VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
シーンとなった空間に匡ちゃんの荒くなった呼吸音だけが流れる。
そして数秒後、水を得た魚のように、凍っていたコメント欄が荒ぶり始めた!
コメント
:は?
:え、いまなんて?
:草
:!?!?
:火事を警戒していたら隕石降ってきたんだが!?
:覚醒タイプかと思ったけどまさかこいつ、開幕ぶっぱタイプのライブオンか!?
:そういう性癖かい!
:やっぱりライブオンじゃないか!!
:なぜか安心してる
:性癖開示RTAの走者の方でしたか……
:見えないものを見ようとすることが好きなタイプ、きっと趣味は天体観測だな(すっとぼけ
:明け透けよりそっちの方が好きな人もいるよね……
:~今回の一句~ ライブオン アンチもやはり ライブオン
「あっ、もしもしマネちゃん? 突然ごめん、ライブオンってさ、おっぱいマウスパッド出さないの?」
「ましろ殿!? なに聞いてるでありますか!? 帰ってくるのでありまーーーす!!」
「うんそうそう、おっぱいマウスパッド。出そうよ、いいよね? 皆の乳揉みたいよ僕。だよね、出ると嬉しいよね。は? ましろさんのおっぱいマウスパッドは実用性ありそうですね? しばくぞゴラ」
「あ、もしもし鈴木さん? おっぱいマウスパッドの商品化希望の話していいですか? だめ? そうですか……」
「先輩2人が壊れたのであります……」
「電話かけちゃってたんだから仕方ないじゃん」
「あはは……冗談はこのくらいにして、嫌な危機感は消えましたね……多分」
そんなことを話していると、匡ちゃんは謎の熱弁を再開していた。
『聞け皆の者! 人類がなによりも興奮を覚える時、それは隠された真実を探求しているときではないか? その背徳、その秘匿、それがあるから人は知恵を求めることをやめられないのではないのか?』
……うん、ここまでくると、超展開で思考が一度停止した私たちにも理解が追い付いてきた。
おそらくこの子は、ライブオンの才能を持ちながらも、その思想がアンチライブオンという前例のないタイプのライバーなのだろう。
『宮内は言いたい! 胸を丸だしにしているより程よく強調した服を身にまとっているほうがよっぽど官能的であると! これはなにも性の話だけではない、例えばホラー、つまりは恐怖だ。洋画でありがちなただただ血が派手に噴き出すだけの展開など趣味が悪いだけだ! 私が求める恐怖は心理的な恐怖、まるで一歩踏み出し一秒が流れることすら逃げたくなる真なる恐怖だ。そこには血など匂わせる程度でいい。己の体にも流れていると知っているものなどより、理解ができぬなにかが先に潜んでいるほうがよっぽど怖い、そうではないか!?』
「ほー、この話、僕分かるかも」
「そうなんですか?」
「うん。ホラーに関してとか特に。僕前にとあるホラーゲームをやってね、基本的に一ヵ所だけ曲がり角がある廊下を何度もループするだけって内容なんだけど、不思議とそれが本当に怖かった。怖すぎて僕途中で泣いてやめちゃったもん」
「え!? な、泣いちゃったんですか? ましろんが?」
「ぁ……」
「ニヒヒッ、意外とかわいいところもあるのでありますな? ましろ殿?」
「う、うっさい!」
『今あげた二つの話に共通しているのは、人が想像を働かせている点だ。ああかもしれない、こうかもしれない、そうやって次々に生み出される思考は外から与えられたものではなく自分の考えであり、だからこそ自分に合った最大限の感情を呼び起こすものでもあるのだ。どうだ? 全く理解できぬ話ではないだろう?』
コメント
:おお
:なるほど……
:天才か?
:正直キレたときは嫌なやつかと思ったけど、確かに分からんことはないな
:同意だ、ジャパニーズホラーは良いよな
:でも俺分かるぞ、多分この子アホだって
:草
『まぁ宮内もある程度素を見せることを否定する気はない、皆同じなどそれこそ不気味だ。だが! このライブオンは一体なんだ!?!?』
少し冷静になっていた匡ちゃんの口調が再び火を放つ。
『皆まるで息をするように下ネタは飛び出るわ意味不明なこと言い出すわ奇行を起こすわ、ここは地獄か!? どう考えても突き抜け過ぎだ! 和の心はどうした!?』
コメント
:草草の草
:勢いがすごい
:地獄と書いてライブオンと読む
:・ワ・の心ならあるぞ
:言われてますよライバー諸君
『言っておくがその環境を楽しんでいる皆の者も変わらないからな! これは由々しき事態だ! 規制しなければならない! ライブオンのような環境が現在大きな人気を誇りファンを増やし続けている事実、なんて恐ろしい……このままでは……このままでは世界全てがライブオンに汚染されてしまう! 宮内はこの世界の危機に対して正々堂々戦うため、こんな場所に来たのだ!』
コメント
:そんなわけないだろ!
:ほらアホだ
:未来視失敗してますよ
:穏やかじゃないですね
:誇大妄想が過ぎる
:こんな場所で竹
:ミヤウチィ!!
捲し立てるように言葉を並べる匡ちゃん。
彼女は最後に『いいかよく聞け』と念を押した後――
『先ほども言ったように、この宮内はアンチライブオンとしてこの地獄を変えて見せる! 覚悟しておけ、宮内はライブオンを世界一クリーンな場所へと変えてみせるからな!』
そう私たちに宣戦布告したのであった。
「ましろ殿、淡雪殿、初めての後輩がアンチだった場合ってどうしたらいいでありますか……?」
「笑えばいいと思うよ」
「私なんて初めての後輩に喉ち〇こ欲しいって言われたんですからまだましですよ」
「なるほど、これが先輩になるってことなのでありますね」
絶対違うと思う。
でも……色んな意味でヤバイ新人が入って来たとは私も思うなぁ……。