「え? ヴィヴィオを?」
いつも通りの営業を終えた夜、子供達も寝付いた時間帯……現在僕の目の前には通信用の空間モニターが展開されて、そこには申し訳なさそうな表情をしたなのはが映し出されている。
『うん。実は私、明日一日出張で家に帰れないんだ。フェイトちゃんも明日は泊り込みの仕事だって言ってたし……お願いユーノ君! 明日一日だけヴィヴィオを預かってくれないかな?』
「うーん……それは別に構わないんだけど、僕達は明日も喫茶店の営業があるから、あんまりヴィヴィオに構ってあげられないよ?」
『ヴィヴィオも働かせて大丈夫だから♪』
いやそれは母親としてどうなんだろうか……3人の娘を働かせている僕が言うのもなんだけど。
「まぁ…うん、わかった。いいよ」
ヴィヴィオは良い子だし、うちの子供達とも仲がいいしね。
『本当!? ありがとうユーノ君!お土産買って帰るから楽しみにしててね!』
「あはは…別に気を使わなくていいよ。それじゃあ、出張頑張ってね」
『うん! おやすみユーノ君』
「おやすみ」
そう言い合って、僕はなのはとの通信を切った。
「明日はヴィヴィオがお泊りか。シュテルたち喜ぶだろうなぁ。さてと……新作ケーキ作りの続きでもしよっと」
そう呟いた後、僕はキッチンへと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして…翌日。
カランコローン!
「こんにちはー!」
「いらっしゃい、ヴィヴィオ」
いつも通り、元気一杯のヴィヴィオがやって来た。
今日は休日で学校がお休みだから、ヴィヴィオの服装は制服じゃなくて私服だ。そして肩にはちょっと大きめの荷物も背負っている。
「今日はお世話になりまーす!」
「うん。気兼ねしないで、自分の家だと思ってくつろいでいいからね」
「はい!!」
元気一杯の声で返事をするヴィヴィオ。こう言う所も小さい頃のなのはにそっくりだなぁ…さすが親子。
「おおーヴィヴィオー! 来たんだー!」
「うん! 来たよレヴィー!」
「いえーい♪」と……会って早々ハイタッチをかわすヴィヴィオとレヴィ。この2人は元気っ子同士気が合うのか、見て分かるようにとても仲が良い。
「ようこそいらっしゃいました、ヴィヴィオ。一日だけですが、どうぞゆっくりしていってください」
「うん! ありがとーシュテル♪」
シュテルの丁寧な歓迎の言葉に、嬉しそうに答えるヴィヴィオ。
シュテルとヴィヴィオの2人も結構仲が良い方で、普段無表情のシュテルもヴィヴィオの前では時折笑顔を見せるようになった。
「ハァ……今日一日このチンチクリンが一緒と思うと気が滅入るわ……」
「むっ…だから!! チンチクリンじゃなくてヴィ・ヴィ・オ!!」
ディアーチェの言葉に、ヴィヴィオは可愛らしく両手を振り上げながら反論する。
ディアーチェとヴィヴィオは……まぁ見て分かるようにあまり仲が良くない。と言っても、ディアーチェが一方的にキツく当たっているだけなんだけどね。〝闇王〟と〝聖王〟……何となく相反する感じだからだろうか?
「とりあえずヴィヴィオ、部屋に荷物を置いてきなよ。あ、部屋は3人と相部屋だけどいいかな?」
「はい! 大丈夫です!」
「それじゃあシュテル、部屋に案内してあげて」
「はい。ヴィヴィオ、こちらへどうぞ」
「はーい♪」
そう言って案内するシュテルの後ろを、ヴィヴィオはトコトコとついて行った。
「ヴィヴィオがいると、賑やかになりそうだよねー♪」
「ふん、どうだろうな。喧しくて敵わんと思うぞ」
レヴィの言葉を素っ気無く返すディアーチェ。
「でもディアーチェ、今朝ヴィヴィオが泊まりに来るって聞いた時、結構嬉しそうな顔してたよね?」
「にゃっ、にゃにを言うか父上よ!!? 我は別に楽しみになどしておりゃんぞ!!?」
ディアーチェ、動揺しすぎて噛み噛みだよ。
基本ディアーチェは家族以外には悪ぶってるけど、結構面倒見がいいし、根が優しいから本気で拒絶したりはしないんだよね。
「本当は王様も嬉しいんだよね~ヴィヴィオが泊まりに来てくれて♪」
「喧しいぞレヴィ!! 誰が嬉しいものか!!」
「素直じゃないな~♪」
「ええい黙れ!! 我をからかうでないわ!!!」
顔を真っ赤にしながら怒鳴るディアーチェと、そんな彼女を見てカラカラと笑うレヴィ。僕がそんな二人を眺めながら和んでいると、シュテルとヴィヴィオが戻ってきた。
「どうしたんですかディアーチェ? 大声を出して……」
「部屋まで聞こえてたよ?」
「う…うるさい!! チンチクリンには関係ないわ!!」
「だからヴィヴィオだってば!!!」
戻ってきて早々ディアーチェと口論を始めるヴィヴィオ。一見仲が悪そうだけど、そこまで険悪なものじゃないことは見て分かるから、あえて僕は止めない。それより……
「ヴィヴィオ、今日の練習に行かなくていいの?」
「あ、はい! 今日の練習はお休みなんです。ノーヴェが『しっかりと休むのも練習の内だ』って言って」
「そうなんだ」
まぁ確かに、あまり根を詰め過ぎて体を壊したら元も子もない。しかもヴィヴィオ達はまだ体が出来上がっていない子供だ。ノーヴェの言うとおり、適度な休息も練習の内だね。
「だから、今日は喫茶店のお手伝いをさせてください!!」
「え?」
いや……確かに昨日なのはにヴィヴィオを働かせても大丈夫って言われたけど、まさか自分から言い出すなんて。
「ヴィヴィオ、別に無理して手伝おうとしなくてもいいんだよ?」
「無理なんてしてません。それに私、前々からシュテルやレヴィ達が接客してるのを見てて、やってみたいなーって思ってたんです! だからお願いします!! お手伝いさせてください!!」
うーん…これはアレだな。昔のなのはと同じ、一度言い出したら聞かない目をしてるよ。
「はぁ……わかった。じゃあ今日一日よろしくね、ヴィヴィオ」
「はい!!」
そう返事をするヴィヴィオの顔はとても嬉しそうだ。
「じゃあシュテル、悪いけどヴィヴィオに色々教えてあげてもらえるかな?」
「はい、わかりました」
こうして、ヴィヴィオを加えた翠屋の営業が始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『ありがとうございましたー!』
時刻はお昼過ぎ……平日ならこの時間帯は相当混むんだけど、今日は休日という事もあって平日よりは少し余裕がある。そして今、店に残っていた最後のお客さんが出て行ったところだ。
それを見送り終わった瞬間、ヴィヴィオがくたびれたようにテーブルに身を預けた。
「つ…疲れた~……喫茶店のお仕事って大変なんだね~」
まぁ、ヴィヴィオはこの仕事は初めてだからね。慣れればそこまで辛くはならないけど……
「ふん、この程度でヘバるとは情けないな」
「初めてなんだからしょうがないでしょー!」
「ですがヴィヴィオ、筋はよかったですよ」
「本当!?」
「はい、所々危なっかしいところがありましたが、初めてにしては上出来でしたよ」
「よかったぁ~! ありがとうシュテル♪」
シュテルの評価を聞いて嬉しそうに顔を綻ばせるヴィヴィオと、そんなヴィヴィオを見て優しく微笑むシュテル。
「ふむ……まぁ確かに、レヴィよりはマシだな」
「はい、レヴィよりはマシです」
「なんだとー!?」
「あはははは!」
ディアーチェとシュテルの言葉に反応して、レヴィが怒ったように反応する。その様子を見て笑顔を浮かべるヴィヴィオ。
そんな子供達の微笑ましい光景を見てると、なんだか和むよ。
カランコローン
っと……和んでいる間に次のお客さんが来たみたいだ。
「いらっしゃいませ」
「こ…こんにちは……」
「おー! アインハルトだー!」
「こんにちは、レヴィさん」
やって来たのは、若干緊張気味のアインハルトだった。
「いらっしゃい、アインハルト。最近よく来てくれるね」
「は…はい、今日は練習はお休みですし、他に行くところもありませんから」
このところアインハルトはよくうちのお店を利用してくれている。さすがに毎日とまではいかないが、学校の帰りや練習が終わった後とかによく来てくれている。今では立派な常連の一人だ。
「あっ! アインハルトさん!!」
「ヴィ、ヴィヴィオさん!? どうしてここに!? それにその格好は……?」
うちの従業員用のエプロンを身に着けているヴィヴィオを見て、アインハルトは驚いた表情をしている。
「えへへ……実は今日、なのはママもフェイトママもお仕事で帰って来れないので、今日一日ユーノさんの家でお世話になることになったです。でもタダでお世話になるのも悪いですから、お店のお手伝いもしているんです!」
別にヴィヴィオは子供なんだから、悪いからとかそんな事考えなくてもいいのに……
「そうなんですか…………………………………羨ましい(ボソッ)」
「へ?」
「な…何でもありません!!」
突然顔を真っ赤にしながら叫ぶアインハルト。さっき小声で何か言ってたけど…よく聞こえなかった。
「とりあえず座りなよ、アインハルト」
「あ、はい」
僕がそう言うと、アインハルトはカウンター席に腰を下ろす。
「注文は何にする?」
「では…紅茶をお願いします」
「紅茶ね。一応紅茶の種類を選べるけど?」
「あ…お任せします」
「かしこまりました。ケーキとかはどうする?」
「えっと……」
メニューを見て、迷いながら目を泳がせるアインハルト。
あっ……そうだ。
「決まらないんだったら、僕が作った試作品のケーキを食べてみないかい?」
「試作品……ですか?」
「うん。一応自分で味見をして、問題ない事は確認できたんだけど、やっぱり他の人の意見も聞いてみたいからさ。あ、もちろんこれは試食だから代金はいらないよ。僕の自信作なんだけど……どうかな?」
「えっと……で、ではそれをお願いします」
「ありがとう! じゃあ少し──」
「「ちょっと待ったーー!!」」
「待ってて」と言おうとしたら、レヴィとディアーチェの大声に遮られた。
「アインハルトだけズルイ! ボクも食べたい!!」
「そうだぞ父上! 店の料理の試作品はみんなで試食するのがこの店の決まりであろう!!」
そんな決まりを作った覚えはないんだけど……それに試作品が出来上がったのは昨日の夜中だったし、ある程度の数作っておいたから、どの道このあとでみんなにも食べてもらうつもりだったんだけど。
「お父様、私も食べてみたいです」
「私も!!」
シュテルとヴィヴィオまでもが一緒になってそう言ってくる。
しょうがないなぁ……
「わかったよ、じゃあついでにオヤツの時間にしようか。いいかな、アインハルト?」
「はい、私は構いません」
お客さんの前でオヤツの時間なんて失礼にもほどがあるから、一応アインハルトの許可も取っておく。嫌な顔一つせず承諾してくれるアインハルトは本当に良い子だ。
「じゃあ今持ってくるからちょっと待ってて」
子供達にそう言って、僕はキッチンの方ではなく、自宅の方の冷蔵庫に入れておいた試作品のケーキを取りに行った。
そして5分もしないうちに戻ってきて、みんなの前にケーキを置いた。
「はい、お待たせ」
「お~~!」
「む? これはチョコケーキではないか?」
「いえ、これはティラミスですね」
「てぃらみす?」
「聞いたことありません……」
まぁ元々地球で生まれたものだから、ミッド生まれのヴィヴィオとアインハルトが知らないのも無理ないね。確か北イタリア生まれだったかな?
桃子さんからレシピは教えてもらっていたんだけど、中々自分が納得する味にならなかったんだよね。
「とりあえず食べてみてよ」
『いただきまーす!』
僕がそう言うと、5人は一斉に合唱したあと、ティラミスを口へと運んだ。
「「おいしー♪」」
最初に声を上げたのはレヴィとヴィヴィオの二人。続いて他のみんなも感想を言ってくれる。
「クリームの甘味とココアパウダーの苦味が絶妙ですね」
「うむ、さすが父上だ。やはりお菓子作りでは敵わんな」
「おいしいです、ユーノさん」
みんなの感想を聞いて、僕の顔は自然と笑顔になる。自分が作ったものをあんなに嬉しそうに食べてもらえると僕自身もとても嬉しい。
「じゃあ、このティラミスはお店のメニューに加えるということで」
「「さんせーい!!!」」
「異議なしだ」
「右に同じです」
「私も…賛成です」
こうして翠屋のメニューの中にティラミスが新しく書き込まれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ヴィヴィオSide
「よし、今日はもう閉店。みんなお疲れ様!」
外が暗くなったのを見計らって、ユーノさんはそう言ってお店を閉め始めました。どうやら閉店時間になったみたい。
「それじゃあ今から晩御飯を作るから、みんなはゆっくり休んでて。出来たら呼ぶから」
「「「「はーい!!」」」」
ユーノさんはそう言って、自宅のキッチンの方へと歩いて行きました。
「では、私たちはお父様に呼ばれるまで部屋でのんびりしていましょう」
「さんせーい!」
ユーノさんを見送ってすぐ、シュテルがそう言ったので、私たちは部屋へと戻りました。
「あ、そうだ! 宿題やらないと!!」
そうだった……学校の宿題があることすっかり忘れてた! しかも今回の宿題は結構難しい上に、休日を挟んでるから量がいつもより少し多いんだった……
「シュテル、机借りていい?」
「ええ、構いませんよ」
シュテルの許可をもらって、私は慌てて荷物から宿題の教科書とノートを取り出して机に広げて、宿題に取り掛かりました。
でもその宿題は案の定難しくて、数問解いただけですぐに手が止まっちゃった……うぅ~どうしよう……
「ふーん、学校って宿題なんてめんどくさいものがあるんだね」
そう言ってレヴィが私の宿題を覗き込んで来るけど、正直今レヴィを気にしてる余裕は──
「あ…ヴィヴィオ、そこの問題間違ってるよ?」
ない──って………え?
「ど、どこっ!!?」
「ほら、この最初の問題。途中式の計算をミスしてるよ」
「……ほ、ホントだ」
レヴィに指摘されたところをよく見てみると、確かに計算ミスしていた。
「あとさっきから悩んでる問題だけど、この問題って、ここをこうすると簡単に解けるよ」
「……………」
それだけじゃなく、私がさっきからずっと解けなかった問題を、レヴィはあっさりと解いてしまった。
教えてくれるのはすごく嬉しいし助かる……助かるんだけど……
「レ…レヴィに教えられたっ!?」
それ以上に、私はものすごいショックを受けました。
「ちょっと! それどういう意味さ!!?」
「え…えーと……その……」
「アホな貴様が勉強できることに驚いているのであろう」
「なんだとー!!」
私が言いづらいことをディアーチェはハッキリと言ってしまった。
「ボクだって勉強くらい出来るんだぞ! かしこいんだぞー!!」
「ご…ごめん……」
人は見かけによらないって……ホントなんだね……
「ふん、何を威張っとるか。貴様の学力など、我ら3人の中では一番下ではないか」
「そう言う王様だって、シュテるんより下じゃないかー」
「確かにそこは否定せぬが、我が貴様より賢いことは変わらぬ事実だ」
「むーー!!」
レヴィとディアーチェが口喧嘩をしている間に、私は静かに傍観しているシュテルに話しかけます。
「ねえシュテル、シュテル達って学校行ってないんだよね?」
「そうですが?」
「じゃあどうして勉強できるの? さっきレヴィに教えてもらったところは結構難しい問題だったんだよ?」
「あぁ、それはですね……私達はお父様に勉強を教えていただいているのです」
「ユーノさんに?」
「はい。勉学は将来必ず必要になってくるものだからと言って、一般教養から魔法学にいたるまで教えていただいています。それにお父様は教え方もとても上手で、あのレヴィでも理解できるように丁寧に教えてくれます」
そう言えば、ユーノさんって考古学者もやってたんだよね……なら先生としてはこれ以上の適任はいないよね。
……うちのなのはママとフェイトママは魔法学以外はあまり得意じゃないし……
「因みにですが、ヴィヴィオが通っている学校で言うと、レヴィは中等部低学年……ディアーチェは中等部高学年並みの学力を有しています」
「えぇぇ!!?」
つまり、レヴィはアインハルトさん並み……ディアーチェはそれ以上に頭が良いってこと!!?
「じゃ…じゃあシュテルは?」
「私ですか? そうですね……この間お父様に見ていただいたら、少なくともSt.ヒルデ魔法学院の高等部に飛び級しても問題ないほどの学力は有しているようです」
「え…えぇぇええ!!?」
高等部に飛び級って…シュテルってそこまで頭良いの!!? 確か私と同い年だよね!!?
「ど…どうしてそこまで勉強できるの!!?」
「……私は将来、なりたい職業があるのです。その職業を目指して、日々独学で勉強していますから」
「なりたい職業?」
「はい。将来の夢…と言ってもいいですね。今はそれの専門知識を勉学中です」
将来の夢かぁ……何だかそう言うのって、いいなぁ……
「そうなんだ……その職業ってなに?」
「考古学者です」
「考古学者って……ユーノさんと同じ?」
「はい。もっとも、お父様は管理局を辞退すると同時に、考古学者もお辞めになりましたが」
あ…そうなんだ。そうだよね、そうじゃなかったら今頃喫茶店なんてやってる場合じゃないもんね。
「じゃあシュテルが考古学者を目指すのは、ユーノさんの影響なんだね」
「それもありますが、もう一つ理由があります。以前…お父様と一緒に里帰りとして、スクライアの里に連れて行ってもらいました。まぁ里と言っても、その世界に張っていたキャンプですが……私はそこで、古代遺跡の発掘品を見せて頂きました」
そう言うと、シュテルは言葉を続けました。
「私はそこで感銘を受けました。過去の人々の
そう語るシュテルの顔は…今まで見たことがないほど、うっとりとしていました。
「私は将来考古学者として、そんな先人達の足跡を…歴史を…財産を解き明かし、先人達のメッセージを現代に生きる人々に伝えたい! それが私の夢です!!」
いつもクールなシュテルからは想像できないほどの熱い語りに、私はつい呆気に取られてしまいました。
「はいはーい! ボクも将来の夢があるよ!!」
すると、さっきまでディアーチェと口喧嘩をしていたレヴィが突然割り込んできた。
「レヴィの夢って?」
「ボクの夢は、スクライアの遺跡発掘チームに入ること!!」
「え? でもそれって、シュテルの夢とあまり変わらないんじゃ……」
「全然違うよ! いいか? 古代遺跡の中には、色々な罠が仕掛けられた遺跡とか、様々な謎に包まれた遺跡……つまりダンジョンみたいなモノがたっくさんあるんだ! そして世界にもよるけど、強力なモンスターともいるんだよ! ダンジョンに眠る隠されたお宝……そして迫り来るモンスター達に立ち向かうボク……くぅ~~!! 考えただけでワクワクするー!!!」
そう言って興奮気味に語るレヴィ……って言うか、よだれ出てるよ……
「えっと…ディアーチェも何か夢があるの?」
「む? 我か? 我の夢は……そうだな……この喫茶店を継ぐことだな」
「え? そうなの?」
「なんだ?意外か?」
「う…うん、まぁ……」
ディアーチェのことだから、もっと大きな夢だと思ったんだけど……世界征服とか。
「この店はな、我らの家であると同時に……父上と我らの思い出が詰まった大切な宝なのだ。たとえいつかシュテルとレヴィが将来この家を離れたとしても、またいつでも帰ってこれるように守り続ける……それが我の夢だ」
「……………」
ディアーチェの話を聞いて、私はちょっとジーンときてしまった。
ディアーチェはいつも私の事をチンチクリンって呼ぶし、凄く嫌味なことを言ってくるけど……本当は家族想いの優しい人なんだね……
「ヴィヴィオは将来の夢とかはあるの?」
「私? うーん……」
レヴィに尋ねられて考えるけど、私は一度もそう言う事を考えたことがないからよく分からない。でもとりあえず今は……
「DSAAで優勝すること……かな?」
格闘技はやってて凄く楽しいし、それにアインハルトさんみたいな強い人と戦うのはもっと楽しいから。
「そうですか……ですがその前に……」
すると、シュテルはそこで言葉を区切って……
「宿題……終わらせましょう」
私のほとんど真っ白なノートを持ち上げながらそう言った………って!
「あぁーー!! 忘れてたーー!!」
話に夢中になりすぎて宿題のことすっかり忘れてた!!!
「手伝いましょうか?」
「うぅ……お願いします……」
結局……私はシュテルに分からないところを教えてもらいながら、泣く泣く宿題に取り掛かったのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
シュテルに手伝ってもらいながら宿題を終わらせたあと、私はユーノさんが作ってくれた晩御飯を食べたり、女の子四人で一緒にお風呂に入ったり、寝る時間まで一緒にゲームをしたりしました。
そして今日はもう寝るだけ……だったんだけど……
「……眠れない」
何故か私は中々寝付けずにいました。うーん…いつもと寝る場所が違うからかなぁ……?
「スゥ…スゥ……」
「くかー……」
「…………(スヤスヤ)」
周りを見てみると、他の三人は静かに寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。起こすのも悪いし、寝付けるまでベッドの中に入ってようっと。
「っと、その前に……」
ちょうどもよおして来たので、私は三人を起こさないようにベッドから出て、お手洗いに向かいました。
数分後……
「ふう……」
お手洗いで用を終えた私は、部屋に戻ろうと歩き始めますが……
「あれ?」
その途中で、リビングの明かりが点いているのに気がつきました。
もしかしてユーノさん、まだ起きてるのかな?
私は興味本位で、リビングの方を覗き込みました。
「…………(カリカリ)」
そこには予想通り、ユーノさんの姿がありました。
何かを書いてるみたいだけど、何書いてるんだろう?
「………ん?」
「あっ……」
すると、私はユーノさんと目が合ってしまいました。
「ヴィヴィオ? どうしたの?」
「え…えっと…その…ちょっと眠れなくて……」
「あはは……まぁいつもの家と違うからね、寝付けないのも仕方ないよ」
私がモジモジしながらそう言うと、ユーノさんは笑ってそう言いました。
「そうだ、ちょっとそこに座って待ってて」
するとユーノさんは突然立ち上がって、キッチンの方へと行ってしまいました。そして私は、とりあえず言われた通りにテーブルに座って待つことにしました。
そしてしばらくすると……
「はい、お待たせ」
そう言って戻ってきたユーノさんは、私の前に一つのマグカップを置きました。
「あ…これって……!」
「そ♪キャラメルミルクだよ」
私の大好物のキャラメルミルクでした。
「ホットで作ったから、飲めば少しは眠くなってくると思うよ。さ、飲んで」
「はい! いただきます!」
私は遠慮なく、キャラメルミルクを一口飲みました。
「あっ……なのはママの味だ!!」
その味は、なのはママが作ってくれるキャラメルミルクと同じ味でした。
「この味は元々翠屋の味だからね。なのはも小さい頃、寝付けない時はよく飲ませてたって桃子さんが言ってたよ」
「へぇ~なのはママもヴィヴィオと一緒だったんだね!」
「みたいだね♪あ、この話はなのはには内緒だよ?」
「はーい♪」
ユーノさんとそんな会話をしながら、私はキャラメルミルクを飲み進めます。そしてふと、さっきまでユーノさんが書いていたものに目が行きました。
「ユーノさん、それは何を書いてたんですか?」
「ん?あぁこれ? これは今日のお店の売上表だよ」
そう言ってユーノさんは私にその表を見せてくれますが、何だか数字が一杯並んでいること以外はよく分かりませんでした。
「こうやってちゃんと記録をつけとかないと、色々大変だからね。あと、材料の注文とかもね」
「へぇ~…喫茶店のお仕事って、接客以外にも色々あるんですね…………ふわぁ」
ちょうどキャラメルミルクを飲み終えた頃、何だか眠くなってきました。
「ほらヴィヴィオ、寝るならちゃんとベッドで寝ないとダメだよ?」
「ん…はい……」
私はそう返事をしますが、眠すぎて頭がよく回りません……さっきまで全然眠くなかったのに……ユーノさんのキャラメルミルクのお陰かな……?
「しょうがないね。ほらヴィヴィオ、おんぶしてあげるからこっちにおいで」
「ん……」
ほとんど寝惚けている私は、何の抵抗もせずにユーノさんの背中に身を預けました。
「よいしょっと……」
私が背中に乗ったのを確認して、ユーノさんは立ち上がって歩き始めました。
ユーノさんの背中……なのはママと違って、すごく広い……それに…あったかい……
「パ……パ……」
そこで私の意識は深い眠りにつきました。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ユーノside
「こんにちはー♪」
翌日……出張から帰ってきたなのはがヴィヴィオを迎えにやってきた。
「あ、なのは、ちょっと待ってね。ヴィヴィオー!! お迎えが来たよー!!」
「はーい!」
僕が奥に向かってそう呼ぶかけると、来た時と同じ荷物を背負ったヴィヴィオがやって来た。その後ろには、お見送りとしてシュテル達もやって来ている。
「なのはママ! おかえりー!」
「ただいまヴィヴィオ! いい子にしてた?」
「うん♪」
「ヴィヴィオ、すごくいい子だったよ。お店のお手伝いもしてくれたしね」
「そうなんだ。偉いねヴィヴィオ」
「えへへ♪」
なのはに褒められて嬉しそうに顔を綻ばせるヴィヴィオ。
「ありがとうユーノ君、ヴィヴィオの面倒を見てくれて」
「気にしなくていいよ。さっきも言ったとおり、ヴィヴィオはすごくいい子だったから全然大丈夫だったし」
「そう…よかった。あ、これお土産。みんなで一緒に食べてね」
「ありがとう、いただくよ」
そう言って、なのはからお土産の袋を受け取る。大きさからして、たぶんクッキーか何かだろう。
「シュテル、また勉強教えてね。レヴィもまた一緒に遊ぼうね。あっ…あとディアーチェも」
「えぇ、またいつでもいらしてください」
「またゲームで遊ぼうねー♪」
「おい! 我はついでか!?このチンチクリンめ!!」
僕となのはが話している間に、ヴィヴィオとうちの3人娘たちは挨拶を済ませていた。
「ヴィヴィオ、またいつでも遊びにおいで。ヴィヴィオの好きなキャラメルミルクを作って待ってるから」
僕はヴィヴィオの頭を撫でながらそう言う。すると……
「うん! ありがとうパパ♪」
「「……へ?」」
「「「は?」」」
一瞬だけ……時が止まった。
そしていち早く我に帰ったのは、なのはだった。
「ヴィ…ヴィヴィオ? ユーノ君がパパって……」
「え……? あっ!! ごめんなさい!! ついそう呼んじゃった!!」
どうやらヴィヴィオは無意識のうちにそう呼んだらしく、ヴィヴィオ本人も驚いていた。
「こらーー!! おとーさんは渡さないぞー!!」
「そうだ! 父上は我らの父上ぞ!! チンチクリンなんぞに渡すものか!!」
「二人とも落ち着いてください」
ヴィヴィオの爆弾発言を聞いて若干暴走気味のレヴィとディアーチェをシュテルが宥めている。
「にゃはは……もうヴィヴィオったら~」
「あ…あははははは……!」
結局……僕となのははお互い顔を真っ赤にしながら笑って誤魔化すことしか出来なかった。
つづく