「専用機持ち同士は禁止って言っても、アタシは他に知り合いなんて居ないわよ・・・」
「なら早いとこ見つけないとあぶれるぞ」
「それだけは御免だわ!」
愚痴を吐いていた鈴を脅しペア作りに必死感を出させる。
二人組を作る時にあぶれると非常に悲しい気分になる。
これは、経験者しか分からないだろう・・・
「ウチのクラスからの参加者が多いみたいですね」
「そうね。他のクラスからも何人かは参加してるみたいだけど、やっぱり一組の生徒が多いわね」
え~と確か、鏡さん、鷹月さんに相川さん、谷本さんに夜竹さん。
他にも数名のクラスメイトの姿を確認した。
名前は覚えてるんだよな~・・・
実際に会話はした事なくても顔と名前くらいは覚えている、一応クラスメイトだし。
「誰が誰と組みますかね?」
「それは組んでからの楽しみじゃない?」
「そうですね」
別に楽しみでは無いが話を合わしておこう。
「あ~もう!何で二組の生徒が居ないのよ!!」
この訓練に参加する生徒の中に知り合いは専用機持ちしか居ない。
他の娘に頼もうとしても、既にペア成立している娘ばっかに声を掛けてしまっている。
このままじゃ一夏が言った通りあぶれてしまう。
もうボッチは嫌だ。
アタシは日本に来たばかりの事を思い出した。
小学生の時に中国から日本へやってきて、当然小学校に入学した。
他の国からやってきたアタシを物珍しさからいじめる男子らが居た。
また、女子もそんなアタシと仲良くしたらいじめられると思ったのかアタシを避けるのが当たり前だった。
アタシは学校なんて嫌だ、行きたくないと思っていた。
そんな時に出会ったのが一夏だ。
他のクラスだった一夏は、アタシの境遇を知らなかったようで、一人で泣いているアタシに声を掛けてくれた。
「何泣いてるんだ?」
これが初めて一夏から掛けられた言葉だ。
ロマンスなんてへったくれもない言葉だが、この時のアタシには声を掛けてくる人なんて悪口を言う男子か、教師くらいだった。
アタシは片言ながらも日本語で境遇を話そうとしたら、一夏が母国語で良いと言ってくれた。
如何やらアタシの日本語が聞き取りずらかったようで、理解しずらかったらしい。
「なるほど・・・」
全部話し終えたアタシは少しスッキリしながら考え込んでいる一夏を見ていた。
この男子はアタシの事をいじめない。
子供の直感でそう感じた。
後で小学生なのに中国語を理解出来るのか?とも思ったが、その当時はそんな事考える余裕もないくらい追い詰められていたのだ。
「いじめられる原因は分かった。それで、お前は如何したい」
「え?」
一夏はアタシがちゃんと分かるようにゆっくりとそう言った。
しゃべりはまだ駄目だけど、聞くのは平気と言ったら少し驚いていた。
日本語は話すのも聞くのも難しいと思ってたらしい。
正直難しかったけど、悪口などで覚えた日本語も多かったので慣れたのだ。
「それで、お前は如何したいんだ?」
「お前じゃない!アタシは凰鈴音よ!!」
「そうか・・・それじゃあ凰は如何したいんだ?」
「アタシは、皆と仲良くしたい!せっかく知り合えたんだから勿体無いじゃない!!」
片言ながらも自分の気持ちを伝える事が出来た。
今迄自分の気持ちを誰かに伝えようともしなかったアタシが、今日初めて会った男子に気持ちを伝えていたのだ。
「なら、自分から歩み寄るんだな。そうすれば意外と如何にでもなる」
「そうなの?」
「俺はそう思う」
そう言えばこの男子は年上なのだろうか?
名前も歳も分からないまま話していたが年上だとすると6年生だよね・・・
それにしては大人びている。
身長はアタシが小さいから・・・
「誰が小さいか!!」
「何だいきなり」
「あれ?あ、何でもない。うん!何でも・・・」
自分のモノローグに怒ってどうすんのよ。
え~と、身長はアタシから見ても大きい。
本当に小学生なのかと疑いたくなるくらいの見た目だ。
「お~い織斑、何処行ったんだ?」
「ああ悪い、此処だ」
如何やら織斑と言うらしい。
でも苗字だけで年齢など分から・・・あれ?確か隣のクラスに織斑って言う男子が居ると同じクラスの女子たちが言ってたのを聞いた気がする。
それじゃあこの男子は同い年だと言う事になる。
「それじゃあな凰、また会えば話しかけて来い」
「え~と、アンタの名前は?」
「ん?言ってなかったけか?」
「聞いてないわよ!」
恐らく同級生と言うことで、アタシの態度は普段通りだ。
それにしても、名前を言い忘れるってどんなドジよ!
「織斑一夏、凰と同じ5年生だ」
「鈴」
「ん?」
「アタシの事は鈴で良いわよ!その代わりアンタの事も一夏って呼ぶから」
「好きにしろ」
「ええ、好きにするわ!」
初対面なのに何故か長年の友達相手のように振舞えた。
日本に来て、こうやって気軽に話せる相手など居なかったのに、一夏相手には本当のアタシで会話が出来た。
「その態度とキャラならクラスでも人気者になれるんじゃないか?」
「でもクラスには話せる相手なんて居ないわよ」
「さっきも言ったろ。自分から歩み寄ってみろって。そうすれば鈴の面白さが伝わるぞ?」
「面白さって何よ!」
そう噛み付たが、一夏はさらりと受け流しクラスメイトのもとに行ってしまった。
おかしなヤツ。
アタシ相手にこうも付き合えるなんて、親くらいだと思ってたわよ。
それから暫くは一夏と話す機会が無かったが、クラスに友達が出来たので気にしてなかった。
一夏の言う通り自分から話し掛けたらすぐ仲良くなれた。
男子もアタシの素が分かったらいじめてこなくなり、謝ってきた。
そうしてアタシはクラスの人気者になったのだ。
そして噂を聞いた他のクラスの子とも仲良くなり、アタシは学校が好きになっていた。
たった数日でこうも変るのかとさえ思ったほどにアタシを取り巻く環境は劇的に変った。
「あ、そう言えば隣のクラスの織斑一夏ってどんな子なの?」
アタシを変えてくれた一夏の事を思い出して、クラスメイトの女子に聞いた。
「織斑君?何、鈴ちゃんは織斑君の事知ってたの?」
「ええまあ、この前話したのよ」
「へえ~あの織斑君がねぇ」
「何よ?」
その女子は何か考えるようにアタシを見た。
一夏の事を聞いてるのに何でそんなにアタシを見るのよ。
「ひょっとして好きなの?」
「はぁ!?何よいきなり」
「だって織斑君でしょ?滅多に他人と会話しないので有名なのに」
「は?だってアタシには一夏の方から話し掛けてきたのよ。それに友達が探しに来てたし」
「織斑君にも友達って居たんだ」
「如何言う事?」
アタシに友達の作り方を教えてくれたのは一夏だ。
その一夏に友達が居てもおかしく無いだろう。
だが、クラスメイトは首を傾げている。
「だって織斑君、この前まで居た篠ノ乃さんに付き纏われてて友達が居なくなったって」
「何よそれ!?」
もし本当なら、アタシ以上に酷い境遇ね。
「でも居たって事はもう居ないのね。その篠ノ乃って子は」
「うん。ほら例の白騎士事件で有名になったISを造った人が篠ノ乃さんのお姉さんらしくて、国から言われて転校したって」
「へぇ~・・・」
その当時はISになんて興味なかったし、ニュースなんて見てなかったので詳しい事は知らなかった。
それにしても迷惑掛けっぱなしで転校するなんて、篠ノ乃って子の神経は如何なってるんだろう。
「それで、鈴ちゃんは織斑君の何処が好きなの?」
「だからそんなんじゃ無いって!」
「何大声出してるんだ?」
「あっ、一夏!」
廊下を歩いていた一夏がドアからひょっこり顔を覗かした。
あの時以来だが、相変わらずデカイ・・・
「織斑君!?」
「何だ?何を驚く必要があるんだ?」
「だって鈴ちゃんと本当に知り合いだったんだ」
「鈴ちゃん?」
「一夏のアドバイスのおかげで友達が出来たのよ!」
「なるほど」
「ねえねえ織斑君。織斑君は如何して鈴ちゃんに話し掛けたの?」
「チョッと止めなさいよ!」
アタシは別に一夏の事なんて好きじゃ無いんだから!
今思えばこれがフラグだったのかもしれない。
「別に、ただ泣いてたから気になっただけだ」
「へぇ~、鈴ちゃん泣いてたんだ~」
「余計な事言うなー!」
「余計な事って・・・事実だろ」
「でも言うなー!!」
泣いてたなんて知られたくないじゃない!
だって今のアタシからは泣き姿なんて想像出来ないでしょうが!
「まあ、気まぐれだ」
「そう言えば一夏、アンタも大変らしいじゃない」
「ん?何が」
「篠ノ乃って子に付き纏われてたって」
「ああそれか」
一夏は一瞬だけ嫌そうな顔をしたがすぐにこの前と同じポーカーフェイスに戻った。
一夏って感情が読み取れないのよね・・・
「別に居なくなったからって変るものじゃないだろ」
「そうなの?」
「篠ノ乃が周りの事を考えないのは家系みたいだしな」
「ふ~ん」
正直一夏が何を言ってるのか分からなかったが、居なくなってまで迷惑を掛けているらしい事は分かった。
もし会ったら殴ってやりたいわね。
「あまり物騒な事を考えるなよ」
「!?」
「顔に書いてあった。『もし会ったら殴ってやる!』って」
「そんなにはっきりと出るもんなの?」
「当たりか」
「え?テキトーだったの!?」
「大よそは分かったが、後は勘だ」
勘の良い人間て本当に居るんだ・・・
一夏があっさりと言い放った事実に、アタシはポカンとするしか無かった。
「万が一会うことがあっても殴るな」
「殴んないわよ!」
「鈴ならありえそうだからな、念のためだ」
「何よそれ!」
アタシと一夏のやり取りを聞いていたクラスメイトたちは大爆笑をしていた。
何で笑ってんのよ?
「織斑君って鈴ちゃんと相性良いんじゃない?お笑いの」
「鈴ちゃんがボケで織斑君がツッコミ」
「逆じゃない?」
「う~ん、どっちもツッコミでもう一人ボケを探すとか」
「「それだ!!」」
「何勝手に言ってるのよ!」
おもわずツッコんだ。
勝手にアタシと一夏をコンビにしないでほしいわね!
「鈴、お前ツッコミ好きだな」
「アンタが言うな!・・・ハッ!」
「く・・・」
一夏が笑いを堪えてるのが分かる。
こうなったら笑わせてやるんだから!
「大体一夏がこうしろってい言ったんでしょうが!責任取りなさいよ!」
「責任って、如何しろって言うんだ?」
「責任取って付き合えば?」
「それ良い!」
「何勝手に決めてんのよ!アンタらは!!」
「結局ツッコんでるぞ」
一夏は声こそ上げなかったが笑っていた。
こうして一夏もアタシの友達たちと仲良くなって行ったのだ。
そして中学に入り弾と数馬と知り合って四人で遊ぶようになったのだ。
小学校からの友達には、
「馬鹿二人に対して鈴ちゃんと織斑君がツッコミを入れてるんでしょ?」
などと言われた。
確かに馬鹿二人にツッコミはしてるけど、一夏のツッコミには勝てないと思ったのもこの時だった。
あれはもうツッコミじゃなく鉄拳制裁よ。
そうしてる内に四人で行動するのが当たり前になって行ったのだ。
こう考えると、アタシって自分で決心して友達作りをした事って無いのね。
全部一夏が関係している。
今だって専用機持ちと仲良くなったのも一夏の知り合いだったからだ。
そうじゃ無かったらティナ以外友達が居なかったかもしれないわね・・・
「こうなってくると自分の交友範囲の狭さが恨めしいわね」
他の専用機持ちはクラスメイトとペアを組んだみたいだし、今この場にティナは居ない。
このままでは本当にあぶれてしまう。
「ああもう!誰か居ないの!!」
「何を騒いでるんだ」
「あっ、箒」
ついさっきまで昔の事を考えてたからか、箒に殴りかかろうと思ってしまった。
駄目駄目、一夏と約束したんだから!
「何だ?」
「ううん、何でも無い!ところで箒は何で此処に?」
「何でって私もこの訓練に参加してるからだ」
「ふ~ん、結構物好きなのね」
「訓練をすれば少しくらいは一夏に近づけるかもしれないしな」
「一夏に近づくなんて無理よ。アタシだって頑張ってるけど全然届かないんだから」
「やる前から諦めるのは辞めたんだ!私は自分は一夏とは違う、でも一夏と一緒に居たい!隣に立ちたい!と思ってた。だが、現実には何もせずに諦めてた」
「十分一夏の傍居たじゃない、付き纏ってただけだけど」
「グッ!」
事実を言われ苦悶の声を上げる箒。
こう考えるとかなり変ったわね、箒って。
前までなら、
「貴様になど言われたく無い!」
とでも言って殴りかかってきてたかもしれない。
何か思うところがあったのだろうか?
「ん?そう言えば訓練に参加してるって言ったわね」
「それが何だ?」
「今日はどの訓練に参加するのよ」
「連携訓練だ」
あれ?これってチャンスなの?
確か箒もクラスでは浮いてる存在だったわよね。
それに、専用機持ちのペアに箒は居なかったはず!
「それじゃあアタシとペア組まない?」
「鈴と?まあ良いが、お前は私とじゃなくても相手が居るだろ」
「それが居ないのよね~。ほら、アタシってアンタらとばっか一緒に居たでしょ?」
「そうだな。まあ私らと言うよりは一夏と、と言った方が正しいが」
「そんなのどっちでも良いの!それで考えたら他の友達って居ないのよね~」
「クラスで浮いてるのか・・・」
「それはアンタにだけは言われたくないわね!」
「何!」
アタシと箒が睨み合う。
事実だけど、同じ境遇の箒にだけは言われたく無かった。
「何してるんだ馬鹿者ども」
睨みあってたらとてつもない衝撃が頭頂部を襲った。
この衝撃は・・・
「織斑先生?」
「いや、俺だ」
「い、一夏!?」
言動とこの威力は完全に織斑先生の伝家の宝刀、出席簿アタックだった。
それに声色だって・・・
「ひょっとして一夏、声帯模写でも使った?」
「いや、声は本物の織斑先生だ」
「え?」
一夏の更に背後、隠れるように織斑先生がそこに居た。
意外と茶目っ気あるのよのね、この姉弟は・・・
「何時までも馬鹿やってないで準備しろ!」
「じゅ、準備って?」
「教師には敬語だ!」
「じゅ、準備とは?」
一夏から出席簿を受け取りそれを振り下ろす。
再び頭頂部に衝撃を受けて、アタシは言いなおした。
「ペアが決まったのなら、まずはそれを担当教官に申告。その後指示があるまで待機。だが、お前たちが最後みたいだぞ?」
「え?」
「何?」
集合場所だと思われる所には、アタシたち以外のメンバーが整列していた。
これって・・・
「お前らはあぶれだ」
「それは言わなくても良かったのでは?」
「教師が事実を言わなくて如何する」
「事実でも言わない方が良い事もあるんですよ」
姉弟がしみじみと言ってるが、言われたアタシと箒は固まった。
恐れていた事が起きてしまったのだ。
所謂あぶれ同士のペア、つまり残り者同士だ。
「何でもっと早く声掛けてくれなかったの!」
「お前が言うな!私だってペアを探してたんだ!!」
「黙れ!!」
三度頭頂部に衝撃が走る。
今迄のとは比べ物にならないくらいの衝撃だった。
「さっき織斑先生が言った通り、ペアが決まったのなら申告しろ!」
一夏が織斑先生から取り上げた出席簿でアタシたちの頭を殴ったようだ。
「一回目より威力上がってない?」
「言って分からないヤツに遠慮はしない」
「じゃあ本気なの!?」
「俺でも織斑先生でも良いが、本気をだしたらお前たちの頭はなくなるぞ?」
「「手加減してくれて本当にありがとうございます!」」
まだ死にたくない。
アタシと箒の心が一つになった瞬間だった。
しっかし、どれだけ馬鹿げた力なのよ。
「ほう?もう一発喰らいたいようだな」
「え?い、いや遠慮します!!」
「まあそう言うな。特別に本気で殴ってやろう」
「あ、ああ・・・」
一夏同様織斑先生も相手の心を推測出来るの忘れてた。
アタシは遅い来るであろう衝撃を想像して震えていた。
「織斑先生、さすがにこれ以上馬鹿に成られても困りますので、これ以上は叩かない方がよろしいかと」
「確かに。これ以上馬鹿に成られたら困るな。凰、命拾いしたな」
「え、ええ」
本当に命拾いしたわね。
もし一夏が居なかったら、アタシは今頃空の上だったかもしれない。
「ほら、さっさと移動しろ。さもなくば本当にもう一発いくぞ」
「箒!早く行くわよ!!」
「当たり前だ!鈴こそ早く来ないか!!」
一夏の真顔での脅しを受けて、アタシと箒はナターシャ先生に申告するために大急ぎで集合場所に走る。
「別に俺に申請すれば良いのに」
「お前が脅したんだろ?」
「人の事言えんのかよ」
「一夏、学園では敬語を使え」
「そう言う千冬姉も、呼び方が普段通りだぞ」
焦って移動している二人を見ながら俺と地冬姉はそんな事を話していた。
千冬姉とコンビで脅したから効果が高かったようだ。
さて、これで全員がペアを組めたな。
「じゃあ織斑先生、俺は向こうですので」
「ああ頼むぞ、織斑」
教師と生徒に戻って互いの担当場所に向かう。
さてと、訓練開始と行きますか。
あぶれるのは悲しいですよね。
経験は無いですけど、気持ちは何となく分かる。