ユーノの子育て日記R   作:ZEROⅡ

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温泉騒動

 

 

 

 

 

 

スクライア一家式鬼ごっこが僕の勝利で終わり、僕達はロッジへの帰路へとついている。

 

そして僕の後ろでは……

 

 

「すみません……私が真っ先に捕まってしまったばっかりに……」

 

 

「アインハルトさんは悪くありません。それを言うなら私だって、何も考えずに突撃して、ユーノさんにあっさり捕まちゃったし……ごめんなさい……」

 

 

何やら責任を感じているヴィヴィオとアインハルトが三人娘に頭を下げている。

 

 

「お二人とも、顔を上げてください。今回の敗因は私達が未熟だった……ただそれだけです」

 

 

「まったくだ。それにな、負けたことを誰かのせいにするほど我らの器は小さくないぞ」

 

 

「そーそー! それに負けたからって何かあるわけじゃないしね。そこまで責任を感じる必要なんてないない♪」

 

 

シュテル達がそう言うと、ヴィヴィオとアインハルトは少々ポカンとしたあと、すぐに嬉しそうに笑顔になった。

 

 

「今の敗北を悔やむより次の勝利を目指せ。今度やる時は必ず我らが勝つのだからな!」

 

 

「はい! その時はまた呼んでください!」

 

 

「今度は負けないもん!」

 

 

「その意気ですよ、お二人とも」

 

 

「おとーさんに勝つ日を目指してガンバロー!」

 

 

『おーー!!』

 

 

と…一致団結して高々と拳を掲げる子供たち。

 

よかった……どうやらヴィヴィオとアインハルトの二人とはいい友達になれたようだ。

 

三人は学校にも行ってないし、喫茶店の手伝いばかりをさせてしまっているから、あまり同年代の友達がいないのが悩みだったんだよね。この旅行に連れてきてよかった。

 

 

「それじゃあ、みんな頑張ったご褒美にロッジに帰ったら翠屋特製のケーキを作ってあげるよ」

 

 

「「「やったー!」」」

 

 

「ユーノさんが作ったケーキ!? 食べたい食べたい!」

 

 

「あの…私もよろしいのでしょうか?」

 

 

「これはご褒美なんだから遠慮する必要はないんだよ、アインハルト」

 

 

それに、僕はお菓子作りなら料理趣味のディアーチェにも負けない自信があるしね。

 

 

「お、ヴィヴィオ! アインハルト!」

 

 

ロッジ近くに戻ってくると、ノーヴェが駆け寄ってきた。

 

 

「ユーノさん達も一緒か、ならちょうどいいや。向こうの訓練見学しにいかねーかー? そろそろスターズが模擬戦始めるんだってさ」

 

 

それを聞いた途端、ヴィヴィオとアインハルトの表情がパアッと明るくなった。

 

 

「模擬戦かぁ……シュテル達はどうする?」

 

 

「そうですね……今後の参考として、見ておいて損はないかもしれませんね」

 

 

「ボクも見たい!」

 

 

「ふん、まぁ暇潰しにはなるだろうな」

 

 

と…僕の愛娘三人も見る気満々だし、保護者として僕も行くしかないか。ケーキはまた明日だね。

 

 

「ヴィヴィオさんのお母様方は確か……」

 

 

「はい! 航空武装隊の戦技教導官と本局の執務官です」

 

 

「そして、ユーノさんのお弟子さんでしたよね?」

 

 

「いやだから、そんな大層なもんじゃないって」

 

 

「どのような模擬戦になるのか、楽しみです」

 

 

聞いてないし……まぁ、実物を見てもらった方が早いかな。

 

 

僕となのはの間にある……圧倒的な実力の差を……

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

それから…ルーテシア、コロナ、リオの三人と合流した僕達はスターズの模擬戦を見学してるんだけど……

 

 

 

[Sacred cluster]

 

 

拡散攻撃(クラスター)来るよ、ティア!』

 

 

『オーライ! コンビネーションカウンター行くわよ!!』

 

 

『シューートッ!』

 

 

ドォン! ドォォォン!

 

 

『おおおおおおっっ!!』

 

 

ドォォオン!!!

 

 

 

うわー久しぶりに模擬戦を見たけど、相変わらずハデだねぇ。僕らのさっきまでの鬼ごっこが可愛く見えるよ。子供達……特にアインハルトとうちの三人娘はポカーンとしてるし。

 

でも、これでわかってもらえたかな。僕なんかが、なのはの師匠を名乗る資格なんてないってことが……

 

 

「どう? アインハルト。凄いでしょ、なのは達」

 

 

「あ、はい……確かに凄いです。けど……」

 

 

? けど……?

 

 

「なんとなく…本当になんとなく何ですが……ユーノさんの方が強い…そんな感じがするんです」

 

 

「…………え?」

 

 

何を言っているんだろうこの子は? 僕がなのはよりも強いだって?そんなことあるハズないじゃないか。

 

 

「すみません……本当に何となくなんで、気にしないでください」

 

 

アインハルトはそう言って、視線を再び模擬戦へと戻した。

 

まぁ子供の言う事だし、僕もあまり気にしないでおこう。

 

 

だけど……僕はこの時気づかなかった……

 

 

『(なぁお嬢、やっぱりユーノさん達にも明日のアレに参加してもらったほうが……)』

 

 

『(そうね……それにその方が面白そうだし)』

 

 

ノーヴェとルーテシアの二人が、僕の方を見て何やら耳打ちしあっていたことを……そして、それが後々大変なことになると言う事を……

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その後、訓練を終えたなのはとフェイト以外のメンバーと合流した僕達はルーテシアの案内で天然温泉大浴場へとやってきた。

 

因みにちゃんと男女分かれてるから心配ないよ。

 

 

「いや~いい湯だね~エリオ」

 

 

「そうですね~…訓練の後だから余計に気持ちいいです」

 

 

そして男女に分かれるとなると、必然的に男湯は僕とエリオだけになる。

 

 

「それにしても……」

 

 

「? なに?」

 

 

突然ジロジロと僕の体を見始めるエリオ。言っておくけど、僕にそんな趣味はないからね?

 

 

「いえ、その……ユーノさんって、意外と体付きがしっかりしてるなぁっと思いまして……」

 

 

あぁ…そう言うことか。確かに僕は傍目から見たらインドア派ってイメージがあるからね。

 

 

「うん、スクライア一族である僕の本職は遺跡発掘だからね。それなりに力と体力がいるんだよ」

 

 

もっとも、最近は娘達を守る為にこっそり体を鍛えてるって言うのもあるけどね。

 

 

「そう言えば、僕スクライアの一族についてはよく知らないんですけど、どういう一族なんですか?」

 

 

「んー…どういう一族って言われても、遺跡発掘を生業にした流れ者の一族としか……」

 

 

「流れ者…ですか?」

 

 

「うん。スクライアの一族は一つの世界には決して留まらないんだ。流れ着いた世界で遺跡を見つけては発掘の為にその付近にキャンプをはり、発掘を終えたら再び別の次元世界に流れる……そんな一族なんだよ」

 

 

「へぇ~……それじゃあ、その一族から離れてるユーノさんが一族に戻るのは結構大変そうですね」

 

 

「そうでもないよ。一族のみんなとは時々連絡を取り合って、今どこの世界にいるのかも教えてくれるしね。ついこの間も、娘達を連れて里帰りしたし」

 

 

「そうなんですか。そう言えば、ユーノさんのご両親は……?」

 

 

「あぁ…両親は僕が赤ん坊の頃に遺跡の崩落事故に巻き込まれて、亡くなったみたいなんだ」

 

 

「ご…ごめんなさい! 僕……!」

 

 

「いいよいいよ、気にしないで。正直、両親の顔は全然覚えてないし、物心がつく前だからよく分かんないんだよね。でも寂しくはなかったよ。スクライアのみんなはとても優しくて、僕にとっては家族のようなものだからね」

 

 

「そうですか……」

 

 

僕の言葉を聞いて、ホッとした表情を見せるエリオ。

 

 

「あ…でも一人だけ例外がいた」

 

 

「例外?」

 

 

「そっ、僕の曾じーちゃんで、スクライア一族の族長」

 

 

「族長!?ユーノさんの曾おじいさんがですか!?」

 

 

僕が一族の族長の血縁者だと聞いてエリオは驚愕している。まぁ、当然の反応だろうね。

 

 

「うん。でも曾じーちゃんは僕に対してとても厳しくてね……小さい頃、僕がどんなに遺跡発掘を頑張っても『こんくらいは出来て当然だアホンダラ』とか言って、よくゲンコツを喰らってたよ」

 

 

うぅ…今思い出しただけでも頭が痛くなってくる。

 

 

「す…凄い曾おじいさんなんですね……」

 

 

「凄いどころじゃないよ…今年でもう100歳の高齢になるんだから」

 

 

「100歳!!?」

 

 

「そう……にも関わらず、未だに現役バリバリだから恐れ入るよ。あの調子ならあと200年は余裕で生きるね」

 

 

「あ…あはは……」

 

 

僕の曾じーちゃんの話に、エリオはもう苦笑いしか出てこないようだ。語るだけでも色々パワフルだからね、あの人は……

 

 

キャーキャー!

 

 

「ん? 何だか女湯の方が騒がしくなってきたね」

 

 

「そうですね……何かあったんでしょうか?」

 

 

男湯と女湯を分け隔てる壁の向こうから聞こえる女の子達の声が、先ほどまで聞こえていた温泉にハシャぐ声ではなく、何やら悲鳴のような声に変わっていた。

 

まさか覗き……とは思ったけど、この世界にいる男は僕とエリオの二人だけだからそれはない。となると一体何が……?

 

と……僕が考え込んでいると……

 

 

 

「うわぁぁぁああああん!!!」

 

 

 

突然入り口の方から、僕にとって聞きなれた声が聞こえてきた。そしてすぐさまそちらに視線を向けると……

 

 

「おとーさーーーん!!」

 

 

何故か大泣きしているレヴィが駆け寄ってきていた。当然裸の状態で。

 

 

「ど…どうしたのレヴィ!!?」

 

 

僕はすぐさまお湯から上がって腰にタオルを巻き、レヴィの体にもタオルを巻いてあげた。

 

 

「オ…オバケ……オバケがぁ……!!」

 

 

「オバケ? どういうことレヴィ!? 一体何があったの!!?」

 

 

「グス…グス……ボクがお湯に浸かって…ヒック…たら……何かに…体中を……触られて……うわぁぁぁあああん!!」

 

 

「大丈夫…大丈夫だからね~」

 

 

大泣きするレヴィを抱きしめながらポンポンと背中を叩いて落ち着かせる。

 

こう見えてレヴィはオバケなどのホラー系が大の苦手で、そういう夢を見ただけでも泣いてしまうほどだ。因みにシュテルは逆にホラー系が好きな方。

 

それにしても、僕の可愛い娘をここまで泣かせるなんて……

 

 

 

ブチッ

 

 

 

久しぶりに……ちょっとキレたよ……

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

エリオside

 

 

どうもこんにちは、エリオ・モンディアルです。

 

突然ですが、今僕の目の前には……鬼がいます!!

 

正確には、正座をしている今回の騒動の犯人である聖王教会の見習いシスター『セイン』さんと、そのセインさんの前で尋常じゃない怒気を纏いながら仁王立ちをしているユーノさんです。

 

 

「それで? 何か言うことは?」

 

 

「申し訳ありませんでしたぁぁあ!!!」

 

 

怒気を通り越して殺気すら感じさせるユーノさんに、セインさんは即座に土下座した。

 

因みに僕を含めたみなさんはユーノさんが怖くて近づけない為、少し離れたところで見守っています。

 

 

「謝って済むんなら僕もここまで怒ったりしないよ? ただね、君のその軽率な行動のせいでうちの大事な娘や子供達に何かあったらどうするのって話をしてるわけ。そこら辺のことわかってる? ねえ?」

 

 

「は…はいぃ……」

 

 

「そもそも君、仮にもシスターでしょ? 聖職者の身でありながら女性陣に対するセクハラ行為、加えてホテルアルピーノへの営業妨害……どうする? このまま通報されて海上隔離施設に逆戻りする?」

 

 

「そ…それだけはご勘弁を~……!」

 

 

ユーノさんの容赦のない言葉に縮こまるセインさん。

 

少し可哀想だけど、今回は全面的にセインさんが悪いから何とも言えない……。

 

 

「ユ…ユーノ君……もうそのくらいにしてあげようよ。セインも反省してるんだし……」

 

 

すると、見かねたなのはさんが止めに入った。だけどそれでも、ユーノさんは止まらない。

 

 

「何言ってるのなのは? こちとら娘一人泣かされてるんだよ? それに今回はレヴィがまっすぐ僕のところへ来られたから良かったものの、もしレヴィが途中で足を滑らせて頭を打ったりして怪我でもしたらどうするの? レヴィに限った話じゃなくて、他の子供達ももしかしたらそうなってたかもしれないんだよ? 一歩間違えれば大変な事になってたんだ。そんな大変なことを、なーなーで許せるほど……僕は甘くないよ」

 

 

「うっ……!」

 

 

ユーノさんの正論に何も言い返せないなのはさん。

 

でもユーノさん、最初はレヴィを泣かされた事に対して怒ってるんだと思ってたけど……いや、それもあるんだろうけど……本当は誰よりも子供達の心配をしてるからこそ、あんなに怒ってるんだ。厳しいことを言ってるけど、とても優しい人なんだ……ユーノさんは。

 

 

「でもまぁ、反省してるってのは本当みたいだし、僕も鬼じゃないから許してあげてもいいよ」

 

 

「ホント!?」

 

 

「ただし! 条件が二つ。一つはもう二度とこんな事はしないこと。もしやったら本当に海上隔離施設に逆戻りさせるからね?」

 

 

「は…はい!」

 

 

「それともう一つは、レヴィにちゃんと謝って。この子本当に怖がってたんだから」

 

 

「う…うん。ゴメンなレヴィ、ちょっと調子に乗りすぎたよ……」

 

 

「ううん、いいよ! お化けじゃないって分かって、安心したし! おとーさんが許したんだから、ボクも許す!!」

 

 

さっきまでとは違ってすっかり元気になったレヴィがそう言うと、それを聞いていたユーノさんは優しく微笑んだ。

 

 

「それじゃ、この話は終わり。みんな待たせてゴメンね、晩ご飯にしようか」

 

 

と…今さっきまでの鬼のような人と同一人物とは思えないほど優しい笑顔を見せるユーノさんだった。

 

 

 

とりあえず、今日一番身に染みた教訓は……ユーノさんを怒らせてはいけない。

 

 

 

 

 

つづく


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