VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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三期生対抗体力バトル5

「こ、心と体の仲が悪い……」

 

 独特な言い回しをしているが、要するに光ちゃんは100cmの時点で体の柔軟に限界を感じ、行動に移すことが出来ないでいた。

 色々と試行錯誤はしているのだが、いざ本番時にはギリギリでバーから体を引いてしまう。それを繰り返している。

 

コメント

:光ちゃんwww

:ち〇かわみたいなこと言ってる……

:心がふたつある(あわとシュワ)

:どっちが淡雪だか分からなくなっちゃった!

:そいつは二つやない、表裏なだけや

:なんかチンコが生えていそうでかわいいのかよく分からないやつ 

 

「多分運動神経がいいだけに、出来ないことが寸前で予測出来てしまうから、体を引いてしまうんだろうね」

「私には一生分からない感覚ね……」

「ふむ……そうだ、こんなのはどうでしょう?」

 

 このまま怖がっていても埒が明かない。そんな時、ちょっと面白そうなアドバイスが思いついたので、光ちゃんに提言してみることにした。

 

「光ちゃん、そのバーをバイオハ〇ードに出てくるアレに見立てるのはどうでしょう?」

「バイオハ〇ードのアレって?」

「ほら! 狭所でレーザーが迫り来るのを避けるやつですよ!」

「あー! サイコロステーキ製造機か!」

「そうそれ!」

「ちゃみちゃん、アレってそんな名前なの?」

「正式名知らないけど違うことだけは分かるわ」 

「リンボーダンスなのでバーが迫り来るわけではありませんが、自らの前進をそれに見立てることで、心理的に逃げ場を無くすんです!」

「なるほど! やってみる!」

 

 私の提案を素直に実践し始める光ちゃん。バトルだから敵同士でもあるわけなのに、本当にいい子や……。

 なんだか勝たなきゃいけない私まで成功を祈っちゃうよ。

 そんなことをほんわかしながら思っていたのだが――

 

「くっ、来る……ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?!? 死ぬ!? 死ぬう゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛!?!? たすったすけてっじにだくないっ! 誰かだすげでえ゛え゛ぇ゛ーー!! ひ、ひぃぃぃぃ!?!? いや、いや、い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーーー!!!!!!!!」

 

 …………あの……なんかこのリアクションは予想外なんですけど……。

 

「……あわちゃん、まさかこれが見たかったの? ドS通り越してサイコパスの領域だよ? 少しは自制しなよ」

「ちちち違う違う!! もっとゲームとか映画感覚で楽しんで貰えるかなって思っただけなんですよ!! 本当なんですよぉ!!」  

「こ、これ大丈夫なの? 事件性があるとかの次元じゃ無くてもう事件真っ只中じゃない? ヨーチューブにBANとかされないかしら……」

「え、エロじゃないからそれは大丈夫かと……」

 

コメント

:普通に背筋ぞっとした

:こんな時まで本気なのブレねぇなぁ……

:生死の狭間そのものなのよ

:音声だけ切り取ったらマジでアカンやつ

:淡雪……お前マジか……

:本当にデスゲームにしてどうする!

 

「ッ(バタリ)」

「「「あ」」」

 

 そんな喧騒の中、光ちゃんはバーをくぐることが出来ず、バーに体が触れた瞬間その場に倒れこんだのだった。

 

「光ちゃん、チャレンジ失敗!」

 

 ましろんが判定を言い渡した後、慌てて光ちゃんに近寄る。

 

「だ、大丈夫ですか? すみません変なこと言って……」

「あ、淡雪ちゃん」

「はい?」

「痛いのは気持ちいいけど……死ぬのは気持ちよくなかった……」

「痛いのも気持ちよくないですよ」

「痛いのは気持ちいい……」

 

 これだけの恐怖を体感してもそこは譲らないのかよ。

 

 

 

 その後も続くリンボーダンス。5cmづつ低くなるバーに圧を感じながらも、私達は競技を進めていった。

 その結果――

 

「ぃやんっ!」

 

 ちゃみちゃん、妙に色っぽい声を出しながら90cmで失敗。

 

「ぁひんっ!」

 

 私、ちゃみちゃんの色っぽい声の原因が分かりながら85cmで失敗。

 つまりこの競技の勝者は――

 

「いぇーい、僕いっちいー」

 

 85cmすら余裕でクリアしたましろんということになる。

 

「え、やばー。真面目にちょっと嬉しいかも。一個も1位取れないかもなーって正直思ってたからさ」

 

 ちょっとどころか相当嬉しいのだろう、珍しく軽くぴょんぴょん跳ねてまで喜びを表現しているましろん。

 だが……私とちゃみちゃんはそれを心から祝福することが出来ないでいた。それどころか祝福しようとした光ちゃんの口を手で封じてまでいる。

 いや、ポイントをとられたからとかではないよ? ましろんさっき最下位で悔しそうだったし、これだけ喜んでいるのだから普段なら拍手しているところだ。

 ただ……あの……さっき言及した声の原因がですね……。

 

「んふふ、順位は確定したけど、もうちょっとチャレンジしてみよっかな。次は80で」

「い、いやーましろん? それはやめた方がいいんじゃないかな?」

「大丈夫だって85も余裕だったし。…………ほらクリアできた! ドヤー!」

 

 あぁあぁあぁあぁ……。

 

「もう一個下もやってみよっかな」

「ま、ましろーん? そのくらいにした方が……」

「あう、流石にだめか」

 

 75cmまで下げてようやく失敗し、満足したのかバーから離れるましろん。

 

「ごめんごめん、ちょっと楽しくなっちゃって……ん?」

 

 ましろんが司会をする定位置にはコメント確認用のPCもある。だが現在、ましろんがそこに戻るまでの道に、私とちゃみちゃん、そして無理やり連れてこられた光ちゃんで壁が形成されていた。

 

「ごめん、ちょっとコメントとか確認したいからさ、PCの前開けてもらっていい?」

「い、いや、それはちょっと……」

「そ、そうねー! もう次の競技に行った方がいいんじゃないかしら?」

「むぐぐぐぐぐぐぐ!!!!」

「えー? せっかく1位とったんだからコメント見せてよ。よっと」

「「あ」」

 

 その賢い頭脳で隙のあるコースを選び抜き、小柄な体で身軽に私達を突破したましろんは、PCの前に立ち、その画面を見た。

 そう、見てしまった――残酷すぎる真実を――

 

コメント

:あ、ましろん『やっぱり』得意なんだね!

:胸部のボリュームが……(小声)

:柔軟競ってるのに硬いのが勝ってて草

:ましろん! まな板が報われてよかったね!

:やっぱ突っかかるものが無いもんなぁ

:これぞ機能美

:そのアドバンテージ卑怯じゃないっすか?www

:ましろんかわいいね(色んな意味で)

 

「――――――――」

 

 コメント欄を見てしばしの間呆然とするましろん。

 やがて私達の方に顔を向けた時には、その顔は感情の一切読めない無表情になっていた。

 こ、これはまさか――

 

「おい――全員正座」

「ましろん!?」

「なんで私達まで!?」

「はーい!」

 

 ば、バチバチにキレていらっしゃるーー!!!!

 

「釈明を聴こう。あわちゃんから」

「えっ!?」

「早く」

「いやあの、その……すっ、3Dゲームが主流になってもまだ2Dゲームの人気って根強いじゃないですか? あはは……」

 

 ごめん、逆に油を注いだかもしれない……。

 

「……ちゃみちゃんは?」

「さ、山地より平地の方が豊かになるものよ?」

 

 こういう時のちゃみちゃんには期待するだけ無駄である。

 

「最後、光ちゃん」

「大きいと防御力が高い! 小さいと回避力が高い! つまりどっちも強い!!!!」

 

 これが一番ましかもしれない時点でもうダメだ……。

 

「……あはははっ、皆相変わらず面白いこと言うね、座布団1000枚!」

「あ、あれ? ましろん笑ってる……」

「た、助かったのかしら!」

「たかいたかーい!」

 

 よかった……と安心したのも束の間。

 

「ふぅ。それじゃあ運営さん。こいつらの座布団全部持ってって」

「落下死するわ!」

「やっぱりダメよねぇーー!!」

「今こそ落下ダメージキャンセルの腕を見せる時!」

 

 そう甘くはないのだった……。

 

コメント

:正直ましろんは小さいほうがすこ

:貧乳はステータスであり付加価値であり、アドバンテージである

:実際巨乳のましろんはもう想像できない

:なんか胸の話抜きにしても今日のましろんなんかテンション高い気がする

:三期生が側にいるからかな? だとしたらてぇてぇなぁ……

 

 リンボーダンスの結果は、1位・ましろん、2位・私、3位・ちゃみちゃん、4位・光ちゃんとなった。

 

 

 

「第三競技、次が最後の競技になるね」

 

 なんとか機嫌を直してくれたましろんが企画の進行を再開する。いよいよ最後か……。

 

「この時点で点数を一度確認しておくよ。僕と光ちゃんが10P、あわちゃんとちゃみちゃんが8Pとなっているね。まだ全員にチャンスがありそうだ」

 

 総合優勝を阻止したい光ちゃんがトップタイにいるのは懸念点だけど、次私が1位をとれば、光ちゃんが2位でも勝ちが確定する範囲だ。頑張るぞ!

 

「というわけで満を持して第三競技の発表だよ。……ん?」

 

 そう意気込んでいたのだが、さっきまでの流れならまずましろんに競技が書かれた紙が運営さんから手渡されるはずが、なぜか『変なモノ』がスタジオに運び込まれてきた。

 なんだあれ? まるで鉄パイプのような太さのゴツいチューブが幾つも組み合わせてあって……たとえるなら大リー〇ボール養成ギプスって某漫画であったけど、あれを全身用にしたみたいな……。

 

「「「「?」」」」

 

 混乱の声が私達から挙がるが、スタッフさんはその隙に、問答無用で私達の体にその武骨なスーツのような謎の装置を全員の体に装着した。

 ……………………え?


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