ISの世界に来た名無しがペロちゃんと命名されてから頑張る話 作:いつのせキノン
相変わらずのクオリティだけど、よろしくお願いします。
「ハローハロー。こちらPです。お久しぶり」
「ええ、ええ、久しぶりねぇ、P」
「………………………………、」
挨拶したら酷くイラついた顔で睨まれた。まぁわからんでもないが。
「まぁ許しておくれよ。仕方なく迎撃したんだから」
「こっちは危うく物理的に首が飛びかねないってのに何てお気楽モンなのよアンタはぁ!?」
ドイツ支部に来たら以前北海に落とした2人がいた。お陰でめっちゃ絡まれてます。完全に因縁つけられてるよこれ。
激昂して突っかかってきているのは真っ赤な髪に大きな茶色のゴーグルをかけた女性。身長は160くらいか。体型も平均的。こっちが黒いIS――ラファール・リヴァイヴ・カスタム・タイプ
「………………………………、」
次に、感情の読めないようなジト目でずっっっっとこっちを睨んでいるのは緑のIS――
ともかく、来てそうそうすぐに目を付けられた俺。Mとオータムはさっさと行ってしまったので俺に味方はいない。2人には後で靴ズレが起こりやすくなる呪いかけてやる。(必ず靴ズレするとは言ってない)
「取り敢えずソファ座ろうや。小旅行ちかれたべ」
「仕事でしょ仕事。全く、なんでこんな奴信用するんだか……、」
「その“こんな奴”に落とされた人はどこかなー?」
「ぶっ●す!!」
「はいはいホテルのエントランスでは静かにねー」
向かってこようとするリネの頭を片手で押さえると振り回した腕が俺を叩こうとして空を切る。何これ面白い。
「フーコさんや。話があるなら飲み物飲みながらでどうよ」
「……のった」
フーコがコクリと頷くのを見てどうやら喋るのが苦手な訳ではないと確信。元々無口なだけみたいだ。
表のワゴンで3人分のコーヒーを購入してエントランスの端にあるソファーに座った。
「で、俺に話ってのは?」
「暇だったから」
「……幻聴か?」
「正真正銘、アンタは正常な聴覚の持ち主よ。残念だったわね」
「暇だからって普通因縁相手捕まえて話するかぁ?」
「……因縁あるなら、尚更」
…………もしや謝れと?
「いや、謝れってんなら俺だって謝罪くらいできるわ」
「そういうことじゃないのよ。誰でもできるような平謝りなんて誠意がないわ」
だったら何やねん。そもそもあれは不可抗力とか正当防衛なのであってぶっちゃけ俺に非はない。断言しよう。
「全く、男はいつだって女の尻に敷かれにゃならんのか……」
「そーよ。取り敢えずザマミロ」
「お? 喧嘩売ってんの? 買うよ? まずは自動ドアに反応しなくなる呪い、次に食事中に舌を噛む呪いだ」
「するならもっとマシな呪いにしなさいよ……」
「ぷふっ……中々ユニーク」
リネには呆れた顔、フーコには小さい表情ながら笑われた。しかしフーコは笑うんだな。てっきり無表情キャラで押し込んでくるんじゃないかと思ったんだが。
「そんなことより、アンタには聞きたいことがあるのよ」
聞きたいこと?
「ああ、彼女いません」
「誰がそんな質問するかっての」
叩かれた。
「単純な話。アンタに教導の許可を聞きに来たの」
教導。教え導く。つまりだ、俺に先生やってほしいってことになる。
「それはまた何で? ここなら俺よりオータムやMがいるだろ。一時的な共闘関係でしかない俺に頼るより実戦経験で腹の探り合いも必要ないあっちの方がよっぽど賢い選択だ」
「私とフーコのことバカって言いたい訳?」
「そんなことはないんだがねぇ。俺は正直教えるって柄じゃねぇよ。スタイルだって全部トリッキーを根底に置いた応用だし、基本は初見殺しって奴だ。他人に教えちゃ俺が不利になるだけでメリットが無い」
「むぅ……、」
俺の言葉に黙り込むリネ。言い過ぎたかな……。
「……補足」
「フーコどーぞ」
「……私とリネは何も技を教えて欲しいだとかそういうのではなく、純粋にIS稼働時間を稼ぎたいのが本心。正直なところまだ慣れてない」
「ああ、なるほど。相性の問題か」
ISには適性クラスというものがある。簡単に言って、ようはISとの相性だ。ISは稼働時間が長ければ長いほど経験が蓄積されてより搭乗者に馴染む。って束さんが言ってた。
「まぁそんぐらいなら。俺とてISを動かしたいのは同意見だ。時間があればいくらでも付き合うよ」
「おいP、スコールが呼んでるぞ」
しばらく3人で駄弁っていると奥からMがやってきた。言葉通りスコールさんから俺にお呼び出しがかかっているらしい。
「今行く。そんじゃあ2人ともまたその内に」
「……もう帰るの?」
「これが終わったら、ちっとばかし遠出をね。お達者で」
「……うん、また」
「変なとこで野垂れ死にするんじゃないわよー」
「わかってらぁ」
ひらひらと手を振りMの元へ。しばし無言で歩いてエレベーターに乗り込むとMが不思議そうな表情でこちらを見ていた。
「リネとフーコとは仲が良いのか?」
「仲が良い、ってのは語弊があるんじゃないかねぇ。元は追う側と追われる側で、勝者と敗者だ。どちらかと因縁関係って方が正しいな」
「そう、か……いやなに、面識もあまりないのに話していたのが気になったのでな」
「性格的にわかるだろうけど、俺ってば他人に対して遠慮ないからね。友達いっぱい作れる自信はあるぞ。いすぎてたまに名前忘れるけど」
人数いっぱいだから仕方ないね。
エレベーターを降りてしばらく歩き呼び出された部屋にMと入る。中で待ってたのはソファに腰をかけるスコールさんと、対面に腕を固定されて立たされている、俺とタイマンを張ったあの人だ。
先日は急いでたのでよく見てなかったが、サラサラしたロングヘアーで根本は純白でありながら毛先に向かうにつれて綺麗にアメジストに変わってる。目は深い赤、紅とも言える。つり目で気が強そうだ、実際強いんだが。
「ご苦労様。話があるからどうぞ座ってちょうだい」
「そんじゃ、お言葉に甘えて」
適当に椅子を引っ張ってきて2人の間くらいに腰を下ろす。Mはと言うとコーヒーを準備していた。視線だけこちらに向けてきているが…………え? 俺にコーヒー? 今は気分じゃないからいいよ、紅茶の方が好きだし。視線でそう返したらちょっと残念そうな雰囲気になってた。美味しいのかな……?
「それでなんだけど。P、あなた話聞いてる?」
「コーヒー美味しいのかなと考えてたので全くこれっぽっちも聞いてませんでした」
「……素直過ぎるのも問題ね……」
目頭を入念に解すスコールさん。正直者は得するみたいね、お叱り回避だ。
「……まぁいいわ。取り敢えず、Mから話は聞いたの。彼女の処遇について、処分には反対したいって」
「断固反対って程でもないんだが……まぁ一般人の俺はちと理不尽過ぎないかなぁと思った訳でしてね。それに彼女はISの扱いが上手い。是非とも俺は話を聞きたいね。そこのアンタも、ちょっとは抵抗したらどうよ? やけに大人しいけど」
「……無駄に口を開こうと、どうせ私は処分される。これは好きで黙っているだけだ」
「いやぁ、もうちょっとくらい生に興味は……あ、うん、ごめんなさい、黙るから睨まないで」
視線だけで人を殺せそうだなこの人。殺気をひしひしと感じる。
「スコールさん、彼女のことは何て呼べばいい?」
「名前も喋らないのよね。前々からわかってたアレサってネームで今は通してるわ」
コードネームみたいなものか。チラッとアレサ氏を見ると勝手に呼べとでも言わんばかりの視線を向けられた。
「で、話なんだけどね。
「預かる? 面倒見ろってことか?」
「そう。貴方の意見だもの、貴方に責任があるんだから。それに、死にたがりには生かす拷問が相性ピッタリ、是非情報も引き出してもらえると助かるわ」
……ぬぅ、これはあれか、俺の意見が組み込まれ、スコールさんは処分という面倒なことをしなくて済む、かつ良ければ情報が貰える。損得で言えば向こうは得しかしてないのに、こっちは面倒を押し付けられた。相変わらず処理が上手いな、利益を最大限にするにはもってこいだ。
「正直なとこ、俺の一存じゃ決定は無理だ。オーナーに聞いてみないと」
「貴方の上司ってこと?」
「上司……っつうよりは、俺がその人の道具みたいなものさ。色々訳ありなんでね」
こればかりは束さんの一存だ。断ってもいいが、それはそれで後味が悪い。
「返事は早めにするよ。ただ、期待はしないでくれ」
「ええ、期待して待ってるわ」
そのスコールさんの笑みが嫌なくらいに印象に残ったのは言うまでもないことかもしれない。
次回は9月になるかもやしれぬ……現実から逃げたい