VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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ワードウルフ配信2

 満を持して始まったワードウルフ、最初のGMは匡ちゃんだ。

 最初に各参加者にチャットでGMからお題が配られる。

 

『ピアノ』

 

 私に配られたお題はこれだった。

 

「用意はいいな? それでは、二分間の話し合いスタートである!」

 

 匡ちゃんがゲームの開始を告げる。これ以降GMは傍観だが、だからと言って退屈というわけでもなく、マイクをミュートして、答えを知る立場として私たちのやり取りの滑稽さや鋭さをリスナーさんと楽しむことが出来る。私がGMの番もこれまた楽しみだ。

 さて、それじゃあ話し合いますか……ピアノだったよな。これが私だけに配られた少数派のお題で私が人狼なのか、それとも仲間のいる多数派なのかを特定していくわけだよね。

 最初は本質ではなくそれとなく探りを入れる感じで――

 

「いいなぁとは思うよね?」

「そうだね」

「先生も同意よ」

 

 ふむ、2人とも嘘ついてる感じじゃない同意の早さだったな、つまり皆いい印象を持っているってことは分かった。

 

「憧れとかない?」

「あー分かる!」

「まぁ確かにそうね」

 

 今度はましろんからの質問、私の質問を発展されたもので、これも恐らく皆変な点は無し。

 

「ちなみにやったことある人っている?」

 

 ましろんが踏み込んでもいい話題と判断したのか、自分で質問の主導権を握り始めた。

 それにしてもやったことあるかねぇ……弾いたとは言ってないけど、これも釣り糸を下げた感じかな。

 

「私は無いなぁ……触ったことくらいなら昔あるかも。先生は?」

 

 まだ時間はあるので、一旦それを標的を変えながら交わす。

 

「先生は近い物なら持っているわよ」

「え、本当に!? いいこと聞いちゃった」

「ほー!」

 

 先生の発言を聞いて、反応したましろんと私の声は、まるで獲物を見つけた肉食獣のようであった。

 

「な、何かしら? 持ってて悪いの?」

「いやいや、僕はすごいいいと思うよ。ちなみに~使用用途とか教えてもらってもいいかな~?」

「えー……全然得意じゃないのよ? ほぼダメなくらい。ただ、すごく満たされるの」

「満たされるねぇ~」

「ほーほー!」

 

 これはつまり、ピアノを持っている印象が先生に無かったので、そこに食いついた訳である。近い物と補足はしていたが、私の記憶では楽器関連の話すら先生がしたことはなかったはず。

 だがまだ確定ではない、満たされるもまぁ分からなくはないからね。ここから巧みな質問責めでどんどん獲物を逃げ道のない行き止まりまで追い詰めていくのだ。

 

「もっと話聞かせてよ。満たされるって言ったけど、もうちょっと詳しく……そうだ、こういうところが好きだから満たされるーみたいなの教えてほしいな」

「おほーーー( ◜ω◝ )」

「……先生ばっかりじゃなくて2人の話も聞きたいわ、淡雪さんとましろさんはどうなのよ」

「そもそも私は持ってないからなー。手に入るんだったら欲しいとは思うけどねー」

「僕も似たようなものかな。それで先生は?」

「おほほほほほーーー(*◜ω◝*)」

「うぐッ……」

 

 先生もいよいよ焦りが明確に出てきたのだろう。実際今のやり取りの中で私とましろんは同じお題が割り振られているという確信が高まり、しかも先生だけ質問に答えないのもおかしい流れだ。

 

「先生は~……多様性があるところが好きかしらね、美しいなり汚いなり無数の愛の形があるところとか」

「へーそうなんだ~? ふーんふ~ん?」

「んほおおおぉぉイ゛グぅぅうううーー━━━∵:(:ㆁ:鑾:ㆁ:):∵━━━!!」

「ど、どうしたの淡雪さん!?」

「あー、これはイッちゃったね」

「イッた!? 何故!?」

「先生が」

「イってないわよ! 確かにエッチなお題だとは思ったけど!」

「エッチなお題なんだ? へー」

「あっ、それはちがッ!?」

「ふっ、ナイス演技だよシュワちゃん」

「はぁ、はぁ、ましろんの質問責めスケベ過ぎ、はぁ、はぁ」

「「!?」」

「二分間経過! 話し合い終了なのである!」

 

 静寂とした場に匡ちゃんの声が響き渡る。どうやら制限時間が終わったようだ。

 

「それでは投票だ。怪しいと思う人の名前を宮内のチャットに送ってくれ」

「僕シュワちゃんに入れようかな」

「なんで!?」

「心が狼だから」

「大丈夫! 新しい人狼の楽しみ方を見つけて大興奮だったけど、ギリギリで耐えたから!」

「ギリギリのところまで昂ってた時点で勘弁だよ。まぁ同期のよしみで真面目に投票したよ」

「私も投票したどー!」

「もうこのゲーム嫌いだわ」

 

 もう結果が見えているのだろう、先生はそう憎まれ口を利きながら投票を終えた。

 

「よし、投票完了である! それではご開票の時間だ! 結果は――」

 

 匡ちゃんが勿体に勿体ぶり、その結果を告げた。

 

「先生2票! シュワちゃん先輩1票!」

「知ってたわよ!」

 

 先生のツッコミに思わず笑ってしまう私とましろん。

 まぁこうなるよね。私に入った1票は先生からのものだろう。これで後は答え合わせしてゲームは終わりだ。

 王道な流れだったから最初のゲームとしていい感じだったんじゃないかな? 匡ちゃんらしいクリーンなゲーム展開だったね。

 

「それでは一番票を集めた先生! お題を発表するのである!」

「はぁ……ピアノよ」

「え?」

「あら? どうしたの淡雪さん?」

 

 ……んん? あれ?

 

「うむ! というわけで、このゲームは人狼であるましろ先輩の勝利なのである!」

「え? 人狼? 僕?』

「ッ……ふふふ……」

「「「え?」」」

 

 上品ながらも笑いを堪えている様子の匡ちゃん。それに対して困惑の声をひたすら繰り返す私達。

 やがて困惑が過ぎ去ると、次に数秒の沈黙が訪れた。

 ……………………。

 

「ちょ、ちょっと待てええええええええぇぇぇぇぇーーーー!!!!」

 

 そしてその沈黙は、私の叫びによって木っ端みじんに破壊されたのだった――


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