水先案内録カイジ:ARIA×賭博黙示録カイジ   作:ゼリー

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よろしくお願いします。


第8話~交錯~

 朝、カイジがぼーっとした頭で煙草を吹かしていると、後ろから挨拶された。

 

「おはようござますっ!」

「え・・・・!?・・・あっ!ああ・・・・っおはようございますっ・・・・」

 

ふぅっ・・・驚いた・・・誰かと思ったぜ・・・・

そうだった・・・昨日新人が来たんだったなっ・・・・・・

 

「随分早いんだなっ・・・・起きるの・・・・」

「そうですか?カイジさんの方が早いですよっ」

 

 そう言って灯里は笑ったが、カイジは少々戸惑う。

 この男、少女と話すことに全くと言っていい程免疫がない。藍華の場合、そのつっけんどんな接し方がカイジにとっては非常に楽であったが、この新人の少女とはどう接すればいいのかまるで分からない。結局、乾いた笑い声だけで返答した。

 

「朝ごはんはどうするんですか?」

「も、もうすぐ・・・アリシアさんが来るから・・・・・それからだな・・・・はい・・」

 

 少し間が空いた。

 

ていうか髪型・・・おいおいっ色もさることながらこっちも独特だな・・・・・

画しすぎだろ・・・・一線を・・・・・

あっ・・・!これだっ・・・・話題あるじゃねえかっ・・・・!

女は髪型を褒めるといいらしいからな・・・・妙案だっ・・・!

 

「そ、その髪型・・・・なんていうか伝わるよっ・・・やっぱりあれか・・・前衛芸術的なあれだろっ・・・・!オレすげえわかるよっ・・・!」

「はひっ?」

「ああっ・・・!言わなくても分かってる・・・!やっぱりパンクの影響だろっ・・・!やっぱり平凡に納まらないのがパンクだよなっ・・・・反体制っていうかレジスタンスっていうかさっ・・・!」

「あのっ――」

「いやいやっ・・・!大丈夫っ・・・オレはそこんとこ理解があるからっ・・・!アウトローでしょ・・・?あったあったっ・・・オレにもそんな時期っ・・・」

 

饒舌っ・・・・!カイジ・・・空気打破の為に暴走的饒舌っ・・・!

見境がつかないっ・・・止まらないっ・・・・・!

引いているっ・・・心の距離が引いているのに気がつかないっ・・・!

言うなればクレイジートレインっ・・・!何かに衝突するまで止められないっ・・・!

 

「だからあのっ――」

「そうだよなぁ・・・ティーンだもんなっ・・・!ハハハっ・・・!うんっ・・・やっぱすげえ分かるってオレっ・・・ハハハっ・・・!」

 

満面の笑みで頷いているカイジであったが、ついにその暴走に終止符が打たれる。

 

「オレもそろそろ髪切ろうがふぁっ・・・!いってえなっ・・・」

「ぷいにゅ!」

「あ、アリア社長!」

「んだよっ・・・飯ならもう少し待ってくれっ・・・」

「にゅう~っ!」

「あぁ・・・・?引いてるって誰が・・・?」

「ぷいにゅ」

 

 アリア社長はそう鳴くと、灯里の方を指し示す。カイジも釣られて灯里の顔をながめる。

 

「あはははっ……ちょっぴり」

「にゅ」

「は・・・?な、何でっ・・・!?」

 

 それが分からないのであればカイジに女性と話すことはまだ難しいだろう。アリア社長はそんな事を思ったが、この馬鹿に言ったところで何もならないと諦めていた。

 カイジは腕を組んで何で何がっとぼやいていたが、桟橋を踏みしめる音を聞くと、回り込んで灯里と共にアリシアを出迎えた。

 

「アリシアさんおはようございますっ・・・!」「おはようございます!」

「あらあら、ふふふ。二人ともおはようっ」

「ぷいにゅ!」

「アリア社長もおはようございますっ!……それじゃあ朝ごはんにしましょうか」

「はいっ・・・!」

 

・・・・・・・・・・・

 

 朝食を済ませると、灯里の腕試しとなった。

 この試漕次第で灯里の訓練の用度も変わってくる。カイジとしても灯里の操舵術がいかがなものなのか気になっていた。アリシアはウンディーネ業界の中でもトップランクの人間だそうである。そのアリシアの下でこれからウンディーネになるくらいだ。やはりある程度の技術は持っているのだろう、カイジはそう考えていた。

 

「水無灯里いきまぁーす!」

 

へぇ・・・案の定上手いもんだなっ・・・・藍華よりよっぽど漕げてるもんな・・・

・・・けどなんか違和感があるな・・・・なんだ・・・?

 

淀みなく流れるように進むゴンドラは、ペアはもとよりシングルのレベルでさえ超えているようにカイジの目には映った。

 

クククっ・・・・得意げっ・・・超得意げじゃん水無・・・・!

澄ました顔して心の中では酩酊ってやつだろあれっ・・・・ハハハっ・・・

社長もよろこんでらあ・・・・・!

 

「素晴らしいわ灯里ちゃん!……でもちょっと言いにくいんだけど」

 

 灯里は照れたような表情でアリシアの次の言葉を待っていた。カイジも何かと耳を傾ける。

 

「漕ぐ方向、逆よ」

 

 丁度そこへ郵便屋が通りかかった。郵便屋は気のいい挨拶を灯里へ投げかけるとそのままゴンドラを漕いでいく。その様子を見ていた灯里は挨拶も返さずに呆然と立ち尽くしていた。

 

そうかっ・・・違和感の正体っ・・・!逆ってことかっ・・・・!

あらら・・・お粗末様・・・・

 

「す、すみません!こんな初歩的な間違いするなんてっ!」

 

 座り込み、手をついて愕然とする灯里。なにやらぼそぼそと呟いていたがアリシアが正しい向きで漕ぐように促し、今一度張りきってゴンドラを漕ぎ始めた。

 

駄目駄目っ・・・・!そんなんじゃ駄目だってっ・・・

そんなへろへろ漕いでるようじゃ全然駄目っ・・・・!遅すぎるっ・・・!

腕に力が入り過ぎてるし姿勢も悪い・・・・まず無理っ・・・あれでスムーズに漕ぐのなんて・・・・っ!

 

「――カイジくん」

「はい・・・・?」

「それじゃあ次はカイジくんお願いね」

「はいっ・・・・」

 

 実はカイジ、灯里の腕試しに練習の一環として初めから参加しており、灯里が漕いでいるのを自身のゴンドラの上から眺めていたのだ。自然と灯里が終われば次はカイジの番であった。

 ちなみに、偉そうなことを心の中で散々ぬかしていたカイジであったが、まだ浮いているだけのゴンドラの上で足は竦み、腰は引けて、常に中腰の状態でバランスを取りながらの上から目線であった。しかしカイジ自身はバランスがとれているだけのこの状態で、すでに我が意を得たりと猛っている。

 

ひよっこの新人に劣るわけにはいかねえっ・・・!アリシアさんに恥をかかせるわけにはいかねえんだっ・・・!

見せるっ・・・見せてやるっ・・・・オレの努力の成果っ・・・!

いくぜっ・・・・!

 

「うあぁああぁあっ~~っ・・・・!」

 

バッシャーンと水飛沫があがった。

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 シャワーを浴び終えたカイジは2階のソファーに身体を預け、悲嘆に暮れていた。外では未だに灯里が必死に練習している。アリシアはすでに訪れた客を連れて仕事へ行ってしまっていた。

 カイジの目から突然涙が零れる。

 

だからっ・・・泣いてどうすんだよオレはっ・・・・アホかっ・・・!

くっそ・・・・っ!

 

「え・・・?」

 

 一人で練習しているものだと思っていた灯里が、誰かと話しているのが窓の向こうに聞こえた。

 カイジは涙をごしごし拭くと立ちあがって窓から外をうかがう。

 

藍華か・・・早速仲良くなってるなっ・・・・

ハハハ・・・・もう怒鳴ってやがるっ・・・

 

 二人の練習風景を見ていたカイジは、先程の水没の悔しさと情けなさが頬を伝う涙となって輝くのを阻止しようと目頭を押さえた。それでもやっぱり涙は溢れて止まなかった。

 

情けねえっ・・・・ぐぐぐっ・・・・あんなに親身に教えてもらったのにっ・・・

くそっ・・・!くそっ・・・・!

・・・・っ!

 

 練習を一時中断したのか、灯里たちが二人してこちらへ向かってきていた。カイジは慌てて涙を拭うと、二人に出すためにキッチンでお茶を淹れた。今の今まで泣いていたカイジが、このように気の利いたことが出来るのというは成長の結果なのか、それとも唯の誤魔化しなのか。おそらく後者であろう。

 カイジは1階のデッキ部分に上がってきた二人に茶を出した。

 

「わあ!ありがとうございますカイジさん」

「おはようカイジ。紅茶を出すなんて……アンタ気が利くようになってきたじゃない」

「ああ・・・・まあな・・・・」

 

 お茶を受け取った二人は、「藍華ちゃん呼び捨てはダメだよっ」だとか「いいのよ別にだってカイジだもの」だのやっていたが、カイジの耳には殆ど入って来なかった。カイジはお茶を渡し終えると重い足取りでカウンターまで戻った。イスに座りながら考える。

 

オレにゴンドラは無理だな・・・・認識が甘すぎた・・・・

人間競馬に鉄骨渡りを越えてきたオレなら余裕だと思っていたがっ・・・・

水の上だとこうも違うのかよっ・・・・!

役立たずじゃねえかっ・・・!ゴンドラも漕げねえ水先案内店員なんてっ・・・・!

ちくしょおっ・・・・!ぐぐっ・・・・

 

 またもや涙が滲みだしてきたが、今回は何とか押しとどめる。少女たちの前で大の大人が涙を見せるわけにはいかないのだろう、ぐっと堪えると仕事に取り掛かるカイジ。すると藍華が声をかけてきた。

 

「ねえカイジ、アンタさっき海に落ちたんだってね。慣れないことはするもんじゃないわよ?」

「あ、藍華ちゃん」

「・・・・っ!」

「だってそうじゃない。私はカイジの為を思って言うのよ。下手の横好きで海に落ちるようじゃアリシアさんも迷惑だし、なによりアンタが危険じゃない」

「でも……カイジさんだって初めてなんだし」

「初めてじゃないわよ。アリシアさんに教わってるって言ってたし、私も何度か練習してるのみかけたし」

「そ、そうなんだ……」

「まあ、それでも乗りたいって言うのであれば私が――」

「黙れよ・・・・っ!」

「え?」

「うるせえんだよっ・・・!ぴーちくぱーちく囀りやがって・・・!そんなことオレが一番分かってるんだよ・・・!もういいからどっか行ってくれ・・・邪魔だからっ・・・・!」

「カイジさん……」

「……ごめん、言い過ぎたわ」

「・・・・・・っ!いや、オレも言いすぎた、悪い・・・とにかく何処かへ行っててくれ・・・仕事があるから・・・・」

「……ええ、行きましょ灯里」

「うん……」

「カイジ……本当にごめんね」

 

 二人は一つのゴンドラへ乗ると町の中へと入っていった。カイジはその姿を見守りながらふぅと大きく息を吐き、結局溢れてしまった涙を拭った。大声を出して怒鳴ったカイジは、多少すっきりしたところもあったが、少し経つと猛烈にいたたまれなくなってきた。カイジは羞恥からカウンターに押し付けた頭を、わしわしと盛大に掻き毟りはじめる。

 

~~~~っ!

馬鹿かオレはっ・・・・!正論じゃねえかっ・・・藍華の言ってたことはっ・・・!

分かっていながらっ・・・・抑えられなかった・・・・っ!

大人げねえ・・・水無にも軽蔑されちまったなこれは・・・・

 

 そのままわしわしやっていたカイジであったが、突如現れたアリア社長の一喝によって何とか平常心を取り戻し、仕事を始めた。

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 その後もカイジは、朝の出来事を頭から追い出そうと黙々と仕事をしていた。気がつけば、ネオ・ヴェネツィアがオレンジ色の光に包まれる時刻となっていた。仕事の合間、アリシアはいつものごとく何度か会社に戻ってきていたが、灯里と藍華は、結局一度も戻って来なかった。

 カイジは彼女たちが帰ってきたらすぐにでも頭を下げて謝るつもりでいた。最悪、土下座も辞さない気持ちがあるくらい自責の念は強かった。いつまで経っても帰って来ない彼女たちは余っ程自分の事を軽蔑しているんだなと頭を抱えたカイジであったが、それならそうと全力で謝るしかないと開き直っていたのだ。

 

はぁ~~・・・・やっぱ土下座かな~~っ・・・

藍華のやつ根に持ちそうだしな~・・・・サイダーの事言われちゃかなわねえしなあ・・・・

恥の上塗りだけは避けなきゃなあ・・・・

 

驚愕っ・・・!驚愕っ・・・!驚愕っっ・・・・!!

怒鳴ったことよりもそっちを優先っ・・・・!

歪み過ぎっ・・・!思考回路が歪み過ぎ・・・っ!

 

っていうか水無の奴・・・報告しなくていいからっ・・・・!

よりにもよって藍華に言いやがってっ・・・・くそっ・・・腹立ってきたっ・・・!

 

責任転嫁っ・・・・!圧倒的責任転嫁っ・・・・!

 

 と思ったものの、最終的にやっぱり自分が一番悪かったなと考えるカイジ。今思い出せば、藍華も灯里もどちらもカイジの不手際に対し悪口など言っていなかった。本当に心配から出た言葉だったのだろう。カイジはそれを揶揄されたと激昂してしまったのだ。やはり自分が一番悪いと思い直した。

 カイジは時計を確認すると、カウンターを出た。看板を下ろして桟橋を戻っていると、どこからかアリア社長の鳴き声が聞こえる。腹でも減って鳴いているのかと呆れ顔のカイジであったが、聞こえてくる方角が前方ではなく、右の沖合の方だと分かるとすぐさま海を見渡した。

 

「おいっ・・・・!社長っ・・・・!」

 

アリア社長はゆっくりと流されていくゴンドラの上で鳴いていた。まだそれほど遠くへは流されていなかったが、それも時間の問題だろう。カイジは逡巡する。

 

どうするっ・・・・!ゴンドラでいくかっ・・・?いや駄目だろっ・・・

今朝の様子じゃ今やったところでまた転覆だっ・・・・!

くそっ・・・・!

 

 カイジが岸に付けてあるゴンドラの方へ眼を走らせた時、アリア社長とは反対側の水路から藍華が漕ぐゴンドラが姿を現した。ほっとカイジは一度胸を撫で下ろしたが、頭を振って改める。

 

駄目だっ・・・

藍華の漕ぐスピードじゃあ到底追いつけねえっ・・・・

くそっ・・・だったらっ・・・・!

 

 カイジは、できるだけアリア社長へ近くなるように河岸沿いを追っていった。端までくると、黒の制服を脱ぎ棄てシャツのまま勢いよく海へ飛び込んだ。

 8月といってもアクアではまだ春先だ。冷たい海水がカイジの体温を容赦なく奪っていく。それでもカイジは無我夢中で手をかいた。遠くからは灯里と藍華が叫んでいたが、カイジには聞こえない。水を吸ってズシリと重くなるシャツがカイジの進行を緩慢にする。これは駄目かと一瞬考えたが、海面から顔を出す度にアリア社長の姿が徐々に近づいていた。幸いにも潮の流れがそこまで早くないらしい。力を振り絞って腕を振っていると、ようやく手が舳先に触れた。

 カイジは、ゴンドラが転覆しないように慎重に身体を乗せ上げた。

 

「はあっはあっ・・・・・間に合ったっ・・・!」

「ぷいにゅ~~っ!」

「もう大丈夫だっ・・・・!これでもど・・・・・・あっ・・・!」

 

・・・・アホかオレはっ・・・・!漕げねえじゃんっ・・・・!

勢いで泳いで来たけどっ・・・・・無能じゃんっ・・・・・!

 

「やべえ・・・・・・」

 

 体中の筋肉が弛緩してへたり込むカイジ。こうなった以上、もはや遠くまで流されないように祈るしかあるまいと諦めていた。そうアリア社長に伝えると、アリア社長は会社の方を向いてぷいにゅと鳴いた。カイジも身体を起こして目を向ける。

 

「なんだ・・・・?・・・・・あっ・・・!」

 

 そこにはゴンドラを逆漕ぎしながら、猛スピードでこちらへ向かってくる灯里と藍華の姿があった。

 

「おーい!カイジぃ~~!」

「カイジさ~~ん!社長~~!」

 

やったっ・・・・助かった~~っ・・・

 

 あっという間に距離を詰めた灯里のゴンドラは、カイジ達の乗るゴンドラの横につけた。アリア社長は鳴きながら灯里のゴンドラへ飛び乗る。反対に藍華がカイジの方へ乗り込んできた。

 

「大丈夫!?」

「ああ・・・・なんとかなっ・・・・・!助かったぜっ・・・すまねえ・・・」

「よかった……ほんっと馬鹿じゃないのアンタ!さっきも言ったじゃないっ危険だってっ!」

「ハハハっ・・・・そいつあ初耳だ・・・・」

「もうっ!まったく……それじゃあ戻るわよ」

「ああ、そうしてくれるとありがてえ・・・・こう一日に何遍も寒中水泳してたんじゃ風邪ひいちゃうからなっ・・・」

「それと……上、脱いだ方がいいわよ。余計冷えるから」

 

 二艘のゴンドラは向きを変えて会社へと戻りはじめる。灯里もあちら側からカイジへ言葉をかけて心配していたが、カイジは手を上げて問題ないと返答した。カイジは盛大にくしゃみをするとずずっと鼻を啜りまたへたり込む。

 藍華が心配そうに後ろから声をかけた。

 

「やっぱり風邪引いたんじゃないの?」

「かもしれねえ・・・・・・」

「何で泳いでいこうと思ったのよ、ほんとに呆れるわ」

「そりゃあ・・・・」

 

 カイジは口を濁した。お前じゃ追いつけないと思ったからだよとは、この状況では口が裂けても言えなかったのである。そこでようやく思い出したカイジ。

 

「っそうだ藍華っ・・・・・さっきは本当に言い過ぎたっ・・・すいませんでしたっ・・・・!なんていうか自分が情けなくてさっ・・・気が立ってたんだ・・・」

「……ううん、私の方こそ言い過ぎたわ、ごめんなさい……でも危険だっていうのは本当よ?」

「分かってるっ・・・・こんだけ泳げば嫌でも分かるさ・・・・・・」

「ふふふっ、そうね」

「ああ・・・・」

「……あのね、カイジ」

「あぁ・・・?」

「さっき言いそびれたんだけど……カイジがそれでもゴンドラに乗りたいって言うんだったら……その……」

 

 言い淀む藍華の方へ顔を向けるカイジ。藍華はオールを漕ぎながらあらぬ方をみて口をもごもごさせている。頬にはうっすらと朱の色が浮き出ていた。

 

「なに照れてんの・・・・・?」

「て、照れてなんかないわよ!……アンタが漕ぎたいって言うんなら暇なときにでも灯里と一緒に練習しないかってだけの話よっ!」

「え・・・?いいのか・・・?」

「まあ、あれだけ言っちゃった手前、そうしなきゃ悪いでしょうが」

「いや・・・・オレは別に気にしてないけど・・・・」

「うるさいわねっ!やるのやらないの!?どっちなの!?」

「あ、ああっ・・・はいっ・・・!是非やりたいですっ・・・・!」

「はじめからそう言いなさいよまったくっ」

「藍華さんっ・・・・!ありがとうございますっ・・・・ホントリスペクトっス・・・っ!」

「そういうの暑苦しいからやめて」

「はい・・・」

「……そこっ!なに笑ってんのよ!」

「はひっ!」

 

 隣で漕ぎながら二人の様子を眺めていた灯里が、くすくす笑っていると藍華がびしっと指を突き付けてそう言った。

 

「だって~二人が本当に仲良しそうで嬉しいんだもんっ……絆ってやつだね!」

「~~っ!恥ずかしいセリフ禁止!」

「ほえぇ~」

「ハハハっ・・・・へっくしょんっ・・・・!」

 

 こうして二人の仲違いに一件落着の幕が下りたのだった・・・。

 

第8話 終・・・・・・・・・・・

 


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