本当にありがとうございます!
にじファン時代のPV記念番外編のリメイク作品です。完全お遊び時空。
ご存知の方も、新規の方も楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
まだまだ、本編は続きますが、引き続きよろしくお願いします。
特別番外編 「俺様ゲーム」
「えー、突然ですが! ホグワーツの戦いのルールが変わりました!
名付けて『チキチキ~絶対に笑ってはいけないホグワーツの決戦~俺様ゲーム』!」
リー・ジョーダンがマイクを片手に宣言した。
「司会はクィディッチの名解説者にして、ポッターラジオのパーソナリティーこと、リー・ジョーダンがお送りします。そして、こちらが解説者の――」
「……ミネルバ・マクゴナガルです。公正公平なゲームかつ司会を頼みますよ」
ミネルバ・マクゴナガルは感情を押し殺した顔で座っていた。
「質問、よろしいでしょうか?」
セレネは周囲の者たちを一瞥すると、そっと手を挙げた。ほぼ同時に、ハーマイオニー・グレンジャーも挙手している。リーは二人を見比べた後、ハーマイオニーを指さした。
「はい、ホグワーツ随一の頭脳明晰、通称『歩く図書館』ことグレンジャー選手!」
「その紹介からして、いろいろ言いたいところがあるけど、まずはこっちね。
そもそも、『俺様ゲーム』って何?」
ハーマイオニーの質問に、セレネも頷き返した。
「ホグワーツの戦い自体が変わったのも不自然だわ。もちろん、分霊箱は全部破壊したけど……」
「いい質問ですね。さすが、『歩く図書館』!」
「ジョーダン。真面目に司会進行を」
「分かってますよ、ミネルバ。
さて、ここにお集まりの紳士淑女の皆さん、誰もがグレンジャー選手と同じ考えを抱いていると思います」
リーは愉快そうに笑いながら、木の箱を取り出した。
ちょうど、ここに集まった人数分のクジが入っている。
「皆さんには、クジを引いてもらいます。そのクジには、ランダムに数字か『俺様』と書かれています。ちなみに、『俺様』は一人だけです。
『俺様』のクジを引いた人が、『例のあの人』の役になり、数字の人に命令をすることができます。ただし『アバダケダブラしろ』『磔け呪文をかけろ』『自害せよ』といった言葉はNGです。
もちろん、杖の使用も禁止ですね」
リーはクジを取り出しながら説明する。
「例えば、俺様に当たった人が『5番の人は3回廻ってワンと鳴く』と命令したとします。そうしたら、5番の人は命令をこなさなければなりません。
ここで大事なのは、『5番の人』『3番の人』と言ったように、数字の人を差してください。決して『2番の人は、ハリー・ポッターの眼鏡を取れ』みたいなことはルール違反になります」
セレネはここでもう一度、手を挙げた。
「はい、スリザリンのファザコン、ゴーント選手!」
「ジョーダン!」
「ふぁざこん?」
セレネは首を傾げる。
ファミコンの聞き間違いかと思ったが、生粋の魔法族がファミコンを知っているはずがない。少し悩んだが、またあとで聞けばいいかと、頭を切り替えた。
「ふぁざこんが何か分かりませんが、俺様の出した命令というのは、断ることはできるのでしょうか?」
「良い質問です。
この命令を断った場合、脱落することになってしまいます」
リーはにやりと口の端を歪めた。
「あとは、今回の大会名通り『絶対に笑ってはいけない』。
俺様ゲームを10回行い、最後に残った人が多い陣営が勝利となります。勝利した陣営が敗者に命令することも可能です」
セレネは説明を聞きながら、頷いた。
各陣営はそれぞれ3人ずついる。
この勝負に勝利すれば、余計な死者を出すことなく、敵を滅することができる。ホグワーツの戦いを制することになるのだ。
「あの……リー、いいかな?」
ハリーが手を挙げる。
「はい、我らがヒーロー『選ばれし者』、ハリー・ポッター選手!」
「その……『俺様』というか、ヴォルデモートはそこにいるんだけど」
ハリーは前に座る男を横目で見た。
「俺様が勝利するためだ。仕方あるまい」
ヴォルデモートは杖を弄りながら大人しく座っている。
赤い眼は閉じられており、何を考えているか分からない。両隣には、ルシウス・マルフォイとベラトリックス・レストレンジが控えている。両者とも、必ず勝つという信念とご主人様に対する不安が入り混じった複雑な表情をしていた。
「……素朴な疑問なんだが」
今度はセオドールが質問をする。
セレネは右にセオドール、左にアステリア・グリーングラスに挟まれていた。
「はい、1年次からのストーカー男」
「ス、ストーカーとか言うな!
その、オレの記憶が正しければ……ベラトリックス・レストレンジは既にこの世にいないと思うのだが。というか、すべてに決着がついて、オレ的に幸せな生活を送っていた気がする」
セオドールは頭を抱えながら質問する。
リーは、くっくっくと笑った。
「それはですね。
これが、『PV400万記念の企画』のリメイクだからです!!」
しん、と静まり返った。
代わりに、マクゴナガル先生が淡々と解説を始める。
「今作は、『スリザリンの継承者』が今は亡き二次創作投稿専門サイト『にじファン』で連載されていた時期に投稿された記念作品となります。
今回は本作ブックマーク件数『6000件突破記念』として、PCの奥底に眠っていた『俺様ゲーム』をサルベージし、リメイクを行いました。つまり、番外編ですので、何でもありの『ご都合主義のお遊び時空』ということでしょう」
「そ、そんな、メタな……」
アステリアは頭を抱えながら呟いていた。
「どうしてかな……私が、無駄にテンションの高い司会をしていた気がする……」
「駄目よ、アステリア。それ以上、思い返してはいけません」
セレネはアステリアの肩を抱いた。
リーは他に誰も質問者がいないか確認すると、箱を各陣営の前に持ってきた。
「それでは、始めますよ!
『俺様だーれだ』!」
全員がくじをひく。
セレネは『俺様』ではなかった。『俺様』を『俺様』が引いたら面白いな、と思ったが、少なくとも一回目は違ったらしい。
「あ、僕だ」
ロン・ウィーズリーは『俺様』と書かれた棒を見せびらかすと、にまにまと楽しそうに笑った。
「それじゃあ……3番の人は下着になれ!」
セレネは急いで自分の番号を見て、ほっと息をつく。
しかし、えげつない戦略だ。
選ばれた人は、恥ずかしがって断る可能性があるし、その哀れな姿を見て、周りの笑いを誘うこともできる。さらにいえば、ロンはハーマイオニーと付き合っていると聞く。上手くいけば、ハーマイオニーの下着姿を眺めることができる。
ロン・ウィーズリー。
まさか、ここまで恐ろしいとは。セレネが固唾をのんで成り行きを見守った。
そして、悪夢が始まった。
「……」
ロン・ウィーズリーの顔は白くなっている。
誰も笑わない。誰もが言葉を失っている。膝を穴が開くほど睨み付け、恐怖で震えていた。
3番の人。
ヴォルデモートが下着姿になっていた。
身体全体が細く、肉が最低限にしかついていない。緑身がかった白い肌は骨が浮き出ているように見える。ブリーフを穿いているのは、時代背景的に納得がいった。1948年のロンドンオリンピックではイギリス代表チームが支給品の1つとして、男性選手にブリーフが1着ずつ配られるほど流行していたと聞く。その時代に青少年期を過ごした者が、ブリーフを穿いていても不思議ではない。
断ればいいのに……と、セレネ含めた全員が思った。
ヴォルデモートは「闇の帝王」としての矜持故に、「断る」ことを選択できなかったに違いない。断った場合、自ら敗北を宣言することになってしまうのだ。
セレネはちらっと視線を上げると、真紅の眼が怒りで燃えているのが分かった。ぴくっぴくっと筋を微動させ、杖を握りしめている。ルールがルールなので「アバダケダブラ」はしてこないが、ロン・ウィーズリーは、ヴォルデモートに睨まれ、蛙のように縮こまっていた。
「……誰も笑いませんね」
マクゴナガル先生は疲れたように息を吐いた。
「くすりとも笑っていません。顔が強張っていますね。それでは、ジョーダン。先に進みましょう」
「……ええ、そうですね。ミネルバの言う通り、2回戦、行きましょう」
さすがのリーも顔を背けながら、箱を差し出した。
「俺様だーれだ」
「よし、私だ!!」
ベラトリックスが高らかにクジを掲げた。
「1番の者は、ご主人様に服を貸すのだ!」
「レストレンジ選手、名指しは禁止です」
「っく、忌まわしきルールめ」
ベラトリックスは爪を噛む。怒りで上気した頬を抑えながら、椅子に座りなおした。少しばかり考え込むと、良い案が思い浮かんだのだろう。口元に弧を描くと、低く笑った。
「では、1番の者が、一番寒そうにしている者に服を貸すのだ。今すぐに!」
セレネを含め、ここにいる誰もが「上手い」と感心した。
これなら、『アバタ・ケタブラ』される心配がなくなる。
誰しもがホッと一息ついたことだろう。そして、1番の人は黙々と服を脱ぎ、この場で1番寒そうな人に服を貸すのだった。そう、これで安堵の空気が漂う―――
「……」
なんてことはない。現実は、そんな甘くはないのだ。
誰もが血の気の失せた顔で、床に落ちているわずかな埃を真剣に見つめている。
ベラトリックスは、もうこの世の終わり…だというような顔をしていた。身体が燃え尽きて灰になっている。ちょっとした風が吹いただけで、消えてなくなりそうになっていた。心なしか、ルシウス・マルフォイも生気が失せ、白目を剥いているような気がした。
1番の人は、ヴォルデモートだった。
彼の姿に関することは、描写しない。ご想像にお任せすることにしよう。
「……俺様の俺様は俺様だった……」
ロンが呟き、それを真面に見てしまった被害者ハーマイオニーは「破廉恥な」と顔を赤らめた。
なお、この呟きを拾った俺様に射殺されるほど睨まれ、ロンも魂の抜けた人形のように崩れ落ちていた。
なお、1番の人の下着を受け取ったのは、ベラトリックス・レストレンジだった。
彼女は、露出度の高い黒いドレスを好んでいる。自分の容姿に対する自信から来ているのだろうが、今回は完全に裏目に出ていた。闇の帝王の下着を震える指でつまんでいる。
「これは、レストレンジ選手は続行不可能だと思いますね」
この南極大陸並みに冷え込んだ状況下で、マクゴナガル先生だけが淡々と解説をしていた。全ての感情を押し込めて、仕事をしているともいえる。さすがは、一癖も二癖もある生徒職員と個性が強すぎる校長の間に挟まれ、副校長として長年働いてきただけのことはある。
「戦意を消失しています。むしろ、これ以上の失態を重ねる前に、自ら降参を認めた方が良いかと」
「残念ですが、ミネルバ。ルールは絶対です。
それでは、三回戦を開始します」
「俺様だーれだ!」
セレネはちらっとクジを見る。
今回も「俺様」ではない。なお、ベラトリックスはルシウスによって引かされていた。
「ミネルバ、マルフォイ選手がレストレンジ選手に無理やりくじを引かせていましたが、これは、どういった意図なのでしょうか?」
「言わなくてもわかるでしょう。マルフォイ選手は、『名前を言ってはいけないあの人』の怒りを恐れているのです。ここで、レストレンジ選手が続行不可能となった場合、あちらの陣営は圧倒的不利かつ圧倒的痴態を晒すことになるのですからね」
マクゴナガル先生は追い打ちをかけるように解説をしている。
その傍で、ハリー・ポッターが仲間たちに囁きかけていることに気付いた。
セレネが耳を傍立てようとしたが、すぐ隣で聞こえた言葉に耳を奪われてしまった。
「っくそ、オレが俺様かよ……」
セオドール・ノットが面倒くさそうに頭を掻いていた。
「この状況を挽回なんて不可能だろうが……」
「……まあ、これ以下はありませんよ」
セレネが彼の背中を叩いた。
「ここが最底辺です。あとは上がる一方なので、気にしないで命令をしなさい」
「いや、気にするだろ。この状況をどうにかしないと、オレの命が危ない」
セオドールは長い長い息を吐くと、静かに命令を口にする。
「9番の人、ホグズミード村でトランクスを買ってこい」
セオドールは得意げな顔で宣言する。
ここに集った全員が、一斉に自分のクジを確認する。セレネの数は3番、隣のアステリアは4番だった。望みを託すように、ハリー陣営を見たが、誰も動き出さない。
がたん。
誰かが立ち上がる。
セレネは隣に座る自身の右腕が震えているのを感じた。
「お待ちください、我が君! どうか断ってください!」
ルシウスの叫びが空間に木霊する。
続けるように、ベラトリックスが甲高い声でセオドールを非難した。
「貴様ッ! 純血なのにホムンクルス側についただけでは飽き足らず、我が君の痴態を他の者に見せるとは! 何たる無礼!」
「そ、そんなつもり、あるわけないだろ!」
「我が君、どうかご再考を! 我らだけでも、あとで挽回しますので!」
「お前たちに任せて、成功したことがあったか?」
ヴォルデモートは胃の奥から凍り付くような声で言い放つ。
「俺様の辞書には降伏も失敗の文字もない!」
「ですが、今回ばかりは!!
―—ッ、おのれ、小僧めが! アバダケダブラ!!」
ベラトリックスが杖を鞭のように振る。
セレネは咄嗟に眼鏡を外すと、セオドールの前に躍り出た。直死の魔眼で迫りくる緑の閃光を斬り捨て、ベラトリックスを睨み付ける。
「ホムンクルスめ、邪魔をするな!」
「ルール違反ですよ、ベラトリックス。それとも、ここでやり合おうというのですか? 私に、一度も勝てたことがないのに」
「この……ッ、調子に乗るな、小娘が!」
ベラトリックスは腕をまくると、セレネに照準を定める。
そこに待ったをかけたのは、ハーマイオニー・グレンジャーだ。
「二人とも落ち着いて。今回の――ッ」
「うるさい、穢れた血め!」
ベラトリックスの杖から閃光が迸る。ハーマイオニーはすぐに避けたが、栗毛の髪を掠めた。それを見た恋人は自身の髪の色より顔を赤くすると、ベラトリックスの前に突っかかっていく。
「ハーマイオニーに何をする! 『ステュービファイ‐麻痺せよ』!」
「ははっ、血を裏切る者の攻撃が当たるとでも?」
ベラトリックスは高笑いをしながら避ける。失神呪文は完全に外してしまったが、余計な人物に当たってしまった。ヴォルデモートに。もちろん、ヴォルデモートは直接失神呪文を喰らうほど落ちぶれてはいない。こちらに向かってくる呪文を視認した瞬間、盾の呪文を展開していたので無傷ですんだ。
「……そうか、そのようなルールになったのだな?」
ヴォルデモートは不敵な笑みを浮かべと、ベラトリックスの隣に立った。ベラトリックスは愕然と主人を見ると、すぐにロン・ウィーズリーを睨み付けた。
「血を裏切る者め! 防備が薄そうな我が君を狙うとは、なんと傲慢な!」
いや、お前が避けたからだろ。
セレネは心の中でツッコミを入れたが、すぐにそのような暇もなくなった。
「俺様直々に皆殺しにしてやる。まずは、そこの赤髪からだ!」
「ロン! ヴォルデモート、僕が相手だ!」
ヴォルデモートにハリーが向かっていく。
ベラトリックスはロンとハーマイオニーに牙をむき、ルシウスは悩んだ末のセレネたちの方へ向かってきた。
「アステリア、貴方は下がってなさい。
セオドール、一人で行けますか?」
「無論だ。お前はポッターのところへ!」
セレネとセオドールは互いにタッチをすると、そのままセレネはヴォルデモートの方へ駆けだした。ヴォルデモートの防御力はゼロだったが、これは魔法戦だ。身体的防御力がゼロであっても、魔法で全てカヴァーすることができている。
「ハリー、加勢します!」
ヴォルデモートの方が圧倒的に強い。
ましては、いまは怒りで更に力が強まっている。
「ありがとう、セレネ!」
「忌々しいポッターとホムンクルスめ! ここで葬ってやる!」
会場は混沌に陥った。
あちらこちらで色とりどりの閃光が飛び交い、命を懸けた勝負が続く。
そして、戦いは佳境を越え、誰もが力尽き、その場に崩れ落ちた。
「……えー、俺様ゲームの勝者ですが……」
リーは隠れていた壁から顔を出すと、死屍累々の会場を眺めた。
「大多数の選手が『杖使用を禁じる』というルールに反していたので、失格とさせていただきます。
よって、勝者はただ一人!」
「アステリア・グリーングラスだけですね」
マクゴナガル先生も疲れたように額に手を当てた。
「えっと……私、でいいのかな?」
アステリアはセレネの言いつけを護り、一人隠れていたのであった。
「では、勝利の栄冠は、アステリア選手へと渡されます。
アステリア選手。貴方がホグワーツの戦いの勝者です。この場にいる全ての敗者に、命令を下すことができます。なお、この命令は絶対です。彼女の命令を破った場合、魂を魔法拘束させます」
「なん、だと?」
ヴォルデモートが呻く。
その隣で、セレネが俯きながらアステリアを見つめた。
「アステリア、そこの、蛇男に向かって、『自害せよ』と命令しなさい」
「っく、この、人でなしが」
ルシウスが呟く。
ヴォルデモートは赤い瞳で忌々しく娘を睨んでいた。アステリアは闇の帝王の双眸に「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げた後、考えるように目を閉じた。
「うん、分かった。私は――」
アステリアは目を開けると、ゆっくりと全員を見渡す。
この場にいるすべての者の視線が、小さな女の子に向けられていた。
「あの……とりあえず、喧嘩を辞めて仲良くしましょう。差別もなく、みんな平等に。
あと、これが一番大事なことなんですけど……」
アステリアは目を迷わせた後、ちょっとだけ頬を朱色に染めて、ほとんど囁くように言った。
「誰でもいいから『名前を言ってはいけないあの人』に服を貸してあげてください……」
ハリーたちと闇の陣営の間に協定が結ばれ、マグル生まれに対する差別もなく、誰もが一つになろうと努力し、英国魔法界はぽかぽか暖かい世界になった。
そして、俺様はぽかぽか暖かい服に包まれ、高ぶっていた感情が収まり、アステリアの下で世界平和のために働くことになるのでした。
めでたし、めでたし。
※元ネタは、主にカーファンと銀魂ネタ。