史上最凶最悪の師匠とその弟子   作:RYUZEN

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第127話  協力者

 飛行機が那覇空港に着陸してから、兼一たちは直ぐに新島の言う『協力者』が待つ場所へと急いだ。

 映像内で新島は『誰が協力者なのかは見れば分かる』と言っていたので、十中八九その人物は兼一の顔見知りなのだろう。ただ新島の口振りからして新白連合の人間ではないことは確かだ。

 櫛灘美雲の情報を新白連合にリークしても不思議ではなく、尚且つ新白連合にも所属していない達人級の武人。

 ここまでヒントがあれば兼一の頭でも候補を何人かに絞り込むことが出来る。そして合流地点で待っていたのは、兼一の想像した候補の中の一人だった。

 

「やぁ、兼ちゃん。直接会うのはかれこれ四年ぶりになるね」

 

「龍斗! 君が新島の言ってた協力者なのか!」

 

 静動轟一の後遺症で色素が抜け落ちてしまった白髪、赤く変色した片目。

 兼一の幼馴染であり、ある意味では『全ての始まり』となった出来事に深く関わった一人。朝宮龍斗がそこにいた。

 

「そうだよ。僕は十年前から闇やティダード王国と協力して……いや、逆だね。彼等の拳魔邪帝捜索に十年前から協力していてね」

 

「――――!」

 

 龍斗とクシャトリアは然程縁が深いというわけではない。静動轟一の治療で龍斗はクシャトリアに恩があるが、関わりといえばそれだけだ。

 だが龍斗の恋人である小頃音リミにとっては違う。リミにとってクシャトリアは唯一無二の師。櫛灘美雲に支配され行方不明となった師匠を捜索するのは当然のことだった。

 そして龍斗も恋人であるリミのためクシャトリア捜索に力を貸していたのだろう。

 

「そうか……櫛灘美雲はクシャトリアさんを自分の手駒にして連れている」

 

「だからクシャトリアさんを捜索する過程で、櫛灘美雲を見つけたんですわね?」

 

「ああ。その通りだ。十年間の努力が実ってやっと邪帝殿を見つけたと思ったら、もっと不味い『爆弾』まで見つけてしまったというわけだよ。

 大変なものを見つけてしまった『不幸』を呪えばいいのか、それとも事前に爆弾を見つけられた『幸運』に感謝すればいいのか怪しいところだ」

 

「僕は、幸運だと思うよ。龍斗たちが見つけてくれなければ、僕達は抵抗することすら出来なかったんだからね」

 

「フッ。確かに、兼ちゃんの言う通りだよ」

 

 皮肉なことだ。櫛灘美雲はクシャトリアを落日成就のための戦力として支配したのだろう。だがクシャトリアを支配したことで、こうして龍斗たちに自分達の計画を露見させることとなった。

 兼一は無神論者というわけでもないにしても、神の実在を熱心に信じているわけではない極普通の人間である。だがもしもこの世に天罰なんてものがあるとすれば、これがそうなのだろう。

 

「チッ。オーディーンの野郎と共同戦線を張ることになるとはな。久しぶりの休暇をエンジョイしてたところに宇宙人からの緊急コールがかかってきたことといい、おみくじが大凶だったことといい、今年は最悪の厄日だぜ」

 

「ロキか」

 

「なんだよ? 心配しなくてもラグナレクの時のように裏切るつもりはねえぞ」

 

「それは上々。また神聖ラグナレクなんて二流集団を頼りにクーデターなんて起こされたら、鎮圧に余分な時間を割いてしまう」

 

「ハッ! あんな雑魚共なんざ端っから期待してなかったよ。ありゃパフォーマンスのために派手目な連中を揃えただけだ」

 

「へぇ。そうなのかい?」

 

「当たり前だ。俺が期待していたのはバーサーカーだけだよ。オーディーンと対抗できるとしたら、バーサーカーしかいねえと踏んだんでねぇ。

 まぁあいつの実力とボスの器だけに目を奪われて、あいつの腹の底まで読めなかったのは戦う参謀一生の不覚だったが……」

 

「バーサーカー、か。懐かしい名前だよ」

 

 龍斗は不思議な声色でバーサーカーの名を呟いた。朝宮龍斗にとってバーサーカーは、単なる自分に従ったナンバーツーではない。

 そもそもラグナレクという組織は、朝宮龍斗という才能に満ち溢れたカリスマにバーサーカーという狂戦士が恭順したことから始まっている。それから更に二人の噂を聞いたフレイヤが加わって本格的な始動となるのだが、最初の切っ掛けはオーディーンとバーサーカーだ。

 不良集団という枠を超えて、幹部たち全員がなんらかの武術に精通した武人だった八拳豪。その中でバーサーカーは唯一人だけなんの流派も持たず、単なる腕っ節のみでナンバーツーに君臨していた。それを可能にしていたのは一重にバーサーカーのもつ天賦の才。実力も心構えも第一拳豪である龍斗が勝っていたが、才能だけならばバーサーカーが僅かに龍斗を上回っていただろう。

 朝宮龍斗……オーディーンとバーサーカー。この二人には好敵手とも、親友とも言えない因縁で繋がっているのかもしれない。

 

「さて。いつまでも再会を喜んでいても仕方ない。今この瞬間にも核ミサイルの発射スイッチが押されるかもしれないんだ。急ごう」

 

 

 

 

 米軍基地にいるのは櫛灘美雲やクシャトリアといった闇の人間ばかりではない。その多くは自分達のいる基地に核ミサイルが運び込まれていることも知らず、闇の存在についても知らない兵士達だ。

 兼一たちが基地に侵入すれば、当然基地の兵士達は迎撃をしてくるだろう。事情を話して協力を仰ごうにも『この基地で核ミサイルが発射されそうになっているので通して下さい』などと言っても、拘束された上に精神病院に連れて行かれるのがオチだろう。

 かといって幾ら核ミサイル発射を阻止するためとはいえ、なんの罪もない彼等を殺して押しとおるわけにもいかず、そもそも一々相手をしている時間的余裕はない。

 そこで兼一たちが米軍基地侵入のためにとった作戦は、

 

「お爺様直伝……梁山波、ですわーーッ!」

 

「くそっ! モンスターだ、モンスターが出たぞッ!」

 

「ファック! 十年前のキジムナーに娘がいやがったのか!?」

 

「畜生ッ! なにが日本は平和ボケしてるんだよ糞野郎ッ! こんな化け物が出てくるなんて聞いてねぇぞ!」

 

 我流Xとお揃いの仮面をつけた美羽が、米軍相手に一人で大立ち回りを繰り広げている。

 美羽が使っている『梁山波』というどこかの雑誌の有名な漫画の技に非常に似たフレーズをもつこれは、拳圧と気当たりで敵を吹っ飛ばしているだけであって、別に地球を破壊するような波が出ているわけではない。そのため直撃しようと精々気絶するだけで、外傷などは皆無だ。

 気当たりを受け流す術を会得している武人にはなんら効果はないが、こういった大勢の敵を一人で傷つけずに無力化するにはうってつけの技である。

 これで相手がそこいらのヤクザ程度ならば、睨み倒しだけで制圧することも可能なのだが、流石にプロの軍人相手では睨み倒しだけでは効果が薄い。だからこその梁山波だった。

 

「よし! 美羽さんが米軍を引き付けている間に僕達は本丸へ乗り込もう!」

 

「ったく。良い案があるからって任せてみれば、策略という優美な響きとは程遠い力技じゃねえか」

 

「だが効果的ではある。美羽が大立ち回りをしてくれているお蔭で、侵入が随分と楽になった。それにしても兼ちゃん、達人になっただけあって君も段々常識から外れてきたね」

 

「ち、違うよ! これは十年前に長老が同じ作戦をしていたから採用したわけであって、僕が非常識というわけじゃ……」

 

「フッ。そういうことにしておくよ。行こうか」

 

 龍斗がフェンスを乗り越えて、櫛灘美雲がいる場所へ走る。兼一もそれに続くが、ロキだけは立ち止まったままだった。

 

「ロキ、どうした?」

 

「悪いな、オーディーン。ここでお別れだ。お前らと違って頭脳派の俺には他にやることがあるんだよ」

 

「……やること?」

 

 そう言うとロキは背を向けて、櫛灘美雲がいるであろう場所とは別方向へ進んでいく。

 この期に及んでまさか闇側に寝返ろうとしているなんてことはあるまい。きっとロキにはロキの考えがあるのだろう。だから兼一も龍斗もロキを止めることはなかった。

 

「――――おい、白浜兼一」

 

 ふと立ち止まったロキが口を開く。

 

「……なんですか?」

 

「この際だからはっきり言ってやる。俺はお前が嫌いだよ。正義だとか友情だとかまるで合理的じゃない理由で行動する奴は、どう動くか予想できねえからな。

 俺が態々沖縄にまで来てやったのも宇宙人からかなりの額の報酬が用意されていたからだ。そうでもなきゃ命を懸けるなんざ御免だよ」

 

「そう、ですか」

 

 兼一は合理的判断や利害による行動を否定するつもりはない。

 無償の奉仕は素晴らしいことだが、働きに対して然るべき報酬を要求するのは人間として当然のことだ。

 

「落日が成就すれば、きっと第三次世界大戦が起きるんだろう。別にそれ自体はどうでもいい。見ず知らずの誰かが何千人死のうと結局は他人事だからな。

 だが第三次世界大戦が起きれば、俺にも世界がどうなるか考えられねえ。俺自身の命も、20号の命も、108号の命も、影武者たちの命も。死ぬのか、それとも生き延びられるのか。まったく予想できねえ。

 そいつは駄目だ。世界がどうなろうと知ったことじゃねえが、そんな明日の命があるのかないのかも予想できねえ未来なんざ御免だ」

 

「ロキ、さん……」

 

「頼んだぞ、白浜兼一。落日を阻止してくれ」

 

「……はい!」

 

 兼一は力強く頷く。

 戦う参謀ロキ――――ラグナレクの裏切り者は、世界ではなく自分に従った部下たちの為に命を張ろうとしていた。

 


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