VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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ダガーちゃんの危機?4

「師匠、動画見てなかったの!? 俺やばいんだって!」

「いえいえ、ちゃんと見ましたよ。キュートなライブオンでしたね」

「何言ってんの師匠!? まずいんだって! かたったーとかで現在進行形でハンバーガーちゃんとハンバーグ師匠が広がってるんだって! このままじゃ俺クビなんだって!」

「私まで巻き込まれてるんですね……一応きっかけは私なので受け入れますが……」

「受け入れたらダメなのー!!」

 

 ダガーちゃんと私のテンションが更に反比例していく。

 だがそれも仕方のないことだ。己すら交えた幾多のキャラ崩壊を体験してきた私には、ダガーちゃんの感じている危機感がさっぱり理解できない。とんでもない杞憂にしか聞こえないのだ。

 むしろとうとうダガーちゃんもライブオンとして本領発揮かーとか思ってしまったくらいなのだが……。

 今までのカオスなライブオンとは違う、かわいいというニュアンスを前面に打ち出したライブオン、伝統の中に新鮮さもあって非常に良いと思う。

 なのにどうして? 一応やらかしではあるから、自分がキャラ崩壊をやっちゃったことに焦っているのかな? 私も切り忘れに気づいた時は相当慌てたから分からないことはないが、それでも、絶対に私以上のやらかしではないと思うんだよな。

 

「あっ、もしかして今の切り抜き以外の配信部分で、やばいやらかしがあったということですか?」

「ううん、今のでほぼ全て」

「今度一緒にハンバーグ作りますか?」

「しーしょーうー!!」

 

 ダメだ、ダガーちゃんが更に荒ぶり始めた。この反応を見るに、どうやら本当にクビを心配しているらしい。

 ……これはもう一度真面目に話を聞いてみた方がいい気がするな。

 一度咳ばらいをして、力の抜けた体の姿勢を無理やり正す。

 

「ごめんなさい、少し気が抜け過ぎましたね」

「あっ、こ、こちらこそごめんなさい……叫んだりしちゃって……」

「いえいえ、いいんですよ。先輩は後輩に頼られたいものなんですから。ですが、未だ私の方で理解が及んでいないのも確かなので、ダガーちゃんの感じているクビに繋がるという危機感の根拠を教えていただけますか?」

「うん……俺さ、ライブオンに入れたのは記憶喪失キャラだからなんだよ。それ以外何も無いんだ」

「何も無い? いやいやそんなことは」

「いんや、俺さ、ライブオンにどうしても入りたくてさ、いざ選考受けようってなった時に、のうのうと生きてきた自分にはライブオンたる才能が何も無いことに気づいちゃってさ……実際、持てる勇気を全て振り絞って記憶喪失キャラで事務所に突撃してなかったら、受かってなかったと思うしな」

「あぁ、やはり記憶喪失は無いんですね。あと、あの突撃エピソードは実話だったんですか……」

「うん! 頑張った! ……でもさ、これってつまり、匡ちゃんとか先生の根っからの才能とは違ってさ、後付けなんだよ俺って。多分この後付け具合が受けてライブオンも合格させてくれたのかなとは思うんだけど、昨日の配信でどれだけガバやっても守ってきたこの後付けすら自分で否定しちゃって……もうライブオンにいる資格が無いんだ、俺」

「ふむ……」

 

 なるほど、ツッコみたい点もいくつかあったが、一応話の流れは分かった。

 その上で、だ。

 

「でもクビはありえないでしょう」

 

 結論としてはこうなるだろう。

 

「分かんないじゃん! もういらない子って捨てられちゃうかも!」

「もしこれでクビならライブオンの対応が社会問題になりますよ。あれでも企業として動いているんですから、コンプラとかもあるんです。これでクビは出来ません。呼び出しの電話とかも無かったでしょう?」

「ぅ、それはなかったけど……でもさ、それでもライブオンのお荷物になったら、一ライブオンファンとしての俺が俺を許せないよ……」

「うーん……」

 

 これはさっきの思ったツッコミたい点の一つなのだが、ダガーちゃんが記憶喪失以外ライブオンの才能が無いって、それは違くないかな?

 じゃあこれが貴方の才能ですとはっきり示せる程の言語化能力が無いのだが、この子は普通ではないのは分かる(褒めてます)。

 あ、でもその才能が枝分かれした先に『かわいい』があるのは確かか。

 

「ダガーちゃんはかわいいじゃないのですか。それでもう存在意義として十分なんですよ」

「かわいいって……それ自体は嬉しいけど、記憶喪失キャラとしては逆にダメなんだよ……もっとさ、かっこよくないと」

「あー! それでかわいいを嫌がってかっこいいに拘っていたわけですか! ……あれ? でもですよ? 素を隠すって大変じゃありませんか? ストレスとかになっていません?」

「ストレス? なんでだ? 俺はライブオンにいることが一番の幸せなんだから、師匠とかと一緒に活動出来るの、もう楽しくて仕方なかったよ?」

「な、なるほど……」

 

 これは新しい価値観だ……そうか、昔より人気になった今のライブオンに対しては、こういうタイプの人が生まれたりもするんだな……。

 ……え、じゃあどうすればいいんだろう? 今までにないケースだから、私までどうすればいいのか分からなくなってきたぞ?

 解決策を考えようにも、このケースは言い方はあれだが、理由をこじつければ何でもいいような気がしてくるのが逆に頭を混乱させる……。

 一旦話を整理しよう。ダガーちゃんはライブオンにいたいけど、記憶喪失キャラが無くなったことで自分にいる資格が無いと思っているってことだよな? 

 

「あ、それじゃあ記憶喪失を取り戻しに行くっていうのはどうですか? ほら、さっきの動画でも『ハンバーグが美味しすぎて記憶飛んだ』って言ってたじゃないですか? それと同じような感じでー……」

 

 ……本当か? 本当なのか私? とりあえず浮かんだ解決策を言ってみたけど、言った自分が疑わしくなってきてないか私? 

 いやまぁ確かに記憶喪失と言い張れる状態に戻ればいいわけだから間違ってはないのかもしれないけど、記憶喪失を取り戻すってなんだよ……。

 

「師匠――」

 

 やばい怒らせちゃったかも!? て、訂正しよう!

 

「だ、ダガーちゃん? あの、やっぱり今のは無しd」

「天才か?」

「ん?」

 

 予想外のダガーちゃんの反応に、思わす首を傾げる。

 

「それだ! それだよ師匠!!」

「な、何がですか?」

 

 そしてこの時、私は改めて確信した――

 

「作るぞ!」

「?? 何を?」

 

 やっぱりこの子は――

 

「蘇った記憶すら吹き飛ばす『究極のハンバーグ』を、一緒に作るぞ!!!!」

「…………はい?」

 

 絶対に普通の子ではないってことを…………。


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