェイトちゃんそっくりの女の子がお父さんの鳩尾に思いっきりのし掛かった音だったみたい……うん、想像しただけでもかなり痛そう。
それにしても、この男の人の声……どこかで聞いたような……?
そう思っている間に、フェイトちゃんにそっくりな子が、お父さんを連れてやってきた。
「みんなーー!! おとーさん連れてきたよーー!!!」
「ゲホッゴホッ……まったく、一体どうしたの? レヴィがこんなに慌ててるって事は、そんなに大変な事が……」
……………え?
「ん?………あっ」
その人を見た瞬間、私は目を疑った。フェイトちゃんとはやてちゃんも、驚きのあまり、口をあんぐりと開けている。
何故ならその人は……
「ユーノ……君?」
二年前に私達の前から姿を消した大切な友達……ユーノ・スクライア君だったのだから。
「え……!? ユ…ユーノ!!?」
「ホンマに……ユーノ君なんか!!?」
フェイトちゃんとはやてちゃんも信じられないと言った目でユーノ君を見ている。たぶん私も二人と同じ目をしてる。
そしてユーノ君も、呆然とした目で私達三人の姿を見た後……
「……久しぶりだね。元気だったかい?」
私たちに優しい笑顔を向けながらそう言った。
「ユーノ君……」
「僕が無限書庫を辞めてから……ちょうど二年ぶりくらいかな?」
「ユーノ君……!」
「いつかは見つかるとは思ってたけど、こんなに早く見つかるとは思ってなかったよ。まぁ、お店の名前がコレだから、時間の問題だったかな?」
「ユーノ君!!!」
「……………」
私が大声で名前を呼ぶと、ユーノ君は口を閉じた。
「本当に……ユーノ君なの?」
「……そうだよ…なのは」
私の問い掛けに、ユーノ君は笑顔を浮かべながらそう答えてくれた。同時に、私の目に涙が滲んだ。
「ユーノ君……今までどこに……!! どうして……!!」
私の中で色んな感情が入り混じっているせいで、うまく言葉が出て来ない。
「……うん。言いたい事はわかってるから、続きは奥で話そう?」
私の心境を察してくれたのか、ユーノ君はそう言って、お店の扉にかけてある札を『OPEN』から『CLOSE』に変えると、私達をお店の奥へと案内してくれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
場所は変わって、ユーノ君の家のリビング。
そこにあるテーブルに、私とフェイトちゃんとはやてちゃんは、ユーノ君と向かい合うように座った。そして彼の傍らには、私達にそっくりな女の子たちもいる。
「さて……聞きたい事があるなら何でも聞いてよ」
「ほんなら…私からええかな?」
「どうぞ」
まずははやてちゃんがユーノ君に質問を始める。
「単刀直入に聞くわ。その子たちは一体何モンや?」
はやてちゃんは私達にそっくりな三人の女の子を見つめながら問い掛けた。
「……その事を説明する前に、まずは自己紹介しておこうか」
ユーノ君がそう言うと、女の子たちは頷いて、まずは私にそっくりな女の子が口を開いた。
「初めまして、オリジナルのみなさん。私の名前は『シュテル・スクライア』。どうぞ、シュテルとお呼びください」
礼儀正しくお辞儀をしながら自己紹介をする私そっくりの女の子……シュテル。
「ボクはね!『レヴィ・スクライア』だよ! レヴィって呼んで!!」
続けて元気な声で自己紹介するフェイトちゃんそっくりの子……レヴィ。
「我の名は『ディアーチェ・スクライア』。ディアーチェと呼ぶ事を許可する」
最後に高圧的な態度で自己紹介をするはやてちゃんそっくりの……ディアーチェ。
「この三人が、僕の大切な娘達さ♪」
「「「娘!!?」」」
ユーノ君の衝撃的な発言に、つい大声で叫んでしまった私達。そう言えば、確かにシュテル達はユーノ君を父親って呼んでるし、スクライアって名乗ってたけど……
「む…娘って……ユーノ結婚したの!!?」
フェイトちゃんが代表して問い掛けると、ユーノ君は苦笑いしながら答えた。
「いやいやフェイト、僕はまだ結婚してないよ。それにどんな人と結婚したら、君達三人にそっくりな娘が生まれるのさ?」
「あ…そっか」
そう言われて、フェイトちゃんだけじゃなくて私も納得する。そう言えば、さっきディアーチェも血は繋がってないって言ってたような……
「この子達は……そうだね……」
ユーノ君は言い辛そうな表情で言葉を詰まらせたあと、ゆっくりと口を開いた。
「簡単に言うとこの子達は……とある研究施設で君達三人の遺伝子データと魔力データを基に作られた……人造生命体だよ」
「「「っ!!?」」」
二度目の衝撃的発言に、今度は言葉が出なかった。
この子達が……人造生命体!!?
私達の驚愕をよそに、ユーノ君はゆっくりと説明を始めた。
「……僕が無限書庫を辞めてから、大体一週間くらい経った頃かな? 様々な次元世界を放浪してた僕は、とある世界で研究施設を見つけたんだ。その研究施設はすでに破棄されていて、中は殆どもぬけの殻だったけど、一冊だけ研究日誌が残っていたんだ。その日誌を読んで僕は絶句したよ。その研究所で行われていたのは、どれもこれも非人道的で違法な研究ばかり……そこは違法研究施設だったんだ」
そう言って、ユーノ君は辛そうな表情を浮かべたながらも、説明を続けた。
「そして、その研究施設の奥で見つけたのが、厳重に保管されていたこの子達だった……というわけさ」
「それで、ユーノ君がこの子達三人を引き取って、娘にした……っと言うことだね?」
「まぁね。手続きもしてあるよ」
私の言葉に、笑顔で返してくるユーノ君。
「ですから、私達はお父様には心から感謝しているのです」
「うんうん! おとーさんはボク達をあの研究所から救い出してくれたからね!」
「まったくだ! 父上には感謝してもし切れぬな!!」
嬉しそうな表情でそう口にするシュテルたち。
……この子達は本当に、ユーノ君を父親として慕ってるんだね……
「とまぁ…この子たちの詳細についてはこんなところかな?」
「そうか……ありがとうなぁ、ユーノ君」
「あ、じゃあ次は私が質問してもいいかな?」
「いいよ」
はやてちゃんの質問が終わって、次はフェイトちゃんが小さく手を上げながら質問した。
「このお店……どうして、なのはの実家のお店と一緒の名前なの?」
そうだよ……どうしてお店の名前をわざわざ私の実家と同じ『翠屋』にしたんだろう?
「あぁ、それはね……僕が管理局を辞めてからこの約二年の間、なのはの両親の士郎さんと桃子さんの下で喫茶店の修行をしてたからね」
「「「え…えぇぇぇええ!!?」」」
今日で三度目の衝撃発言。
「シュテル達が僕の娘になって、三ヶ月くらいした頃かな? 家族旅行をとして地球の海鳴に行ったんだよ。本当は二日三日したら、また別の次元世界へ行くつもりだったんだけど、偶然士郎さんに会ったんだよ」
お父さんに?
「そこでちょっと……色々あってね。翠屋でアルバイト兼、弟子として働いてたんだ。いやホント……色々大変だったなぁ……」
そう言って何故か遠い目をするユーノ君。一体何があったんだろう? って、そんなことより!!
「私何も聞いてないよ!!? お父さんからもお母さんからも!!」
この二年間、何回か両親に連絡を取ってたけど、ユーノ君が働いてるなんて聞いた事がないよ!
「あれ? そうなの? てっきり連絡してると思ってたんだけど……」
……お父さんとお母さん……今度じっくりお話するの……
「………(ボソッ)本当は僕が黙っててって頼んだんだけどね……」
? ユーノ君が何か言ってたけど、聞き取れなかった。
「まぁそんなこんなで、そのお二人からのお墨付きを貰って、この喫茶店『翠屋・ミッドチルダ店』がオープンした…というわけさ。はい、フェイトの質問終わり」
「あ、うん。ありがとうユーノ」
「じゃあ最後に……私から質問いいかな?」
「いいよ、なのは」
ユーノ君に許可を貰って、私は一番聞きたかったことを聞いてみる。
「どうして……急に私達の前からいなくなったの?」
これが、シュテル達のことよりも…お店のことよりも…ずっと知りたかった私の質問。
「……それはね……」
私の質問に、ユーノ君はやっぱりね…と言いたげな表情をしたあと、ゆっくりと口を開いた。
「……………秘密だよ♪」
「「「えぇぇぇええええ!!!?」」」
予想外の答えに私達は今日一番の大声を上げる。あれだけ…あれだけ溜めておいてまさかの秘密なの!!?
「ど…どうして!!?」
「せや!! こんだけみんなに心配かけたんやから教えてくれてもええやろ!!?」
「そうだよ! 教えてよユーノ!!」
「ダーメ、これは僕個人の問題だからね」
そう言って頑なに教えてくれないユーノ君。うぅ…意地悪なの……
「まぁ時が来たら、教えてあげる『かも』ね」
断言はしないんだね……
「うぅ……何だか釈然としないの……」
「まぁまぁなのはちゃん、こうやってまたユーノ君と出会えただけでも今日はよしとしようや」
「そうだよなのは」
……フェイトちゃんとはやてちゃんがそう言うなら……
「ごめんね。心配かけたお詫びに、今度お客さんとしてお店に来た時には、ちゃんとサービスさせてもらうから」
「ホンマか? ほんなら今度はリィンやヴィータ達も連れてくるな」
「あ、じゃあ私もエリオとキャロと……」
「私はヴィヴィオと来るね」
「わかった。待ってるよ」
そう言って笑顔を向けてくれるユーノ君。よかった……この笑顔は昔と変わっていないの……
「それじゃあ、今日はもう帰ろうか」
「せやな。ユーノ君が見つかったっちゅうこの大事件をみんなに教えてあげなアカンしな」
「そうだね」
そう言うと、私達は早々に帰る仕度をして、家の玄関へとやってくる。
「それじゃあユーノ君、シュテル、レヴィ、ディアーチェ、また来るね♪」
「うん、じゃあねみんな!」
「またのお越しを……」
「バイバーイ!!」
「ふん……」
ユーノ君とシュテル達に見送られて、私達は『翠屋・ミッドチルダ店』をあとにした。
その帰路で、私達は今日の事を話し合っていた。
「いやーまさか怪しいと思うとった喫茶店にユーノ君がおるとは思わんかったなぁ」
「うん、本当にビックリした。それにユーノが父親になってた事も、その娘達が人造魔導師だって事も……」
「肝心な事は聞けなかったけどね……」
そう……ユーノ君が見つかったのは嬉しい事だけど、肝心な事は全然聞けてない。
どうして管理局を辞めたのか……どうして私達に黙っていなくなったのか……
でも今日は、ユーノ君とまた会えただけで満足だから……いいかな。
それに……いつかは教えてくれるのよね……ユーノ君……
ユーノside
「…………ハァ~~」
なのは達が帰ったのを見送った後、僕は大きく息を吐いた。まさか、こんなに早く見つかるとは想定外だったなぁ……
「お疲れ様です、お父様」
すると、僕の隣に立っていたシュテルが労いの言葉を口にする。
「……何のことかな?」
「父上よ、惚けなくともよいぞ」
「そーだよ。あの三人が来てから、おとーさんずっと『作り笑い』を浮かべてたじゃんか」
あー…やっぱりバレてた?
「どうして言わなかったんですか? お父様が管理局を辞めた理由を」
「……言えるわけないでしょ? あの三人…特になのははとても優しい性格だからね。理由を聞いたら、絶対に気に病むと思うから……」
そう……僕が管理局を辞めた本当の理由を知ったら、優しい彼女達はきっと気に病んでしまうだろう。僕の個人的な理由の為に、そんな事にはなってほしくない。
って言うか、孤独に耐えられなくなって辞めましたとか……情けなすぎて口が裂けてもいえない!
「……大丈夫ですよ、お父様」
「シュテル……?」
「私達が絶対に……あなたを一人ぼっちにはさせません」
「っ……シュテル……!!」
微笑を浮かべながらそう言ってくれたシュテルに……僕はゆっくりと両手を伸ばし……
「にゃっ!!?」
思いっきり彼女の両頬を引っ張ってやった。
「にゃ…にゃにふるんですか!?」
「生意気なことを言う口にはオシオキだよ」
「ぷっ…ははははははは!!! シュテるん変なかお~!!」
「わ…笑うなレヴィ……! 笑ってやっては可哀そ……あーははははははは!!!」
急に頬をつねられて困惑するシュテルと、そんなシュテルの顔を見て大笑いをするレヴィとディアーチェ。
「お…お父しゃま……お願いですから放ひてください」
笑い者にされて若干涙目のシュテル。しかたない、放してあげよう。
「でも、気持ちは嬉しかったよ。ありがとう…シュテル」
そう言って僕はシュテルの頭を撫でる。対するシュテルは涙目で頬を擦ってたけど……
「………………」
それにしても…『あなたを一人ぼっちにはさせません』……か。娘にここまで心配されるなんて、もうちょっと士郎さんのところで『父親のなんたるか』を教えてもらう必要があるかな?
いや…やめとこう。あの人には親バカしかない。なのははよく反抗期とかにならなかったなぁ。
……シュテル達の反抗期か……ちょっとシャレにならないかもしれない。
だけど……今はこうやって一緒に暮らしていけるけど、この子達もいつかは大人になる。そうなったら、今のようには暮らしていけない。
その時になったら僕は……また一人になってしまうだろう。
だけど、二年前のように孤独に負けたりとかはしないと思う。
だって……
「あーーー!! シュテるんばっかりズルイ!!!」
「そうだぞ父上!! 我らも甘えさせろ!!!」
「えっ!? ちょ…ちょっと待って二人共!! わかった! わかったから全力疾走でこっちに来るのはやめ──ごふっ!!!」
本日二度目の鳩尾強打。特にレヴィの頭が深く突き刺さった。
「あ……私も」
そうして床に倒れた僕の体の上に娘達がのしかかる形になった。
「……君達ねぇ……」
僕は上に乗っている三人に恨めしい目を向けるけど、当の三人は嬉しそうな表情を浮かべている。
まったく……そんな顔をされたら何も言えないじゃないか。
「ほら三人ともどいて。ちょっと早いけど、夕飯の支度をするよ」
「「「はーい!」」」
だって僕は……毎日この子達から、かけがえのないモノを貰っているんだ。
だからせめて……僕はこの子達の未来を見届けてあげたい。
無限書庫と言う名の穴倉で過ごす……何もない未来よりも……
この子達の中にある……無限の未来を……
僕は……見届けてあげたいんだ。
「ゲホッゴホッ!!」
それはそれとして、この鳩尾に残る深刻なダメージをどうしよう?
つづく