VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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ワードウルフ配信7

 とうとうこれが最後のゲーム、GMはチュリリ先生だ。

 ここまで三回のゲームを体験してきて、いざ迎えた最後のセットはどんな話し合いになったかというと――待っていたのはあっけのないものだった。

 

「美しいものだな!」

「「え?」」

 

 匡ちゃんのその発言に、『生ゴミ』というお題が割り振られていた私とましろんは一発で匡ちゃんが人狼だと気づいてしまった。先生が選んだ二つのお題は、どうやら共通点があまりにも遠いものだったようだ。先生らしいぜ……。

 それからはもう時間制限一杯まで質問責めという名のからかい祭りである。各々でお題を用意したから被るのは仕方がないとはいえ、二連続人狼になってしまった匡ちゃんは少し可哀そうだったかな。

 だが……このゲームはここから誰もが予想外な展開を見せた。

 それは、制限時間が終わり、匡ちゃんが吊られた後、人狼が多数派を当てられるかどうかの逆転チャンスのことだった。

 匡ちゃんに与えられたヒントは自分に割り振られていたらしいお題の『地球人』のみ。私とましろんは早々に多数派だと気が付いたので、これまでのゲームの教訓から少数派にヒントを与えない会話を心掛けていた。恐らくお題を特定できる要素は全くなかったはず。

 それなのに――

 

「ふむ……チュリリ先生だろ……『生ゴミ』とかではないか?」

「「「!?!?」」」

 

 匡ちゃんは――はっきりと多数派の答えを当ててしまった――

 まさかの大逆転勝利である。

 

「は!? え、嘘!? あ、貴方なんで分かって!?」

 

 驚愕を隠せない私達。その中でも、特に動揺していたのはお題を出したチュリリ先生だった。

 

「ま、まさかお題をカンニングした!?」

「この宮内がそんな卑怯なことするわけないだろう。相談しにきた先生すら突っぱねたこと忘れたか?」

「じゃあなんで分かったのよ!?」

「勘である」

「か、勘?」

 

 そんな先生に、匡ちゃんはまるでそれが当然なことのように当てることが出来た理由を説明し始める。

 

「まずお題には共通点がある。先生は真面目だからどんなお題でもこのルールは守るはず。つまり宮内に割り振られた『地球人』に共通するお題になるわけだが、先生のことだから人の共通点にはマイナスなものを思い浮かべるはずだ。そこで考えた結果が『生ゴミ』というわけである」

「い、いやいやいやおかしいでしょ!? 百歩譲ってゴミまで分かったならまだしも生はどこから出てきたのよ!?」

「先生は極度の皮肉屋だ。ゴミだけではシンプル過ぎてらしくないと思った。つまるところ本当に勘なのである」

「な、何よそれ……ありえないわ……」

「ありえないもなにも当てたからな、宮内の勝ちだ。ふふふっ、どうだ? 地球人も捨てたものじゃないだろう?」

「くぅぅ……ッ」

「付き合いの中で先生のことはそこそこ理解しているつもりだからな」

「は、はぁ!? な、何意味不明なこと言ってるのよ貴方!? これ配信なのよ!?」

「おー? なんだなんだぁ? 照れてるのかぁ?」

「こんのクソガキィ……!」

 

コメント

:あっ、やばい、てぇてぇの過剰摂取で死にs 

:あらあら、デュフフ ¥50000

:生ゴミに関連付けられた地球人に対して捨てた物じゃないはイケメン過ぎる

:※さっき正解バレバレなところをR18配信って答えた人です

:弱キャラの匡ちゃんとダガーちゃんがライブオン屈指の強敵である先生への特攻持ちなのすこ

 

「「(パチパチパチパチ!!)」」

 

 私とましろんはその光景を見て、ただただ拍手を送るばかりであった。負けたのに清々しい気分である。

 これで全ゲームは終了! 最後に相応しい展開だったから、このまま気持ちよく配信を終えることが出来そうだね! 後輩よ、素晴らしいぞ!

 

「なんかあれだね。僕が言うのもなんだけど、あわましとただちゅりのイチャイチャ対決みたいになってたね」

「イチャイチャなんてしてません!!」

「……ん? 確かにましろ先輩はシュワちゃん先輩からのプロポーズを引き出し、宮内も先生のお題を当てた。先生もまぁあれは偶然だろうが宮内のお題の時に個性を発揮していたよな。だがシュワちゃん先輩は……」

 

 …………あれ? そういえば私がこの配信でしたことって……。

 

「ましろ先輩からのお題の意図にも気づかず、GMの時は後輩である宮内にセクハラをする、そんな有様だったのである!」

「「……………………」」

「スーーーーッ…………」

 

 ……やばい……何も言い訳できない……周囲からえげつない圧を感じる……。

 

「なぁましろ先輩、先生、こいつのこと吊らないか?」

「ゑ?」

「そうね、賛成するわ。第一セットでましろさんが言ったようにきっと心が狼なのよ」

「ちょ、ちょちょちょちょ!?」

 

 え!? 何この展開!?

 

「待って違うじゃん!? そうじゃないじゃん!? これてぇてぇ流れで気持ちよく終わるところじゃん!?!?」

「淡雪さん、ワードウルフは話し合いの中で人狼を見つけて吊るゲームでしょ? だから、ね?」

「物は言いようだなおい!?」

「シュワちゃん」

「ま、ましろん! このオチはあんまりだよね? ましろんは分かってくれるよね? 助けてくれるよね!?」

「……一緒に駆け落ちしよっか?」

「こっちはこっちで変な乗り方してるううううぅぅぅ!?!?」

「ふはははははっ! どうだ、早速雪辱晴らしてやったぞ!!」

 

コメント

:大草原

:因果応報ですな笑

:やっぱライブオンなら斜め上目指さねぇとなぁ!

:これが噂のライブオン人狼ですか

:なんだかんだ皆楽しそう(*´ω`*)

 

 何故かこのワードウルフ配信は、私の1人負けのような形で幕を閉じたのであった……。

 

 

 

 数日後。 

 

「んん?」

 

 まだお日様が顔を出して間もない時刻、スマホから鳴り響く電話を知らせる着信音で目が覚めた。

 なんだろうと思い、眠気で開かない瞼をこじ開けスマホの画面を見ると、どうやらそれはダガーちゃんからの着信のようだった。

 珍しさに少しだけ目が覚めた。一体こんな時間にどうしたのだろうか?

 

「はい?」

 

 電話に出る。

 ――それはあまりにも――あまりにも突然なことだった。

 

「師匠……どうしよう……俺、ライブオンクビになるかもしれない……」

「…………え?」

 

 開口一番、初めて聴いた普段の元気な様子からは想像もできない悲痛な声色で、ダガーちゃんはそう言ったのだった――




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詳しくは活動報告の方にて。

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