ISの世界に来た名無しがペロちゃんと命名されてから頑張る話 作:いつのせキノン
文章に書き起こせるかどうかは別として、ね……(遠い目)
それは、誰も予期しなかった。
衛星も、カメラも、警備も、全てが完璧だった。
完璧な、筈だった。
ただ、その瞬間までは――――。
最初は、ただ一度だけ、扉が開かれた事だけだった。人と対して大きさの変わらない、
スキャット社の秘密研究施設に乗り込んだ単機のISは両手に持つクラスターカノンで瞬く間にあらゆる施設を根こそぎ破壊し尽くす。迎撃の少数部隊が防衛にあたったが、たかが人間共にIS、戦力差があり過ぎた。相手にするまでもなく部隊は全滅し、ISは更に奥へ、奥へと侵攻を続ける。
パワードスーツ、及び強化被検体も強制的に迎撃に当てられる。被検体は全て失敗作のソレだ。ISの前に無力は同じなのだが、役に立たないゴミを処分する手間が省けるのは上等なのだろう。元は短い命が、更に縮まっただけ。それだけであると。
「被検体を突っ込ませろ!!
感情を人工的に殺した被検体が手に持たされた銃器を撃ちながらISへと突っ込む。それを見たISは一瞬動きを止めると右腕の武装を変換、クラスターカノンからパルスキャノンへ。瞬間、発生した電磁波が衝撃となって廊下を駆け巡る。装甲も何も付けていなかった被検体達が次々と倒れた。駆動装甲を纏う者達も強力な電磁波によりプログラムが停止。いまや枷となった全身の重みに身動きすら取れなかった。
再びISのクラスターカノンが火を噴く。飛び散る小弾と広がる爆発。たった数発の交戦だけで部隊は壊滅したのだった。
『束さんや、最奥部データバンクに到着した』
『お疲れ様ー。それじゃあ端末接続ヨロシクぅ』
最奥部、制御端末室。その部屋にはISが単機だけ。他の研究員や迎撃部隊は全て沈黙させたのだ。流石は国家戦力と言ったところか。
ISは掌に何やらチップを呼び出し、適当な端末を手にとって無理矢理精密機に繋いだ。これで電気的に独立していた制御端末に篠ノ之束がハッキングが可能になった。
『吸い出しは後82秒。ペロちゃん、大丈夫そう?』
『無論。ISの力に酔った訳ではないけど、不思議と落ちる気はしないね』
『重畳』
ISに乗る者の声は
『……ん、吸い出し完了。メインの方、壊しちゃって』
了解、という短い声。ISが容赦なく、スーパーコンピュータであろうそれにパルスキャノンを向けて至近距離から何度も打ち抜く。電子部品までもを焼き切られ主電源が停止、電力が供給されなくなり煌々と灯りを放っていたコンピュータが沈黙した。
『さて、お次だね。目標素体は同じ階の反対側に
『元がダメだとコピーもダメになるんじゃないのか?』
『さぁね。オリジナルがどれだけダメなのか、見てみないことには何とも言えないかな』
『まぁ、俺が言える筈もないか。取り敢えず奪取してくる』
『ほいほい。良い結果を期待してるよ』
ISが移動を開始。部屋を飛び出し、廊下を飛翔する。その際に小型化された高性能爆弾をばら蒔くのを忘れない。
バチバチと火花を散らす蛍光灯が不気味にそのISの白い装甲を照らした。
移動した先には固くしまった金属製の扉が一枚。緊急事態の為パスコードも全てロックされているが、ISには関係ない。隙間に指先を突っ込み、無理矢理こじ開けた。
『ッ』
一瞬、ISが狼狽を示した。
ISが見た視線の先。そこには、透明の円筒の中に培養液で満たされ膝を抱えたまま眠る、一糸纏わない少女が眠っていた。
【バイタルをチェック、対象へのスキャンを開始します】
【対象、
【呼吸器機能の低下が見込まれています】
【心拍数低下】
ISから鳴り響くエラー、エラー、エラー。それだけISの目の前にある彼女が危険な状態であるということだ。
『
『……セクハラだよ。まあ咎める気は無いけど』
少女の容姿は、それこそ淡麗だ。体も成熟の途中であろうに、しかし腕などには隠しきれていない傷跡が残っている。
『束さん、これは円筒ごと持ってった方が良さげなんだが、受け入れとか大丈夫か?』
『うん、その辺はきちんと対策してあるよ。排水口も全部塞いであるからもぎ取ってきちゃって』
『了解。円筒は……それなりに頑丈そうだな』
『多分、そっとやちょっとじゃ壊れないと思うよ』
コツコツとISが軽く円筒をノックする。厚みのある材質だからだろうか傷も付かないし想像以上に頑丈な作りではあるようだ。
円筒は高さ1m30cm、直径は60cmといったところ。床に嵌め込まれたソレをISは無理矢理引っこ抜いた。一抱え出来るが前方が見え辛くなるだろう。
『そんな時の為に、束さんは便利な
試してみてっ、という声にISが
『うんうんっ、ちゃんと動いてくれてるみたいだね』
『便利だけどこれの為にしか使えないようなそんなこともないような……』
『むむっ、もっと色んなことに使えるよ!! ……………………い、色んなのにねッ!!』
『思いつかなかったからって誤魔化すんじゃありません』
なんて愉快な漫才をしつつISは部屋を出て、今度は今までよりも慎重に飛びながら再び上へ上へと階を上がっていく。
【対象のバイタル、依然として低下中】
【急ぎ治療の必要があります】
『束さん』
『うん、わかってる。彼女にそこで死なれても困るからね。プランAは廃止するよ』
プランA。彼らの間に取り決められた脱出作戦の一つであり、当ISはドイツを北上して北海に出た後、待機している無人潜水艦に着艦。北大西洋に出て欧州をぐるりと半周、ジブラルタル海峡を抜けてティレニア海へ進み、そこでISと少女もろとも回収という算段だった。
しかし、航路を辿るだけでも到着までとてつもない日数がかかる。例えそれが一週間だとしても、ISの背負う少女の命が持つはずはない。
『ペロちゃん、こうなったらプランBだよッ。プランBは?』
『あ? ねぇよそんなもん』
ぶっちゃけると来た道戻るだけである。つまりは白昼堂々円筒背負ってドイツ、オーストリア、イタリアを縦断する訳だ。
『耐えられるか?』
『無理だよ。身体が予想以上に脆くなってるから。これ以上余計な事になるとそれこそ手遅れになる』
『ですよねー』
しかし、時間はかけれない。恐らく来るであろう追っ手と、第三者からの攻撃を全て凌ぎきらなければならない。
『ドイツを抜ければこっちは何とかサポート出来るかも。ペロちゃんそれまで頑張って!!』
『やるだけやってみましょうかね』
ようやくISは地下深くから地上へ飛び出す。
『束さん、起爆頼んます』
『ほいほい。では、ポチっとな』
刹那、重々しい地響きが連続して鳴り響く。同時に地面も徐々に陥没を始めた。地盤が崩壊したのだ。
『崩落を確認。直ちに帰投する』
『早めにねっ。ドイツ軍がもう迫って来てる。多分研究所の方に大半は行くだろうけど、追っ手も来ると思うよ』
言うが早いか、ISは来た時と同じく熱光学迷彩を纏い上昇。スラスターを噴かせて徐々に速度を上げていく。
【後方にIS反応。単機です】
『速度は?』
【時速900kmです】
『束さん、彼女の限界はッ?』
『亜音速が限界、かな。それ以上だと急激な変化で液体ごと押し潰される』
『チッ』
ハイパーセンサーが遥か後方に影を捉えた。それは、真っ黒なISであった。
クラリッサ・ハルフォーフは文字通り
「まさか、レーダー頼りなのがここまで不便なんて……!!」
センサーとは、自然状態を傍受し、それを解析して映すシステムだ。結果それは全て受動的な作用でしかない。潜水艦のパッシヴソナーが良い例だろう。
対して、レーダーとは自らアクションを起こしその反応を見る。上記とは逆のアクティヴソナーが例である。
現在彼女がハイパーセンサーですら捉えられないISを追えているのは、マイクロウェーブの反射波を捉えているからだった。自らある一定のマイクロウェーブを発し、物体に跳ね返って戻ってくる波を感知することでその物体との距離を測るのだ。
しかし、クラリッサにとってこの装置は客観的な位置を示した物でしかない。距離はわかっても、主観的に目標が見えないというのはあまりに酷な状況と言えた。
現状、ハイパーセンサーなら確実に捉えられる距離にISの反応はあるのだが、如何せん目に見えないのだから。
突如正体不明のISがドイツ国内に侵入したのが発覚したのはつい60分前のことである。クラリッサの所属する軍が出撃したのも僅かに30分前。現場に急行する際に辛うじて逃走するISに喰らい付けたのはクラリッサだけであった。他は全て現地の破壊された研究施設に向かっているはずである。
彼女がISを見つけたのはたまたまと言えよう。本当にたまたま、レーダーに目を通していたのだから。彼女以外はクラリッサが気付いたことをわかっていなかった。何故なら彼女が捉えたISの反応は僅かに一瞬だったから。彼女が気付いたからこそ、上官も信じて行ってこいとだけ言ってくれた。ならば期待に応えねばなるまい。
「クッ、ロックオンさえ出来れば……!!」
しかし、どうも手詰まりだ。視覚的に狙えないので
それに加えて考慮しなければならないのが、時間制限だ。現在クラリッサの追うISは南下を続けており下手をすれば取り逃がしたままオーストリアやイタリアに行くことになる。緊急事態の軍事行動とは言え領空侵犯をする訳にもいかない。向こうは気付かれないかもしれないが、クラリッサは充分に気付かれる要素がありすぎる。問題が発覚すれば国際問題だ。
諦める?
ふとそんなことを考えてしまった。
発見できたのは自分だけ。周りには仲間もいない。今も尚辛うじてレーダーで捉えているだけ。言い訳などいくらでも出来るのではないか……?
「出来るわけ、ないですよね……ッ!!」
シュヴァルツェア・ツヴァイクの速度を更に上げる。強烈なGが保護機能を超えて来るが、構わない。
仲間を裏切るのだけは、彼女にとって何よりもの屈辱。衣食住を共にして、共に戦おうと誓い、共に生きてきた強い絆で結ばれた彼女達を裏切るのだけは、出来ない。せめて、せめてやれるだけのことを。胸を張って、今できる最高の結果を導き出す――!!
視界がブレる。身体中から軋むような激痛が奔る。それすらも、意識で押し殺す。
レーダーで探知しているのは、マイクロウェーブが跳ね返ってきた場所の過去を映し出すものでしかないが故に、ロックオンには使えない。
ロックオンが使えないなら、
「使わなければ良い……!!」
右肩に武装展開。小型のミサイルポットが現れる。空気抵抗が増して右肩に負荷がかかり顔を顰めるが、クラリッサの瞳に宿る不屈の炎は未だ轟々と燃え盛っている……!!
神経を研ぎ澄ませろ。風の音を聞け。流れを掴んでみせろ。
見るのではなく、“視る”。
「見えた!!」
ミサイルポッドオープン、マイクロミサイル発射。爆発的な推進力で放たれたミサイルはあっという間に最高速度マッハ5に到達。辛うじてハイパーセンサーが捉えた速度で直進し――――爆発。
「やった――――!?」
当てた。一瞬の勝利。これで確かに、そこにはISか何かがいたことになる。
しかし、それだけ。
刹那に真横から銃のような物が現れたことに、彼女は対応しきれなかった。
「あ、――――ぎィッ!?」
音が遅れて聞こえてきた。銃から放たれたのは、荷電粒子の塊。無慈悲なまでの電磁パルスがシュヴァルツェア・ツヴァイクに叩きつけられ、電子系が麻痺する。同時にまたISの反応を見失ってしまった。強力な電磁波がレーダーまでを狂わせているのだ。
「そんな、」
逃げられる。そう思った瞬間、ISの反応が復活する。
「目の前――!?」
目の前に、またあの荷電粒子砲が。
視界が、真っ白に染まる――――――――。
「――――――――あ?」
ふっ、といきなり覚醒する意識。一瞬、本の一瞬だけ、気を失っていた。
「ッ、逃げられた……、」
そして
次回
束さん
「やったねペロちゃん、家族が増えるよ!!」
ペロちゃん
「おいバカやめろ」