ISの世界に来た名無しがペロちゃんと命名されてから頑張る話   作:いつのせキノン

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短くてちょいシリアス


バージョンアップ

 ペロペロプログラムが実行されて二週間が経ちましたとさ。名称的に微妙だが束さんが相変わらずノリノリなので放置する。放置プレイで興奮する人ってどうなんだろう、とふと思い至った瞬間だったが、人それぞれだろうと結論づけてトレーニングに集中する。

 束さんの組んだプログラムは非のつけ所がない程に完璧。疲れすぎないので翌日にも大きな障害もなくトレーニングが可能なのだ。

 食生活も改善。今まで以上に栄養やバランスを気をつけるようになったし、間食も断つことにした。たまに俺の横で美味そうにお菓子を頬張る束さんだが、その度にちょっかいを出してみる。それでも飽きず懲りずに何度もやってくるのがまた束さんらしい。一時、いかに相手に美味しさを伝えるかという食べ方まで研究してた。そんなことしなくて良いからもっと実用的なことしなさい。

 

 人間には超回復というものがる。俺もちょこっとだけ聞いたことはあったが束さんが詳しく説明してくれた。

 結論から言うと筋力トレーニングはぶっ続けで筋肉を使い続けるのではなく、適度な休憩を取り入れて継続したトレーニングをしなければならないということ。

 一度筋力トレーニングで筋肉を痛めつける(破壊する)と、一時的に人間の筋力量は低下する。そこから24時間以上休憩を入れると筋力量はトレーニング開始時よりも個人差はあるとは言え僅かに上回るのだ。これが人間の超回復である。

 超回復により筋力量が増えたら、また次のトレーニングで痛めつけ、破壊し、また超回復。よって回数を重ねていくことにより徐々に筋力量が増えていくというわけだ。

 

「ペロちゃん二の腕ちょっと太くなったねー」

 

 おー、とぺちぺち俺の腕を触る束さん。確かに、二週間前と比べてみると少し太くなった気がする。無論筋肉でだ。足腰も以前より無駄な肉が落ちたおかげでスッキリしてる。これもトレーニングのおかげだ。

 

「それにしてもペロちゃんは伸びしろがあるかもね。こんなにも早く効果が表れるとは束さん予想外だったよ」

 

 ぴこぴことウサ耳を動かす束さん。彼女が取り出した二つの折れ線グラフが顕著にその結果を表していた。束さん自身が予想した総合値を俺の結果が上回って伸びているのだ。

 

「これは俺が頑張ってる証拠と見てOK?」

「悔しいけどそうだねー。束さんの予測を上回るとは大したことだよ」

 

 予測が外れた事がちょっとショックらしい。確かに束さんは科学的な要素なら予測してそれを言い当てられるだろうが、今回ばかりは俺の努力が勝ったらしい。嬉しいことだ。

 

「これなら思ったより計画を前倒しにしないとかな?」

「計画?」

「そそっ、計画。詳細はまだ未定なんだけどね。束さんも色々と考えてる訳なのだよ」

 

 えっへん、と胸を張る。

 

「ちょっぴり潰したい組織が浮き彫りになっちゃってねぇ。世間一般から見れば非合法な研究所だよ」

「非合法、っていうと、人体改造とか超兵器的な?」

「正解。遺伝子操作って言うのかな、ともかく束さんが生み出した技術を使われたくないことに使われて少し腹が立ってるんだ」

「ははぁ、そんな組織があるのかぁ」

 

 俺がいた世界とは大違いだ。これもISという兵器が生まれた後の弊害なのか。

 

「しかし束さんが生み出した技術って今言った中にはないよな?」

 

 人体改造、遺伝子操作、使用者のことを一才考慮しない超兵器。これは束さんが考えるまでもなく先人達が提唱したりしてきた技術の一端だ。

 

「なんでか知らないけど、束さんの作ったISの劣化コピーに命を創りこもうとしてる」

「…………つまり、俺の亜種みたいなもんか」

「そうかもね。向こうは素体がISだけど、ペロちゃんは人間。人間がISを取り込んだことになるからね」

 

 そう考えると俺ってば相当異常者じゃないか。

 

「結局、俺がコアを取り込んでしまった原因は不明で取り出すことも無理、と」

「物理的に存在していないんだよね、コアが。ペロちゃんに完全に同期したとなれば、それこそ細胞単位でバラしてみないと取り出せるかどうか…………。あっ、ペロちゃんにはそんなことしないから安心して。そこまで束さんはマッドになった自覚はないから」

「おう、頼みまっせ。そんな奴は小説の中だけで充分だから」

 

 しかしこの世界でそういった輩が既にいるということは事実。つまり、そういった事に犠牲になる人もいる訳だ。

 

「胸糞悪い話だ」

 

 ぶしゅっ、と手の中のリンゴが割れた。ありゃま、食べようとしてたのに……。

 

「……ペロちゃん、リンゴを割るには握力80くらい必要だった筈なんだけどなぁ……」

「俺、昨日の時点で60しかなかったんだけど……」

「IS、動かした?」

「全く。無意識?」

「だったら反応が出るはずなんだけど……あれぇ?」

「そうなると俺トレーニング無しで一日20上げたことになるんだが」

「それは人体的に有り得ないと束さん断言するよ。絶対にISの所為だね」

「でもISの反応がない?」

「イエス。ああ、また調べなくちゃならないことが増えた」

 

 束さんが俺の手を取りまじまじと眺める。俺から見る限り特に変哲もない人間の掌だ。

 

「えいっ」

「いででででででででで!?」

 

 急に手のツボ押さないで!?

 

「痛い?」

「当たり前でしょッ」

「そっかー。むぅ……、」

 

 考え込む束さんを見てツッコミ入れられなかったでござる。

 

「……仮の話だけど、もしかしたらペロちゃんはISと一生離れられないかも」

 

 …………ゑ?

 

「下手な話、ISコアそのものが人間の内蔵と同じような身体機能の一つになって、ISがISじゃなくなるかもしれないってこと」

 

 真剣な顔でこちらを見てくる束さんに思わず唾を飲む。

 

「生体同期型IS。その完成形だよ、ペロちゃんは」

 

 この時の出来事が、後に響いてくるとは、俺も流石に思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




徐々に戻すよー

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