Cクラスな日々!   作:ふゆい

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 もしかしたら設定に齟齬があるかも。


第二十二問

「そういや、坂本達も試験召喚大会に出てるんだったよな?」

「おう、まぁな。清涼祭の華みたいなもんだし、出て損はないだろ」

「吉井が出るなら分かるんだが、面倒くさがりの坂本まで出てるっていうのがちょっと引っかかるんだけど」

「何言ってんだ波多野。面白そうな行事に参加するのに理由なんているかよ」

「確かになぁ。俺と亮が坂本達に当たるのは決勝か。楽しみにしておけよ?」

「理系科目が出た瞬間敗北する未来しか見えないけどな」

「余計なお世話だ」

 

 痛い所を突かれ少しブーたれる波多野。文系科目なら無類の強さを誇る彼であるが、理系科目に関してはFクラスにも負けない程の低得点を取っている。総合して平均得点のCクラスレベルなのだから、神は二物を与えないというのは本当らしい。我儘を言うならば、もう少しマシなステータスに割り振ってくれればとは思わないでもないが。

 調理担当は須川と土屋だということで、ゴマ団子を初めとした飲茶のクオリティも流石のものだ。高校の文化祭だとは思えない程の美味しさ。あまり期待してはいなかったが、なかなかどうして侮れない。

 何の気なしに教室を見渡していると、小山が食べているゴマ団子にじぃっと視線を向ける波多野に気が付いた。肉まんを持ったまま、何やら物欲しそうな目で小山の手元を見つめている。

 

「……ゴマ団子、欲しいの?」

「欲しい」

「即答か。はぁ、まぁいいけどね。じゃあほら、食べなさ――」

「あーん」

「っっっ!?!?!?」

「? どうした小山。早くくれよ」

(いやいやいやいや何考えてんのこのバカは!)

 

 口を開けたまま首を傾げる波多野だが、対する小山は赤面の上に目を白黒させている。普通は自分でゴマ団子を取って食べるものであって、他人から、しかも女子からの「あーん」を求めるのはおかしな話ではないだろうか。なんでこの悪友はさも当然のように口を開け、雛鳥のように食べさせてもらうのを待っているのか、理解に苦しむ。

 そして、先程の大立ち回りと衣装のせいで周囲からの視線が痛い。Fクラス男子からは殺意が、そして女子勢からは微笑ましげなオーラが飛んできている。王子様と村娘とかいう奇特な組み合わせだからか、ただの日常のワンシーンにも関わらず物語の登場人物にもなった気分だ。

 ……相方があまりにもロマンチックの欠片もないのは、ちょっと物申したいところではあるが。

 

「え、いや、その、ほら、周囲の目とかあるし、私と波多野はまだそういう関係じゃないし……」

「何言ってんだよ小山。いいから早くゴマ団子くれって」

(ぴぃいいいいいいい!)

「い、いいじゃない友香……くふっ。はやっ、早くあーんしてあげなさいよ……ぷぷっ」

「だ、駄目ですよ美波ちゃ……ぷひゅっ。そんなに笑っちゃ……ふっふぅ」

「おいそこの野次馬女子二人」

「むー、仕方ないな。じゃあ最初に俺からやるよ。ほら肉まん。あーん」

「ぶほぇ」

 

 完全に見世物と化している現状に異論を申し立てたい小山ではあるけれど、それよりも先に波多野からの「あーん」とかいう地雷をぶっこまれてそれどころではない。しかもその肉まん、彼の食べ欠けである。一口だけではあるけれど、おそらくは彼が口をつけたであろう方を向けられている為、間接キスは免れない。先程から面白そうにこちらへカメラを向けている女子二人は後で制裁を加えるとしても、この場においてこういうことをするのはまずいのではないだろうか。

 というか、何故彼はこういうことを平気でできるのだろう。以前のBクラス戦後、キス未遂までした仲だというのに。もしかして、彼にとって自分は異性として見られていないのでは――――

 

(……うぅん。駄目よ友香。弱気になっては駄目。アイツは元々そういうことに疎い鈍感クソッタレバカなんだから、いちいち悩んでたらキリがないわ)

 

 ギュゥッと手の甲を抓んで我に返る。そうだ、波多野進は常に面白い事を優先するタチで、そのためなら羞恥心なんて二の次な大馬鹿だ。彼のペースに乗せられて思い悩むなんて、割に合わない。彼と付き合っていく中で一番大切なのは、常に勢いで行動すること!

 ぐっと波多野に視線を向ける。相も変わらずヘラヘラと腹の立つ笑顔を浮かべている彼をぶん殴りたくなる衝動に駆られるが、そこを抑えて彼が差し出している肉まんに勢いよくかぶりついた。

 

「お、いいじゃんいいじゃん。その調子だぜ小山」

「ぷはっ。ほら、次はアンタの番よバカ王子!」

「何をそんなに顔真っ赤にして」

「うるさいくらえぇええええ!」

「モゴォッ!? 熱ッ!? できたてにも程があるっての!」

「ふふふ、甘いのよ波多野。私の方が一枚上手だったようね!」

「なにおぅ!? 喰らえ必殺アツアツシューマイッ!」

「むぐぅっ!?」

 

 お互いに箸を片手に相手の口へ獲物を突きこんでいく小山と波多野。傍から見れば完全にイチャついているカップル以外の何物でもないが、本人達はいたって大真面目。色も恋も何もなく、ただ純粋に相手を下そうと奮闘しているに過ぎない。ただ、あまりにも子供っぽい戦いに、Fクラスメンバーは嫉妬よりも先に呆れの方が出ているようではあるが。

 

「おーいそこのバカップル。そろそろ周囲のお客様に迷惑だから静かにしてくれ」

『誰がバカップルか!』

「お前らだよこのCクラスコンビ。これ以上騒ぐとムッツリーニと新野に頼んで、ある事ない事書いた新聞町内に出回らせるぞ」

『すみませんでした』

 

 クラスを代表して現れた坂本の極悪非道な宣告によって土下座を余儀なくされるCクラス代表格の二人。この場面だけ見ると完全にFクラスに順応している辺りもう色々と手遅れなのかもしれない。

 

「ほらほら、その料理を食ったら出てった出てった。今回の出し物はウチだけじゃないんだ。二人で仲良く清涼祭デートでもしてこいよ」

「まぁイチャついていたらぶっ殺すけどね」

「吉井の目がガチすぎて怖い」

「いいわねぇ友香。自慢の彼氏と学園祭デートだなんて、羨ましいわぁ」

「そ、そんなんじゃないから。だからその興味深々な目をやめて美波」

「ふぁいとです、友香ちゃんっ」

「その応援が今だけは辛いわ……」

 

 十人十色の声援を受け、とにもかくにもFクラスの中華喫茶を後にする。あのままFクラスに滞在していたら、もしかするとFFF団の制裁を受けていたかもしれない。主に波多野が。

 とりあえず旧校舎を後にして、新校舎へと向かう。やはり最初はクオリティが高そうな上位クラスを攻めるのが無難だろう。美穂によるとAクラスはメイド喫茶らしいから、そっちに行くのもいいかもしれない。

 

「で、どこに行く?」

「そうだなぁ。二回戦までは三十分くらいあるし、軽く回れるところにするか」

「二年生の出店は結構飲食店多いから、気軽に入れそうにないわね」

「だったら3-Aに行くか。あそこ確かお化け屋敷やってただろ」

「あれ、やけに詳しいじゃない。知り合いでもいるの?」

「まーな。去年からよくお世話になっている常夏先輩達がいるんだよ」

「へぇ? 私も部活の先輩がAクラスにいるから、もしかすると知り合いかもね」

「まぁさっきFクラスで坂本にぶん投げられてた先輩なんだけどな」

「問題児じゃない……」

「素行は悪いが面白い人達だよ。付き合ってみるとなかなか楽しいし。面倒見も良いし」

 

 楽しそうに先輩のことを話す波多野だが、先程Fクラスで見た光景が悪印象過ぎて彼の言う好印象な彼らが湧いてこない。ソフトモヒカンとスキンヘッドという時点で既に外見的印象はよろしくないのだけれど、彼がそう言うのならば多少は良い人なのだろう。営業妨害していた時点で結構危ない気はするってのは言わない方がいいかもしれない。

 演劇用の衣装を着込んだまま歩いているせいか、やけに周囲からの視線が刺さる。好奇の目、と言えばそれまでだが、あまり視線慣れしていない小山からすれば恥ずかしいの極みだ。逆にこういうことに慣れているらしい波多野は平気な様子で隣を歩いている。こういう肝が据わっているところは見習いたい。

 階段を昇り、四階へ。広い教室を生かした本格的なお化け屋敷らしく、結構な行列がAクラスから続いている。他のクラスに迷惑をかけないためか、二人の男子生徒が最後尾札を持って列の整理を行っていた。ソフトモヒカンとスキンヘッドの二人組。特徴からして、先程話題に出た常夏先輩とかいう二人だろう。

 彼らを見つけると、最後尾に並びつつ波多野が声をかける。

 

「先輩方お疲れ様でーす」

「うお、なんだよ波多野その恰好は」

「イケメンでしょ?」

「身長伸ばしてから言え。つーかお前、さっきFクラスで俺ら助けなかっただろ。何してんだよ」

「どうせ先輩方の自業自得だろうなって思ったので。目先の利益だけ見て変な企みするのはやめた方がいいっすよ」

「うるせーな。お前に心配されるようなことは何もねぇよ」

「まぁ確かに。どうせ坂本と吉井にボコられてフィニッシュでしょうしねぇ」

「なにニヤニヤしてんだ殴るぞ」

「まぁまぁまぁまぁ」

「こいつムカつく……!」

 

 ニヤニヤと嫌らしい笑みで先輩二人をからかう波多野。見た目からしていつ殴られるか気が気ではないのだが、仲が良いというのはどうやら本当らしく、なんだかんだ言いつつもじゃれあうようにわちゃわちゃしている三人。不安の種が一つ消え、小山は安堵の溜息をつく。

 

「そういうお前はデートかよ。良い御身分だな」

「デートではないですけど、自慢のクラス代表ですよ。綺麗でしょ?」

「ちょっ、波多野……!」

「ウチの小暮程じゃないが、まぁそこそこって感じじゃね」

「小暮先輩と比べられるのはちょっとさすがに勝ち目ないんで勘弁してください……」

 

 茶道部の先輩であり3年Aクラス所属の小暮を思い浮かべる。高校生とは思えない妖艶な雰囲気を纏ったナイスバディな先輩だ。セクシーランキングでも作ろうものならダントツで一位を取るだろう彼女に勝てるわけがない。霧島や姫路でさえちょっと辛い勝負になるのではというくらいハイレベルな女性なのだ。そんな彼女と比べられるのは少し困る。

 

「まぁ楽しめやクソ後輩」

「ハイクオリティのお化けに悲鳴でも上げてろバカ後輩」

「Fクラスに痛い目見せられないように気を付けてくださいねアホ先輩方」

『…………(メンチを切り合う三人)』

「どうどう。どうどう波多野」

 

 息を吸うように喧嘩を売るクラスメイトをなんとか宥める。いくら仲が良いとはいえ、先輩相手にそこまで挑発するとかどんだけ鉄の肝っ玉をしているのか。ただでさえ最近胃薬の量が増えたのに、これ以上ストレスをかけないでほしい。

 結局最後までお互いを煽り合う三人をなんとか落ち着かせ、多大な精神的ストレスと共にお化け屋敷へと入ることになる小山だった。

 

 

 

 

 

 


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