ISの世界に来た名無しがペロちゃんと命名されてから頑張る話 作:いつのせキノン
なぜ俺が織斑家から出たのか。単純に裏の目を引くのと、周辺把握のための視察である。
ちゃっかりタオルと水筒は量子化してあるので外に出る分には何も問題ない。熱中症対策バッチリ……かと思えば帽子はない。いや、あるにはあるんだが俺には帽子が致命的なくらいに似合わないと束さんに言われて以来2度と被るもんかと誓った。くーちゃんも微妙な顔してたんだぜ……? フォローされた時は寧ろ辛かった。
まぁ日差しに関しては迷彩を応用して対策してるので問題はない。
出てからしばらく、路地を迂回したりして監視の目を殆ど潰し終えて一息つこうかと近くの公園に入ると、少年達が野球をして遊んでた。と言っても本格的なものではなくて百均で買えるようなオモチャのやつ。
「平和だねぇ」
ついさっきまで裏稼業の人とドンパチしてた身としては実に良き光景かな。やはりのんびりできる時間ってのはいいもんだよな。
と、しばらく公園のベンチでボケーっとしてると少年達のボールが足元に転がってきた。
「にいちゃーん、ボールー!!」
「おうよー、行くぞ少年!!」
ボールを取って山なりに。放物線を描いたボールは大きく手を振る少年Aの元にキレイに落ちていって、見事キャッチ。ナイスキャッチだ、いい野手になれるぞ。
取り敢えず休憩終わり。取り巻きもあらかた片付いたので織斑家に戻るとしよう。
と、公園を出たところで横合いから物凄い殺気を感じて振り向くと……、
「げぇっ、ブリュンヒルデ!?」
冗談か何かと思ったんだ。けど、夢でも幻でもねぇ。俺は今、確かにこの視界で捉えている。
――――あのブリュンヒルデことちーちゃんさんが鬼の形相で俺の方に向かってスーパーの袋を持ちながら十傑集走りで追いかけてきていることを!!
「そこを動くなよ貴様!!」
「何で!?」
「大人しく捕まれェ!!」
「理不尽にも程があるよアンタぁ!!」
取り敢えず、逃げる!!
「目的は何だ!? 俺がいつアンタに何をしたって!?」
「黙れっ、今はただ大人しくしてれば全て解決する!!」
「こんなに話聞いてくれない人初めてだわ畜生め!!」
「話が聞きたいのはこっちだ!! 色々束と好き勝手やってくれたおかげで誰が苦労していると思ってる!?」
「それこそ俺の所為じゃなくて束さんの影響じゃねぇかやめてくれよマジで!!」
てかスーツとヒールで何で追いかけてこれんだよ!? 上半身固定されてるおかげで余計怖いわ!!
「そういう貴様こそサンダルで走ってるだろうがッ!!」
俺と大差なかった。
てかちーちゃんさん速い!! もう追いつかれる!?
「フンッ!!」
「あぶねっ!? 大根なんて振り回すんじゃねぇよ!!」
「丁度いい武器がなかった」
「くっ、ならばぁ!!」
「なっ、それはネギだぞッ」
「うるせぇ!! スーパーの袋にネギと人参しかなかったらネギ武器にするしかねぇじゃねぇか!! ネギナメんなよ大根ブレード使いめ!!」
ビニール袋から飛び出してるネギを拝借。武器になるなら何でもいいんだよ!!
振るわれる大根をネギで弾き隙あらばとネギを突き出す。ちーちゃんさんは冷静に対応、大根の切っ先でネギの分かれた部分を捉えて器用にいなす。懐に大根が迫るが、俺は体を捻って回避し再びネギで斬りかかれば大根で斬り結ばれる。
「やるな、ちーちゃんさん!!」
「何を言うかと思えばそれか。私の腕は鈍ったわけではないぞ。それより貴様の力量の方が本来ならおかしいはずだが?」
「暇さえあれば大体の時に修行を重ねてきた俺をなめてもらっちゃあ困るってもんよォッ!! 例え相手がブリュンヒルデだろうが負ける道理は無い!!」
「私の本気がこの程度だとでも?」
「今はまだ、だろ? アンタも俺も本調子じゃない」
ズザザザッ、と地面を全て停止。俺もちーちゃんさんも油断なくネギと大根を構えた。俺はフェンシングの用に半身になって、ちーちゃんさんは正眼にだ。
「ママー、あの人たち何してるのー?」
「しっ、見ちゃいけません!!」
「なんだアレ、撮影?」
「いやネタだろ」
「●イッターにあげとこ」
…………ふむ。
「ちーちゃんさん。やめにしよう。これただの恥晒しだ」
「……あぁ、それが賢明な判断と言うものだ」
とか言いつつちーちゃんさん既に顔真っ赤なんですけど。
「あ、やっぱりペロちゃんとちーちゃんじゃん」
「んぉ? 束さんじゃん。なんでここに?」
「何でって、ここ家の前だよ?」
あらほんと。気付けば家の前まで野菜でチャンバラしてたみたい。
「あとほら、ツ●ッターに動画上げられてたから気になって出てきたの」
束さんが見せてきたのは僅か数秒の動画。高速で移動する2人が鉄と鉄をぶつけ合うような甲高い音を立てて走っていく光景だった。顔バレはしてないっぽい。
「取り敢えずおかえりペロちゃん。それと、久しぶりだねちーちゃんっ。いやぁ、いい画が撮れて束さん大満足!!」
「消せ」
「もう、顔真っ赤なちーちゃんもかわゆいよね~。これなんかさ、」
「消せ」
「おっとぉ、ダメだよちーちゃん。これは束さんがからかう、もといじっくり見る為に保存を」
「消せ」
「あのっ、ちょっと、肩、離してもらえ」
「消せ」
「ひっ!? しゅみません今すぐ消し」
「消せ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!? 肩砕ける、千切れるからぁ!! 消しました!! 消しました、ほらぁっ!!」
「最初から素直にそうしろ」
肩をギリギリと変な音を立てながら痛めつけられてる束さん。自業自得だな。
涙目で懇願しながらタブレットをかざして証拠隠滅をアピール。ペロちゃん知ってるよ。その端末は無線でサーバに繋がれてて常にバックアップがされてるってこと。
ようはさっきチラッと見えた画像もちーちゃんさんが気付かない内に既に保存されてしまったという訳だ。束さんバレた時に殺されるんじゃねーのこれ。
「あ、千冬姉おかえり。助手さんも」
「ただいま」
「もっかいお邪魔しますよーっと」
色々とあったが無事帰宅だ。自分ちじゃないけど。
中では織斑君が晩御飯の支度をしてたらしくエプロン姿で出迎えてくれた。なるほど、主夫も似合うな。素材がいいと見映えは全部よくなるんだな、うんうん。
「うーっす」
「お帰りなさいませ、お兄様。外はどうでしたか?」
「おう、ぜーんぶ綺麗に掃除してきた。これでまたしばらくは大丈夫だろ」
リビングではくーちゃんがお茶をすすりながらテレビを見て休憩中。平日夕方のアニメ番組だ。
「面白い?」
「たまたまつけたらやってたので……そうですね、一見違和感がなさそうに思わせながら他生物を奴隷にして戦わせるというのはどうかと思いました」
「くーちゃんそれ触れちゃいかんやつだ」
悪い部分だけたっぷり言っちゃったよ。過激派団体が黙っちゃいないぞ……。
「あ、出たついでにお茶買ってくればよかった。喉乾いたし」
「麦茶ならこちらに」
「おぉ、サンクス」
「くーちゃん束さんのもあるー? あとちーちゃんの分」
「はい。どうぞ」
「ありがとー。はいちーちゃん」
「ん、助かる……………………じゃない」
コップ一杯分飲みきってからのノリツッコミ。冴えてる。
「我が家で我が物顔とは随分偉くなったな」
「いやぁ、それほどでも」
「誉めてない。で、その2人は誰か説明してもらおうか」
「ども、ペロちゃんです!!」
「クロエ・クロニクルと申します。以後、お見知りおきを」
「2人はねー束さんのー……なんだ?」
「今更やね」
「考えてみますと、どういった関係なのかは明言していませんでしたね」
「まーこんな感じで、ほとんど成り行きで一緒って感じだね」
「2人して明らかにお前と接点を持てないだろう……」
「そこはほら、運命の赤い糸がー的な?」
「ついに頭もイカれたか?」
「ひどい!!」
「赤い糸の存在信じてるとかひくわー」
「束様、そろそろ妄想はおやめになった方が身のためですよ」
「待って、なんで2人ともちーちゃんの味方なの? なんで!? ちーちゃんか!? ちーちゃんが可愛いからか!?」
何言ってんだ束さん。
「う、うううぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!! いっくぅぅぅぅぅぅん!! ペロちゃんとくーちゃんとちーちゃんがああああああああああああ!!」
味方を求めて織斑君へ泣きつく束さん。少年に泣きつくとは大人としてどうよ?
「うおっと、束さん、どうしました?」
「酷いんだよあの3人!! 絶対束さんの方がいいのにィ!!」
「束さん……俺も、千冬姉の方がいい気がします」
「そこは慰めてよ!?」
束さん、撃沈の巻。完。
「終わってたまるかぁー!! ちーちゃん勝負!!」
「一体何の勝負だ。騒ぐなら容赦せんぞ」
「ふふっ、真剣勝負こそ望むところってモンだよ!!」
「一夏、夕飯作ってくれ」
「敵前逃亡とは何事かぁー!?」
「おい、ぺ……お前」
「ペロちゃんって素直に言ってくれてもええんやで?」
「誰が呼ぶか。取り敢えずコイツを黙らせてくれ」
「ペロちゃんって読んだらおk」
「……やれ」
「Please,repeat after me. Pero-chang!!」
「…………束を、黙らせろ……ぺ、……」
「ぺ?」
「……ペロ……ちゃん……、」
「ペロちゃんいただきましたー!! じゃあ束さん、一回お口にチャックして座ろうな?」
「くっ、いくらペロちゃんでも束さんとちーちゃんの因縁の対決は邪魔立てさせn」
「あっ、束さんの足元に
「ッッッッ!!!!???? だ、騙されないぞっ!! 束さんだって学習をだね……!!」
「…………、」
「ちょっと、なんで黙り込んで……何か言ってよぉ!?」
「今服の中に入ったな」
「ヒェッ……………………」
「……見事に気絶したな」
「扱い方はバッチリ」
「流石にこんな綺麗な部屋にアレが出る筈ありませんよね」
「一夏が掃除好きだからな」
「さっすが織斑君。束さんにも是非見習ってほしいね」
「ってか、束さんどうするんだよ千冬姉……?」
「…………そのまま転がしておけ」
翌朝、体の節々を痛めた束さんがとっても不機嫌な目で俺を睨んできた。許せ束さん、これも織斑家のためだ。
「……織斑千冬様は、思った以上にドSでしたね」
「それはそっと心の中にしまっておけ」
久々に束さん弄れて楽しかったです(小並感)
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