「一夏様、出来ましたよ~。」
「一夏さん、起きてくださ~い。」
須佐乃男と晩御飯を作り終えて、私たちは一夏さんを起こす事にした。
こんな経験を出来るなんて思わなかった。
「・・・・・」
「一夏様~!」
「一夏さ~ん!」
「ん?」
名前を呼んで漸く一夏さんが反応を示した。
普段なら私たちが近づくだけで気付くのに、よっぽど疲れてるんだな~。
「一夏様、準備出来ましたよ。」
「そうか・・・」
一夏さんはまだ完全に覚醒していないのか何処か眠そうだ。
チョッとイタズラしよう。
「まだ眠たいの?ほら、コッチおいで。」
「・・・何してるんです?」
「あれ?」
どうやら一夏さんは寝ぼけてなかったようだ。
「は、恥ずかしい///」
「碧さん、いったい何をしたかったんですか?」
「聞かないで・・・」
「はぁ・・・」
須佐乃男までもがキョトンとしている。
うわ~!なんであんな事したんだろう。
「・・・それで、何かようか?」
「え、ええ。晩御飯の準備が出来ました。」
「そうか、それじゃあ貰おうかな。」
私の事を無視してやり直す一夏さんと須佐乃男。
今はその扱いがありがたい・・・
「一夏様は動けないのでコッチに持ってきますね。」
「それくらいなら動けるんだが・・・」
「駄目です!」
「なあ須佐乃男、そこまで大げさじゃ無いんだから・・・」
「十分大げさなんです!一夏様は普通じゃ死んでいるかもしれないくらいのダメージを身体に受けているんです!!」
「いったい何したんだ、数時間前の俺は・・・」
一夏さんも私同様へこんだ。
でも、一夏さんは恥ずかしさからでは無いへこみだ。
「ほら、碧さんも行きますよ。」
「うん・・・」
未だ立ち直れない私を須佐乃男が引きずっていった。
何であんな事したんだろう・・・
「何時までもへこんでないで手伝ってくださいよ。」
「だって恥ずかしいんだもん・・・」
「あれくらいなら平気ですよ。一夏様は気にしてませんって。」
「それはそれで嫌だな・・・」
「ああもう!」
須佐乃男は面倒くさそうに声を荒げた。
「気にしてほしいんですか!それとも気にしてほしくないんですか!!」
「そりゃ気にしてほしいけど、あれはね・・・」
「一夏様があれくらいで動揺してたら苦労しませんって!」
「確かに・・・」
一夏さんは楯無様や本音様のお色気攻撃にも耐える益荒男だ。
私のあれくらいの攻撃で揺らぐはず無いのだ。
でも、チョッとくらい動揺しても良いじゃない。
「兎に角!」
「何?」
「今は一夏様は怪我人なんですから、これからどの様にでも挽回出来ますって。」
「・・・そうね。」
少し考えてさっきの失敗よりこれからの出来事の方が大きいと思う事にした。
だって一夏さんはまともに動けないんだもんね。
「よし!それじゃあ須佐乃男、一夏さんにスープを持っていきましょう!」
「ええ!その意気です。」
私は完全では無いものの、立ち直る事に成功したのだ。
「一夏様、お待たせしました!」
「一夏さん、お待たせ~!」
二人を待つ間、何か思い出しそうだったが結局駄目だった。
そもそも俺は何を忘れているのか知らないからな、記憶から探しても無駄か・・・
「これを二人が?」
「ええ!」
「一夏さんには及ばないけど、不味くは無いはずよ。」
「食べる前から文句は言いませんよ。」
「・・・それって食べてからは言うって事?」
「さあ?」
俺はとぼけたフリをしてスープを受け取ろうとしたが・・・
「一夏様には私たちが食べさせて差し上げます!」
「・・・はい?」
まだ疲れてるのか?
須佐乃男が変な事を言ったように聞こえたが・・・
「ですから、私たちが一夏様にスープを食べさせて差し上げます!」
「・・・本気か?」
「はい!」
「・・・碧さんも?」
「ええ!」
それくらい自分で出来るぞ・・・
だがこれ以上抵抗しても意味はなさそうだ。
「さあ一夏様!」
「何でそんなにやる気なんだよ。」
一夏さんは抵抗を見せるかと思ったが意外とあっさり受け入れてくれた。
身体が痛いと一夏さんも大人しくなるのね。
「はい、あ~ん!」
「・・・ムグムグ。」
一夏さんがスープを口にして味わう。
正直ドキドキする。
「如何ですか?」
「まあ美味しいな。」
「本当ですか!」
「ああ、十分美味い。」
「今度は私の番ですね!」
「碧さんも何で気合が入ってるんですか?」
だって一夏さんに褒めてもらえるんだから気合も入りますよ。
でも、既に褒めてもらってるんだよな・・・
「碧さん?」
「何でも無い!はいあ~ん!」
「チョ・・・ムグゥ!」
勢いあまって一夏さんの口にスプーンを突っ込んでしまった。
「ゴメンなさい!」
「・・・平気ですよ。」
「でも・・・」
一夏さんは少し咽たがすぐに私を気遣ってくれた。
やっぱり一夏さんは優しいな・・・
「兎も角、スープは美味しいですよ。それで自分で食べたいんだが・・・」
「駄目です!」
「これくらいの動作なら問題無いだろ?」
「一夏様相手に妥協するとズルズル行くので絶対に駄目です!」
「一夏さんはそう言った所があるからね。」
「はぁ・・・」
一夏さんはイマイチ納得してないけど、諦めたようにため息を吐いた。
「一夏さん、ため息は駄目ですよ。」
「ため息吐きたくなりますって。俺って信用無いんだなって思って・・・」
「信用してるから言ってるんですよ。」
「それって信用なのか?」
一夏さんはついに耐えられなくなったのかガックリと肩を落とした。
「さあ一夏様!あ~ん。」
「・・・あ~ん。」
「次は私です!」
「分かりましたよ。」
「次は私です!」
「・・・・・」
一夏さんはもう抵抗しなくなった。
何だか苛めてるような気分になってきた・・・
「ご馳走様でした・・・」
「お粗末さまです。」
「さすが一夏さん、残さず食べてくれましたね。」
一夏様は途中から抵抗せずに全部食べてくれた。
「それじゃあ片付けましょうか。」
「そうですね。」
「俺は風呂に・・・」
「駄目です!」
一夏様は懲りてなかった。
如何して一夏様は一人でしたがるのでしょうか。
「一夏様は今日一日自分で動いては駄目です!」
「明日なら良いのか、じゃあ明日入るか。」
「大丈夫、私たちが入れてあげますから!」
「・・・またですか?」
「別に今更照れる事無いでしょ!」
「一夏様は照れ屋ですからね!」
「・・・決定事項なのか。」
「「ええ!」」
「声を揃えて言うんですか・・・」
一夏様は再びガックリと肩を落とした。
一夏様、今日はこっちは妥協しませんからね。
「それでは一夏様、お風呂に行きましょう!」
「さあさあ一夏さん、行きますよ!」
「・・・抵抗しても?」
「「駄目です!!」」
「はい・・・」
抵抗しようとしてもろくに動けないのだ。
ここは観念して入れてもらおう。
なんだか介護してもらってるみたいだな・・・
「さあお風呂場へ行きましょう!」
「一夏さんの寝巻きはこれですか?」
「もう好きにしてくれ・・・」
妙に気合の入ってる二人を見て俺は抵抗を完全に諦めた。
はぁ・・・これは疲れそうだな。
「さあ脱ぎましょう!」
「はいバンザイしてください!」
「これくらいは自分で出来るわ!」
無理だ、抵抗を諦める事など俺には出来なかった。
さすがにこれは恥ずかし過ぎる。
幾ら彼女とは言え、服を脱がしてもらうのは勘弁してほしい。
「一夏様、さっき言いましたよね。」
「何を?」
「もう好きにしてくれって。」
「言ったがこれは状況が違うだろ!」
「はいはい、ほらズボン下ろすよ。」
「碧さんも何食わぬ顔で脱がそうとするの止めてくれますかね!?」
さっきは上だったのに今度は下ですか・・・
そっちの方が何十倍も恥ずかしいですよ!
「抵抗しても・・・」
「無駄ですよ?」
「二人掛かりなんてズルイですよ!」
「さあ観念してください!」
「ほらほら~!」
「チョ、止めて!」
結局脱がされた・・・
もうお婿に行けない。
「大丈夫ですよ一夏様。私たちが一夏様を貰ってあげますから。」
「何の話?」
「一夏様が、『もうお婿に行けない』って。」
「お前また思考を読んだな!」
「さあ?何の事ですか~。」
「それは確かに大丈夫だね。」
「碧さんまで・・・」
「だって一夏さんには私たちが居ますから!」
そう言う問題じゃ無いんですが・・・
弾が無理矢理女性が襲われるのを見るのは良いものだとか言ってたが、実際に襲われたらそんなこと絶対思わない!
そもそも弾の趣味はまったく分からないんだが・・・
「一夏様、ご友人は選んだ方が良いですよ?」
「お前!・・・まあ今の考えだけ読めば俺も同じ事思うが。」
「今度は何?」
「一夏様のご友人の残念さの話ですよ。」
「良い所もあるんだがな・・・」
まあフォローした所で実際に会う訳でも無いし良いか。
俺は弾のフォローをする気が無くなり、風呂に入る事にした・・・
「一夏様?」
「如何したの、一夏さん?」
「何で二人共隠さないんですか!?」
「だって・・・」
「そりゃ・・・」
「「彼女だから(です)!」」
「関係無いわーー!」
俺の叫びが風呂場にこだました。
これもすべて千冬姉のせいだ!
俺は心の中で千冬姉に八つ当たりした。
「む?」
「如何かしましたか?」
「今、一夏が私の事を思ってる気がした。」
「千冬さん、明日病院に行ったほうが良いですよ。」
「私は正常だ!」
教師陣で集まり晩御飯を食べていると、千冬さんがいきなり一夏君の事を言い出した。
まったく、ブラコンも此処まで行くと病気ね。
「それで、織斑君は何て思ってたんです?」
「お姉ちゃん助けてと!」
「「あーないない。」」
「お前たち今日は何だか酷いな!」
「だって織斑君が千冬さんに助けを求める訳無いじゃないですか。」
「そうそう。大体一夏君は大抵の事は一人で解決出来るんですよ?千冬さんに助けを求める状況が想像出来ませんって。」
私と真耶で交互に千冬さんの妄想を否定する。
あの一夏君が千冬さんに助けを求めるはず無いじゃない。
「貴様らには分かるまい!私と一夏との絆を!」
「千冬さんは今、織斑君に鬱陶しがられてるじゃないですか~。」
「真耶、貴様は命が惜しくないらしいな。」
「へ?・・・千冬さん、その鉄パイプ何処から?」
「そんな事関係ない。さあ、覚悟は良いか?悪くとも関係無いがな!!」
「ひえ~!」
真耶が再び墓穴を掘った。
あの子は学習能力が無いのかしら・・・
「まあまあ落ち着いてください。」
「これが落ち着いていられるか!」
「千冬さんが一夏君に鬱陶しがられてようがいまいがは一先ず置いておくとして・・・」
「置いておけるか!それが一番重要だろ!!」
「ですから一先ずですって。そもそも真耶を痛めつけたのが一夏君にバレれば、また盛大に怒られるんですよ?それでも良いんですか?」
「む!それは嫌だな・・・」
「ですよね。」
「納得は出来ないですけど、助けてくれてありがとうございます。」
逃げ惑っていた真耶にお礼を言われた。
「別に真耶が如何なろうが私には関係無いですけど、一夏君は周りの人が傷つくのを嫌う子ですよね。」
「ああ、一夏は優しいからな。真耶如きが傷ついても一夏は心配するだろう。」
「チョッと!二人とも、それはあまりにも酷くないです!?」
「「別に?」」
「酷い!」
真耶を苛めるのもこれくらいにしておきましょうか。
これ以上苛めたら本気で泣きかねない。
「兎も角、鉄パイプを置いてください。」
「ああ、そうしよう。」
千冬さんが素直に鉄パイプを置いてくれたので、この問題は解決した・・・
と思ったのだが・・・
「武器に頼らずとも、真耶くらいなら簡単に捻り潰せるからな!」
「ええ!」
説得出来てなかった!?
しかもより過激に残酷に残忍になってません?
「織斑君に怒られてますよ?」
「なに、お前を制裁出来るのなら一夏の説教など・・・怖く無い!」
「私が怖いですよ~!」
再び始まった追いかけっこ。
頼むから外でしてくれないかしら・・・
「ナターシャさん!暢気にお酒なんて飲んでないで助けてください!」
「無理よ、私に千冬さんを止められる訳無いじゃない・・・」
「ああ!そう言えばナターシャさんは泣き上戸だった!!」
「ははははは~、さあ真耶、私から逃げ切ってみせろ!そして私を楽しませろ!!」
「千冬さんも酔ってます!?」
「いや?私は正常だぞ。」
「嘘です!絶対酔ってますよね~!?」
まったく、五月蝿いわね~・・・
そんなに騒いだら怒られるわよ?
「そもそも誰がお酒を準備したんですか~!」
「私だ。」
「千冬さんは織斑君にお酒止められてるはずですよね!?」
「なに、一夏にバレないようにこっそりと・・・」
「そんな事したって領収書でバレますよ!」
「・・・しまった~!」
「一夏君に怒られる・・・シクシク。」
「ああ!泣かないでくださ~い!」
こうして私たち教師陣の夜は更けていくのだった。
私。誰に話しかけてるのだろう・・・
「ふう、さっぱりしました~。」
「本当ね~。」
お風呂から上がり、私たちは部屋に戻ってきた。
まあお風呂も部屋の中にあるんですが、そこは気分ですね。
「ほら、一夏様もそんなにへこんでないで。」
「色々失った気分だぞ・・・」
何度も抵抗しようとした一夏さんだったけど、結局ろくに動けなかったので私たちに洗われた。
全身を洗ったのだ、全身を!
「まあ、そんなに気にしなくても何時かは触られる運命だったんですから。」
「そうですよ。一夏様の年頃なら、寧ろ触ってほしがるんじゃ無いですか?」
「しらねえよ!そもそも俺はそんな変態的思考は持ち合わせてない!!」
「一夏さんも今度触って良いよ?」
「んな!」
一夏さんのを触ったんだから、一夏さんも私のを触らなきゃ不公平だもんね。
「でも碧さん、この事は楯無様たちには黙っておきましょうね。」
「そうね。せっかく一歩リード出来たんだもんね。」
「抜け駆け禁止だったのでは・・・」
「それじゃあ一夏さんは全員に触られたの?」
「絶対黙っててくださいよ!」
「寧ろ全員に触ってもらえば良いのでは?」
「確かに。どうせ後数年後には触るモノだし、今触っても問題無いかもしれないわね。」
「問題大有りですよ!そもそも数年後って如何言う事ですか!?」
如何言うってそりゃ・・・
「後数年で一夏さんも結婚出来る歳になりますし、そう言った行為も吝かでは無いでしょ?一夏さんも男の子なんですし。」
「決め付けないでください!そもそも俺は今日本人扱いじゃ無いんですよ!日本の法律では決められませんって!」
「じゃあ今すぐする?」
「しません!」
一夏さんって本当初心ね。
顔を真っ赤にして否定してる一夏さん・・・可愛い。
私って意外とSなのね、今気付いたわ。
「一夏さん、一夏さんは私たちとしたくないの?」
「そう言う訳じゃ無いですけど・・・」
「じゃあしたいの?」
「何で二択なんですかね?」
「それ以外の選択肢があるとでも?」
「・・・・・」
一夏さんは黙ってしまった。
真剣に考えてくれてるのだろう。
「まあ何時かはしたいですよ。」
「じゃあ今すぐ!」
「だから今すぐは無理ですって!」
「何で?」
私と一夏さん、それに須佐乃男が合意すれば今すぐ出来るでしょ?
「そもそも結婚なんてすぐ出来るもんじゃないでしょ!」
「・・・あれ?一夏さん、何か勘違いしてない?」
「何を?」
「私が言ってたのは行為の方。結婚はするに決まってるでしょ。」
「・・・・・!?」
一夏さんは勘違いを指摘され、暫く固まった後急激に顔を赤らめた。
「うきゅ~・・・」
「あれ?チョッと一夏さん!?」
「のびてますね・・・」
「あら~。一夏さんには刺激が強すぎたか~。」
「もう、碧さん。イタズラが過ぎますよ?」
「私は本気だったんだけどね~。」
「私だってしたいですよ?でも、一夏様にはまだ無理ですって。」
「そうだね~。想像しただけでのびちゃうんだもんね~。」
まったく、中学生でももっとまともに耐性を持ってるわよ。
一夏さんは今迄そう言った事を考えなかったのかしら?
「ねえ須佐乃男。」
「何です?」
「一夏さんってああ言う事って考えてこなかったのかな?」
「さあ?私が一夏様と行動を共にし始めたのは一夏様が中学2年の時からですからね。少なくとも一夏様がそう言った事を考えた事は無かったはずですよ。」
「そうなんだ・・・でも、知識はあったみたいね。」
「一夏様の悪友、五反田様と御手洗様が一夏様に教えてましたからね。正直一夏様は興味なさそうでしたけど。」
「あら?でも今は私たちとする事を想像したみたいだけど?」
「彼女が出来て変わったのでしょう。」
「そうなのかもね。」
私は気を失っている一夏さんにキスをした。
当然その後須佐乃男もしたのだが、今はこれくらいで勘弁したあげるけど、絶対何時かはしようね?
一夏よ、あまりにも耐性無さ過ぎじゃないか?
さて、そろそろ100話が近づいてきました。
まさか此処まで続くとは自分でも思ってなかったです。
これもひとえに皆様の変わらぬご愛読のおかげだと思ってます。
p,s,
これからはなるべくコメントに返信していきますが、されてなくても怒らないでくださいね?