灰色ドラム缶部隊   作:黒呂

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チマチマと頑張っておりまする。今年中の完結……なるかなぁ(汗) 


ソロモン防衛戦 前編

宇宙世紀0079年12月、この年も残り一ヶ月程で終わりを迎えようとしている中、ジオン独立戦争も終戦に向けて加速しつつあった。念願の独立を夢見たジオン公国の敗北と言う形で……。

先月11月に起こったオデッサの陥落以降、反撃を強める地球連邦軍の前にジオン地上軍は連戦連敗を重ねていった。ジャブロー降下作戦の失敗、キャリフォルニアベース陥落、アフリカ方面軍の敗北……最早地球上のジオン勢力はほぼ全て一掃されたも同然であった。

 

そしてジオン軍は宇宙へ押し寄せて来るであろう連邦軍の侵攻に備え、宇宙に残された拠点で迎撃準備に追われていた。

しかし、地球に取り残されたジオン残党兵も少なくはなく、ジオン宇宙軍が総出で作業に取り掛かるも人手が全く足らず、挙句の果てに学徒兵さえも動員される有り様だ。学徒兵も動員されるのだから、言うまでもなく特別支援部隊も戦線構築の任務を押し付けられて前線へ駆り出された。

戦力としての評価は低いものの、戦線構築を行うのに人手は一人でも多くあった方が良い。そんな上層部の考えもあり、特別支援部隊は連邦軍との大規模戦闘が予想される宇宙要塞ソロモンへ派遣された。12月6日の事である。

 

派遣された当初は援軍として歓迎されるどころか、ソロモンの兵士達に色々と邪険扱いされたものだ。ソロモンの兵士達が彼等を邪険する最たる理由は派閥の違いによるものだ。

ソロモンのジオン兵士はドズル・ザビ中将の麾下であり、特別支援部隊はキシリア・ザビ少将の麾下にそれぞれ所属している。ドズル派の兵士は叩き上げの軍人や武人肌の人間が多いのに対し、キシリア派は知的で当初から特権階級を有したエリート階級の人間が多い。

 

所属する人間のタイプも異なれば、戦闘のスタイルも戦争に対する姿勢も根本から異なる。それ故かキシリア派とドズル派、それぞれに所属する軍人は互いを嫌い合っているという噂もある程だ。その中でも特に有名なのはドズルの部下であったランバ・ラルと、キシリアの部下であるマ・クベの対立だろう。

 

それはさて置き、派閥が異なるとは言えソロモンに着任したばかりの特別支援部隊がソロモンの兵士に邪険扱いされるのはお門違いも甚だしいものだ。彼等は純粋に増援として来ただけであり、彼等と犬猿な仲を演出する為に来たのではない。

しかし、どんな無碍な扱いも特別支援部隊……特にグレーゾーン部隊には手馴れたものだ。一年戦争が始まった頃の上層部の無理難題な命令で死に掛けた、あの時に比べれば邪険など生易しいものだ。

ソロモンの司令部から言い渡される下っ端のような仕事を黙々とこなし、特別支援部隊は徐々にではあるがソロモン兵士達の信頼を獲得していった。

 

『オーライ! オーライ! ストーップ!!』

『衛星ミサイル30・32・35は完成しましたぁ!!』

『出来上がった衛星ミサイルをオッゴでNフィールドへ運んでくれ! それが終わったら今度はSフィールドの砲塔の増設作業に取り掛かれ!』

『ジェイコブ隊に休息を取らせて、代わりにカール隊を作業に取り掛からせろ!』

『おい、手を貸してくれ! 衛星ミサイルのブースターの調子がイマイチなんだ!』

『無理だ! こっちも手一杯だ!』

 

そして特別支援部隊がソロモンへ派遣されてから2週間余りが経過した頃、彼等はソロモン要塞の防衛力強化の作業に従事していた。メガ粒子砲台及びミサイル砲台の増設、衛星ミサイルの建設、宇宙機雷の散布などの後方支援任務だ。

しかし、それでもまだまだ連邦軍を迎撃するには戦力が足らないとソロモン司令部は見ているらしく、おかげで派遣されてから今日に至るまで特別支援部隊は休む暇もなく突貫作業を続けている。

当然、人手は全く足りない。人手の少なさを補おうと24時間体勢で交代を繰り返しながら少しずつ作業を進めてはいるが、それでもやはり限界がある。体に鞭打って無理に作業を続行し、挙句の果てに事故を起こしたりすれば笑い話では済まされない。

 

「今日で二週間……か。丸々二週間も休み無しの突貫作業をすれば、流石に体に堪える……」

「無理はなさらないで下さいよ、艦長」

「君も無理はしないでくれよ、副艦長。これで二人が共倒れになったら監督する者が居なくなってしまうからな」

 

艦長であるダズや副艦長のウッドリーは特別支援部隊の監督と監督補佐という役目もあるので部下達と共に作業を手伝う事は出来ない。こういう時に限って何も出来ずに只待っているだけというのは辛いものだ。

そしてウッドリーから宇宙食用のパックに詰められたコーヒーを受け取り、ストローに口を付けた矢先にソロモン司令部から通信が入ってきた。

 

『特別支援部隊、応答せよ』

「はっ、こちら特別支援部隊メーインヘイム」

『作業の進行状況を報告せよ』

「現時点で異常はなく、作業は順調に進んでいます。砲台及びミサイル発射台の増設は78%が終了、衛星ミサイルも予定の50機まで現在建造中の物を除いて12機を残すだけとなりました」

『そうか。では、現在建造中の衛星ミサイルが完成次第、全作業を中止してソロモン内で待機せよ』

 

司令部からの指示にダズは素直に命令を受け入れるよりも先に驚きの感情を抱いた。自分達に与えられた任務を完遂しないまま、途中で放棄して待機しろ……などという命令は今まで聞いた事がない。

司令部がこのような命令を下すのは、恐らく後方支援などの作業に時間を割くのさえも惜しい状況に追い込まれているという事なのだろう。そして司令部の通信から作業を中断する理由が伝えられた。

 

『偵察部隊が連邦軍の部隊がソロモンの近くで集結しつつあるのを発見した。艦隊等の規模からして連邦軍の主力ではないと思われるが、かと言って今までみたいな強行偵察や挑発目的での集結ではない事は明らかだ。また集結を開始した時期から想定すると、数日中にこのソロモンへ連邦軍が総攻撃を仕掛けてくるだろう』

「それでは衛星ミサイルの製造は尚更の事ではありませんか? 最低でもあと一機以上は作れるかと……」

『いや、貴官の部隊にも防衛戦に参加して貰う。今先程、グラナダからソロモン防衛戦に参加せよという命令が下された。防衛戦は連邦軍と我が軍の戦力差から鑑みて、熾烈を極めるのは明らかだ。激戦に備えて今から少しでも休養を取り、今日まで休み無しで続いた突貫作業の疲れを取ってくれ』

 

ソロモン司令部の言い分は尤もであり、何より二週間丸々働かされた彼等にとって休養はこの上ないご褒美だ。またグラナダの頭でっかちな軍人達とは違い、彼等は兵士の重要性を重く認識している。

これは恐らくドズル・ザビの兵士に対する考え方も反映されているのだろう。ソロモンに良き軍人が生まれるのも納得というものだ。グラナダの軍人にも見習ってほしいものだ……と思うが、軍の面子に傷を付けても勝利を求めるキシリア・ザビにそれを求めるのは無理な話だ。

 

「左様ですか。了解しました、早速部下にも伝達します」

『うむ、少なくとも連邦軍は明日中には攻め込んで来ない筈だ。明後日はどうなるか分からんがな。それでは、頼んだぞ……ああ、そうだ。一つ言い忘れていた』

「は? 何でありましょうか?」

『グラナダから辞令を預かっている。今までの戦績を考慮し、特別支援部隊は各員を一階級昇進とする。また特別支援部隊に補給及び補助兵器を送った。以上だ』

「はっ! 確かに拝命仕りました!」

 

グラナダからの辞令と補給の件を伝え終わると司令部の通信は途切れると、ダズとウッドリーは目を丸くして互いの顔を見遣った。

 

「昇進とは珍しいな。てっきり上の連中には我々の活躍なんて脛毛程に気にも掛けていないのかと思っていたよ」

「私も正直驚きました。しかし、昇進させてやったのだからこれからもキリキリ働けよと暗に命じているのが分かりますね……」

「もしくは昇進で我々を持ち上げて、より一層働かせてやろうとお考えなのだろう」

 

今まで真っ当な扱いを受けて来なかったが為に、昇進と聞いても素直に喜ぶどころか疑いの目を向けてしまう。しかし、所詮昇進は昇進でしかない。素直に昇進の辞令は受け取っておくとして、気になるのは補給と一緒にやってくる『補助兵器』とやらだ。

 

「補助兵器って言いますと……オッゴの事ですか?」

「だったらオッゴなりMPなり言うだろう。そもそも何に対する補助なのか全く聞かされていないのだから見当が付かない」

 

新兵器ではなく、補助兵器と断言していた。補助という事はMSのように主力兵器として前線で戦うのではなく、一歩下がった所から主力のフォローをする兵器であるという事は薄々予想が付く。問題は果たしてそれが一体どんな兵器かだ。オッゴやMPとは言っていないので、少なくともそれではないのだろう。

どのような補助を行う兵器なのか、何故その補助兵器をソロモン要塞の兵士達ではなく態々自分達の部隊へ送ってくるのか。色々と疑問は尽きないが、やはり色々と詮索しても答えは見付からない。

 

「どんな補助兵器かは受け取ってからのお楽しみって事ですかね?」

「楽しみと呼べる代物だったら良いんだがな。これで駄作兵器だったら逆に嫌がらせ以上の悪意でしかない」

「全くですなぁ」

 

楽しみのような恐ろしいような、そんな感情を胸に抱きながらダズとウッドリーは作業中の特別支援部隊に司令部からの伝達事項を伝えるのであった。

 

 

 

 

 

「―――これにて我々の任務は完了とする。明後日から我々の部隊はソロモン防衛の任務に着く。万全な準備をする為にも、パイロットは全員休養をしっかり取るように! 解散!」

「「「はっ!!」」」

 

ソロモン要塞の軍港に停泊していたメーインヘイムの格納庫内にてネッドから解散の号令が下され、特別支援部隊は漸く終わったと言わんばかりに安堵の笑みを浮かべてその場を後にしていく。

しかし、ソロモン司令部からの作業中止の命令を受けた時点でまだ途中だった衛星ミサイルなどの建造で時間が掛かり、結局彼等が解散出来たのは命令を受けて4時間後の事であった。

 

エドやアキ、そしてヤッコブもこれらの激務を二週間、休む暇を惜しんで従事したのだ。尋常じゃない疲労感が彼等の中に溜まっており、もし更に一週間任務が続けば過労死するのではないだろうか。いや、間違いなく過労死していたと思える程に過酷な任務であった。

だが、その悪夢のような任務も(途中ながらも)終わった。漸く手に入った一日の休みは彼等にとって値千金の価値があり、そう思うだけで心が遥かに軽くなる。

 

だからだろうか、エドは気分が軽くなった序にこんな話題を二人に持ち掛けた。

 

「なぁ、部屋に戻る前にメーインヘイムのMSハンガーに寄ってみようぜ。グラナダからの補給で隊長にも新しいMSが受領されたらしいぜ」

「新しいと言っても所詮はリック・ドムだろ? それよりも俺は整備士が噂していた補助兵器とやらが気になるがな」

「補助兵器って何ですか?」

「知るもんかよ、俺だってそれを見ちゃいねぇんだからよ。まぁ、新型MS見る序に補助兵器も見るって事ならば賛成だな」

「へへっ、じゃあ決まりだな!」

 

エドの意見が採用され、三人はメーインヘイムの格納庫に設けられたMSハンガーへと足を運ぶ。そこにはヤッコブが言った通りリック・ドムの姿があった。

 

十字型モノアイレールに重厚なボディ、ザクの何倍もあるベルボトム型の脚部とスカートアーマーと呼ばれる腰部装甲が特徴的なリック・ドム。

このリック・ドムはあくまでも最新鋭の主力MSゲルググが各戦線に配備されるまでの繋ぎに過ぎなかったのだが、そのゲルググの生産が予想以上に遅れた為に暫定ではあるが宇宙軍の主力MSとして抜擢されたのだ。

だが、リック・ドム自体が陸戦用MSドムを急遽宇宙用へ改修しただけの急造品であり、その性能はお世辞にも高いとは言い難いものであった。これはやはりドムの機体設計が陸上などの局地戦で本領を発揮するよう設計されており、ロケットエンジンの換装やスラスターノズルの増加など最低限の改修を施したリック・ドムでは地上とは異なり他を圧倒する性能を発揮出来なかったのだろう。

後継機となるリック・ドムⅡでは急遽宇宙用に改造されたリック・ドムの欠点を克服するべく、元から空間戦闘を意識した宇宙用MSとして開発されており、完成した際には宇宙用MSの名に恥じぬ高性能を発揮している。

しかし、惜しむらくはリック・ドムⅡが完成して、本格的な生産が始まったのは一年戦争末期の頃であった。既に戦争が終戦へと向かう最中の事であり、更にゲルググと配備時期が重なってしまい一年戦争中では目まぐるしい活躍を見せ付ける事が出来なかった。

リック・ドムⅡが活躍の場を得られるのは一年戦争を終えてから三年後の事なのだが、それはまた別の話である。

 

一応このソロモンにもリック・ドムⅡは何十機か配備されているが、それでも主力MSとなるにはまだまだ数が足りず、結局は急造品であるリック・ドムが主力MSとしてソロモン防衛に付くしかなかったのだ。

しかし、それでも統合性能ではザクを上回っているのは事実であり、急造品としてはそれなりの活躍も見込まれる。後はパイロットの腕次第という事だ。

 

それを考えるとネッドにもリック・ドムが回されたという事実は彼の腕前を上も認めているという証拠だ。最も連邦軍の猛攻に追い込まれた今のジオン公国にパイロットや部隊の好き嫌いだけで嫌がらせをする余裕など無い筈だ。但し、派閥争いの方に関しては何とも言えないが。

 

優秀な軍人、戦力として使える部隊が居れば十分な支援を与えて戦って貰う。資源や人材などの台所事情も苦しくなり、様々な方面で追い込まれたジオン公国が取るべき最良の手段はそれしかない。

 

「お前等、こんな所で何しているんだ?」

 

エド達がメーインヘイムのMSハンガーに立っているリック・ドムを見上げていると、突然後ろの方から声を掛けられた。その声に反応し三人がそれぞれ振り返ると、そこにはリック・ドムを受領したネッド少尉の姿があった。

 

「ネッド隊長! 凄いじゃないですか! 新しいMSですよ! リック・ドムですよ!」

「おいおい、凄いってお前な……リック・ドム如きで喜ぶなよ。あれは既に他の部隊へも配備されている量産機だぞ。連邦軍がザクをも上回るMSで攻めてくるのだから、こちらもザクよりも性能が上のリック・ドムで対抗しようというのは当たり前の事だろう?」

「えぇ~、だったら俺もリック・ドムに乗りたいです! もしくはザクに!」

「それは俺に言っても実現しないぞ。言うとするならば上層部にだが、一等兵の……いや、伍長になったお前の言い分を上が聞いてくれるのはゼロに等しいな」

 

未だにMPオッゴに乗り続けているエドからすればリック・ドムだけでなくザクでさえも羨ましいと言うのに、ネッドの現実味が詰まった辛辣な言葉でガックリと肩を落としてしまう。

 

「ですが隊長、リック・ドムの生産も手一杯っていう噂ですぜ? そのせいで新型の生産も遅れているとか……」

「当然だ。地球上でMSの生産が出来る拠点が残されていれば今頃その新型もスムーズに生産されていただろうが、今や完全にジオンは地球から追い出されてしまった。最早我々に残されている生産拠点はサイド3とグラナダ、ア・バオア・クーとこのソロモンだけだ」

「MSを作り上げる技術力があっても、それらを生産する工業力が釣り合わない……という事ですね」

「そういう事だ。今こうしている間も各工場はフル稼働しているだろうが、オデッサ基地の放棄で資源の供給が失われた今、何処も火の車で一杯一杯だろうな」

 

元より国力が劣っている上にオデッサからの撤退により、今まで保たれていたジオンと連邦のパワーバランスが一気に崩れてしまった。それを取り戻す為にジオンは新型MSの生産を推し進めているが、今からでは遅過ぎる感が否めない。

 

「それよりも隊長、俺達の部隊に届けられた補助兵器って何ですか? 一度拝見してみたいと思うんですが……」

「ああ、あれか……うん、まぁ………ううむ……」

 

そこでヤッコブが個人的に気にしていた補助兵器の話題を持ち出すと、途端にネッドは目を泳がせて言葉を濁した。

 

「何か不具合でも?」

「………俺が口で説明するより見た方が速いな、付いて来い」

 

そう言うとネッドは地面を蹴って何処かへと移動し始める。どうやら補助兵器とやらは此処にはないらしいが、それにしても彼の口ぶりが気になって仕方がない。

彼の後を三人が追い掛けていくと、やがてネッドが辿り着いたのはメーインヘイムが停泊しているブロックの更に数ブロック右へ移動した所にある軍港であった。ソロモンに駐留する艦船の都合上、今さっきまで空き家状態となっていたが現在は艦船に代わって別の物体がこの軍港を丸々一つ埋めていた。

 

「おい、マジかよ……」

「何ですか……これ……」

「でけぇー!?」

 

ヤッコブは目の前にある物体を驚愕に満ちた表情で見上げ、アキは目の前の物体に言葉を失い、エドは純粋にその物体を一言で表現した。

 

そう、正しくそれはエドの言う通り巨大な物体であった。ムサイ級巡洋艦に匹敵する程の大きさを持つが決してソレは戦艦ではない。強いて言うなればMA(モビルアーマー)だ。

人型の構造を持つMSとは異なり、MAは非人型の構造を取った事で汎用性に劣るものの、局地戦や強襲、拠点防衛などに特化した性能を獲得する事に成功した。

また人型である必要が無い事から機体サイズにも制約は掛けられず、その結果大型且つ高出力のジェネレーターの搭載が可能となり、大半のMAにはメガ粒子砲などの巨大な兵装が搭載されるようになった。

MSが巨大な人間だとしたら、MAは正に怪獣と呼ぶに相応しい。しかし、MAの巨大な機体構造は生産コストを圧迫し、大量に生産出来ないという欠点も持っている。

 

大型のジェネレーターを搭載可能なまでに巨大化したのがMAだとしても、今エド達が見上げているそれはMAの中でも最大規模の大きさを持っているのは確かだった。

そのMAの上半身の部分にはビグロと呼ばれる別のMAが組み込まれているのだが、それでもビグロが占める大きさの割合はMA全体の約3割程度だ。残りの7割を占めているのは下半身に備わっている巨大なスカートアーマーだ。

 

余りの巨大さに誰もが空いた口が塞がらず、漸くこの補助兵器について尋ねられたのはMAと出会ってから五分後の事であった。

 

「隊長、これは一体何ですか!?」

「グラナダから送られて来た支援戦闘用MAビグ・ラングだ。ビグロの高機動戦闘を捨てた代わりに装甲と火力を大幅に強化し、下半身の巨大なスカートアーマーの中にオッゴ専用の小型補給廠を備えている。一応MSにも補給は可能らしいが、詳しい事は知らん」

「補助兵器って……まさかオッゴを補助する為の兵器って事ですか!?」

「ああ、そうだ。これを持ってきたグラナダの技術士官の話によれば、上手く行けばオッゴの戦闘力を三倍以上に向上出来るそうだ。どうやらグラナダの連中は連邦軍に追い込まれて頭がイカれてしまったらしい」

 

人間が運用する物の中で特に兵器には補給と修理が欠かせないのは自明の理だ。しかし、戦闘中に補給と修理を受けるにはやはり後方基地まで下がらなければならず、常に同じMSなどの兵器が戦線を維持し続ける事は不可能に近い。

そこでジオンの技術者達は補給と修理を行える工廠を最前線に運べれば、戦線を維持出来る上により一層戦いを有利に出来るのではないだろうかという大胆且つ無謀な計画プランを打ち出した。その結果生み出されたのがMA-05Adビグ・ラングだ。

 

ビグ・ラングの最大の特徴は艦船にも匹敵する程の巨大なスカートアーマーだ。これは単なる分厚い防護壁などではなく、中はMSやMPの武器弾薬及び推進剤を補給出来る設備が凝縮されている。更に応急修理も可能であり、正にジオン公国の技術と意地が生み出した『動く補給基地』だ。

スカートアーマーの最後部にはオッゴ専用のゴンドラまでも搭載している事から、戦闘継続時間の短いオッゴを支援する目的がある事も示唆出来る。一言で言ってしまえばビグ・ラングの最大のシステムは、このスカートアーマーに備えられたAdユニット、通称『可搬補給廠』にあると言っても過言ではない。

更に巨大なAdユニットを守る為にそれを覆っているスカートアーマーは分厚い装甲が幾重にも重ねられた多重装甲で、装甲の表面にはビームの直撃に耐えられるようビームコーティング処理も施されている。これらによって実弾やビーム兵器、全ての攻撃に置いてほぼ無敵と言える堅牢な防御力を実現した。

 

しかし、このビグ・ラングが完璧であるかと言えばそうではない。寧ろ欠点だらけのMAだと言えよう。

 

先ず一つ目はビグ・ラングの機動性だ。ビグ・ラングは機体の制御ユニットに高機動戦闘を得意とするビグロを丸ごと組み込んでいるが、大質量のAdユニットを接続した事により機動力は皆無と言える程にまで低下。これによりビグロの特性は完全に殺されてしまった。

弩級重装甲ブースターなる堅牢で出力も桁外れに高いブースターを装備しているが、あくまでもそれは膨大な質量を持つビグ・ラングを戦線に移動させる為の手段でしかなく、機動力の向上にまでは至らなかった。その上、燃費も極めて悪いので長時間に渡る移動は無理がある。

 

もう一つは巨体故の被弾率の高さだ。大抵のMSが18mぐらいだとし、ビグ・ラングは全長200mを軽々と越している。それに加えて機動力が皆無という事はMSなどの機動兵器を前にしたら攻撃を回避する術は全く無いに等しい。

強いてMSやMP相手に攻撃を行うとすれば、敵の攻撃を高い攻撃力で耐えながら、反撃に転じるしか方法はない。

 

そして最大の欠点はビグ・ラングが抱える死角だ。ビグ・ラングを真下から覗き込むとAdユニット内部が丸見えになっており、内部には火器弾薬が大量に搭載されている。

そこを攻撃されれば堅牢な防御力を誇るビグ・ラングも一溜まりもないのだが、それを防ぐ手立ては一切取られていない。いや、正しく言えば防ぐ手立てが間に合わなかった。本来ならば巨大な盾を持つ駆動アームが搭載される予定だったのだが装備に間に合わず、結果として真下に大きな死角を作ってしまった。

 

どれを取っても看過出来ない問題ばかりであり、受領した特別支援部隊も頭を抱えるしかない。だからこそ、これを送ってきたグラナダの技術屋達はビグ・ラングをMAとは呼ばず、敢えて補助兵器と気休めな呼び方をしたのかもしれない。

 

しかし、実際に受領して大いに困るのは他ならぬ特別支援部隊に属する整備士達だ。今までオッゴやザクぐらいのMPやMSしか扱った事の無い彼等の所に、突然欠陥しか見当たらないMAを上から押し付けられたのだ。それも200mを越す超大型のMAを。

必死にビグ・ラングのマニュアルと睨めっこしながら何時でも動かせるよう整備を念入りにしているが、それでも大変である事に変わりはない。

 

「もー! 無理ですよこんなのー!」

 

ビグ・ラングを整備している整備兵の声を代弁するかのように声を荒げながら、ビグ・ラングのコックピットから出てきたカリアナ技術中尉がエド達の近くに着地した。

手にはタブレット端末が握られており、エドがその画面を覗き込むと様々な方向か見たビグ・ラングの映像が表示されていた。どうやら彼女もビグ・ラングの調整で頭を悩ませているようだ。

 

「カリアナ中尉、技術屋としてビグ・ラングはどうだ? 使えそうか?」

「使えるかどうか以前の問題ですよ! 機動性は劣悪なくせに燃費は悪いし、一人乗りのコックピットに操作系統が複数あるし、武装だってビグ・ラングの巨体をカバーするには少な過ぎるし、何より整備士とパイロットの負担が大き過ぎます! ネッド中尉、この粗大ゴミをグラナダに返品出来ないんですか!?」

「流石にそれは……無理だろうな」

 

何時もは温厚な彼女が此処まで声を荒げるのは非常に珍しく、挙句にはグラナダから届いたビグ・ラングを“粗大ゴミ”扱いする有り様だ。彼女の気迫に押されてネッドも思わずたじろいでしまうが、彼女がそこまで声を荒げるのも無理ない。

ビグ・ラングの制御ユニットとAdユニットの操作系統が一人乗りのコックピットに混同し、マンマシンインターフェイスの負担が半端無い。機体整備も巨体故に普通のMAやMSと比べて倍以上の時間を要し、どの特徴を取り上げてもこのビグ・ラングは技術屋泣かせの塊としか言いようがない。

 

「こんな兵器を戦場の最前線で使おうなんて自殺行為も甚だしいですよ!? せめて制御ユニットとして選ばれたビグロを分離して使えたら……」

「使えないんっすか?」

「うん、接続されてビグ・ラングの一部になっているからね。分離は不可能なの」

「なぁ、このビグロ……普通のと少し違わないか?」

 

そこで端末に映し出されているビグロの違いを指摘したのはヤッコブだった。彼の言葉にカリアナが深い溜息を交えながら頷く所を察するに、このビグロにも何やら一癖あるようだ。

 

「実はね、このビグロ……正式に量産されたヤツじゃなくって試験機を流用した機体なの」

「試験機……と言うと?」

「この試験型ビグロは主にビグロに搭載されているメガ粒子砲の威力をどこまで引き上げられるかとか、メガ粒子砲のビーム集束率のデータを取ったりする為のテスト機なの。だから、これにはメガ粒子砲の実験に不要とされるミサイルとブースターは全部取り外されているの」

「じゃあ、量産型のビグロよりも性能は劣っているのか?」

「多分ね。その代わり、空いたスペースには最新鋭の小型且つ高出力のジェネレーターを3基搭載し、メガ粒子砲自体も最新型を搭載しているから威力は量産型を遥かに凌駕するわ。また冷却機能も大幅に強化されてるし、エネルギーCAPの技術も流用しているから理論上ではメガ粒子砲の連射も可能らしいけど、砲塔が連射に耐えれる保証は無いから技術屋としてはお勧め出来ないわ」

 

そう言ってカリアナが端末を操作してビグ・ラングの本体ユニットであるビグロの部分を拡大し、真横から映した映像をエド達に見せると、確かにビグロのミサイル発射管と後方のロケットエンジンは取り払われている。

そしてロケットエンジンが無くなった代わりに後部全体を覆い隠す装甲が追加され、更にビグロ自体も実弾の直撃に想定し、弾丸を弾き返し易い滑らかな曲線を描く洗練された形となった。

クローアームにも変更点があり、通常のクローアームではなく水陸両用MSに用いられるフレキシブルアームを採用しており、これにより従来機よりも遥かに柔軟な動きを可能とした。アームの形状も鷲爪から蟹鋏になっており、鋏の付け根には接近防衛用のビーム・ガンが装備されている

 

こうして完成したビグ・ラングの制御ユニットだが、改造を施される前のビグロ試験型と比べると面影は殆ど無く、寧ろビグロの後継機と言うべき存在のヴァル・ヴァロに限りなく近い。

 

何にせよ、ビグ・ラングには看過出来ない多数の欠陥があり、戦場で運用するには問題は山積みだという事だ。

 

「じゃあ、これって結局………」

「ウドの大木、としか表現しようのない欠陥品ね」

 

新しい補助兵器が送られてくると聞かされて期待していただけに、カリアナから酷評を聞かされてエドはガックリと肩を落とした。

しかし、酷評を受けようが欠陥品だろうがビグ・ラングは特別支援部隊に与えられた兵器だ。使わなければ意味が無い。敢えて使わないという手もあるが、それでは資源を無駄にするに等しい。いや、そもそもビグ・ラングを作り上げた時点で資源の無駄遣いかもしれないが。

 

「戦闘では期待出来ないが、メーインヘイムと並ばせればオッゴの弾薬補給の手助けになりそうだな」

「その点だけは賛成ですね。幸いにも制御ユニットとAdユニットは堅牢な装甲で守られていますからね」

 

戦闘云々の問題はさておき、補給支援としては優秀なシステムを持っているのは事実なので最前線で戦うオッゴなどの弾薬補給には一役買えそうだ。問題の多いビグ・ラングを無理矢理押し付けられる形で受け取った特別支援部隊に暗雲が立ち込めるが、そんな暗い雰囲気を振り払おうとカリアナは別の話題を持ち出してきた。

 

「あ、そうだ。実は補給の中にオッゴの新装備もあったよ」

「新装備? 今のビグ・ラングを見ると余り期待出来ない気もするけど……」

「まぁ、こっちはまだマシな方だと思うよ。兎に角、見てみて」

 

そう言って再度タブレット端末を操作し、画面の映像をビグ・ラングからオッゴへと切り替えて三人に説明を開始した。

 

「アタッチメントの武器に大きな変化は無いけど、強いて言えば中身の弾薬類が変わったわね。例えばマシンガンは対MS戦を意識して貫通性の高い弾丸を使用し、バズーカは元来の弾数の少なさを克服する為に弾倉が追加され、口径も240mmから280mmと一回り大きくなって威力の向上を狙っているわね」

「少しでもオッゴの戦闘力を底上げしようというのが分かりますね」

「それから……これは左アタッチメントに装備する三眼スコープカメラ。ザク・フリッパーの頭部カメラを流用したもので、これで遠距離からの偵察や狙撃が可能よ。またスコープカメラの上部には電波や熱源を探知する高度なレドームが搭載されているから、死角からの敵機の接近にもすぐ気付ける筈よ」

「偵察用MSの部品か。珍しいな、これはこれで高性能な代物なんだが……」

「少し前までは偵察用MSも活躍していたんですけど、連邦軍が制宙権を握り始めた上に直掩のMSも配備されると偵察用MSの被害が増える一方でして……」

「撃墜されるぐらいならば、早々にお役御免になった方が良いという訳か。無駄に資源と人命を消費しない為にも賢明な判断かもしれんな」

 

カリアナが見せてくれたオッゴの図には右側にマシンガン、左側にザク・フリッパーの頭部と全く同じ三角形の筒に収まった三眼スコープカメラが装着されていた。このスコープカメラにより通常の数倍以上も離れた敵を確認する事が出来、偵察や狙撃には打って付けの装備に違いない。

また天頂部には小型の円盤型レドームが備わっており、これにより死角の対処も万全のものとなった。

これまでのオッゴは右アタッチメントにマシンガンやバズーカを固定装備しているが、もう片方はアタッチメントごと取り外されている。これは両方にアタッチメントを装備するとオッゴの視界が悪くなるという欠点を考慮しての事だろう。

 

「それとサブウェポンは武装が増えたわ。オッゴ専用の兵装として新規開発された六連装ロケットポッド。以前はザクⅡJ型から流用していた三連装ミサイルポッドだったけど、こっちは対艦戦闘を目的とした強化ロケット弾を搭載しているから威力は以前のそれを遥かに上回るわよ」

「嫌だねぇ、オッゴだけで戦艦に挑むなんざ悪夢以外の何物でもないぜ……」

 

ヤッコブ小隊のオッゴ三機だけでサラミスを撃沈するという戦果も未だに記憶に新しいものではあるが、だからと言って対艦戦闘を期待されても困る。以前のその時は連邦軍のMSはまだ存在せず、貧弱なMPしか居なかった。サラミスを撃沈出来たのも死角となった真下を集中攻撃したからであって、オッゴにMSと同等の戦闘力があったからではない。

 

そしてタブレット端末の画面にはオッゴのサブウェポンラッチに装備される六連装ロケットポッドの図が映し出されていた。六角形の形に沿うように配された六つの強化ロケット弾はオッゴに対艦戦闘能力を持たせようという意図があるかもしれないが、敵にもMSが配置された今では何処まで効果を発揮出来るかは不透明だ。

しかし、オッゴに強力な火器を装備させてMSと同等の戦果を期待したいという上層部の妄想に近い願望も分からないでもない。またオッゴに期待したのは火力だけではなかった。

 

「それからもう一つはABM……アンチビームミサイルと呼ばれる特殊兵装ね。これはミサイルの内部にビーム撹乱幕と呼ばれるビームを阻害する粒子が詰められていて、これを散布する事でビームを完全に無力化する事が出来るの」

「ビームを無力化かぁ。結構役に立ちそうだな」

「でも、過信はしないでね。ビームを無力化出来ると言っても、その効果はABM一発に付き数十秒程度よ。それにABMは中型ミサイルに匹敵する大きさだから、オッゴに装備するとなれば左右のサブウェポンラッチに二基ずつしか搭載出来ないわ」

「一機あたり四発までが限界って訳か……」

 

ロケットポッドの次に表示されたABMは細長い中型ミサイルに酷似した形状をしており、オッゴが装備するには少し不釣り合い感じがする。もしこれを装備した場合には、シュツルムファウストのように片方のウェポンラッチに付き上下一基ずつが限界だ。

しかし、それでもオッゴ一機だけで艦砲などのビームを無力化出来るとは到底考え難い。恐らくABMを装備した複数のオッゴ部隊で先陣を切り、連邦軍艦隊に向けてABMを発射。大量のビーム撹乱幕を散布してビーム兵器を一時的に無力化した後に反転、帰還するというのがABMを装備したオッゴの運用コンセプトだろう。

だが、この運用コンセプトは敵艦隊へ可能な限り接近して実現する、所謂特攻に近いものなのでパイロットが生存出来る確率は極めて低い。最もこれを開発し、オッゴへの搭載を決めた何処かの誰かさんはそんな犠牲など考えていないかもしれないが。

 

「それと……こっちは遠距離砲撃用だね」

「……何ですか、これ?」

 

タブレットを操作して次に映し出されたのは同じくサブウェポンラッチに装備されたキャノン砲のような物体であった。正方形の箱型から突出した砲筒はバズーカよりも長く、砲口はバズーカよりも小さい。オッゴが今まで装備して来た武装の中でも最大規模の大きさだ。

 

「これはね、マゼラ・アタックっていう戦車の搭載砲を再利用したマゼラトップ砲よ」

「おいおい、只でさえオッゴはMSや作業用ポッドの部品を流用しているんだぜ! そこに今度は戦車かよ!?」

「仕方ないですよ、ジオンが地球から撤退して陸戦用MSや水陸両用MSは勿論のこと、マゼラ・アタックなどの陸上兵器も行き場を失ってしまったんですから」

「真面目に答えるなよ……。俺が言いたいのは、オッゴに地上の余り物ばかりを押し付けないでくれって事だよ」

 

オッゴの新たな武装がマゼラ・アタックなる戦車の砲塔を丸ごと転用しただけのものだと聞いてヤッコブが嫌な顔を浮かべるが、今のジオンは残されている資源や現存の物資だけで戦争を続けなければならない程に追い込まれていた。

だが、マゼラトップ砲による遠距離砲撃はマシンガンやバズーカしか持っていないオッゴにとっては心強い武器だ。後方からの遠距離支援には打って付けだし、同じMPである連邦軍のボールが得意としていたアウトレンジからの砲撃にも即座に応戦する事が可能だ。

 

それに加えてザク・フリッパーの三眼カメラスコープの高性能機能が加われば、純粋な撃ち合いでは先ず負けないだろう。向こうが数で押してきたら、勝負は難しいが。

 

「オッゴの武装がより充実するのは良い事ですが……それを活かし切れるかどうかは分かりませんなぁ。上層部のお偉方はそこら辺をちゃんと理解しているんですかねぇ?」

「愚痴を零すな、ヤッコブ軍曹。どんな状況に追い込まれようと、今ある装備で戦い抜くしかないんだ。文句は言えん」

「そうですよ、ヤッコブ曹長。頑張りましょう!」

「……そうだな、頑張らなきゃ生き抜く事も出来ないしな」

「じゃあお前等、補助兵器も見てオッゴの装備を見て満足しただろう。速く部屋に戻って、今の内に体を休めろ。明日は兎も角、それ以降はどうなるのかは分からないのだからな」

「「「はっ!!!」」」

 

隊長でもあるネッドの鶴の一声により三人は二週間酷使した体を休ませるべく、早々とビグ・ラングが係留されている軍港を後にした。残されたネッドは何気なくカリアナを横目で見ると、彼女の表情が何故か不安げなものになっている事に気付いた。

 

しかし、何故彼女がそのような不安な表情を浮かべるのかについて彼には思い当たる節があった。

 

「ビグ・ラングの運用コンセプトに不安があるのだな?」

「!………分かりますか?」

「ああ、分かるとも。あれはオッゴを酷使する為に作られた兵器だ」

「ええ、あれは只単なる兵器ではありません。オッゴのパイロットに死ぬまで戦う事を強要する最低な兵器です」

 

ネッドやカリアナが危惧するように口に出したのはビグ・ラングの運用コンセプトについてだ。ビグ・ラングはオッゴの為に用意された補助兵器だと言っても過言ではなく。オッゴの戦闘力を三倍に向上出来るとネッドは説明していた。

しかし、この説明には語弊がある。オッゴの戦闘力を三倍以上に向上出来るというのは、オッゴの戦闘継続時間を三倍長くして得られる戦果の事を指しているのだ。これはビグ・ラングを送り出した技術士官の話であり、当然そんなものは机上の空論でしかない。

そもそもオッゴの戦闘継続時間が三倍長引いたからと言って、戦果も三倍引き上がる訳が無い。この理論はオッゴがこれまでに築いた戦果を元に計算して弾き出した数字でしかなく、オッゴに乗っているパイロットの疲労や負担を一切無視している。オッゴを補給する為に最前線で活動するビグ・ラングのパイロットの負担も完全に無視だ。

 

パイロットの負担や疲労は戦闘に大いに影響する。それを全く理解していないからこそ、上層部はこんな大胆且つ無謀な兵器を作れるのだ。だが、裏を返せば背水の陣、必勝の信念、死ぬまで戦って勝てという追い込まれたジオンの本音が見え隠れしている。

 

「兎に角、私はこれの運用には反対です。出来る事ならば、ここに投棄したいぐらいです」

「技術屋である君にそう言わせるのだから、余程酷いのだな。この兵器は。しかし、君一人の我儘でこれを好き勝手に処分させる訳にはいかない」

「しかし、ネッド中尉……!」

 

ネッドの口振りからビグ・ラングを運用する気だと思い込み、鋭い口調で猛反発しようと口を開き掛けたが、その直前に『そう言う意味ではない』とネッドが首を軽く横に振ったのを見て口を閉ざした。

 

「大丈夫だ。このビグ・ラングに期待されている戦力価値は皆無さ。故に、我々の部隊はソロモン防衛の際には激戦区となる場所から離れた所へ回される」

「……つまり、ビグ・ラングは使用されないと?」

「それはまだ分からないが、少なくとも最前線で戦う事にはならんよ」

「そうですか、なら良いですけど……」

 

少なからずの戦闘に巻き込まれるかもしれないが、それは戦争なのだから仕方の無い事だ。寧ろ最前線で戦わされるのと比べれば数倍、数十倍マシというものだ。取り合えず、ビグ・ラングが大活躍するような場面もなく戦争が一刻も早く終わるのを願うだけだ。

 

「では、俺も先に戻らせて貰うよ。折角手に入った一日だけの休みだ。今の内に精気を養わないと、戦いに耐えられそうにない」

「了解しました、ごゆっくりして下さい」

「ああ、そうさせてもらう………そうだ、君に言い忘れていた事が一つだけあった」

「何ですか?」

 

ソロモン要塞にある宿舎へ向かおうとしていたネッドの足が止まり、再度カリアナの方へ振り返る。カリアナもネッドの言う『言い忘れていた事』を気に掛け、不思議そうな表情で彼の言葉に耳を傾ける。

 

「君に頼みたい事があるんだ」

「頼みたい事……ですか?」

「ああ、実は―――――」

 

 

 

 

宇宙世紀0079年12月23日、ソロモン要塞にて特別支援部隊は一日の休暇という短くも極めて穏やかな時間を過ごした。戦争の喧騒を忘れて、誰にも邪魔される事無く寛げる唯一の時間だった。疲れ切った身と心を自分だけの時間の中でじっくりと癒し、一瞬のようにも感じられる平和な一時を誰もが噛み締めるように大事にしながら過ぎていく。

 

そして短い休日が終わり翌日の12月24日、地球連邦軍によるソロモン攻略作戦『チェンバロ作戦』の幕が切って落とされた。

 




こちらのオリジナル設定でオッゴの武装に新たにマゼラトップ砲とABM,三眼カメラスコープを追加しました。マゼラトップ砲はカッコいいと前々から思っていたので、漸く実現出来て満足ですw
オッゴが早くに完成していたから、ビグ・ラングも一週間ぐらい早くに完成していても良いかなーと思ってソロモン戦に参加して貰いました。パイロットは………また次回でという事でw
因みに私の脳内設定では特別支援部隊に届けられたビグ・ラングが試作2号機で、試作1号機は第603技術試験隊へ譲渡されてマイさんが試験中という設定です。因みに2号機の方はAdユニットにABMや対艦ミサイルは未搭載です。それらはマイさんのビグ・ラングで実験データを得てから装備されるかと……。

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