VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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ダガーちゃんの危機?7

「師匠、今更なんだけどさ、巻き込んじゃってごめんな……」

「本当に今更ですね……いいんですよ、私もきっかけの一つだったんですから」

 

 配信終了後、私が帰りの支度をしている途中、事が終わって冷静になったのか、ダガーちゃんはそう謝ってきた。

 

「優しい……師匠マジ師匠……あれなんだよな、昔から何かをやろうって思ったらそれ以外考えられなくなっちゃうんだよな俺……」

「ふふっ、私もそう思います」

「そっかぁ……」

「別に責めているわけじゃありません。行動力があるってことです」

「でもそれで周りに迷惑かけてたら世話ねぇよ……」

「迷惑なんて思っていませんよ。私も匡ちゃんも先生も、そしてきっとリスナーさんも。なんだかんだ皆楽しみながら丸く収まっていったじゃないですか」

「そうだといいんだけど……」

「……………………」

「師匠?」

「あ、すみません。少し考え事を」

 

 思わず少し黙ってしまった。というのも、過去の出来事や今日の配信、そして今の自分自身の発言を通して、私はもう一つの目標であったダガーちゃんの才能の言語化、それにあと一歩まで迫っている感覚があったのだ。

 ダガーちゃんが普通の子ではない、ライブオン側の人間であることはもう分かっている。あと一つ……あと一つピースがハマればその理由と才能を言語に落とし込めるはず……。

 

「あっ、マネージャーさんから連絡来てる……『流石のかおすでしたね!』だってさ! よっしゃー! クビは免れたぞー!」

 

 ダガーちゃんが、スマホのチャット画面を見せてくる。

 そして――その最後のピースは、ダガーちゃんがいらない子って言われちゃうと心配していた、ライブオンからもたらされたのだった。

 

「……かおす?」

「おうよ! 褒めてくれる時によく言ってくれるの! でも変だよな、いっつもひらがななんだぜ?」

「――――」

 

 ――そうか、そういうことだったのか。

 

「ダガーちゃん、やっと分かりました」

「あー? 何がだ?」

「貴方のライブオンたる才能です」

「ライブオンたる才能? いやいや、俺にはそんなもの無いよ……無いからこうして記憶喪失を取り戻すなんて、はたから見たら意味不明なことやったんだからさ……」

「いいえ違います! 今のチャットを見て完璧にハマりました! ダガーちゃんの才能――それは『ほのぼのカオス』です!」

「――――――――」

 

 ダガーちゃんは目を見開く、そして――

 

「あー?」

 

 思いっきり首を傾げた。

 目を見開いてそうだったのか! とかなってくれると思ったんだけどな……まぁ今のだけだと仕方ないか。

 

「せ、説明しますね。まずダガーちゃん、前提として貴方にはライブオンの才能がある、つまり『カオス』をその身に宿しています」

「えー? でも俺師匠みたいにストゼロだったりしないし、聖様みたいにエグイ下ネタも思いつかないし、有素先輩みたいに妄信出来るモノも無いよ?」

「いえ、ダガーちゃんは今挙げた人たちに負けないカオスを持っています。違うのはカオスの行き先、なんですよ」

「か、カオスの行き先?」

「ダガーちゃん、貴方はカオスをほのぼのに繋げる、そんな才能を持っているんですよ!」

「ほ、ほのぼの!?」

 

 ――ダガーちゃんが今一度目を見開いた。

 

「私たちが今までカオスから繋げることが出来るのは、主にお笑い方面でした。ですが貴方は違う――つまり、ダガーちゃんはライブオンに相応しい存在であるし、その上自分しか持っていない個性まであるってことなんですよ!」

「――そういえば、匡ちゃんと先生にも似たようなこと言われたことあるかも――じゃあこのチャットも、俺のキャラを維持しようとあがく俺を褒めたというより……」

「ダガーちゃんそのものを褒めているんですよ。いいライブオンでしたって、きっとそう言っているんです」

「……ほのぼのでもいいの?」

「逆に聞きます、ほのぼので何が悪いんですか?」

「まじか――――えええぇぇまじかあぁーーー!!!!」

 

 急に声を張り上げたと思ったら、顔を綻ばせながらぴょんぴょんと跳ね始めたダガーちゃん。

 よかった。どうやらようやく自分の価値に気づいてくれたようだ。

 

「一度同期やマネージャーさんと話をしてみるといいと思います。きっと私と同じことを言いますよ」

「……そういえば、この辺を真面目に話し合ったことって無かったかも……同期には理由も理由だし、マネージャーさんにも俺の経緯で自分からクビを恐れてるなんて言えるわけなくて……」

「あー……」

「大丈夫かな?」

「大丈夫です」

 

 ダガーちゃんの背中を押すように、私は即答する。

 

「だってここは、貴方が憧れて、私が愛するライブオンなんですから!」

「――――――――うん!」

 

 自分自身を受け入れたダガーちゃんの笑顔は――限界化を通り越して言葉が出ない程に――それはそれは眩しいものだった。

 

「……あれ、ということはもしかして俺って、記憶喪失キャラを守る必要はないのか……?」

「……確かに、言われてみればそうですね……止めちゃうんですか?」

「いんや」

 

 ダガーちゃんは、少し残念に思いながらそう質問した私に対し、お返しとばかりにすぐ首を振った。

 

「ライブオンに入れたきっかけになってくれたもので愛着もあるし、素の俺でライブオンにいていいんだと気づいた今後は、負担なくネタとかにも出来そうだしな。それに――」

 

 そして、相変わらずこんなことを言ってくるのだ。

 

「匡ちゃんと先生と、あと何より師匠と守ったものだから、これはこのまま!」

 

 本当に、この子はこういうところがずるいと思う。

 以前ライブオンに居ることが一番の幸せとダガーちゃんは言っていた。実はあの時、それが当たり前に思えるようになった時には、また自分のことで悩むことになってしまうのではないかと危機感をささやかながら感じていたのだが、この調子なら大丈夫そうかな。

 いや、きっとそういう事が起こってしまったとしても、この子は新たなカオスを引き起こし、そしてどういうわけかそこからほのぼのした結末に着地させるのだろう。

 それがダガーちゃんの才能――五期生が集まった時に宣言していたように、ライブオンに吹く、新たな旋風なのだ。

 

 

 

 後日、ダガーちゃんから多方と改めて話をした旨の報告があった。結果は言わずもがな。

 

「ふぅ……」

 

 全て終わってから、なんだか慣れないことをしたなーなんて思ったけど、そういえば素を受け入れることが主流なライブオンの事件簿において、今回はキャラを取り戻すって真逆の展開でもあったんだな。

 結果的にダガーちゃんは記憶喪失を取り戻し、更には自分の才能も自覚出来た。これにて一件落着だ。少しは師匠の名に恥じない行いが出来たかな。

 …………まぁ……あの……。

 

「その師匠である私は、未だに清楚を取り戻せてないんですけどね…………」




次回、聖のマシュマロ返答です!

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