ISの世界に来た名無しがペロちゃんと命名されてから頑張る話 作:いつのせキノン
「ファック」
画面の中のGAME OVERの文字。嗚呼、忌々しい。
「束さん、何故こんな無理ゲー作ったし」
「暇だったから」
そこに陰謀もあるんでしょう?
「まぁね。無意識下における生体同期型ISがどこまで性能を発揮するのか。反射神経、思考回路、情報処理、予測演算、エトセトラエトセトラ。束さんはどこまでも未知の探求を続けるのだよ」
ドヤァと鼻高々に宣言する束さん。それ絶対一度言ってみたかったんだよねというツッコミは良心の声ということで心の中に深くしまって埋め立てといた。
今俺は束さんが監修を務めた3Dアクション無理ゲーをやらされている真っ最中。しかしこれはどうやりこんでも無理ゲー。乱数無しの超絶な奴。
「暗記も出来ない、全てはプレイヤーの腕次第。そして全てが初見殺し」
「凡人にはクリアできないよ。
束さんの指す凡人の定義とは即ち、彼女が口を聞きたくないという人物。って俺のコアが言ってる。
「…………ああ、そうなのね」
考えれば単純なのか。或いは考えるまでもなくそれはあったのか。
「束さん。残念ながら、俺は凡人でも常人でも人間でもないみたいだ」
「その答えを待っていた」
ゲー●キューブを模したハードからコントローラーを抜く。後はそのプラグに指を突っ込み、思考する。ゲームクリアを、パーフェクトな未来を。
「どや」
テレレレー、とプレイ画面にはGAME CLEARの文字。やったぜ。
「にゅふふ、タイム3分と12秒。及第点だね」
「はふぅ」
テストは終了。俺の基礎能力測定が終わったのだ。
俺が体内に保有する一つのISコア。ペロちゃんという人物が生体同期型ISとして定義され、ISがIS本来の反応をしなくなったため、俺は束さんにより一からテストを全て受け直した。
結果、出てきたのは俺が俺でいられた頃をモノともしない総合数値。それは明らかに人間の
「構成に気付くまでにもう少し早めて欲しいけど、種明かしたら対処は可能だよね」
「ま、もう引っ掛からないよ、絶対にね。つくづく規格外だよ、全く以て」
俺が先程やったのは、チートではない。ゲームをやっただけだ、視覚ではなく演算で。視覚で反応するだけでは遅い。テストを行う上で既に視覚使用の神経伝達速度テストは終わっている。最後のこれは頭の体操と同じ、クリア出来る別の方法を模索する柔軟さだ。
「いやぁ、まさか一ヶ月で理想の2回りも成長するなんて……束さん感動だよ!!」
「もう悔しがったりしないのね」
「そりゃあもうペロちゃんだものっ。熱血臭いのは好きじゃないけど、ペロちゃんの潜在能力にはグッと来るものがあったしね」
ありがとうございます。
「で、早速だけどペロちゃん」
「何? 買い出し?」
「いや、そんなのは束さんできるからね?」
「え、だって俺のことパシるの楽しいって……、」
「思ってないし口に出してもないよッ!?」
「何故バレたし」
「ハッ、まさかペロちゃんこの束さんを欺こうとしたね!?」
「そりゃあもう、どこまで演算できるか挑戦したいじゃないですか。束さんのお眼鏡に適う為にも」
長らく身を置かせてもらっているが故、ですぞ。
「そんな訳でお手伝いさせて下さいな」
「やったーっ!! ついにペロちゃんからお願いされた!!」
わー、と両手を上げる束さん。あれだよね、大分前に俺土下座して頼み込んでたよね。もしかして忘れてる? まぁいいや。
「さぁさぁ、それじゃあ早速行っちゃうよぉぉぉぉ!!」
「いいともー」
ミッションの概要を説明します。
ミッション・ターゲットはスキャットマン社の秘密研究施設です。
ヴェスターヴェラント自然公園地下に広がる研究施設では遺伝子強化素体を対象とした研究が依然として行われています。現段階における研究成果は不明。また、遺伝子強化ということより被検体達の素体になる人物、またはそれに通ずるものが存在する筈です。
従って、今回のミッション・プランは研究所に直接乗り込んでの全データ奪取。更に強化素体サンプルの護送を行う流れとなります。
なお、篠ノ之束は、研究所の全施設破壊にボーナスを設定しています。
ミッションの概要は以上です。
篠ノ之束は、あなたを高く評価しています。よい返事を期待していますね。
「束さん最近●ーマード・コアやったでしょ」
「いやぁ、奇想を出すには奇想からってね。極端な発想とか束さん大好物だから!!」
「しかしこれ研究所全破壊になると自然公園蒸発するんでね?」
「多分そこは大丈夫。横じゃなくて縦に深く続いてるから、真上から貫く形でやっちゃえば後は情報操作でちょちょいのちょい」
「……まぁいいや。それより束さん、まさかOW作ろうとか考えてない?」
「…………そ、そんな訳、ない、じゃない?」
「アンタ一つ造ったな!?」
「一つ……? …………あ、ああ、そそそそそうだよっ!! まだ一つしか造ってないよ!?」
「あ、コンニャロ二つ以上造っちゃったって顔してやがる!!」
「だっ、大丈夫っ、まだ3つだけ、3つだけだから!!」
「3つ“
「い、いいじゃん造ったって!! 社長砲とかカッコイイだもん!!」
「いやカッコイイけどさぁっ!! いいけどさぁ……、」
「でしょ!? カッコイイでしょ!? ねぇペロちゃん研究所破壊してきてよ!!」
「んなコンビニ行ってきてよ的な雰囲気で言われても……てかOW付けたら俺大丈夫なん? 排熱とかハッキングとか」
「大丈夫、OWと言いつつオーバーしてないから!!」
「束さん、ここに英和辞典と国語辞典があるからOVERの意味調べ直そ? ね?」
出撃まで紆余曲折あったが、取り敢えずミッションの為に俺は篠ノ之研究所を出た。イタリアの住宅街をもの珍しげな視線を受けつつも歩いてなるべく一通りの少ない所へ。完全にカメラ、人間を含む全ての視線から外れた所でISを武装展開させる。
どこからともなく粒子が集まり俺の周りを飛び回ってシルエットを形取る。白をベースにしたカラーに鮮やかな青のセカンドカラー、所々に奔る金色のライン。それが人間のガタイに寄り添う。肩部、背部、腰部には同色のスラスターが
もののコンマ1秒すらかからず、
これは全て束さんが1から新調してくれた物だ。内装もシステムも全てを見直し、組み直し、束さんの傑作という傑作を詰め込んだ一品だ。完成時には束さんがとても良い汗を流していた。
展開を終えたら次はジャミングシステムの起動。熱光学迷彩を自分のIS、そのシールドエネルギーの膜に這わせていく。これで外からは人間の眼でもカメラでもサーモグラフィでも俺というISを捉えられなくなった。対し、俺は内側から外の様子を見放題である。
スラスターは使わず無音のままPIC制御と共に反重力行動を行いながら上昇を開始。無論、周りからは誰も俺を捉えられないので誰もこちらを見上げることはない。音も出さない、視界にいても認識できない。隠密行動に特化した、という訳だ。
ある程度登ったところでスラスターも点火。なるべく音を抑える為出力はかなり低いが、それでも眼で捉え難いくらいには速い。成層圏を突破したところでホバリング、しばし眼下の景色を見る。
綺麗。まずはその一言だ、これは。地球はまだ青く、そして丸い。なびく雲や緑の芽吹く大地が、地球の生命という力を感じさせてくれる。少なくとも俺は、そう思った。取り敢えず視覚カメラを起動して何枚か写真を残す。後で束さんにも送っとこう。
目的地へ進路変更。ISのナビゲーションシステムを並列起動させた。目指すはドイツの北東部、ヴェスターヴェラント自然公園上空。そこからスカイダイビングの要領で重力落下を開始、地面ギリギリで停止してから研究施設内へ侵入。中央制御室まで赴いて研究データを全て吸い出し消去。更には素体の奪取と、サブミッションに研究施設の破壊である。詳細なミッション・プランはと言えば、データの吸い出しが終了してから素体を取り、最後に研究所の最奥部からある程度の場所に爆弾を設置。深部から破壊して脆くなったところを上から崩す算段だ。上手くいくとは限らないが。上手くいくよう頑張るしかない。
【
味気ない女性の
【巡航モード、起動】
直後にスラスターが再点火。上昇時とは比べ物にならない程のスラスターエネルギーが噴射され、俺というISをマッハを超えて飛ばさせる。現在マッハ5、時速に直して6000kmオーバー。目的地までは約20分の空の旅である。多分これを地上付近でやったとしたら景色は全て線になってただろうね。今は成層圏だから景色はそんなに変わらない。だけど、ただひたすらに、成層圏の青は美しかった。