VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
1周年記念配信の計画から始まり、喉の負傷による光ちゃんの活動休止、記念配信の延期、そして光ちゃんの覚醒――本当に息つく暇もない、配信外でさえライブオンな日々だった。
色んな感情にも振り回されて大変ではあったが、それでも……今日この瞬間を雲一つ許さないほど晴れやかに迎え、そして盛大に祝うためには必要な時間だったと思う。
今度こそ来たるべき時に直接集まった四人で目を合わせ、タイミングを合わせる。
さぁさぁ皆様! 大変長らくお待たせしました!
「「「「ライブオン三期生! 1周年と1ヵ月記念おめでとおおおおおぉぉぉぉぉーーーー!!!!」」」」
遂にこの配信が開幕するぞおおおおおぉぉぉぉーー!!!!
コメント
:キタ! 遂にキタ!
:よかった、企画ごと没にならなくて本当に良かった……
:おめでとおおおおおおおおおぉぉーー!!!!
:いえあああああぁぁーー!!!! ¥50000
:今光ちゃんの声したよな!?
「はい! というわけでね! とうとうこの日を迎えることができました! 三期生の心音淡雪です!」
「ほんと、僕たちが集まると予定通りいくことの方が少ないんじゃないかって今回の件で思ったよ。三期生の彩ましろだよ」
「まぁまぁ、こういうのもいいじゃない。普通に当日を迎えるより感慨深くてロマンチックよ。三期生の柳瀬ちゃみよ」
「……それはそうかも。僕も今の高揚感は好きだな、普通に当日を迎えるのもいいけど、きっとそれだとこの感情は味わえなかった」
「そうですよ! それに、今日はもう一つめでたいことが重なった日でもありますからね! リスナーの皆様にも事前に告知した通り、今日! 私たちの大切な同期が活動休止から復活します! さぁ、皆様もう待ちきれないと思うので、登場して頂きましょう!」
……………………。
あ、あれ?
え、予定では最初の掛け声で存在を匂わせていた光ちゃんが、ここで元気よく登場する予定だったんだけど!?
慌てて皆揃って光ちゃんの方を振り向くと、そこにはカチコチに固まった様子で俯いている光ちゃんの姿があった。
「ど、どうしたんですか光ちゃん!?」
小声で話しかけると、光ちゃんはまるでロボットのようなカクカクの動作でこちらに振り向く。
「コ、コワイ……」
「へ? 怖い? なにがですか?」
「大丈夫かなぁ? 皆光のこと忘れててお前誰とか思わないかな!? 記念日が一ヵ月も遅れて怒ってないかなぁ!?」
一度口を開くと矢継ぎ早に、小さな縋るような声で不安を連呼し始める光ちゃん。
「ちょ、ちょっと!? さっきまでは平気そうだったじゃないですか!?」
「配信が始まったら急に緊張が来ちゃったんだよ! 最初の掛け声は頑張った!」
「頑張ったじゃないよ、配信はこれからスタートなの。全く、僕の話忘れたの? この程度で光ちゃんを見放すリスナーさんじゃないよ」
「そう信じてるけど! どうしてもいざこの瞬間は怖いんだよぉ!」
「光ちゃんドMなんでしょ? 罵声があったとしてもむしろご褒美じゃないの?」
「それとこれとは話が別! 光は愛のある痛みが欲しいの!」
「……あの~……小声で喋っているところ悪いけど、今の会話、全部マイク拾ってるわよ?」
「「「え?」」」
ちゃみちゃんの声に揃って気の抜けた声をあげてしまう私たち三人。
唯一その中光ちゃんの顔だけが青ざめていく。
「ぇ」
だが、それも光ちゃんが発した2回目の気の抜けた声と共に消えていた。
マイクが拾っていたことにびっくりした光ちゃんは、その驚きで俯きがちだった顔を上げてしまい、その視界にはPCの配信画面も入っていた。
そして――光ちゃんはその顔を再び下に向けようとはしない――
いや、それどころか瞬きすら忘れている――
そうしてただ一点、そこをじぃっと凝視している――
そう、ただただ一点――
お祭り騒ぎが起こっているコメント欄を、彼女は見つめていた――
コメント
:光ちゃん復帰おめでとう!
:光ちゃん出てきてーー!!
:待ってたよ!また元気な光ちゃんが見れて嬉しい!!
:復帰&ドM化おめでとー!(?)
:喉も治って良かった
:復活とドM化おめでとう! ドM化はおめでとうでいいのか…?? その謎を追求するべく我々はライブオンの奥地へと向かった…… ¥50000
:復活おめでとう! これから毎日同期に罵倒されようぜ
:光ちゃん復帰おめ!
:復帰祝いの品です つ低温ロウソク シュワちゃんと一緒に楽しんでください
:おかえり! ゆっくり休めたかな?
:ライブオンの希望の光が帰ってきた! ん?あれ!?
:光ちゃん、覚醒復活おめでとう! ¥10000
:案の定コメントがドM関連で埋まってて草
:ん? すまん、覚醒とかドMとかってなんや? 光ちゃんなにかあったん?
:淡雪ちゃんが休止中にドMに調教したらしい
:え?
:まるで意味が分からんぞ!
:心配するな、あわちゃんの口から経緯を聞いた俺らもあんまり理解できてない!
:ゲロ式配信切りの次は調教式配信休みを披露してくれた模様
:エンターテイナー過ぎるだろ ¥610
:まーた淡雪ちゃんが人の性癖にストゼロ流し込んで開花させたのか
:シオンママ、エーライちゃん、ちゃみちゃん、還ちゃんと有素ちゃんも入れてよさそう
:スキル星の開拓者ならぬ性癖の開拓者だな ¥211
:信じて休暇に出した祭ちゃんが同期のアワさんの調教にドハマリして笑顔のドM宣言配信を送ってくるなんて……
:草
:思ったんだけど、あわちゃんが清楚枠に返り咲くために、全員のやばさを強化して相対的な清楚度をあげようとしているのでは……?
:これは知能犯ですね。「心音淡雪の真・清楚奪還計画」始まったな
:尚、相対的に上がっても絶対的には上がらないので清楚枠を勝ち取るのではなく、ライブオンから清楚枠が廃止されるだけな模様
:復帰おめです。これからも"体調を気遣いながら"二周年に向けて毎秒配信してどうぞ
:まぁ光ちゃんって元からドMの傾向あったから……
:確かに
:祭りのMはドMのMやったんやな…
:あの…復帰どころか変な方向に悪化してるんですが…
:光ちゃん……なんとなく素質はあると思ってたよ……
:今の三期生で「ククク…奴は四天王の中でも最弱」と呼べる奴いない説
:なにはともあれ復帰がめでたい!
:お前の帰りを待ってたんだよ!!
:久しぶりに声聞けて泣きそう。喉が手遅れにならんくて本当によかった ¥5000
:無理する光ちゃんを止めた淡雪ちゃんには大感謝! 1周年もおめ、これは新しいストゼロ代だ! ¥10000
:おかえり
「みん……な……」
呆然とした目に、段々と光が輝き始める。
私、ちゃみちゃん、ましろんは一度目を合わせた後強く頷き、光ちゃんの背中に手を回し、マイクの前に押し出す。
光ちゃんは潤んだ目元を一度手で拭い、少し照れくさそうに笑うが、その顔にもう恐れはなかった。
「えっと、皆! 祭りの光は人間ホイホイ! えへへ、皆の祭りの光に、今日はこっちが誘われちゃいました! ライブオン三期生祭屋光でーっす!」
そう、これだ、ライバーとリスナーさんとがお互いに支え合う。これが私たちのあるべき姿。
これにて、光ちゃん! 完 全 復 活 !!
「あったけぇ……リスナーさんとの絆があったけぇですなぁ……」
「……これでドMの件が無ければ僕も素直に感動できていたのになぁ」
「ほんとよねぇ……」
「冷てぇ……同期の視線が冷てぇですなぁ……」
訂正! これにて光ちゃん!! 改 造 復 活 !!!!(泣)