VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
藍子さんが常識人だという驚愕の出来事が発覚した後、少しづつ私も店内のおしゃれな雰囲気に慣れてきたので、リラックスして雑談をする余裕が出てきた。
今は藍子さんと光ちゃんの話で盛り上がっていた。当の光ちゃん本人は緊張の解けた私の様子に安心したのか、今までべったりだった私たちから離れて他の店員さんと服を物色している。
藍子さんは光ちゃんと高校からの付き合いのようで、昔の光ちゃんを知らない私からしたら聞かせてくれるどの話も非常に興味深いものだった。
いい機会だし、気になることは色々聞いてしまおう。
「藍子さんにとって、光ちゃんってどんなイメージですか?」
「イメージ……うーん……愛されるおバカですかね」
「あ~、それは私も分かりますね」
「あの性格ですからね、きっと私と仲良くなれたのもそのおかげなんだと思います」
「というと?」
「私って……何と言いますか、深い人付き合いが苦手なんですよ。お客さんと店員みたいな軽い関係でしたら大丈夫どころか得意なんですけど、あまり踏み込まれてしまうとその……裏を疑ってしまうというか、どこか疑心暗鬼になってしまう自分がいて……性格が悪いんです」
「……いえ、なんとなく分かりますよ」
大小はあれど、誰しも関係が近くなれば近くなるほど自分の理想を押し付けてしまうことはあると思う。そしてその思いは悪い結果に繋がってしまうことも多い。
だからいっそのこと他人とは一定の距離を保つことで心の平穏を守り抜く、このタイプの人は意外と多いと思う。
「でも光に関して言えば、もう最初から私の思い通り動くわけがないと分かっている。つまり常時裏切られているようなものなので、それが逆に私には心地よくて、裏表を感じない要因になっているんですよ」
「あはは……確かに光ちゃんは行動の予想が難しいですよね……」
「もう本当に最初はなんだこいつ!? って感じだったんですよ! 高校入学直後の隣の席同士だったんですけど、クラス全体の自己紹介でいきなり『ただの人間には興味ありません』から始まる例のスピーチをして、わざととんでもなく痛いやつイメージを付けた状態で高校生活を開始するハードモードプレイしてましたからね」
「高校の時から既にドMだったんですね……」
「まぁそれでもすぐにクラスの人気者になった辺り、流石というかなんというか」
「そのインパクトに藍子さんも落とされてしまったと」
「いや落とされたわけでは……仲良しになったのは事実ですけど……」
なんだかんだ文句のように語る藍子さんだが、その様子はどこか楽しそうで、声色はまるで知人の武勇伝を語っているようだった。
いいなぁこの感じ、これぞ女の子同士の友情、憧れるなぁ。いつか私も光ちゃんともっと打ち解けてこんな関係になれるかな。
「その他にも、一時期一緒にファミレスでアルバイトを始めたときには、店長に『3つ星シェフ目指します!』って宣言して困らせたりもしてましたね」
「ファミレスで!?」
「終いには卒業した数年後、いきなり電話で『この世で最強の存在は物理攻撃が効かない電子生命体ということが分かった。ということでVTuberになってくる! 光は人間をやめるぞ! UREYYYY!!』って言いだした時は眩暈がしましたね」
「驚愕の経緯が発覚してしまった」
光ちゃん、頭の中も光り過ぎだぜ。
「あと、基本素直で言われたことを守る子なんですけど、そのほとんどが曲解されて伝わっています」
「ぇ……」
「これ本当に謎なんですけど、光の中で妙なルールが働いているらしくて、言われたことがそのルールに変換されてしまうみたいなんですよね」
「頭の中に翻訳ソフトでも入っているんですか?」
「そうですそうです、光の脳内情報は全て光翻訳を経由された情報しか入ってこないみたいなんですよ」
「さっき人間やめるとか言ってましたけど、さては元から人間じゃないのでは?」
「まぁ不思議なことに解釈は違っていてもその上に成り立つ結果は世間と共通しているみたいなので、慣れればかわいいものですよ」
「は、はぁ……」
確かに言われてみればやけに少年漫画チックな考え方だったりするからな光ちゃん。私を案内してくれているときもボディーガードとか外敵がとか言ってたし。
「あと、性的話題は年齢制限が掛かっているみたいで全カットされてますね」
「なるほど、その手の話題が通じないのはこれが原因でしたか」
「頭の中ヤ〇ーきっずなんです」
「それめちゃくちゃ煽ってません?」
「あ、ばれましたか? まぁでも、その分光には私なんかよりよっぽど優れている点も多いんですけどね」
「そうなんですか?」
「はい。色んな部分で才能の片鱗を感じるんですよね、そこは素直に尊敬しています。例えば……光はセンスがいいんですよ」
「おーい! かっこいいの選んできたぞー!!」
「ほら」
その声と共に藍子さんが視線を向けた方向を私も見ると、光ちゃんが上下一式+アクセサリー系まで選んできてくれたようで、両手をいっぱいにしてこちらに歩いてきた。
「見てこのダメージジーンズ! めっちゃかっこよくない!?」
特に一押しなのは程よくダメージが入ったジーンズのようで、露出も少なめだしこれなら私でも穿けそうだ。
「この傷……きっと歴戦の猛者が愛用した古の防具に違いないよ!」
「へ? いや、それは元々そういうデザインで制作されたものじゃ」
「これならきっと攻撃力アップ系のスキルが付いているはず!」
「いやスキルってなに!? 光ちゃんは一体何を求めていたの!?」
「さぁ淡雪ちゃん! 試着室行くよ!」
「あ~れ~!?」
「ごゆっくりどーぞー♪」
営業スマイル全開の藍子さんに見送られながら、光ちゃんに半ば強引に試着室まで連れていかれる。
だ、大丈夫かこれ? なんかおしゃれとは違う視点で服選びしてなかったこの子? ここをブティックではなくてRPGの防具屋だと思ってなかった?
途端に嫌な予感がしてきたが、勢いに押されるまま着替える私なのだった。
結論、嫌な予感は私のただの杞憂だった。
不安に駆られながらも渡されたものに着替えたのだが、パンク系というのだろうか? 全身がクールに纏まっていておしゃれなバンドガールのような全体像に仕上がっていた。
これなら悪くないどころか、一式くらい持っていたいと思うほど、ピーキーなパーツを纏めるそのセンスはピカイチなものを私でも感じる。
その時、私は藍子さんとの会話の内容を思い出していた。
『これ本当に謎なんですけど、光の中で妙なルールが働いているらしくて、言われたことがそのルールに変換されてしまうみたいなんですよね』
なるほど、さっきの古の防具云々もこれが原因か。
でも不思議なことにセンスはあると……。
「どうです? 面白い子でしょう?」
「ええ、本当に」
「自慢の親友なんですよ」
未だ唖然としている私とは対照的に、そう言う藍子さんの笑みは今日で一番輝いていた。
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