VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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ダガーちゃんの危機?5

「師匠! 材料と調理器具の準備できたよー!」

「ありがとうございます」

「淡雪先輩、うちのダガーちゃんがすまないのである……宮内に手伝えることがあれば遠慮なく言ってくれ……」

「先生お腹空いたわ、早く作って頂戴」

 

 ここはダガー家のキッチン。そこにはエプロンを着けた私とダガーちゃんがいて、リビングにはテーブルからそれを見学している匡ちゃんとチュリリ先生の姿があった――

 

 

 

 時は遡ってダガーちゃんとの電話中――

 

「本当に……? 本当にそれでいくんですか……?」

 

 『師匠とハンバーグ作り!』といった感じのタイトルの配信を開き、そこで究極のハンバーグを作り、それを食べることで記憶喪失を取り戻す。私はダガーちゃんが提案したその作戦に、何度もそう繰り返していた。

 

「おうよ! これ以上の策は無いって!」

 

 そんな私とは対照的に自信満々なダガーちゃん。まるで先程と立場が入れ替わってしまったみたいだ。

 結局あの後、絶対にこれで行くからとばかりに『ハンバーグで記憶が飛んだ前例がこの体にはある!』と豪語するダガーちゃんの勢いに押され、私は首を縦に振るしかない状況になっていた。何というか、今までの体験からこうなったライブオンのライバーはもう止まらないのが分かってしまうんだよね……。

 だけど……キャラ設定の話とはいえ、前例に基づいた理論まであるのに、こんなにも首を縦に振ることに躊躇の念を感じるのは、私がおかしいのだろうか……?

 やがて、こんなやり取りを何度も繰り返した果てに、反論できる点が無くなった私はこう思うことで自分を納得させた。

 エバ〇テイルの広告がセーフならこれもまぁいっか、と。

 

「分かりました、その作戦で行きましょう……あっ、でもですよ? その究極のハンバーグってどうやって用意するんですか?」

「ふっふっふ、師匠――」

「な、なんですか?」

虚無()いから創造(つく)るんだぜ?」

「本当にこの子は無駄な時だけ厨二が出来るんですからー!!!!」

 

 

 

 時は戻り、今日私達は究極のハンバーグ、その試作の為にダガー家にお邪魔したわけである(匡ちゃんと先生は食べきれない試作品を食べる係)。

 まぁあれだ、お料理コラボが決まったから、これはその前練習とでも思おう。それなら私もバッチコイだ。私も事件のきっかけの一つでもう引けないんだから、ライブオンらしく勢いとノリで突っ切ってやろう!

 

「よし! それじゃあ作っていくわけなんですが、これってダガーちゃんの好みに合わせたハンバーグを作ればいいんですか?」

「おうよ! 次またストゼロを飲んでも記憶が戻らないくらいのやつ作ろうぜ!」

「それは貴方の注意次第なんじゃないかしら……更に言うなら、最悪まずくても、おいしい! 記憶飛んだー! って言い張ればいいんじゃないの?」

「先生、リスナーさんには真摯に向き合うべきだ。こういう事態になった時、せめて最大限の努力をするのがライバーのあるべき姿であろう」

「そうだそうだ! 自然さを出すために、作ってる途中はあくまでお料理配信の体で行くつもりだしな!」

「はいはい、あくまで最悪の話よ」

 

 五期生間で話している途中、どうしても匡ちゃんと先生に目が行ってしまう。

 食べる係ということは当然直接会わなければこなせない係だ。つまり匡ちゃんと先生とは、オフではこれが初対面になる(先生はデビュー前に偶然他人として居合わせたことはあったが)。

 会った時にお互い自己紹介は交わしてある。宮内匡ちゃんこと源沙舞音(みなもと さまね)ちゃんと、チュリリ先生こと岡林真律(おかばやし まり)さん。

 この2人はなんというか、オフでもブレないなーって印象だな。素がライバーとほぼ一緒なタイプなのだろう。

 

「そもそも、ハンバーグ作りなんて手のかかることする必要あるのかしら?」

「まぁまぁ、この微笑ましさこそがダガーちゃんの魅力ではないか」

 

 ……ダガーちゃんは、この2人にまだ記憶喪失でない自分がライブオンに相応しくないと思っていることは、伝えていないようだった。

 問題の解決策がある以上、話を広げる必要性がないからかもしれないが、電話での話を聞いた限り、ダガーちゃんは2人にコンプレックスのようなものを感じている部分もあるのかもしれないな。

 ……うん。ダガーちゃんの為にも、彼女がライブオンたる理由の言語化を、これから私の方でも挑戦してみよう。

 

「さて、それじゃあ――作りますか!」

 

 

 

 まずは材料のカットーー

 

「お、この包丁よく切れますね!」

「ふっふっふっ、師匠? 実はそれな……『ヤバイライン』で仕入れたモノなんだよ……」

「や、ヤバイライン!?」

「amaz〇nで買ったって言ってたわよ」

「せーんーせーいー!!」

 

 次に材料を合わせてよく混ぜてタネを作る――

 

「はぁ、はぁ、(ぬっちょねっちょぬっちょねっちょ)」

「ああダメだダガーちゃん! 息を切らして! 手の汚れも気にしないで! 指を巧みに使って! そんないやらしい音を出すなんて! こ、これはきききききき規制しなければあああああああぁぁぁーー!!!!」

「うるさああああああぁぁぁぁーーーーい!!!!」

 

 次にタネを整形しハンバーグの形に――

 

「師匠」

「はーいー?」

「見て見て! 星形!」

「あら上手ー!!」

「「親子か!」」

 

 そしてそれに火を通し――

 

「いい焼き音してますね! ……あれ? そういえばダガーちゃん、もう記憶を取り戻したことは色んな所で切り抜かれてますよね? 記憶喪失を取り戻した後、それらはどうするんですか?」

「それはね! 俺が見なければいいの!」

「天才ですか?」

「あ、淡雪さん?」

「淡雪先輩もだいぶダガーちゃんに慣れてきたみたいであるな!」

 

 最後にダガーちゃんの好みに合わせてケチャップを掛ければ――

 

「はい! 究極のハンバーグ試作品第一号、完成です!」

「よっしゃあ! いただきます!」

 

 次はそれを食べたダガーちゃんの感想を基に、焼き方や味を調整、これを満足いくまで繰り返す。途中からは、見ていてやりたくなったのか匡ちゃんとチュリリ先生も交じって、一緒に様々なハンバーグを作った。

 最初は少し戸惑いもあったけど、いざやってみるとそれは夢中になってしまうほど楽しい時間だった。誰かと料理するっていいものだよなぁ。ワイワイ作るのは楽しいし、食べてくれる人がいるのもモチベーションになる。

 そして遂に――

 

「――――――――ッ!!!!」

 

 出来たハンバーグを食べたダガーちゃんが、誇張無しに光りそうな程に目を輝かせたその時、試作品作りは終わった。

 

 

 

「後はこのレシピを基に、配信で作るだけですね」

「おうよ! 本当にありがとうございました!」

「ふふっ、礼を言うのはまだ早いですよ」

 

 五期生組で後片付けはやってくれるとのことで、私はお先に失礼させてもらうことになった。

 帰り際、せめて玄関先まではと、ダガーちゃんが見送ってくれる。

 

「それじゃあ私はこれで」

「……し、師匠!」

「はい? どうしましたか?」

「いや、あのさ……謝りたいことがあってさ……ちょっと言いにくいことだから、こんなに遅れちゃったけど……」

「謝りたいこと?」

 

 普段と違い、やけにもじもじとしているダガーちゃん。何か良くないことでもあったのだろうか……?

 

「うん。あのさ……俺が究極のハンバーグ案を強く提案したのはさ、勿論自分のライブオン人生が懸かってるわけだから、解決できる絶対の自信があったからなわけなんだけど……もう一つ理由があってさ……」

「理由?」

「……あのね……こ、この案なら……師匠の作ったハンバーグが食べられるかもって思ったの……邪でごめんなさい」

 

 顔を赤くして頭を下げてくるダガーちゃん。

 ふーん。

 

「ダガーちゃん」

「ん?」

 

 私の声に頭を上げたダガーちゃんの目を見て、私は宣言する。

 

「配信の日、究極のハンバーグをお約束します」

「し、師匠……」

「大丈夫です」

「い、いや、し、師匠?」

「何も心配することはありません、任せてください」

「んと、あの、そうじゃなくて……は、鼻血出てるよ?」

 

 んにゅううううううぅぅぅぅんほほほほほほほほ!! この後輩かわいすぐるうううぅぅぅおっほおっほおっほおおおおおぉぉ!! ぽぽぽぽぽ! ぽぽぽぽぽ! おおおうおうおうおうおうおうおうおううヒヒヒヒヒヒヒヒィィィィィィーーーー!!!!




【マシュマロ募集】
ダガーの話が終わった後、一連の流れで出番の少なかった聖、シオン、還のマシュマロ返答を閑話でやりたいと思っています。
もしよろしければ、活動報告の『マシュマロ募集』よりマシュマロ提供のご協力をお願いします!
いずれは全キャラできるといいですね!

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