VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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ダガーちゃんの危機?1

「あのな、俺、配信でやらかしちゃったんだよ……」

「私もです」

「師匠以上にやばいやらかししちゃった……」

「まじですか……」

 

 ダガーちゃんからの電話にただ事ではない気配を感じ取った私は、だらけていた姿勢を正し、集中してダガーちゃんの話を聞くことにした。

 それにしても『ライブオンをクビ』って……私以上とは言っても一体何をやらかしたらそんなことになるんだ? というかライブオンにクビって概念あるのか? 平和な放送が放送事故って言われてる私がのびのび活動出来てる箱だぞ? 明日から私が『エロゲに出てくるL〇NEの名前変えバリエーション紹介系VTuber』になりますって言っても十中八九許してくれる箱なんだぞ?

 ……だめだ、現状何も役に立てそうにない。一旦おとなしく話を聞こう。

 

「それでは、事の経緯を一からお願いできますか?」

「うん……ほら、この前バレンタイン企画あったじゃん? チョコ作ったやつ」

「はい、勿論覚えていますよ」

「その時にさ、俺さ、帰り際にさ……師匠から貰ったじゃん?」

「スッーーーーーー」

「ストゼロ……貰ったじゃん?」

「スッーーーーーーーーーーーーーーー」

 

 あっれーおっかしいなぁ? おとなしく話を聞くつもりが急に逃げたくなったぞ?

 

「し、師匠? 大丈夫?」

「ぇ、えぇえぇ! 問題ないですとも! はいはいはい、そんなこともありましたねぇ!」

 

 平静を装うと無駄に大きな声で返事をする。そうしないと声が震えてしまいそうで。

 お、落ち着け、落ち着け私。大切な後輩が深刻な声色で相談してきているんだ。幾多のカオスを乗り越えてきた歴戦の先輩として真摯に対応しろ。SZワードが聞こえてきたくらいで焦るな。

 それに、まだそういうことあったよねってだけだから。ここから話の流れが変わる可能性だって大いにあるからね、うん。

 

「つ、続きどうぞ」

「そう? それじゃあ、えっと、そのストゼロなんだけどさ、師匠から貰えたのが俺本当に嬉しくてさ、これは普通に飲むんじゃなくて、もっとありがたく飲みたいなって思ったのな」

「なるほど」

「それでさ、リスナーさんに貰ったことを配信で報告したらさ……今度の配信で飲もうよって言われてさ」

「なるほど」

「俺さ、それだ! 皆と一緒にありがたさを噛みしめながら飲もう! って思ってさ、昨日さ、遂に配信で飲むことにしたんだよ」

「なるほど」

「それでさ、飲んだら……やらかしちゃった」

「なるほど」

 

 なるほど。なるほどなるほどなるほど。

 

「ダガーちゃん、住所を教えていただけますか?」

「え、住所? 別にいいけど、なんで今?」

「今すぐ土下座しに伺います」

「え、土下座!?」

「というか今します。はい今しました。このまま土下座したまま伺います」

「ちょ!? なんで!? なんで土下座してるの!? やめてやめて!」

「だって、だってぇ! これってつまり私のせいってことじゃないですかああああぁぁぁーー!!!!」

 

 罪から許しを請うように、床に額をこすり付けながら叫ぶ。

 

「落ち着いて師匠! 違うから! やらかしたのは俺のせいだから!」

「きっかけはどう考えても私なんですよ! てか後輩のバッグにストゼロ入れるって今考えると何してんだよ私! 元気付けるどころか酒に逃げろって解釈されてもおかしくない行いだろ! そんな先輩嫌だわ! ああもう本当にごめんなさいいいいいぃぃぃーー!!!!」

「そんなことないって! 俺本当に嬉しかったんだから! 今回のだって浮かれ過ぎた俺が自爆しただけで、師匠は悪くないどころか立派な先輩だよ!」

「本当に? 私に相談しに来たのも、責任追及の為じゃないんですか?」

「違う違う! むしろどうしようって思った時に、真っ先に頼れる先輩として師匠が浮かんだから電話したの! ……確かに俺の説明の仕方が悪かったかも。俺も結構焦っててさ、ごめん……」

「ぁ、いえいえ! むしろ説明を求めたのは私ですし、はぐらかすとろくなことにならないですからね。……ごめんなさい、取り乱しました、もう大丈夫です」

 

 ダガーちゃんが再び落ち込むのを見て、やっと私は落ち着きを取り戻した。

 元よりあまり嘘や皮肉が苦手な子だ、率直に受け止めてあげるべきだったのに、何をしているんだ私は。

 落ち着け。頼ってきてくれたんだから、話を聞く側が冷静に対応してあげなくては、解決出来るものも出来無いぞ。

 ふぅ……次は……そうだな。

 

「事の経緯は分かりました。それでは……言い辛い事かもしれませんが、その『やらかし』とは、具体的に何をしてしまったのかを教えていただけますか?」

 

 そう、結局のところ、これが分からなければどう対応するべきなのか判別が出来ない。

 

「ぅ…………分かった」

 

 少し言葉に詰まった様子のダガーちゃんだったが、取り乱してしまった私をまだ信頼してくれているようで、はっきりと了承してくれた。

 さて……やらかしの内容が、取り返しのつかないもので無ければいいんだけど……。




活動報告の方で、書籍7巻の新しい告知を載せました。

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