ISの世界に来た名無しがペロちゃんと命名されてから頑張る話 作:いつのせキノン
危なかった。マジで危なかった。まさかノーロックでミサイル撃つなんて完全に予想外だった。咄嗟に真後ろにたまたま持ってたパルスキャノンで迎撃、足止めも兼ねてバレルロールで真横に付けて更にパルスキャノンの引き金を引くがダメージが浅かった。しかしこちらは熱光学迷彩がある限りレーダーでしか居場所は探知できないのでそのまま体勢を崩して速度の落ちた黒いISの前に陣取り再び、今度は3度引き金を引いた。流石に死にはしないだろうが、束さんお手製の軍用武装をバージョンアップさせたものだ、そう簡単には追ってこれまい。
そんな訳で俺は何とかドイツ、オーストリアを抜けてイタリア上空に到達。徐々に高度を落として行く。
『ペロちゃん、ポンペイ遺跡まで来れる?』
『合点承知之助』
有名な観光地ですねわかります。
ISに送られてくる地点へナビゲーション通りにゆっくり降下。観光客もいるのでスラスターは使わない。ようやっと束さんが見えたところでまたまた通信。
『路地裏にトラックがあるからそこまで飛びながらついてきて』
ポンペイ遺跡は世界的にも有名な観光名所でもあるためか、ジャパニーズの束さんは全然浮いていない。なるほど、よく考えたものだ。
しばらくしてようやく束さんの言うトラックが見えた。周辺には工事中だとか通行止めだとか色々書いてある看板もあるので他の人は来ないようだ。
これでやっと肩の力が抜けるってもんよ。
完全に一通りの無いところで熱光学迷彩を解除。トラックに近付いて円筒を慎重にカバーの掛かった荷台に移して終わりである。疲れた。
ヘッドパーツのみを量子化してしまい込み新鮮な空気を吸う。これぞ開放感。
「ふいー」
「いやー、お疲れ様。初の実戦で好成績だったね」
「ちと予想外な事もありましたがね。演習のお陰でなんとかまぁと言ったところ」
実際ちょっと危なかったと冒頭でも言った訳ですしおすし。
「取り敢えず戻ろっか。ペロちゃんは荷台でお荷物の固定と警護お願いね」
「あいさぁ。帰るまでが遠足、ってねぇ」
我が家よ、私は帰って来たァ!!
という事で束さんとペロちゃんの家に無事到着しました。因みに俺が拾ってきた(?)全裸の少女は束さんが引き取って地下に持ってった。色々手を尽くして健康体にして話を聞くらしい。それまで一週間はかかるんだと。
『さて、乙女の裸をじろじろ見るペロちゃんはどっか行っててね~?』
帰宅直後の束さんとのやりとりの一節である。そりゃ確かに俺も男だよ。健全な。そう、KENZENな男児なんだよ!! でもさ、流石にモルモットにされてる少女を目の前で見て興奮とかどうよ? それ以前に萎える。見ましたよ、裸。見ちゃったよ、局部とか。でもさ、それは仕方ないと言ってよ。見たくてみたわけじゃないんだ、そう!! 見たくてみたんじゃない!! 大事なこと(ry
それより俺はというと帰ってきて風呂入って早めの夕食を取らせてもらってさっさと就寝準備。疲れたんだ。もう疲れたよパトラッシュ……。
夕食は束さんの分も作ってラップかけといたし、メールもしといたから大丈夫。後は休憩だ。明日は昼まで寝よう。トレーニング? 明後日から本気出す。マジで。
クソネミ、スヤァ(˘ω˘ )
朝起きたら日付が四日も経ってて俺の上に銀髪美少女が馬乗りになっていた。
な、何を言ってるかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……。量子力学とか瞬間移動とか、そんあチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。てか味わってるぜ、現在進行形で。俺四日も寝てたって、どんだけ疲れてたんだよ……。
「……誰?」
「へっ? あっ、申し訳ありません、面白そうなものがあったので……、」
そう言う割には俺の上をどかないのね。
「で、面白そうなものって?」
「これ、です」
ほうほう……。うん、君何で俺の股間の方見てるのかな?
「君にはまだ早いから、またいつか、ね?」
でないと俺が羞恥心で死んでまう。
「え? でも、興味が、」
「興味は持たなかった、いいね?」
「アッハイ」
さて、うむ。
「降りてもらって早速だけど、誰?」
「私は、クロエ・クロニクルと申します、ペロ様」
ペロ様って誰やねん。完全に俺しかいないじゃん。誰だよ勝手に名前決めた奴。
「ああ、うん。クロエ・ルメールね」
「クロニクルです」
「キルラキルか」
「クロニクルです」
「ラグナロク?」
「ク・ロ・ニ・ク・ル、ですっ」
おぉっと、冗談だからそんな形相で睨まないでおくれ。君本来白目のとこ黒くて見慣れないんだよ……。
「あ、これですか? これは束様が私を生かしてくれた代償と言いますか……取り敢えず、身体に異常は無い事は確かです」
「ははぁ、マジか。カラコンもないみたいだし」
「ですので、これからよろしくお願いします、ペロ様……いえ、先輩とお呼びした方が良いのでしょうか?」
うん、話が飛躍しすぎだゾ☆
「待とうか。まず俺は何故君がここにいるのか理解できない。いや、確かに君を研究所から持ち出したのは他ならぬ俺な訳だが――――、」
「で、ではッ、ペロ様は私の王子様ということですかッ!?」
ガッと目にも止まらぬ勢いで両手を取られスゴいキラキラした眼でこっちを見てきた。さて、どうしようか。……どうしろってんだよ。
ハイパーセンサーを起動。いつもの俺の部屋だったが、部屋の角にあるテーブルには見覚えのない絵本があった。ああ、王子様ってピンチの時に現れて颯爽と事件を解決する的なそういう……。
「あー。王子様は違うな。どちらかってぇと、俺は誘拐犯じゃないか? 君の生まれは、わかってるとは思うけど試験管ベイビーで君の出身はあの施設になっちまう。これじゃ俺は犯罪者だ、共犯いるけど」
そんな言葉に目の前の少女、クロエ・クロスギルは首を横に振った。あ、これはね、この子の白目の部分が黒いのと語呂を掛け合わせてね?
「クロニクルです。とにかく、ペロ様のおっしゃることは間違っております。私は、あの場所が嫌いでした。何も出来ない、起きたら痛いことしかしないし、周りは皆私を気持ち悪い眼で見てくるし、あとは冷たい水の中で眠らされるだけ。うんざりしてました。しかし、ペロ様は危険を顧みずに私をあの地獄から救い出し、束様は私にもう一度生きる権利をくれました。私は感謝こそすれど、お二方を憎むことなど出来るはずがありません!!」
ばばーん、と、こう、集中線が入りそうなキメ顔。多分素でやってる。
「いよっ、くーちゃんよく言ってくれましたっ!!」
「あ、共犯者」
扉を開け放ってハンカチ咥えた束さんが入ってきた。
「くーちゃん、束さんはとっても嬉しいよっ。くーちゃんが束さんにこんなにも愛をくれるだなんて……!!」
「そんな、私は、ただ当たり前のことを言ったまでです。本当に、ありがとうございます、束様」
「くーちゃん!!」
「束様……!!」
あーお腹すいたなー。●イジョイでも食べて腹ごしらえでもしよっかなー。あ、そう言えば賞味期限切れそうなレトルトカレーあったっけなぁ。あれ早めに消化しないとねー。束さん達の活劇は華麗にスルー、今日のご飯はカレーにするー。…………うん、ごめん。
「色々話したいことはあるけど、腹減った。束さん、話し合いも兼ねてメシにしましょうや」
「さんせー。くーちゃんも食べるよね?」
「えと、ご一緒して、良いのですか?」
「遠慮しないでしょー、束さんとくーちゃんの仲じゃない!! ほらそれに、流動食も終わりだから、普通に食べられるんだよっ」
「そ、そうですか。有難いです」
なんだろう、見る限りまだこんな空気に慣れていない感じ。まぁ良くも悪くも束さんマイペースだしなぁ。
「ペロちゃんには言われたくないなぁ?」
束さん足引っ掛けようとしないで、寝起きでちょっとバランス感覚悪いんだから……。
「そう言えばクロエ・クロニクル。君のことはなんて呼べば良い?」
「それは……お好きなように、」
「ペロちゃんもくーちゃんって呼ぶことッ!! これはご主人様の命令っ、はいけってー!!」
「はいな。じゃあくーちゃん、何やらこれから迷惑がかかるかもしれんが、よろしく」
「あ、え、は、はい。よろしくお願いします?」
「ああん、もうっ、首傾げるくーちゃん可愛すぎぃ!!」
「束さんやめてやれよ。くーちゃんめっちゃ戸惑ってる。胸に埋まるとか羨まsゲフンゲフンけしからんぞ」
セフセフ。束さんくーちゃんに夢中で気付いてない。
「取り敢えず束さんには一番古いレトルトカレーなー。くーちゃんは病み上がりみたいだしおかゆだな。俺は冷蔵庫の残り物」
「はいっ、束さんはペロちゃんが束さんにいじわるしてると思いますっ」
「してるからね」
「えっ、そうなのですか?」
「くーちゃん……、」
ダメだこの子ボケに対する耐性が低すぎる。鍛えねば(使命感)
「くーちゃん梅干食べれる?」
「うめぼし、ですか?」
「そそ、酸っぱいの」
「すっぱい、とは?」
「束さん実演」
(>✖<)
「??」
「束さん、演技力低いってさ」
Σ(゚д゚lll)
くーちゃん審査員には伝わらなかったようだ。お口をミッ●ィーにするだけではダメらしい。
束さんショックで床に手をついて崩れ落ちた。コラ、ちゃんと手洗ってきなさい。ばっちい。
「じゃあ食べてみたほうが早いか」
という訳で俺は梅干をちょっとちぎって、
「あーんして」
「? あーん、」
食べさせてみた。可愛いこの小動物みたいな子。
「? !? ッ、っ!?」
お口が●ッフィーになった。ついでに涙目。可愛い。
「はい水」
「……!!(コクコクコクコク)」
片手で煽るのではなく、両手で一生懸命こくこくと飲み込む。なんだろう、束さんが可愛い可愛いと連呼するのもわかる気がする。
「び、びっくりしました……」
「ははは、やっぱり外人さんの反応はおもしれぇや」
カルチャーショックで驚く人のリアクションは中々見ものだと思うんだ。
「まだ梅干は早いかー。じゃ卵粥にするな」
「そもそもその粥、とは何ですか?」
「粥は、米、粟、ソバなどの穀類や豆類、芋類などを多めの水で柔らかく煮た料理。ウィ●ペディアより抜粋。まぁ柔らかくて水々しいお米さぁ。くーちゃん流動食終わったばっかって束さん言ってたし、まだ胃が本調子じゃないだろうからね」
「そんなことまで考えていただけるだなんて……私は感激です」
なんかもうくーちゃんのキャラわかんねぇや。
「取り敢えず5分くらいで出来るから束さんと待っててくれや。あ、手は洗っといてな」
「はい、わかりました」
ぽてぽてという擬音が似合いそうな歩き方をしてるくーちゃん。あれで束さんの後で離れないように歩いて追いかけてれば子供のアヒルだよな。あれは見てて和む。
さて、ちゃっちゃと作ってしまおうか。どうせ俺が疲れて爆睡してた間は束さん料理しなかったんだろうし、インスタントで済ませてるに違いない。ダメだぜぃ束さん、不健康な生活は病気の元だし。在庫確認したらカップメンのみが無くなってたよ……。
10分程して全員分を作り終えテーブルに並べる。束さんは久々の料理ということでウキウキ、くーちゃんと言えば緊張しているのかソワソワしていた。比較すると面白い。
席について手を合わせ、合掌。いただきます。
「いただきまぁす」
「? それは何ですか?」
「ペロちゃん説明プリーズ」
「これはだな、JAPANでの食前の儀式みたいなもんさ。食材ってのは元が尊い命あるものであり、それを俺たちが食すわけだから、食材に感謝しろって訳。因みに食べ終わった時は“ごちそうさま”だ」
「なるほど、そうだったのですか。では、いただきます」
三者三様ではあったがのんびりとお食事である。束さんには流石にまたレトルトを食わせるわけにもいかないのでもやしとピーマンの野菜炒め食わせた。白米あるし大丈夫だろう。俺はレトルトカレーにサラダ。くーちゃんは卵粥。
くーちゃんが一口目で「とても美味しいです」とほんわかした顔で言ってくれて心が洗われた。小さい口で一生懸命に食べてくれてペロは嬉しいです。
「束さん、俺が寝てる間に何があったん?」
「んむぅ? むぐ。それはだね、取り敢えずくーちゃんはペロちゃんが帰ってきてから手術して、大体10時間後には目が覚めたかな。その後は一日安静にして、お話聞いて、って感じ。それで、くーちゃんちょっと普通じゃ助かりそうになかったからペロちゃんと同じく生体同期型ISにしちゃいましたっ」
束さんったら天才っ、とご飯を頬張る。
「…………ああ、だからくーちゃんは俺の事を先輩と、ねぇ」
「あのっ、ご迷惑でしたか?」
少し目尻の下がった表情でこちらを見てくるくーちゃんに、俺は「いや」と否定する。
「全然。俺はどう呼ばれようと勝手さ。自分の本来の名前も忘れて今はペロちゃんやってる訳だし。もう正直どうでも良いかなぁって」
「自分の名前が、わからないんですか? つけられなかった訳ではなくて?」
「そうなんさ。覚えてるのは自分が今まで何をしてきたかだけ。両親がいたのか兄弟がいたのか、全部空っぽになっちまった。まぁ多分そのお陰で家族がいないって思っても悲しまないんだろうけど」
それに、
「……まぁもうここが居場所みたいなもんだし」
「おっ、ペロちゃん嬉しいこと言ってくれるじゃないのぉ~」
このこのっ、と肘を突いてくる束さん。お食事中ですからちゃんとマナー守りなさい。
「まぁ俺の事は好きに呼んでくれ。あ、でもペロ様は勘弁な、ここにいるゴーイングマイウェイな束さんがネタにする気満々でいるから」
( ̄ー ̄)bグッ!
「そうですか……。では、お兄様、と」
「ぐふっ」
あ、気管に入った!? 苦しい……っ。
「あの、先輩、とお呼びするのも他人行儀過ぎると思いまして……、その、お兄様は私を外に連れ出して下さった大切な方ですから……。ダメ、ですか……?」
うっ、そんな悲しそうな上目遣いは反則だろ、お兄ちゃん許しちゃう!!
「いや、ダメなことはないぞっ、くーちゃんの好きなように呼んでくれ、な?」
「はいっ、じゃあよろしくお願いします、お兄様」
はいそこのウサギ!! ニタニタしてるんじゃあありません!!
次回で一章ラスト。ほのぼの参るぜよ