「次はオルコットさんと夜竹さんですね」
「専用機持ちばっかですね」
「一夏君を相手にするには専用機持ちでも力不足感が否めないのに訓練機同士じゃ練習の前に自信をなくすでしょ?」
「訓練機同士相手ならもっと加減しますって。第一訓練機だからって弱い訳では無いでしょ」
「それはそうなんだろうけどさ~」
訓練機は使いようによっては十分な強さを発揮できる。
前に聞いた話では凰さんとオルコットさん相手に真耶が訓練機で圧勝したとか・・・
いくら急造コンビでも専用機持ちの代表候補生相手に訓練機で圧勝するのは普通の人では無理かもしれない。
真耶はあの容姿と行動からな想像出来ないが実力者だ。
だから機体の差も関係なく勝てたのだろうが、生徒にそれを求めるのは可哀想だ。
「まあ相手が誰だろうと内容は変えませんけど」
「訓練機同士は相川さんと鏡さんのペアだけね」
「4/5も専用機持ちが居るペアなのは何故なんですか?」
「初日から一夏君の相手をしたかったんじゃないかな」
「もっと真剣に訓練内容を選べよ。篠ノ乃なんか射撃訓練から受けた方が絶対良かっただろ」
「一夏君と会えなかったから考えが一夏君中心になっちゃったんじゃない?」
「俺より自分の事をちゃんと考えなきゃわざわざ自主参加した意味無いだろ」
一夏君は盛大にため息を吐き準備するために移動していった。
一夏君ってため息が癖になってるんじゃないのかな?
「(セシリアさんと戦うのは入学直後以来ですね)」
あの時は遊び半分だったからな。
今回はあの時よりは真面目に相手するとしよう。
「(相方の夜竹さんは授業でも他の方より動きが鈍い印象がありますね)」
まだそこまで差がある訳では無いが、確かに動きにくそうにしてた印象はある。
セシリアの専用機は遠距離中心の武装だからな、夜竹さんが前衛だろう。
「(なら、狙いは夜竹さんですか?)」
セシリアの攻撃を捌きつつ夜竹さんの動きを見る。
「(一夏様、何だか本当に教官みたいですね)」
自分の意思では無いにしても任されたんだからな。
必要最低限の指導くらいはするさ。
「(今回は黒雷は如何しますか?)」
さっきの模擬戦でデータはある程度揃ったし、今回はブラフで使うだけで良いだろ。
構えて相手に黒雷の事を警戒させておいて暫撃で襲う。
「(一夏様の攻撃手段の中で、スピードは暫撃が一番早いですからね。黒雷はまだ調整が必要ですし)」
速度は申し分ないんだが全力で使うと反動も大きいからな。
さっきのラウラに使った攻撃でその反動は体感した。
「(私も体感しましたが、あれは凄いですね)」
微調整は後で頼むとして、もう全力で黒雷を使うのは止めておこう。
さて、今回は動き回るからな、覚悟しろよ。
「(一夏様の動きにはもう慣れましたって。安心して動き回ってください)」
須佐乃男の承認も取った事だし、精々動き回りますか!
「セシリア、織斑君のあの武器は如何対処するの?」
「一夏さんにあの武器を使わせないように立ち回りますわ!」
「出来るの?」
「やって見せますわ!」
ペアで一夏さんと戦う事になるなんて思っても無かったですわ!
前の二戦を見て一夏さんはあの黒雷を止めに使っていますし、あれを使われないように此方が集中砲火で一夏さんを追い詰めますわ!
まあ、それが出来れば楽なんですけど、相手はあの一夏さんですしね・・・
正直どれだけ足止め出来るか不安なのですが。
「夜竹さんが一夏さんにあっさり撃ち落されないか心配ですわ」
「織斑君だって手加減してくれるだろうし、そんなあっさり撃ち落されないって」
「不安ですわ・・・」
夜竹さんの実技の成績は良くない。
補習とまでは行かなくとも決して合格とは言えませんわね。
近接戦も遠距離戦もどちらかと言えば不得手なようですし、整備士志望とは言えもう少し頑張ってほしいものですわね。
「セシリア、何考えてるんだ?」
「い、一夏さん!?な、何でもありませんわ!」
「ふ~ん・・・あんまりクラスメイトの事を見下すなよ」
「!?」
バレてましたわ!?
一夏さんは軽く釘を刺してまた私から離れていきましたが、ビックリしましたわ。
さっきまで離れていた一夏さんが至近距離に居たんですもの。
それにしても一夏さんは他人の思考が読めるって本当だったのですね。
私の悪い癖である無意識に他人を見下してしまう事に気付き注意するなんて、一夏さんはやっぱり素敵ですわね!
「お~いセシリア、そろそろ始まるよ~」
「え?チョッと待ってくださいませ!まだ心の準備が!!」
「何慌ててんだ?」
夜竹さんに声を掛けられ動揺してしまった。
ああ、一夏さんに呆れられてますわね・・・
「オルコットさ~ん!準備出来ましたか~?」
「え、ええ!もう平気ですわ!!」
「それなら始めて良いよね~?」
「何時でもOKです!」
ナターシャ先生に確認を取られた。
ああ!何てみっともない姿を晒してしまったのですの・・・
「それじゃあ開始!」
へこんでいる暇はありませんわね!
例え訓練とは言え相手はあの一夏さんなのですから!
「(セシリアさんはまだ動揺してるみたいですね)」
そのようだ。
なら一発お見舞いするとしよう。
「(油断ではないでしょうが、あれじゃあ狙い撃ちされても仕方ないですね)」
俺は銀を展開して暫撃をセシリアに向けて放つ。
軌道を変える必要なくセシリアに直撃した。
・・・大丈夫か、アイツ?
「(今の一撃で目が覚めるでしょうね)」
そうだと良いんだが。
俺はセシリアが動かないので夜竹さんへの攻撃が出来ずに居るのだ。
セシリアの攻撃を捌かなければこの訓練はすぐ終わってしまうからだ。
ほら、夜竹さんも困ってるぞ。
「セシリア!平気?」
「え、ええ。何とか大丈夫ですわ」
一夏さんの遠距離攻撃を受けて、私は一気に集中する事が出来ました。
あれはきっと一夏さんからのメッセージだったのですわね。
集中しなければ怪我するぞって言う一夏さんの心遣いを無駄にはしませんわ!
「夜竹さん!これからしっかりフォローするので、貴女は一夏さんに攻撃してください!」
「うん、頑張る!」
夜竹さんは小さく拳を握り一夏さんに向かっていった。
これは訓練、しかも連携を見ているですからしっかりとしなければ!
鈴さんや箒さんのように個人技ばっかでは駄目なのですから。
「行きますわよ!一夏さん、覚悟してください!!」
ブルー・ティアーズを展開して一夏さんにレーザーやミサイルで攻撃する。
私としては完璧なタイミングだったのですが、
「狙いが視線で丸分かりだ!」
一夏さんはレーザーをかわしミサイルを斬り捨ててしまいました。
本当に想定外な動きをするお方ですわね。
「夜竹さん!」
「うん!織斑君、覚悟!!」
「セシリアの攻撃で俺の意識を夜竹さんから逸らす作戦なんだろうが、それにしては気配が殺せてないぞ!」
一夏さんの興味は完全に私に向いていたはずなのに、背後から襲い掛かる夜竹さんの攻撃をいとも簡単にあしらってしまいました。
気配を殺すって・・・そんな芸当を簡単に出来るはず無いですよ!
「ボケッとしてると攻撃されるんだぞ?」
「!?」
つい考え込んでしまった。
一夏さんが例の新武装、黒雷を構えて此方を見ている。
もし実戦だったら注意などしてくれない。
つまり私は死んでいた可能性があるのだ。
「集中しますわ!一夏さん、その攻撃は効きませんわよ」
「さて、それはどうか・・・な!」
瞬間加速で一気に間合いを詰めてくる一夏さん。
もしかしてラウラさんにしたように至近距離でアレを使うのですか!?
「ブルー・ティアーズ!」
「それもらい!」
展開したブルー・ティアーズを一夏さんは暫撃を飛ばして撃ち落す。
まさか、あの黒雷はブルー・ティアーズを出させるためのフェイク!?
「セシリア、油断してるぞ?お前は俺の間合いに居るんだ」
「くっ!」
スターライトmkIIIで攻撃するが、一夏さんのスピードについていけない。
そして一夏さんの攻撃でブルー・ティアーズのエネルギーはみるみる減っていく。
「させない!」
「夜竹さん!その突撃は無謀ですわ!」
夜竹さんが私をかばうように一夏さんに突っ込む。
それを待ってたかのように一夏さんは夜竹さんの方を向く。
「連携としてはまだまだだが、中々楽しめた」
一夏さんはニヤリと笑い暫撃を夜竹さんに飛ばす。
「させませんわ!」
「ほう、まだかばうか」
一夏さんはその場でヒラリと身をかわし私にも暫撃を飛ばす。
かわさなければエネルギーが尽きると分かっていたが、あのスピードから逃げる事もかわす事も私には出来なかった。
「はい終わり~!」
「軽いですね」
ナターシャ先生の合図で訓練が終わった。
やっぱり一夏さんは強いですわね。
「さて、次はシャルと谷本さんのペアか」
「一夏君、休憩は良いの?」
「それほどエネルギーを減ってませんし、既に回復してますからね」
「早いね」
須佐乃男は第四世代だけあって回復スピードも早いらしい。
それにしても一夏君の体力は平気なのだろうか?
あのスピードで動けば相当なGが掛かるだろうし、それに耐えるために力を使う。
そうすれば体内にダメージは蓄積されるはずなのに、一夏君はぴんぴんしている。
「さあ、さっさと始めましょう」
「本当に平気なの?」
「平気ですよ。さっきも言ったようにエネルギーは・・・」
「そうじゃなくて一夏君は平気なの?」
「俺ですか?平気ですよ。そもそも俺は特にダメージを受けた訳でも生身で動いた訳でも無いですからね」
「そう・・・なんだ」
一夏君に常識は通用しなかった。
ISを動かすだけでも結構疲れるんだよ?
だから新人IS乗りはひたすらISに乗ってそれに慣れる。
熟練者でも一夏君並のスピードを出せば平然と立っていられるかは分からない。
「やっぱり一夏君は凄いな~」
「何です?人をじーと見ていきなり」
「ううん、何でも無い」
またへこまれても困るし、此処ははぐらかしておこう。
「ほら、デュノアさんたちの準備が終わったよ」
「何かはぐらかされた気がしますが、さっさと終わらせたいので今はナターシャさんの思惑に付き合いましょう」
一夏君は既にやる気が無くなってるのか、訓練を早く終わらせたいようだった。
それでもちゃんと相手するあたり、一夏君の律儀さが現れてるのだろうな。
「一夏!僕たちも簡単には負けないからね!」
「そっか、頑張れー」
「何そのやる気の無さは!?」
「シャル、いきなり教官役をやれと言われてモチベーションが長い間もつと思うか?」
「せめて最後まではもってよ!?」
「訓練自体はちゃんと相手するから今ぐらいは気を抜かせろって」
「でもさ!」
今迄とは全然違う一夏の態度に、僕は呆れてしまった。
確かにいきなり言われたっぽいけどさ、せめて僕たちの前ではしっかりとしてほしかった。
「織斑君も大変だねー」
「分かる?」
「分かる分かる!」
「チョッと!楽しくおしゃべりしてる場合!?」
「シャル、そんなに気合入れてて疲れないか?」
「一夏がだらけ過ぎなんだよ!」
「えー」
「もう!しゃきっとしてよ!」
「そろそろ始めるよー」
ナターシャ先生が声を掛けてきた。
もしかして戦闘が始まってもこのままなのかな?
それなら勝てるかもしれない。
「それじゃあ始めてー」
「ナターシャ先生もやる気が無い!?」
完全にだらけきってる教官二人に呆れてしまったが、始まったのなら容赦しない。
「一夏、全力で・・・あれ?」
既に一夏の姿は無かった。
センサーで探しても見つからないし、何処に行ったんだ?
「後ろだ」
「!?」
突如背後から一夏の声が聞こえた。
さっきまでだらけてたのに!
「一夏のスイッチの切り替え早すぎだよ!」
「言ったろ、訓練はちゃんと相手するって!」
「言ったけど」
一夏の攻撃を何とか捌き、僕は距離を取るためにマシンガンで攻撃する。
「ラピッド・スイッチか、さすがに早い」
「軽々捌いてる一夏に褒められても嬉しくないよ!」
距離は取れたが一撃も喰らってない一夏を見て、おもわず大声を出す。
何で至近距離から放ったマシンガンを簡単に捌けるんだよ!
「織斑君、私も一応居るんだよ~?」
「知ってるさ。そもそも気配が全然殺せてない」
「本音みたいに上手くいかないって」
「それもそうか」
「だからおしゃべりしてないでよ!」
再び一夏と谷本さんがおしゃべりを始めたのでツッコむ。
一夏って意外とおしゃべり好きなのかな?
「考え事か?随分と余裕じゃないか」
「また!?本当に切り替え早いな!」
一瞬の隙を突かれ一夏に接近された。
しかも移動した事を気取られずにあっさりと接近してくる辺り、如何やら一夏はちゃんと戦ってるらしい。
「谷本さんもちゃんと戦ってよ!」
「でもさーデュノアさんみたいに上手くないんだよー」
「それでも訓練に参加したんだからさ!それなりにはちゃんとしてよ!」
「油断してるといきなり斬られるぞ?」
「わー!織斑君、何時の間に!?」
さっきまで僕の傍に居た一夏が、今度は谷本さんの背後に現れた。
本当に如何やって移動してるんだよ・・・
「えーとこの剣で織斑君の攻撃を止めて、デュノアさんの援護を待つ」
「口に出てるぞ?そんなんじゃ止められないって」
「わわ!?デュノアさん、早く援護してー」
「分かった!」
今一夏はコッチに背を向けている。
これならいける!
僕は一夏に接近してシールド・ピアースで攻撃をしようとしたが・・・
「それ、避けられたら如何なるんだろうな?」
「!?」
一夏の背後を捕らえたと思ったが、その一夏は消え谷本さん目掛けて突き進んだ。
しかも背後から一夏の声が聞こえるし・・・
「え、チョッとデュノアさん!?止めて止めて~!」
谷本さんの懇願も虚しく、僕の攻撃は谷本さんに直撃した。
「ついでだ」
しかも一夏から暫撃を喰らわされた。
開始前のやる気の無さからは想像出来ないくらいに、僕たちは一夏に遊ばれてる。
油断はしてなかったつもりなのになあ・・・
「もう諦めるのか?」
「だって・・・」
「私はまだやるよ!」
「谷本さん・・・よし!僕だってまだ諦めない!!」
まだコッチのエネルギーは残ってるんだ!
諦めるには早いよね。
「援護する!谷本さんは気にせず突っ込んで!!」
「分かった!」
一夏の気を僕の攻撃に集中させるためにがむしゃらになって一夏に向かってマシンガンを放つ。
これで谷本さんが近づく時間は作れただろう。
「デュノアさん!織斑君が居ないよ!?」
「え!?また消えたの!!?」
せっかく放った弾は、すべて空を切りアリーナに張られているバリアーに当たる。
一夏を探そうにも、僕のセンサーでは見つけられない。
「何処?何処に行ったの!?」
「シャルの目の前だったりして」
「うわー!?」
いきなり目の前に一夏が現れて、僕は大声を上げてしまった。
「隙だらけだな、終わりだ」
黒雷を展開され、僕は無抵抗に斬られた。
だっていきなり目の前に現れたら驚くって。
「そこまでー終わりだよー」
「少しはやる気を出してくださいよ」
「それは一夏君には言われたくないよー」
「少なくとも戦闘中はやる気出しましたよー」
二人の教官は既に無気力になっていた。
戦闘中はしっかり周りに気を配っていたナターシャ先生も僕がやられた瞬間に気を抜いた。
一夏も一夏で、僕に攻撃を喰らわせた瞬間にやる気が無くなったようだ。
「織斑君、お疲れさまー!」
「負けたのに元気だなー」
「だって最初から勝てるなんて思って無いから!」
「それはそれで駄目だろ」
良かった、ツッコミは普段の一夏だった。
それにしても、一夏のやる気の無さはおかしい。
「一夏、如何してそんなにやる気が無くなったの?」
「さっき言ったろ、モチベーションを保もてなくなっただけだ。黒雷のデータも十分取れたし、連携を見るにも谷本さんは諦めモードだったし」
「バレてた?」
「あれは誰でも気付く」
一夏が言ってるように、谷本さんは何処か諦めモードだった。
でも、戦闘中は真剣だった。
僕が諦めても彼女はまだ一夏と戦う気だったのだ。
「さて、残り一組。さっさと終わらせて休憩しましょう」
「そうだねー。それじゃあ相川さんと鏡さん、準備してー」
やる気の有るのか無いのか微妙な二人に急かされて、相川さんと鏡さんが準備している。
一夏は既に準備出来てるのか、開始位置に移動していた。
本当に如何やって移動してるんだ?
結局一夏があっさり二人同時にエネルギーゼロにして訓練終了。
「さて、時間だし一旦休憩にする」
「午後はまた違う訓練だからねー」
それだけ言うと、一夏は篠ノ乃博士の元に、ナターシャ先生はフラーとどっかに行ってしまった。
こんなんで午後は平気なのだろうか。
僕はすっごく不安になった。
一夏の無気力な感じを出すのが難しい。
モチベーション保てないとダルくなりますよね。