VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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有素ちゃん家にお泊り1

「ん、もうすぐか」

 

新幹線の座席から強制スクロールのように流れる外の景色をぼーっと眺めていながら、心地良い揺れから生まれる眠気を楽しんでいたのだが、どうやら終わりの時間が来てしまったようだ。

なんとか重い腰を上げ、キャリーバッグと共に愛しき文明の利器にさよならを告げる。

 

「こっちは良い天気だなー」

 

都内の空はすこし曇り気味で心配だったのだが、こっちは見事な空の海に太陽が一つ漂っている。

さて、新幹線から降りたここからもまたもや文明の利器、GMAPの出番だ。

目的地までの道のりを調べ、後は出たルートをなぞるだけ。科学の進歩した現代人であることに感謝である。

都内とは違い開けた風景に心を癒されながら、歩を進めると共にふとなぜこうなったのかを思い返した――。

 

 

その日の私はいつものようにPCと向き合いながらゲーム配信を行っていた。

このゲーム自体は一週間前からやり始めたものであり、非常に良いゲームで時間を忘れてここ一週間ずっとこのゲームを配信プレイしていたほどだ。

そしてその日は記念すべきエンディングを迎えた日――感動の余韻に包まれながら満足げに配信画面を終了したのだが……。

 

「…………あれ」

 

その時私は気づいてしまった、この一週間の生活内容の悲惨さを。

来る日も来る日もひたすらに配信のことを考えていた結果、まさかの一週間外出ゼロ、食料は買い物にも行かず備蓄を使い果たした結果他人との遭遇もゼロ、更にはストゼロ。

とんでもなく社会から切り離された生活をこの一週間送ってしまっていたのだ。

これは流石にいかん……ゲームもクリアしたことだしここで少々休暇をもらい、だれかと遊ぶか何かして羽を伸ばそう。

そう考えた私はライバー勢揃いのチャットルームに誘いの文を出した。

 

<心音淡雪>:今度誰か配信外で遊びませんか? 遠方でも喜んで足を運びます

<相馬有素>:ぜひ私の家に来るのであります!

 

送ってから返信がくるまでのこの間、僅か4秒。

最早張り込んでいただろとツッコミを入れたくなったが、まぁ有素ちゃんだから仕方ない。

とりあえず真っ先に応えてくれたので遊ぶのは有素ちゃんに決まったのだが、ご自宅が結構な遠方ということもあり、泊りで行かせてもらうことになった。

あの有素ちゃんのお家にお泊り……いささか不安を感じる部分はあるが、まぁ根はいい子のはずなので大丈夫だろう。うん、大丈夫と信じよう。

 

「お、ここかな?」

 

景色と風を楽しみながら歩いていると、あっという間にGMAPが示した一軒家にたどり着いた。

そういえばご両親と一緒に住んでるって言ってたんだよな、今日は平日だがお泊りする以上お会いすることになるだろうから緊張するな。

とりあえずまずは着いた連絡をするか。

 

<心音淡雪>:着きましたよー

<相馬有素>:了解であります! 鍵は開いているのでどうぞお入りください!

 

どうやら準備は万端のようだな。

ガチャ。

それではお家の中に失礼してー。

バタン!

ドアを開けた瞬間、体が反射的に中に入らず逆に閉める行動をとった。

そして光の速さでラブリーマイエンジェルに通話を掛ける。当然某シスコン主人公とは違って着信拒否などはない。

 

――――♪

 

「はいはい、ましろんですよー。どうしたのあわちゃん?」

「あ、突然ごめんなさいねましろん。今ね、有素ちゃん家に遊びに来てるんですけど」

「あーなんかチャットで言ってたね。それがどうかしたの?」

「たった今着いたのでお家のドアを開けたんですけど、やばいのが居たのでどうしたものかと」

「やばいの?」

「下着だけ変態女が立ってたんですよ」

「え、ほんとに?」

「はい。しかもですよ? なぜかパンツを目が隠れるくらい深く頭にかぶって、逆にブラジャーをパンツみたいに下に穿いてたんですよ」

「うわ、相当ヤベーの来ちゃったねそれ。今すぐその場を離れた方が無難だよ」

「更に、更にですよ? 剥き出しになったおっぱいの両乳首に空になったストゼロを紐でぶら下げてたんですよ」

「あ、それ多分有素ちゃんだね。愛されてて良かったねあわちゃん」

「嘘だと言ってよマーシー!」

「そんな呼び方されたの晴先輩以来だよ」

 

とりあえず一旦通話を終了し、再びドアに手をかける。

何を言っているんだましろんは、いくら有素ちゃんでもこんなクレイジーサイコ聖様みたいな行動をとるわけないじゃないか。

全くもう、仕方ないからこの私がもう一度体を張ってあの変態の正体を調べてきてあげよう。

待っててね有素ちゃん! 私があなたの冤罪をちゃんと晴らしてあげるからね!

ガチャ!

 

「I’m a strong human. a,li,ce alice! a,li,ce alice! a,li,ce alice!」

「嘘だッ!!!」

 

自己紹介と共に目の前で歌い踊り出す痴女を前にして、玄関に私の悲痛な叫び声が響いたのであった――。




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