VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
「皆様こんばんは、今宵もいい淡雪が降っていますね、心音淡雪です」
清楚な挨拶から始まった清楚の清楚による清楚の為の配信。今日はあわちゃんモードというわけである。
つまり今日は休肝日……ではあるのだが、実は今日飲んでいないのにはそれ以上の理由があった――
「えーまず、いきなりこんなことを言うのは情けないかもしれないのですが……私少々お疲れモードです……」
それは余りにも生物的な停滞――頑張っていることの証明――
そう、今の私は疲れているのだ……。
「この前のバレンタイン企画で慣れないことに疲れが溜まり、そして昨日は休んでいたはずなのに、なぜか今日目が覚めると疲れが取れるどころか起き上がるのが億劫になる程の倦怠感が体を蝕んでいたのです……」
コメント
:大丈夫?
:無理しないで……
:お前昨日キュンちゃん育成でこっちが心配になるくらいの大騒ぎしてただろ
:飲みすぎ暴れすぎで疲れただけでは?
:お前騙したな?
:こいつはくせえッー! ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッー!
:失礼な、淡雪ちゃんはゲロの匂いがするだけだよ
:それリアリティがある分もっと酷いだろ
「はいというわけで今日の企画はですね! こんな時こそ推しの配信を見て元気を貰おう! 私も1人のリスナーとして、皆さんと一緒にライブオンライバーの配信を見に行こうと思います! 確か前にも同様のことをやりましたよね、あれとコンセプトはほぼ同じです」
ツッコミまみれになるコメント欄をスルーして強引に企画を説明した後、私は一つ両手をバンザイして伸びをした。
「ん~……ふぅ。色々言われてますけど、疲れがあるのは事実なんですよ……ちょっと予想外のことに振り回され過ぎましたね……。一瞬休むことも頭をよぎったんですけど、休んだとしてもやることはゴロゴロしながら配信見るくらいなので、それなら配信しちゃおうかと。もし明日になっても疲れがとれなかったらお休みするかもしれません、ご了承を……」
コメント
:OK!
:今日は力抜いてこー
:頑張ってるもんなぁ……内容はアレだけど
:どんなバカなことでも本気でやってるから疲れるのも分かる
:それは最早言い訳が効かないレベルで芸人なのでは……?
私がライバー業をここまでやってきて、今後も長く続ける上で大事だと思ったことの一つに、疲れを正直に言うということがある。
光ちゃんが喉を壊した時もそうだったが、人気がものをいう業界でもある為、自分の完璧な姿や求められている自分をリスナーさんには見せたくなってしまうのがライバーの常だ。
だが、案外リスナーさんの視点に立つとそれは違うことが多い。少なくとも私は推しのライバーは幸せでいて欲しいし、無理をしている姿は見たくない。むしろ弱った姿やぐでぐでな姿でも、それを見せてくれるほど気を許してくれているのかと嬉しくなる。つーかレアな推しの姿は見たい!!
後ろめたいことがあるとかならまだしも、たまにの疲れくらい言ってなにが悪いのか! 健全な活動はライバーとリスナーの信頼関係があってこそ成立するのだ。手遅れになってからでは双方共後悔してしまう。
「前やった時と同じく、事前に見に行くことはチャットでライバーさんに許可を取ってあります。誰を見に行くかはまだ決めていませんけどね。伝書鳩は飛ばしてもいいですけど、それを拾うかはライバーさんに任せています。要は空気を読んで楽しみましょうってことですね!」
コメント
:はーい
:大事なことだね
:なんか完全に俺らと同じ視点で見るつもりで笑ってしまったwww
:流石ライブオン所属公式ファン
:存在が強すぎる
ふっふっふ、ここまでしっかり前置きをしたのも全て私自身が1人のファンとしてライバーの配信を見る為! 今日は客観的に徹することでライブオンを発するのではなく補充し、元気を貰うのだ!
毎日のように配信している身だとリアタイで視聴できる機会が少ないライバーさんもいるからな、でも今日はそんなの関係なし! テンション上がってきた!
「それでは視聴していきましょう! 最初は誰から行きましょうか? 今配信をやっているのは……あっ、有素ちゃんだ、ソロ配信っぽいですね。……あの子、私が絡まないと何をしているのでしょう?」
根はいい子なのは分かっているが、日々私のとんでもないことを検証する配信を開いたりしているのを知っているので、少々警戒してしまう……。
「配信タイトルは……『背後に気を付けるのであります』。え、怖い……なんでしょうかこれ? ホラーゲームでもしているのでしょうか? それともステルスゲーム? あっ、配信自体はさっき始まったばっかりみたいですね」
まぁ私の自意識過剰かもしれないし、ゲームやってるならそっちに夢中になって私のこと気にし過ぎないでいてくれるんじゃないかという希望的観測もある。純粋にゲームを楽しむ有素ちゃん……うん、普通に見てみたい。
――チャレンジしてみるか。
「よし決めました! まずは有素ちゃんから見ましょう! もしまたなにか変なことをやっていたとしても、所属ライバーである以上に1人のライブオンリスナーである今の私なら笑って楽しめるかもしれない! それでは、失礼しまーす!」
いざ、有素ちゃんの配信を開く。
『いらっしゃいませなのであります淡雪殿』
「てめー全部見てやがったな?」
企画が倒れる音がした……。