VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
「それではちゃみちゃん、なにがあったかの説明をお願いできますか?」
「ええ、さっきは取り乱してしまってごめんなさい」
「ふんふんふーん♪」
私、ちゃみちゃん、光ちゃんの三人が向かい合って座っている。
通話で私が光ちゃんをドMに調教したなどという意味が分からないことを叫んだちゃみちゃんは、その後も混乱した様子でまともな話にならず、急遽私も光ちゃんの家に向かうことにした。
息を切らしながら家に着いた私を光ちゃんは熱烈なハグで歓迎してくれた。ちゃみちゃんも私が着くまでの時間である程度落ち着いたようで、ちゃんと話ができそうだ。
だがそれでも、私とちゃみちゃんの間には得体のしれない不安感のようなものが漂っており、光ちゃんのみが上機嫌に1周年記念用の曲を鼻歌で歌っているのが尚更私を不安にさせる。
もう喉の傷自体はほぼ完治しているようで、それ自体は凄く安心したのだが――
「えっと、順を追って説明するわね」
「はい」
「淡雪ちゃんも知ってのとおり、今日遊ぶ約束していたから、私は光ちゃんの家に来たの」
「はいはい」
「そしてね、玄関の鍵を開けてもらってお家の中に入ったらね、光ちゃんが私に向かってM字開脚みたいなポーズになって『ちゃみちゃん! 光とスカイラブハ〇ケーンしようぜ! 光踏み台な!』って言ってきたの」
「順を追ってもらえますか?」
「残念ながらノーカットよ」
どうやらこの休止期間中に新たな傷が開いてしまったようだ。
「一体どういうことなんですか……?」
「ええ、勿論そうなるわよね、私もなったわ。というより私はそのスカイラブハ〇ケーンがどういうものなのかを知らなかったのね」
「確かにちゃみちゃんにサッカーのイメージありませんね」
「まぁそんなわけで話の続きいくわね。光ちゃんはそんな私の様子を見て知らないことを察したのか、次は土下座しながら『ちゃみちゃん! その靴脱いだら光の頭の上に置いてもらっていい?』って言ってきたの」
「いやいや続いてない続いてない、この前ちゃみちゃんがチャレンジしたけど早々に諦めたワルクラの回路くらい話が繋がってないんですよ」
「これまたノーカットよ。あとなんでさりげなくディスってきたのかしら……?」
これがノーカットだと!? 意味が分からない……スカイラブハ〇ケーンはまだ光ちゃんならありえるかもしれないけど靴の件は本当に分からない……。
「それでね、私もこれは流石になにかがおかしいと思って、慌てて光ちゃんになんでそんなことしてほしいのか聞いたの」
「正しい行動ですね」
「そしたら淡雪ちゃんのせいってことが判明したから通話かけたのよ」
「ななななななんでそうなるんですか!? 完全なる冤罪ですよ!」
「まぁここからは光ちゃんに説明してもらった方が良さそうね」
ちゃみちゃんが声を掛けると、待ってましたとばかりに今まで黙っていた光ちゃんが口を開く。
「あのね! 淡雪ちゃん光にマッサージしてくれたでしょ?」
「ええ、そうですね」
「あの時ね、肩をマッサージしてもらったとき、実はちょっと痛かったんだよね。光ね、人から痛いことされるのって今までヘンな気分になるから避けてたんだ」
「やっぱりあの時痛かったんですね、申し訳ありません……でもヘンな気分ですか?」
「うん、なんかね、ムズムズする感じがして苦手だったの。でもね、淡雪ちゃんにマッサージしてもらったときも少し痛くてこのムズムズがあったけど、意外と悪くないなって思って続けてもらっちった! えへへ、きっと喉の件で暴走した光を止めてくれた信頼があったからだね!」
……………………。
「それでねそれでね! 続けてもらううちにそのムズムズがだんだんゾクゾクに変わっていって、最終的には体の中がバチバチ弾ける感覚にまでなってね! それがめっっっっちゃくちゃ気持ちよかったんだよ! 不思議だよね!」
……………………。
「もうそれが光忘れられなくて、足つぼはもっと気持ち良かったし、踏まれるのは肉体的なものにプラスして精神的な屈辱感みたいなものがプラスされるのが気持ち良すぎて、意識飛んじゃった! なんでこんなに気持ちいいのを避けていたんだろうって後悔だよ!」
――この話を聞くのと同時に、私は光ちゃんの過去の言動を思い返していた。
確かに光ちゃんは過密スケジュールで、今回は歌の頑張りすぎで喉まで壊したが……それは別として長時間の配信を辛そうにやっている素振りは見せたことがなかった。
いや、それどころではない。耐久配信も、地獄のような鬼畜縛りも、普通の人なら逃げ出したくなる苦行に対して光ちゃんは常に『楽しそう』だったのだ。
あぁ、やっと理解した。きっとこれが光ちゃんという女の子の本質。内に秘めた痛みが快楽に繋がるという性癖の蕾。
だけど今まではそこから先はまずいという光ちゃん本人の直感という名の抑止力が無意識のうちに働き、この蕾がそれ以上育つことはなかった。
でも――私はやってしまったのだ。膨れ上がった信頼によって自らの抑止力より私のことを選んだ光ちゃん。私はマッサージの天才などと勘違いしてその蕾に水を与え続け、やがてそれは花開いた。そう、開ききってしまった。
つまり――
「だからね! 今日はちゃみちゃんが来てくれるし、ちゃみちゃんのことも光大好きだから、やってほしいことをお願いしてみたんだよ!」
光ちゃんが――性(ドM)に目覚めた――