ISの世界に来た名無しがペロちゃんと命名されてから頑張る話 作:いつのせキノン
お待たせしました。
ISの謎に迫りたかった。
ぼーっと電車から窓の外を眺める。うむ、久々に地に足着けて移動してる感あるな。
どうも、ペロちゃんです。今は電車に乗って織斑家を離れIS学園へ向かっております。隣にはくーちゃんが1人微動だにせず座ってる。
さて、何故俺らがのんびりこんなことをしてるのか。世間では平日、学生は夏休み、特にやることないからである。仕事ないからね、仕方ないね。まさかこの年になってニートやることになるとは微塵も思わなかったけど。
またもう1つ理由があって単純に束さんに呼び出されたからだ。何でも俺とくーちゃんに見てほしい物がIS学園にあるとか。
という事で。
「チキチキ、見るモノ当てちゃおうゲーム」
「デジャヴあるので辞退しますね」
最近くーちゃんが冷たい。主に前々回くらいで織斑君達に混ざってこーいとやった日くらいから。ペロちゃん構ってもらえなくて寂しいです。
まぁしかし束さんから何も詳細を聞いてないのだ。一体なんだろう。
「私とお兄様を呼び出した、ということはそれなりの物と言う事じゃないでしょうか。普段なら束様1人でどうとでもなりますし、それでもお兄様がいれば大体の事はできるでしょうし」
「え、なに、また国家機密?」
「またって、以前にもやらかしたんですか……?」
「まぁくーちゃんのもそうだし、電脳ダイブの時も触れちゃいけないようなモノ見ちゃったし……」
ストレスから女装するおじさんズの動画とか見たくなかった。一生モンのトラウマだ。
他愛のない世間話を交わしつつ海岸線近くの駅で下車。バスに乗り込みIS学園前まで向かった。
IS学園の立地と言うのは実に特殊で、浅瀬を埋め立てたりそこからフロート施設で拡張したものらしい。本州との行き来は専用モノレールのみ。なお、これ以外の方法で許可なく入ろうとすると問答無用で捕まるんだとか。
専用モノレール駅前で下車。周りの女性から白い目で見られた。
と言うかこの辺女性多いな。男性が全く見えない。IS学園に近いってのもあるんだろうが、ここまで顕著に表れるのか。
「おーい」
あ、束さん見っけ。隣にはちーちゃんさんもいる。
「てか束さんその恰好どしたん?」
一瞬何事かと思った。
いつぞやから持っていた赤いアンダーリムの眼鏡と、今は髪をポニーテールにして何故かIS学園の制服を着てる。改造してあるのか、いつものドレスに近い形だ。
「ちーちゃんが無理矢理ね」
「ちーちゃんさんの趣味か」
「中々王道をついて来ますね」
「お前ら本当に地獄が見たいらしいな?」
「ジョークだから俺にだけアイアンクローしようとするのやめません?」
聞いたところによると束さん目立つから変装ってことらしい。年齢考えろよって言ったら束さんから無言の肩パン。すまんて。
「でだ。俺達に見せたいものって何ぞや?」
「着いてからのお楽しみってことでここは1つ」
「しかしそうなりますとお兄様がIS学園に入らなければなりませんよね? どこにも籍がないのに大丈夫でしょうか?」
「くーちゃんも大体同じ状況じゃね?」
「まーそこはほら、お客様って扱いでちーちゃんが何とかしてくれるし、ね?」
「…………無関係なら絶対にしないがな。取り敢えず、お前達2人は束と違ってかなり厄介だからな。身分的に処理が面倒になりすぎないよう、中では私の指示に従ってもらう。束の指示は聞くなよ」
「だってさ束さん、信用されてないね」
「ペロちゃんナチュラルに心抉るのやめよっか?」
「だって事実だし……」
「お前初日に来たときも散々やらかしただろうが。忘れたとは言わせんぞ。何なら首輪を着けてやろう、プレイ用の」
「遠慮しとく」
「私も、首輪はちょっと……趣味が悪いです……」
「そもそもどこで入手したし。如何わしい店か?」
「誰が行くか。冗談だ、ただの犬の首輪だ」
「首輪を着けようとする時点で間違ってるという私のツッコミって意味ないんですかね……」
「まぁちょっとでもやらかせばちーちゃんが刀抜いてくるから」
「やべぇな、ネギも大根もない今じゃ太刀打ちできんぞ」
「前から思ってたんだけど寧ろ何で野菜でチャンバラできんのさ……」
「わりと気合いで」
「長物があれば大抵のは斬れるだろ」
「それできるのちーちゃんだけだから……」
「で、具体的にどうするよ。全く話が解決してない訳だが」
「お前はスーツにでも着替えろ。後は見学者証を下げてれば怪しまれない筈だ。クロニクルは制服で良いだろう」
あれ、IS学園に男性教員は…………そうか、1人だけいたな。なら来賓って感じで行けそう。
「という訳で着替えてきた」
「ました」
俺、スーツ。くーちゃんは学園のスタンダードな無改造の制服だ。
「半分冗談で言ったのにどっからスーツを調達してくるんだ……」
そりゃ量子化してあるんですもの。
深くは突っ込まれず「取り敢えず行くぞ」とちーちゃんさんが先を行きぞろぞろと移動。モノレールに乗り込みIS学園へ。あ、ゲートは特に問題なく行けたよ。俺だけすんごい検査されたけど。大丈夫、怪しい物全部量子化してるんで。便利で助かった。
モノレールもかなり快適で流石って感じ。来たときは在来線だった訳だけど揺れも少ないし加速度もそこまで感じないから結構高性能っぽい。
そんなモノレール内で俺は他の女子生徒と思わしき人から冷たい視線をいただきました。うーん、目の敵にされてる。
しかし特に大事にもならず無事IS学園に到着した。来賓の肩書は非常に重要ってこった。
IS学園ってのはべらぼうに広い。これは某夢の国くらいあるんじゃないか。それくらいのテーマパークが建っても可笑しくはない敷地面積だ。
「でっかいアリーナだねぇ。ISで飛び回るにはちと狭いけど」
「訓練機やリミッターの付いた奴はアレで充分だ。戦場で飛び回る軍事用と比べるな」
ぼけーっとアリーナを見上げて言ってたら
IS学園内の施設中でも取り分け大きいのがアリーナだ。いくつかあるらしく野球ドームとかよりずっとでかい、んじゃないだろうか。
てかさ、よくあるんだけどさ、あの東京ドーム何個分~ってやつ。あれさ、東京都民とかにしかわからんじゃん。地方から出ない田舎者の感覚からすると全然具体的じゃない訳よ。もっと工夫した言い方すればいいのに。と、田舎者丸出しの発言してみたり。
受付を通過して案内されたのは人気のない研究棟だ。さっきまでは夏休み中だがそれなりに女子とすれ違ったが、ここは人の気配が全くない。何となしにスキャンしてみたけど、地上には人っ子1人いなかった。
しかしこの棟の地上部分に用があった訳じゃないらしく、そのまま棟内の階段を地下に下り始めた。何やら本格的な研究施設らしい。
3階分程度下ったところにはエレベーターが設置されていて、ここから更に降りる。乗り込んでから30秒ほどしてエレベーターの着いた場所は無機質な薄暗い廊下だった。結構先まで続いているらしく、裸眼だと先は見えない。
そのフロアは格子状に区切られた区画らしく、左右前後の一定間隔に部屋と廊下が並んでいて方向音痴は絶対に迷う。よくホテルの廊下でどっち行けばエレベーターだったか忘れる奴だ。
そしてちーちゃんさんはそのフロアの中でもエレベーターから一番遠いであろう部屋に案内してくれた。位置的に結構重要な機密なんじゃないか、これ。
中には壁一面に大型の装置。多分スパコン。
それよりも目を引くのが部屋中央の台座に鎮座する灰色の塊だ。
「……これISか?」
俺の質問にちーちゃんさんは「そうだ」と一言。
んー……しかしなぁ。
「こいつ、“生きてる”か?」
しかしだ。どう見ても、“死んでる”。
いや、これは俺の独自の感覚なんだけど。ISの溶け合ってるおかげか、大体のISは近付けば稼働してるかどうか、コアの反応も密に読み取れる。が、目の前の灰色のISは全然そんな波長みたいなのが出てこない。前者を“生”と表現するなら後者“死”って感じ。
「ね、ちーちゃん。ペロちゃん呼んで良かったでしょ?」
「……そうだな。やはり間違いではなかった」
隣で2人が何か仰ってるが。
「なぁ束さん。見せたかったのってこれなのか?」
「そそ。長らく秘密にしてたんだけど、丁度良い機会だから例外中の例外なペロちゃんに見てほしかったんだ。会ったばっかりの時ペロちゃんの思考がモニタリングできたじゃん? あれってISのコアが相互に情報を交換するためのシステムだったんだけど外部から任意に情報を取り出すのができなかったんだよ」
ああ、
「しかしあん時は俺の思考垂れ流しだったろ?」
「偶然だけどカマかけた形になったんだよね。『機械が相手なら、束さんはいくらでも相手ができるッ。つまりッ、君の頭の中は覗き放題な訳だよ!!』って」
「なるほど。俺はそれを無意識に信じ切って全部見せちゃった訳か」
束さんのあーんなことやこーんなことを妄想したアレね。
「……ペロちゃんちょっとこっち向こうか?」
「忘れます、ごめんなさい。出来心だったんです。若気の至りです。俺は悪くねぇ」
てか今も全部垂れ流しか。羞恥プレイか、やめれ。
「まー今はそれはいいや、おいおい話はするから」
えっ。
「で、本題はこのIS――『暮桜』がどうなってるのか、ペロちゃんに見てほしいの」
「見てほしい……はぁ、別に俺が見てどうなるかはようわからんけど。協力くらいはいくらでもするぜよ。で、具体的には何を?」
「簡潔に言っちゃうと電脳ダイブ」
「なんだ、得意分野か」
「おい、聞き捨てならんぞ。電脳ダイブは本来ならご法度モノの筈だが?」
「今更それを俺に聞くかねちーちゃんさん」
「今更だよちーちゃん」
「なぁ?」
「ねぇ?」
「……………………?」
「そう難しい顔しなさんな」
「お前らの所為だからな?」
「織斑様、血管が浮き出てますが。切れそうですね」
「もうキレてる」
そいつぁ大変だ。はいテイッシュ。
「すまん……じゃない!!」
ああん勿体ない!! ポケットティッシュ床に叩きつけないで!!
すぐさまティッシュを拾って鼻をかみ、ゴミはゴミ箱へ……ゴミ箱がないやん。仕方ない、戻ったら捨てよう。
「ゴミ箱くらい設置しないの?」
「あったらお前ごと粗大ごみに突っ込んでる」
ちーちゃんさん冗談キツいや……。
そろそろこの章も終盤。次の次くらいの章で完結かな。