そして今回……おそらくリメイク前から読んで下さっていた方々からすれば、待ちに待っていた話ではないかなと思います。
リメイク前に比べて早くね? と言う言い分はなしの方向でお願いします。
感想お待ちしております。
「それじゃあ、ちょっと遅れちゃったけど……ユーノ君が帰ってきてくれた事を祝して──」
「「「カンパーーイ!!!」」」
「…………(汗)」
どうも、ユーノ・スクライアです。
あの後シャワーを浴びて汗を洗い流したのち、なのはに呼ばれてリビングへとやって来た僕だけど……現在、目の前にはなのはの音頭と共にお酒の入ったグラスを掲げているフェイトとメガーヌさんがいる。なるほど、これがなのはが言っていた大人の時間……早い話が飲み会か。
そう納得しながら、僕はグラスに入ったお酒を煽る。
「そう言えば、お酒を飲むのって久しぶりだなぁ……」
「そうなの?」
「うん、確か最後に飲んだのは2年前に無限書庫を辞めて、スクライアに帰った時だったかな」
あの時も僕が帰ってきたお祝いだとか言ってスクライアのみんなと一晩中飲み明かしたんだっけ。
「ユーノは家で飲んだりしないの?」
「それほどお酒が好きってわけでもないからね」
実際、僕が
「そう言うなのはやフェイトだって、自分から進んで飲んだりとかはしないでしょ?」
「うん、そうだね」
「私やフェイトちゃんも、飲む時は職場の人との付き合いっていうのが多いかな」
だろうね。なのはやフェイトが自分からお酒を煽っている姿なんて、ちょっと想像できない。そう考えながら僕はもう一口お酒を煽る。
それにしてもこのお酒、おいしいけどアルコールがちょっと強いかな?
「そう言えばユーノ君、ユーノ君はうちのお店で喫茶店の修行をしてたんだよね?」
「そうだよ。士郎さんや桃子さん、それに美由紀さんにはかなりお世話になったよ」
いやもう本当……色々な意味で。
「喫茶店修行も結構厳しくてさ、士郎さんと桃子さんの2人にはかなり扱かれたよ」
あの夫婦は一見ポワポワしてるけど、料理やお菓子作りの事になると豹変するからね。それはもう怖いほどに。
「かなりキツかったけど……それでも、今までで一番充実してたかな」
「……そっか」
僕の話を聞き終えたなのははどこか寂しげな表情を浮かべながら自分のグラスに入ったお酒を煽る。って…そんなに勢いよく飲んで、大丈夫なのだろうか?
とまぁ…そんなこんなで、主に僕に関する雑談をしながらお酒を飲み進めていく僕たち大人組。そしてだいたい1時間が経った頃には……
「うにゃあ~~」
「ん~……スゥ…スゥ……」
「うふふふ♪」
勢いよくお酒を飲んでいたなのはは既に酔い潰れて顔を真っ赤にしてテーブルに身を乗せた状態で唸っており、同じく酔い潰れたフェイトはソファに身を預けて小さく寝息を立てている。
因みに僕はずっとチビチビ飲んでいたので、酔いはそこまで回っていない。
「あらあら、大変ね」
そしてメガーヌさんは顔は赤いが特に酔った様子などなく、優しく微笑んでいる。
しかもこの人…この結構強いお酒を既に9杯ほど飲んでいるのにも関わらずこの状態。かなりお酒が強い人なのか、それともただ単に笑い上戸で微笑んでいるだけなのか。
「そろそろお開きにしましょうか。私はフェイトちゃんをお部屋に運ぶから、ユーノ君をなのはちゃんをお願いね?」
「あ、はい」
そう言って軽々とフェイトを担ぐメガーヌさんを見る限り、僕の予想はどうやら前者だったようだ。
「フェイトちゃんを送ったら、私もそのまま部屋に戻るから、リビングの電気…お願いできるかしら?」
「いいですよ」
「ありがとう。それじゃあ、お休みなさい」
「はい、お休みなさい」
フェイトを担ぎながらリビングを出て行くメガーヌさんを見送ったあと、僕もなのはを部屋へと運ぶために立ち上がろうとすると……
「ユーノ君!!!」
「は、はいっ!!!」
酔い潰れていたハズのなのはが、いつの間にか僕の眼前へと詰め寄ってきていた。しかも何か怒ってるっぽい……
あまりの剣幕に、僕はつい床に座りなおしてしまった。しかも正座。
「何メガーヌしゃんに見惚れてるの!!?」
「いや…見送っただけで別に見惚れてたわけじゃ……」
「口答えしにゃーい!!!」
ヤバイ…呂律も回ってないし、今のなのはは相当酔っている。もしかしてなのはは怒り上戸なんだろうか?
「とーにーかーくー!! メガーヌしゃんに見惚れてちゃダメにゃのー!!!」
「わ…わかった!! わかったから落ち着いて!!!」
「ほんとーにわかってるの?」
近い…顔が近い。
今のなのはの顔は酒の所為で赤みを帯びていて、喋る度にお酒の匂いが鼻腔を刺激する。おまけに、なのはが今着ている服はメガーヌさんが用意した着物……それが着崩れを起こしている。
正直……目のやり場に困る。
「と…とにかく、僕は本当にメガーヌさんに見惚れてはいないから」
「だったらいーの♪」
怒った顔から一転、今度はふにゃりと表情を緩めるなのは。
「じ、じゃあ話も纏まった事だし、そろそろ部屋に戻ろうか。なのはの部屋まで僕が送るから、いい?」
「にゃー」
猫化してるし……酔ったなのはは色々と情緒不安定だな。
「それじゃあ部屋まで送るから、立てるなら掴まって」
「はーい♪」
床から立ち上がった僕はそう言いながらなのはに向かって手を差し出すと……
ガバッ!
「はっ!? ちょっ!! なの──うわぁあ!!!」
バターン!!!
いきなり正面から思いっきり抱きつかれ、僕はなのはに押し倒される形で背中から床に倒れる。
「いたた……」
「にゃ~ユーノ君暖かいのぉ」
さらになのはは僕の胸に顔を押し付けてスリスリと頬擦りを始めた。
ってヤバイ……これは本当にヤバイ!!!
「ユーノ君、スゴイ音したけどどうし──あら?」
メガーヌさん!!! いい所に戻ってきてくれたっ!!!
「メ、メガーヌさん!! 助け──」
「あらあら、お邪魔かしら?」
「えっ!!? ちょっ、メガーヌさん!!?」
「ではごゆっくり~♪」
「メガーヌさぁぁああん!!!」
僕の最後の希望だったメガーヌさんは何か勘違いしたまま部屋へと帰っていってしまった。
くっ…こうなったら自力で脱出を──
「どこに行く気なの~?」
──しようとしたら、さらに僕の胴体に巻いている腕の力を強めてきた。仕方ない…こうなったら多少手荒にしてでも……
「もう……どこにも行かないで欲しいの」
「……え?」
急に声のトーンが変わって、僕はつい呆気に取られる。そしてよく見ると……なのはは両目に涙を溜めていた。
「ユーノ君…ごめんなさい……ごめんなさい……」
「な…何を謝ってるのさ?」
「私の…私のせいでユーノ君がいなくなっちゃって……私のせいで!!!」
「!! ち…違う!!!」
なのはの言葉を聞いて、僕はつい声を荒げてしまった。
「違わないよっ!!! だって……ユーノ君が私に向けてる笑顔は全部作り笑顔じゃない!!!」
「────!!!」
そんな……まさかなのは…気づいて……!!?
「それくらいわかるよ……シュテル達に向けてる笑顔と全然違うんだもん」
「……………」
なのはの核心を突いてくる言葉に、僕は何も言えずに押し黙ってしまう。
「どうしてこうなっちゃったんだろう? って……この旅行の日までの間、ずっと考えてた……それでわかったの…………私のせいだって………」
そう言って…なのはは自虐的な笑顔を浮かべる。
「笑っちゃうよね? 今までのアルバムとか旅行映像とか読み返してみても、ユーノ君が写ってる写真や映像が一つも無かったんだよ? ずっと大切な友達だって言ってたくせに、その大切な友達であるユーノ君を…私は蔑ろにしてたんだ……1人ぼっちの辛さは……知ってるハズなのに……」
なのはの悲痛な言葉が、この部屋と僕の耳に静かに響き渡る。
「ユーノ君は出会ったときから私に色々な事をしてくれた。魔法を教えてくれたり…危ない所を助けてくれたり…堕とされて重傷を負った時にずっと励ましてくれたり…リハビリに協力してくれたり……本当に色々としてくれた……」
そこでなのはは一度言葉を区切り……
「じゃあ私は……?」
と…自分自身に問い掛けるように言った。
「私はユーノ君に何もしてあげられてない……何かを教える事も…悩みを聞いてあげる事も…ユーノ君の優しさに甘えたままで、ユーノ君の気持ちを考えてなかった……ずっと1人で寂しい思いをしてるんじゃないかとか、私のことを恨んでるじゃないかなんて……全然考えてなかった」
「っ……!!!」
僕はまた声を荒げそうになる衝動をグッと堪える。
落ち着け……今のなのははお酒の影響で感情の起伏が激しくなって混乱しているだけだ。ここで僕まで感情的になったら、それこそ収集がつかなくなるかもしれない。ここは我慢して、なのはが落ち着くのを待つんだ。
「自分を支えてくれていた人への感謝の気持ちも忘れて…感謝どころか逆にその人を追い詰めて……最低だよ」
「っ……!!!!」
我慢だ…我慢しろ……!!!
「何がエース・オブ・エース……大切な人1人救うことができない私なんかが名乗る資格なんてない!!! 私は…私は──!!!」
「っ──なのは!!!」
僕はこれ以上、なのはの悲痛な言葉を聞いていられなくて……我慢しようと思っていたのに……気がつけば、彼女の体を思いっきり抱き締めていた。
「ごめん…なのは……僕のせいで、辛い思いをさせてしまったんだね」
「ユーノ…く……」
「よく聞いて。確かに僕は、ずっとあの無限書庫で本を探す毎日に苦痛を感じていた……君たちのように前線で戦えない自分に虚しさを感じていた……孤独を感じていた……だけどそれは僕の心が弱かったからだ。孤独なんかに負けずに、僕とみんなの絆は絶対だと信じていればよかったんだ。だからこれ以上自分を責めないで……ごめんね……今まで辛い思いをさせて……それから」
僕はずっと抱えていた謝罪の気持ちを伝える。そして──
「──ありがとう」
心の底からの笑顔を共に、感謝の気持ちも……伝えた。
「こんな僕の為に涙を流してくれて……なのはの思いは充分に伝わったから」
僕はそう言うと、抱き締めていたなのはの体をさらに強くギュッと抱き締める。
「……ふふ…やっぱり暖かいなぁ、ユーノ君は。ねぇ、覚えてる?」
「ん?」
「14年前のPT事件の時……私がユーノ君に言った言葉」
そう言われて僕の脳裏に…なのはの〝あの言葉〟が浮かび上がってくる。
『ユーノ君…いつも私と一緒にいてくれて、守っててくれたよね? だから戦えるんだよ!! 背中がいつも暖かいから!!』
「もちろん…覚えてるよ。僕にとってあの言葉は、本当に嬉しかったから。こんな僕でもなのはの背中を守れるんだって思えたから……」
「うん……そうだよユーノ君。私にとって背中を預けられる人は……ユーノ君だけなんだよ」
「え?」
なのはの言葉に、僕は耳を疑った。だって昔と違って今の彼女には、フェイトやヴィータといった僕よりも大いに頼りになる人たちが大勢居るのに……
「フェイトちゃんやヴィータちゃんは背中じゃなくて、私の隣で一緒に戦ってくれる人だよ。私の背中を安心して任せられるのはユーノ君だけ……だからお願い……ユーノ君」
そしてなのはは……今まで見た事のない程の弱々しい表情をしながら……僕にこう言い放った。
「私を1人にしないでっ!!!」
なのはの訴えかけるような言葉に……僕は何も言えずにただ呆然としていた。
すると、なのはは突然糸が切れた人形のようにコテンっと僕の胸元に頭を落とした。
「クゥ…クゥ……」
その直後に聞こえてくる小さな寝息。どうやらお酒が完全に回りきったみたいだね。それとも…ただ緊張の糸が切れたのか……まぁとにかく、なのはが眠ってしまった今、僕に残された選択はただ一つ……
「この状況をどうするかだよなぁ……」
なのはは眠ってしまったとはいえ、僕の背中に回された手が衣服を依然としてガッチリと掴んでいるため、引き剥がす事はおろか身動きすら取れない。
「どーしよーかなぁ」
溜息混じりで悩んでいると、僕の脳裏に……先ほどなのはが言っていた言葉が再生される。
『私を1人にしないでっ!!!』
あんななのはの顔は初めて見た……僕が孤独で苦しんでいたのと同じくらい……彼女は僕がいなくなって苦しんでいたのか。本当に……優しいな、なのはは。
「でも……ごめんね」
僕は眠っているなのはの頭を軽く撫でながら、そう呟いた。
今の僕には、守るべき大切な家族が……愛すべき娘たちがいる。なのはには悪いけど、僕の中での優先順位は圧倒的に娘たちの方が上だ。なのはと娘…どっちを助けるかと問われれば、迷いなく娘を取るだろう。こんな僕なんかに、なのはの背中を守る資格なんてない。
だけど……それでももし……許されるのなら……
◆◇◆◇◆◇◆◇
なのはside
「んっ……痛っ」
目を覚ますと同時に、私は何とも言えない痛みが頭に走ります。
そっか……昨日ユーノ君とフェイトちゃんとメガーヌさんの4人でお酒を飲んでたんだっけ? じゃあこの頭に響く痛みの正体は二日酔いだね。ほどほどにするつもりだったのについ飲みすぎちゃったなぁ~……これじゃあ今日のオフトレの参加は……
「……あれ?」
ふと…私は今自分が眠っている場所に違和感を感じた。
昨日お酒を飲んだままリビングで眠ってしまった……ここまでは分かる。でも、今私が抱き枕にしているコレはなんだろう? クッションにしては少し硬い……それでいて暖かい……何だかホッとする感じなの。
なので気になった私は少し顔を上げて何を抱き枕にしていたのかを確認する。
「……え? あっ……」
そして気付いた……私が何を抱き枕にして眠っていたのか。
それは……自分の腕を枕にして寝息を立てている男の人……ユーノ君だった。
「にゃ…にゃにゃにゃ……!!!」
それを理解した途端、私は自分の顔が熱くなるのを感じた。同時に、昨夜の出来事も全部思い出した。
ドラマとかだと、お酒を飲んで都合良く記憶が飛んでいる……何てことはよくある話だけど、残念ながら現実はそう甘くはないらしいの。
「う…うぅ~~!!! 恥ずかしい事いっぱい口走っちゃったよ~!!!」
昨夜の自分の行動や言動などを思い出して、私はさらに顔が熱くなるのを感じた。絶対今の私の顔真っ赤だよ~!!!
「ん……なのは?」
「にゃーーーっ!!?」
目を覚ましたユーノ君に声をかけられて、私はついおかしな悲鳴を上げてしまったの。
「おはよう、なのは」
「ううう…うん!! おはようにゃの!!!」
噛んじゃった。
「その様子だと、昨日の事は覚えてるみたいだね」
「うぅ…大変お見苦しいところをお見せしてしまいました……」
「あはは……だけど、なのはの心の内が聞けて、僕は嬉しかったよ」
「あっ……!!」
そう言ってユーノ君は私に笑顔を向けてくれたの。
昨日までの作り笑いとは違う……昔のような本当の笑顔を……!!
その笑顔を見た私は、嬉しい感情と一緒に……もう一つの感情も湧き出てきた。
それは……私はユーノ君の事が────
「ねぇ、なのは」
「は…はいっ!!!」
突然話しかけられて、私はつい背筋を伸ばしながら返事をしてしまいました。だけどユーノ君は特に気にした様子もなく、話を続けます。
「今日もさ、一昨日みたいな模擬戦をやるんだよね?」
「うん…午後のトレーニングはそのつもりだけど」
「それじゃあさ、1つ僕からの提案なんだけど──」
ユーノ君からの提案を聞いた瞬間……私の二日酔いなんかどこかに飛んでいってしまいました。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして午後の訓練……私にとっては待ちに待った模擬戦の時間。
その訓練場の上空では、バリアジャケットを纏った私とユーノ君が。そして私たちに相対するように近くのビルの上では私を除くスターズの2人とライトニングの3人。
そう……今朝のユーノ君の提案とは、私とユーノ君のタッグVSスターズ&ライトニングチームの模擬戦だったの。
模擬戦とはいえ、またユーノ君と一緒に戦える。それが私にとって何よりも嬉しい事だった。
「行こう!! ユーノ君!!!」
「うん!! なのは!!!」
そして何より……背中にまたあの温もりが感じられた事が…何よりも嬉しかった。
後日談になるけど、この模擬戦の結果は私とユーノ君の圧勝だったの。
◆◇◆◇◆◇◆◇
早いモノで、旅行の残り日数もあっというまに過ぎ……水遊びに温泉やピクニックなども満喫し、ちょっと大変だったけど陸戦試合なども経験したオフトレツアーも、とうとう終わりを迎えた。
「じゃあみんな」
「ご滞在ありがとうございました♪」
「こちらこそ!」
『ありがとうございましたー!』
長かったオフトレツアーが終わり……僕たちは今日、ミッドチルダへと帰ります。
つづく