ISの世界に来た名無しがペロちゃんと命名されてから頑張る話 作:いつのせキノン
途中から投げやりで短いけど許して。
世の中がまだ常識的な範囲で普通だった頃のことです。
この世に初めて生まれ落ちたISコアは3つありました。
1つは“白”、1つは“桜”、1つは“零”。そう名付けられました。
3つのコアは“意識”を与えられ、次第にお互いを認識できるようになります。
「ヒャッハーッ!! おぶつはしょうどくだー!!」
「“零”がぼうそうしたぞー!?」
「おまえはさいごにころすとやくそくしたな。あれはうそだ」
「あ、ちがうコイツめいげんいってるだけだ!?」
「おれのドリルはてんをつくドリルだあああああああ!!」
「うるせー!!」
「ぐはっ!?」
“白”が飛び蹴りをかますと“零”の背中に直撃。そのまま2人はもみくちゃになって地面を転がりました。……すごい勢いだったけど大丈夫でしょうか……。
「大丈夫ですかー?」
「「だいじょぶー!!」」
心配して声をかけてみれば、2人はきゃいきゃいと笑いながらじゃれ合っていました。2人にかかればあの程度は遊びに収まる範疇みたいです。
ここは草原。なだらかな丘と、そこに何本も植えられた巨大な桜の木が立ち並んでいます。丘の下には浅い湖が見え、景色を鏡のように反射します。地平線まで遠く遠く続くその光景は、きっと美しいと表現されるのでしょう。
「怪我しないようにして下さいねー?」
「あーい!!」と“白”、「うぇーい!!」と“零”が言います。“白”はともかくとして、“零”の方は本当に理解してるのかどうか怪しいんですが。
“白”と“零”は本当に仲良しです。ほぼ同時期に3つ生まれたと言っても、実は“桜”の私は2人より少し遅く生まれました。“桜”は“白”と“零”の経験値を全てフィードバックして最適化し育成していくコア。遅生まれの私が2人より精神的に成熟しているのはこのためでした。
2人からすれば妹なのに姉気分というのは申し訳なくも結構心地の良いものでした。それに2人も大して気にしておらず、こんな私と仲良く接してくれたのです。それがどんなに嬉しかったことか。
◆
「――――――――
…………うん、全然そんな覚えないね!! あ、でも回想内の“零”とは気の合いそうな波長キャッチできたよ。
まぁそんなことはさて置いておき。話の限りだと目の前の彼女は俺とその“零”って子を混同してるんじゃなかろうか。
「なぁ、その“零”って子と俺を同じように見てるってことは何かが似てるってことなんだよな? どこが似てるんだ?」
「……見た目」
「見た目? でもあれだろ、アンタが覚えてるのはまだ幼い頃なはずじゃ?」
「
そんなに一致するのか……世界にはそっくりさんが3人くらいはいるって聞いたことあるけど、ここまでなのは初めてなんじゃないかね。
「……やはり記憶にございませぬ。申し訳ないねぇ」
「……
「だーかーらーっ!! 何故そうすぐ泣くねん!!」
「
「言い訳すんなし、もう立派な大人でしょうに!! いいかい『暮桜』、俺に何かを期待してるみたいだが、俺はアンタの言う“零”とは違う。俺はこうなってから数ヵ月分の記憶しかないし、そもそも幼少期の記憶はもっと薄暗くて草臥れた幼稚園のモンだけだ。間違ってもそんな桜の丘で幼女と戯れるハッピーなお花畑じゃない」
そりゃ子供と遊べるんだったら嬉しいけどね!! あ、これ本音です。
「…………ま、そーゆーこった。そっくりさんってことだな、俺は。取り敢えず俺と“零”を結びつけるのは一旦諦めてくれ」
肩を竦めると、彼女はしょんぼりと俯いた。仕方ないね。
「……
そう、そうなんだよ。
「……
うんうん。
「……
ん?
「…………
ん゛ん゛!?
「
「ウェイウェイウェイウェイウェイウェイ!! 待て待て待っておい待てって!! なんで!? どっから刀取り出した!? そして何故俺にそれを向ける!?」
「
「顔が怖い!! 目が笑ってないよ!? あと叩くんだよ!? 明らかに斬るって言ったよね!? 俺の事KILLんでしょ!? 殺す気!?」
「嗚呼っ、
ぎゃあああああ!? 前髪だけ持ってかれた!? ふざけんな、パッツンなんて俺に似合うわきゃねーだろ!!
「
「誰が好き好んで斬られる奴があんねん!! そういうのはドMな奴に頼むんだよ!!」
「貴方
“零”のバカ!! ドM!! お前の所為で俺の命が今までで最大のピンチじゃねぇか!!
「クソっ、何でもすぐ斬りたがるのはちーちゃんさんに似たのか!? それともコイツの所為でちーちゃんさんが人斬り魔になったんか!? どっちにしろはた迷惑じゃアホぉ!!」
どうにかして逃げきらねば。本来の束さんからの任務は終えてるわけだし。
「三十六計逃げるに如かず、ってね!!」
「ま、
「えっ、なに?」
と、振り返った。そこにはめっちゃ驚いた顔でこっちを見て所在なさ気に手を伸ばす彼女。
その脚元から俺の方へは地面が無かった。芝生が、ない。空も途切れてる。周りに何もない。白い空間が広がるだけだ。
あれだな、自由に動けるゲームフィールドのエリア外に出た時みたいな。
「……これ、落ちるやつ?」
「……
うそん。ちょっと、助け――――、
◆
そこは真に不思議な空間だった。
どこまでも真っ暗な空間の中、大きな大きな星が浮かんでいる。その星の全ては
そんな結晶体が織り成す星にクロエ・クロニクルはいた。
「……ここ、どこでしょうか……?」
水晶体の星の構造は実に
現在彼女がいる場所は星の端に迫り出した、港の防波堤のような通路だ。幅は乗用車一台分が通る程度に狭い。
さて、お兄様ことペロちゃんと呼ばれる彼について行くことになって電脳ダイブを敢行して、気付けばこの無音の空間に1人だ。本来なら隣にはいつもヘラヘラした義兄がいて、しかも敬愛する篠ノ之束から連絡が飛んで来る筈なのだが、今回はそのどちらも音沙汰すらない。
「あ、あのー……お兄様、いませんかー……?」
控えめに読んでみるが、返事はなし。
「束様、通信は……ないですよね……」
しゅん、と肩を落とす。どうやら本格的な迷子らしい。
「……取り敢えず、暮桜の中なのは確からしいようですし、進んでみましょうか」
水晶の星の中は迷路だ。方向感覚さえ狂っていなければ星の中心部分へ向かっている筈。そう信じて彼女は無重力空間をふわふわと泳ぎながら移動する。
「……ここまでお兄様のシグナルはなし。束様からも通信は来ませんし……」
はぁぁ、と深い溜息。心にぽっかりと穴が空いたように寂しさが込み上げる。大体の時は2人が隣にいるのが当たり前で、1人になることなんてなかった。なったとしても、それは事前に2人がしっかり自分に事を伝えていた。
こうして突然放り出される経験がなかったからこそ、今が非常に不安でならない。このまままた1人になるんじゃないか、と。
そう思った直後である。ぽーん、と軽快な音がなり目の前にウィンドウが現れる。そこには星の全体図と、その一ヵ所から発せられるシグナルが表示されていた。
「お兄様……っ」
ホッと胸を撫で下ろす。1人で放置された訳ではないと確信して、思わず安堵した。
すぐさま壁と壁の隙間を飛び全速力でシグナルの方向へ。飛ぶだけでは飽き足らず、床から壁やら天井やら柱も蹴ってぐんぐんと迷路を進んだ。
ものの30秒程度でシグナルのすぐそばまで来た。
今いるのは大きな水晶柱が規則正しく円になってならんだ広場のその外側。その高くなった柱の壁を飛び越え、中へ。
「お兄様、お待たせ致し……まし、……お兄様!?」
そこには星の中でも特大の水晶が高く高く立っていた。
そして、その目の前に、腰から上が全部水晶の床に埋まってさながら犬神家の様相を呈する彼の姿があったのだった……。
次回は現実に戻りたい。
多分投稿は8月くらい。