VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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ワードウルフ配信4

 二回戦、今回のGMはましろんだ。

 私に渡されたお題はこれだった。

 

『ストゼロ』

 

 これを見た瞬間、私はましろんにやってくれたなと思いつつも、口が開くのを止められなかった。

 

「これはもう私と言えばでしょ!」

 

 まるでそれは体がそう動くことを決定付けられているかのようだった。嬉しさに笑うように――悲しみに涙するように――

 そして言い終わった後にやってくるのはしまったという焦り。私はこのお題がましろんの罠で少数派であり、全く違うお題が割り振られていた多数派にボコボコにされる展開と予想したのだ。

 だが、待っていたのは意外な展開だった。

 

「まぁそうであるな」

「ああ、やっぱりそんな感じなのね。絶妙な組み合わせってやつなのかしら」

 

 まさかの二人とも肯定的反応。

 これに自信を持った私は、もう私を止めるものは何もないとばかりに、溢れんばかりのストゼロへの愛で話し合いを先導した。

 

「もうね、私とこれは恋人みたいなものだから!」

「こ、恋人……まさかとは思っていたが、やはりそんな関係なのだな」

「……あー! はいはい! うんうん、淡雪さんにとってはそうよね!」

 

 もうここからはワード人狼とか関係ない。私はひたすらにストゼロちゃんに対する愛を語り続ける。

 

「もうこれは愛だよ愛。数えきれないくらい体を重ねてきた今でも、その度にあぁ、愛してるなぁ、愛されてるなぁって感じるの……」

「体を重ねる……はわわ、はわわわわわ……」

「いいわねぇいいわねぇ! この調子で人狼を愛で負かしてやりましょう!」

 

 言葉にして吐き出しているはずなのに、この心に愛は増していくばかり。そうして私は悟るのだ、この命が女として生まれたわけを。

 

「私は貴方の妻として、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、貴方を愛し、貴方を助け、貴方を慰め、貴方を敬い、この命のある限り心を尽くすことを誓います」

「キャー!! プロポーズ! プロポーズしたのである! しかもロマンチックで素敵な言葉だ……憧れちゃう……」

「匡さん、少女趣味が出てるわよ……こんなのが好きなのね貴方……」

「はい終了!」

 

 これからが本番というところだったのだが、ましろんの声で話し合いは中断された。残念なことに制限時間が来てしまったようだ。

 さて、ここからは前のゲームセットと同じく投票をするわけなのだが――

 

「あれー? 今の話し合いで人狼らしき人なんていなかったど?」

 

 匡ちゃんも先生も私の話に同意しているように見えた。つまりは会話が一致していたということだ。誰に投票していいのか分からず私は首を傾げてしまう。

 

「宮内は投票完了だ」

「先生もよ」

「え、本当に!?」

 

 だが、ここも同調が返ってくると思っていた2人は、私とは対照的に一切の迷いが無い様子で投票を完了した。

 戸惑いつつも私も慌てて匡ちゃんに票を入れた。理由と呼べるようなものはない。強いて言えば先生より取り乱しているように見えたからだ。

 そして迎えた投票の結果発表――

 

「結果は――匡ちゃん1票! シュワちゃん2票!」

「あぇ?」

 

 ましろんの口から告げられた結果に、私は間抜けな声を返すことしか出来なかった。

 

「というわけで、吊られることになったシュワちゃん、最後にお題を教えてくれるかな?」

「え、えぇー!?」

 

 ようやく自分の置かれた状況を理解し、驚きの声をあげる。

 

「なんで私なの!? おかしなところなかったじゃん!」

「まぁまぁ落ち着いて、一旦お題を皆に教えてあげてよ」

「え……『ストゼロ』だったけど……」

「はぁ、そんなことだと思ったのである」

「あー……最初の方は淡雪さんが面白かったからまだ楽しめたけど、全て理解した後だと先生イライラしてきたわ……」

 

 私のお題を聞いて、匡ちゃんは話し合いの時に比べ明らかに白けた様子になり、先生に至ってはなぜか不快そうである。

 だがこの反応を見て、一つ分かったこともある。

 

「はい。というわけで見事、市民側は人狼を吊ることに成功しました」

 

 そう、ましろんが今言った通り、私は人狼側で、しかもあっけなく特定され吊られそうになってしまったのだ……。

 

「そんなぁ……なんでー? 話は合ってたのに……」

「まぁまぁシュワちゃんや、まだ諦めるのは早いよ。人狼にはここから逆転のチャンスがあるんだから」

「そ、そっか! 市民側のお題を当てれば!」

 

 そう、前のゲームは人狼側が勝利に終わったのでこの件は無かったが、今回は市民側の勝利。今回のルールではこの状況になった場合、人狼側が市民側のお題を当てることが出来れば逆転勝利となるチャンスがあるのだ!

 うんうん、お題をね! 当てることがね! 出来ればね!

 ……………………。

 わっかんねええええええええぇぇぇぇぇーー!!!!

 私ストゼロの話ばっかしてたせいで他の2人が自分から喋るシーン無かったし! てかストゼロのことばっか考えてたから2人が何喋ったかとかよく覚えてないし!

 えっと、えぇっと……。

 

「私といえばで肯定されたんだよな……『清楚』とか?」

「「「……」」」

「ごめん」

 

 当たり前のように違ったようだ、これで負けが確定してしまった……。

 

「参りました……ちなみに正解のお題はなんだったの?」

「ああ、僕だよ」

「ん?」

「だから僕。匡ちゃんと先生に渡したお題は『彩ましろ』だよ」

「――――――――」

 

 え? それって、つまり、私の語ったストゼロへの気持ちは全て、私以外にはましろんに対する気持ちに聞こえていたってことなんじゃ……?

 その時私は思い出した――私がお題のストゼロについて第一声を発した時、ましろんからの罠を怪しんでいたことを――

 

「まーしーろーんー!! やっぱり私を嵌めてやがったなー!!!!」

「んー? なんのことかなー?」

「私情を持ち込んだらダメでしょー!」

「そんなの知りませんールールにも書いていませんでしたー」

「こんのーおちょくりやがってー! がおがおの仕返しかー?」

「んふっ……あーまぁね? 確かに偶然多数派からはね? シュワちゃんが僕のことを恋人だとか愛だとか言ってプロポーズをしたように見えたかもしれなんふふひひッ!」

「おい何仕掛けた方が照れてんだよ! そ、そんなガチな反応されたらこっちまで照れてくるでしょうが! ……こ、これどうオチつけるんだよ!!」

「こほん、ん゛ん゛……んにゅひひひひひッ!」

「だから照れるなー!!」

「あーうざすぎてキレそう。最近のヨーチューバーの金無いアピールくらいうざいわ」

「そう言うな、素敵な関係ではないか」

 

コメント

:さすまし

:ましろんが珍しくきもい笑い方しててグッときた

:押されるとよわよわなシュワちゃんもいい

:後輩の前で何やってんだ……

:これは新人に対するましろんなりのこの子は僕のだからアピールなのでは?

:これは後輩組も負けてはいられませんね

 

 なんだか恥ずかしい終わり方になってしまったが、これでこのゲームセットは終わり、結果は私の惨敗。

 あー……ストゼロトークができるってことでハイテンションだったから見逃しちゃってたけど、今思えば先生の最初の反応が微妙に違和感だったことに気が付いていればまた違ったのかな……。

 この際負けたのは私のミスでいいよ。でも負け方まではっずいのはましろんのせいだからな! 自分からならいくらでもアピールできるのに、こういう小悪魔的なのに弱いんだよなぁ私……まぁいつまでも恥ずかしがっていても仕方がないね。

 さぁ、次のゲームセットに向けて再びGMの交代だ。


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