VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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ママのご乱心6

 いよいよ本格的に誕生への道を歩むことになった有雪ちゃん。

 先ほども少し話題に出たが、この子の創造はなかなかに難題だ。

 私のストゼロをどう表現するか? そのまま遺伝させるか、それとも何か別の解釈にするか?

 有素ちゃんの私への執着はどう表現するか? いっそのこととんでもないナルシストにしてしまうか?

 その他にも私の二面性は拾うのか、有素ちゃんの照れ屋な一面を拾うのか、お互いの公式設定を拾うのかも課題に上がる。

 時間をかけて、慎重に要素を拾っていく私達。

 

 顔立ちは有素ちゃんにミステリアスな印象を+したシャープなものにして、背丈は私より少し低く、有素ちゃんよりは高い

 設定は、アイドルをしているが、クール系を通り越して雪のような冷たさで全く笑顔を見せない(でもそれが一部で人気)

 そしてトドメに、二面性を――

 

 少しづつ納得できる要素を確定させていき、そして、やっと形になったのがこの子だった。

 

 

名前・有雪

外見・ファンから氷の騎士と呼ばれている超不愛想系アイドル

性格・実は照れ屋なだけかつ極度のマザコン(淡雪にのみで有素はライバル)で、家ではストゼロで酔っぱらうことで自らの氷を溶かし、べたべたに甘えている

まとめ・氷の騎士(笑)

 

 

 ……………………。

 暫く無言の時間が続く。

 

「なんか萌え漫画のキャラ出来ちゃったな」

 

 沈黙を破ったネコマ先輩のその一言が、この子と私達の心境を全て表していた。

 いや、勿論それは悪いことではない。それはかわいいキャラが生まれたということなので、むしろ普通は喜ぶべきことだ。

 ならなぜ今の私達はリアクションもとらず、ただ無言で首を傾げているのか?

 それは、全員が共通してあることを思っているからだ。

 段々とコメント欄のリスナーさんも私達の様子を不審に思い始めていたので、私が代表してその心境を言葉にした。

 

「これはなんというか……あれっすな」

 

 私達がこんならしくない状況になっている理由、それはこれだ。

 

「カオスが足りない」

 

 ライバー達がこぞって同調してくる。 

 要は私達は、偶然隠れ家に迷い込んだ純朴な少女に、どう対応していいのか分からない闇世界の殺し屋のような、そんな心境になっていたのだ。

 

コメント

:なんてことで困ってんだよwww

:そんなもの無い方が普通だから!

:うんうんじゃないんよ

:足りないんじゃなくてあんたらがあり過ぎるんやろがい!

:有雪ちゃんは、いつかなんらかの事故でファンにもバレるんやろなって

 

「これ、いいのかい? いや、ダメな理由はないんだけど、だからこそいいのかなって……」

「まさか淡雪殿と私を合わせた結果、カオスが中和されるとは……予想外の結果なのであります……」

「シオン、どうすんのこれ?」

「んー……ママとしてはもう少し手のかかる子の方が良かったかなぁ。でも、これ以上2人の子として相応しい人が思いつくのかというと……」

 

 まずいな。何がまずいって、これがこの企画で生まれる最後の子だからだ。

 このままのテンションでは、企画の締めとしてあまりよろしくない。終わりよければ全てよしなら、終わりダメなら全てダメでもあるのだ。それに、このままではシオンママが消化不良でもある。

 私達にも配信者としての意地がある、何とかしなければ……。

 何か解決策を練ろうとした、その時だった。

 

コメント

<山谷還>:本当にこの企画やってたんですね、コワッ

 

 配信を見て、本当に何気なくコメントしたのであろう還ちゃんを発見したとき、私に天啓舞い降りる!

 

「シオンママ! 見てください! 還ちゃんです! きっと母性に壊れたシオンママが心配で来てくれたんですよ!」

「えぇ!? ほんと!?!?」

 

コメント

<山谷還>:え? 

 

「よく考えてみてください、貴方には還ちゃんがいるじゃないですか! だというのに、他の子に現を抜かそうとするなんて……還ちゃんもきっと悲しんでますよ……」

「そ、そうなの……?」

 

コメント

<山谷還>:え? え? 

 

「そうか、そういうことか……最ママと呼ばれる私には還ちゃんの気持ちが分かりましたよシオンママ。そもそも還ちゃんがシオンママをママと認めないのも、シオンママのその弱さを見抜いているからなんですよ! きっと多分恐らく(小声)。だから、ママならしっかりしなさい!」

「還ちゃん……そうだったんだ……うん、そうだよね、ママが赤ちゃんに心配されてたらダメだもんね!」

「分かってくれましたか?」

「うん! シオンママはもう大丈夫! 還ちゃん、ありがとう……今までなんで還ちゃんが私を避けるのか分からなかったけど、やっと分かった。私の赤ちゃんになりたかったからだったんだね! 本当にママにしたい人だからこそ厳しく接していたんだね!」

「なぁ聖、これでいいのか?」

「シオンが幸せなら、それでいいさ」

「勢いだけで押し切る淡雪殿、カッコいいのであります……」

 

コメント

:なんだこの流れ……

:やっぱりライブオンじゃないか! ¥220

:????????

:還ちゃんがやべーやつに更に目を付けられたことは分かった

<山谷還>:え? え? え?

 

「還ちゃん、ママは目が覚めたよ! これからは今までよりもっと本気で還ちゃんのママになりにいくからね!」

「イイハナシダナァ……」

 

 こうして、ご乱心状態のシオンママが起こした狂気の企画は、終わりを迎えることが出来たのであった。

 還ちゃんありがとう、君の犠牲は忘れない……。


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