VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
――はっ!
「そうか……そういうことなのかライブオン!」
「しゅ、シュワちゃん?」
「いきなりどうした? なにかに気が付いたのか?」
「ええ、さっきから常に感じていたこのダガーちゃんから発せられている謎、言い換えるなら違和感、それの正体に気が付いてしまいました」
「ほ、本当なの?」
「素晴らしいぞ! 確かに未だ一番の芯の部分が分かってないからな。匡ちゃんはアンチライブオンが芯にあるって一発で分かったから、それに比べるともやもやしてたんだ」
「いいですか? よく聞いてください!」
やはり私の感覚は間違っていなかった! このダガーちゃんにはある要素が一貫しているのだ!
私は自信満々に2人にその要素を発表した。
「このダガーちゃんは――かわいいんです!」
「「…………」」
「あっ、あれ?」
なっ、なんで2人とも黙ってるの?
「シュワちゃん、とうとう人の感性を失いつつあるのね……」
「ストゼロ化がまさかそこまで進行しているとは……もっと早く気がつくべきだったぞ」
「ちょ、ちょっとなんですかその可哀そうな子に対するような反応は!? これ私からしたら推理小説の犯人を答え合わせ前に見つけ出せた並みの快感があったんですけど!?」
「シュワちゃんや、ダガーちゃんがかわいいなんて誰でも気が付くことだぞ。この顔でかわいくないと感じる方が変だろ」
「そもそも貴方、さっき自分でかわいいって言ってたじゃない」
「あっ、違う! かわいいって言うのはそういう一面だけの話じゃなくて!」
「「??」」
謎を解き明かしたことでテンションが上がって説明が雑になってしまっていた。これでは伝わらなくても仕方がない。
改めまして……。
「このダガーちゃん、かわいいと思わせる属性がてんこ盛りになっているんですよ。外見は勿論そうですし、それと性格とのギャップ、更には天然さ、素直さ、さっきはPONなんかも。この子の芯にあり一貫しているもの、それはずばりかわいさ!」
「なるほど……言われてみればそうかもしれないわね……」
「……んん? それは理解できるけど、じゃあなんでそれにネコマ達は違和感を覚えていたんだ? かわいいなんて世の中に溢れているぞ」
「ネコマ先輩、忘れていませんか? 私達は最初、『どうせライブオンだから変な属性を持った人しか入って来ないんだろうな』という固定観念を持ってこのデビュー配信を見始めたんです。そして恐らくリスナーさんたちも、そこから既にライブオンの罠だった」
「ま……まさか!?」
「そう! もはやかわいいという女性Vにとっての当たり前はライブオンに於いて特別になっている! そんなタイミングだからこそ! ここでダガーちゃんという全てがかわいいキャラを用意することで裏をかいてきたんですよ!」
そしてマイナス? の固定観念を持ってスタートしているからこそ、よりかわいさが引き立つ。ライブオンは今まで積み上げてきた企業イメージを新ライバーの魅力に利用してきたんだ!
「……でもさ、この子記憶喪失って自称してライブオン事務所に入り込み、面接受けたって言ってたぞ? それって十分ヤベーやつじゃね?」
「いわばライブオンの秘密兵器! 変態の中でこそ輝くかわいさまでも箱に取り入れてくるとは! ライブオン恐るべし!」
「いやだからな? 多分この子普通に頭ライブオンだと……」
「それでも! 守りたい理論があるんだ!」
「論破されても勢いでゴリ押そうとすんな!」
「相変わらずシュワちゃんはフリーダムねぇ……」
だって本当に自信あったんだもん、すげぇって反応を期待してたんだもん! ぐすん……。
「まぁネコマも完全にシュワちゃんの言ったことが間違いではないと思うぞ。実際かわいいが芯にあるのはなるほどってなったしな」
「今までかわいいライバーは居ても、それはメインの要素ではなかった部分がライブオンにはあったものね。変態性が勝るというか……」
「なんだ2人共よく分かってんじゃん! そんな2人には私と一緒に聖酒巡礼に行く権利を贈呈しよう!」
「その聖酒って絶対ストゼロのことだろ」
「工場見学かしら?」
『……ちゃんと皆忘れた? むふー! やるじゃん! 流石はライブオンのリスナーさん達だな!』
そんなことを話している内に、混乱していたダガーちゃんも段々と落ち着いてきたようだ。元のテンションを取り戻している。初見ライバーのはずなのに訓練されたコメント欄、本当にリスナーさん達は見事なものだ。いつもお世話になっております!
……ちなみに今だから言えるけど不安そうな表情もかわいかった。困り眉になっちゃうところとかたまらんよね。
コメント
:むふー!(かわいい)
:クソガキとはまた違う憎めないガキっぽさがなんともいい
:推さなきゃ
『んーっと、これで配信予定終わり! こほん、孤独な旅人はライブオンに導かれ、多くの仲間達と出会った。嫌われた過去にばかり囚われていたが、今はこの温かな仲間たちと同じ時の流れに身をゆだねるのも悪くない、そう思うよ。過去から掴む未来もあれば、未来から掴める過去もまたあろう。心が繋がる時、また会おう!」
最後に始めの挨拶と同じく明らかに台本が用意されていたと思われるいってぇセリフを読み終え、ダガーちゃんのデビュー配信は終了となった。
コメント
:もう全てが笑えてきた
:なんだったんだこの子……
:寝て起きたら記憶取り戻してそう
:最後のやつ本人が言ってる意味理解してなそう
:かわいかったから全てよし
「期待の新人が入ってきたどー! やったぜ! かんぱーい!」
「ど、どうしたのシュワちゃん? やけに嬉しそうね?」
「そりゃそうよ! だって絶対変態が来ると思っていたところにまさかの僥倖、かわいい枠が入ってきてくれたんだから! コラボが楽しみ!」
「どちゃシコすんのか?」
「なに言ってんすかネコマ先輩、ドン引きです。そういうのは表でやるもんじゃないんですよ」
「裏ではやる宣言してることにネコマもドン引きしてるぞ」
「あーもう本当にかわいかった! ちゃみちゃんよりかわいい!」
「ぇ……」
最近某園長のせいでちゃみちゃんの変態属性が加速していたからな、新たなオアシスの誕生だ!
「しゅ、シュワちゃん!」
「ん? どしたちゃみちゃん?」
「んーーー…………ばぁ!」
「あー……確かに天然もいいけど養殖も美味しいよね!」
「やった! ネコマ先輩! 私褒められましたよ!」
「今ので喜ぶのか……養殖だけど天然……ああもう頭がこんがらがってきたぞ……」
これからが楽しみな子が入ってくれた! 今夜の酒はうまいぜ!