風も強いですね~。
旅館についてまず思ったのが随分と物騒なものが置いてあるなである。
更識が所有しているとは言え真剣や銃火器などが置いてあるのだ、普通の旅館では無いのかも知れない。
「よ~し、探検だ~!」
「私も行きます!」
「私も!」
真っ先に本音がこの旅館に興味を持ち、須佐乃男と簪がそれに続いた。
・・・前回も本音と簪は旅館を探検してるよな。
この二人は真新しい場所に行くと興奮するのかもしれないな。
「今回は私も行くわ!この場所は始めてだし。」
「私も興味はあります。」
「私は一度来た事があるので、遠慮しますね。」
刀奈さんと虚さんも探検に行くようだ。
碧さんが演習と言ったから、やはり普通の旅館ではなさそうだ。
「そう。一夏君は如何するの?一緒に行く?」
「そうですね、一先ず荷物を置いてからですかね、行くとしても。」
現在全員の荷物を持っている俺としてはいち早く荷物を置きたいのだが・・・
負けても無いのに何故か罰ゲームを言い渡されたのだ。
いったい何の罰ゲームかと聞けば、
「今まで私たちを心配させた罰よ!」
と言われてしまった。
確かに俺が踏み出さなかったせいで心配させたのだが、須佐乃男は関係ないだろうが。
便乗して俺に荷物を押し付け、自分は意気揚々と旅館に向かっている須佐乃男を睨みつけるが、まったく意味を成さない行為なのでため息とともにその行為を止める。
「それじゃあ部屋に行きましょうか。さっき言ったけど全員一緒だから運ぶの楽でしょ?」
「別々だろうが同じだろうが大変なのは一緒ですよ。」
俺の反論に笑顔で何か企んでいる感じがする刀奈さんが
「楽しみね~。」
などと言った。
俺としては何を企んでいるか不安なのだが・・・
「一夏君、早く早く~!」
「・・・ハァ。」
テンションの高い他のメンバーとは違い、俺は素直にこの旅行を楽しめるのだろうか?
何か起こるのはほぼ間違いないのだが、それが何か分からなければ対策も立てようが無いので、俺は再びため息を吐いた。
「広いですね。」
部屋に着いた俺はグルリと部屋を見渡してそうつぶやいた。
七人で使ってもまだ余裕のある部屋だ。
「当然よ!一番良い部屋を用意したんだから!!」
「旅館の良い部屋って如何違うの?」
威張る刀奈さんに簪は疑問をなげかける。
見た感じはただ広い感じがするだけだが、この部屋には様々な特別があるようだ。
「ふっふっふ~、よく聞いてくれたわね簪ちゃん!」
「その前置きは駄目駄目か本当に凄いかのどっちなのか分かりませんよ?」
「酷いよ虚ちゃん。人の出鼻を挫かないで!」
俺も思ったが口には出さなかったのに・・・
さすがは虚さんと言ったところか。
「おね~ちゃんは黙ってってよ~!」
「そうですね、本気で気になってるので虚様は少し黙ってってください!」
「おい、言い過ぎだろ。」
本音と須佐乃男が気になるあまりに、邪魔をした虚さんに辛辣な態度を取る。
俺は軽く諌めたのだが、二人はあまり聞いてなかった。
「良いんですよ一夏さん。どうせ私は口うるさい女なんですから・・・」
「そんな事無いですよ。俺も思っていた事ですから、虚さんが悪い訳では無いですよ。」
「一夏さん・・・」
へこんでしまった虚さんを慰めながら、刀奈さんが言おうとしている事を楽しみにしている本音と須佐乃男と簪を見て苦笑いをする。
普段はしっかりしている簪も年相応なんだな。
「まず、この部屋には露天風呂がついています!」
「「「おお~!!」」」
「それは確かに凄いですね。」
部屋に露天風呂がついているとなると料金はかなり高くなるだろうな。
それだけでもかなり特別なのだろう。
「しかも混浴!!」
「「「おお~!!」」」
「・・・俺は入りませんよ?」
「「「「「「ええ~!!」」」」」」
チョッと待て。
ブーイングが二人分多かった気がするのは気のせいか?
気のせいだと思いたい。
俺の気持ちとは裏腹に、六人は俺を説得し始めた。
「一夏君、一緒に入りましょうよ。」
「そうだよ一夏、背中流してあげるからさ。」
「おりむ~と一緒にお風呂入りたい~!」
「一夏様と一緒に入浴出来れば、これ以上ない思い出になります!」
この四人で済めば、俺も断りようがあったのだが・・・
「私も一夏さんと一緒が良いです!」
「私も一夏さんと一緒が良いかな~。だってこう言った機会でもなければ入れないじゃない?だから一夏さん、一緒に入りましょうよ。」
普段はストッパーとし俺の味方をしてくれる事が多い虚さんと碧さんまでもが混浴を推奨してくるのだ。
これは断るだけで相当な労力を必要とするな・・・
俺は今の状況は冷静に分析し、ある種の諦めと何故こうなったと言う意味を込めてため息を吐く。
「ハァ・・・分かりましたよ。」
「「「「「「やった~!!」」」」」」
「その代わり!」
これは言っておかなければ更に疲れるからな。
「羽目は外しすぎないようにしてくださいよ?特に刀奈さん!」
「分かってるって♪」
・・・不安だ。
もしかして、俺はまた嵌められたのかもしれない。
一人一人なら説得するのに、そこまでの労力は必要としないのだが、六人まとめてとなると誰か一人でも残っていると他の五人が復活する可能性もあるからな。
その事を考えてあの場で混浴なんて言ったのかもしれない。
刀奈さんはこう言った場面では俺以上に性格が悪いからな、ありえそうだ。
「それでお姉ちゃん、他の凄いところは?」
「まあ慌てないの。次にこの部屋は、カラオケが出来るのだ~!」
「「「おお~!!」」」
「宴会でもするんですか?」
旅行中に部屋でカラオケって・・・
確かに宴会場みたいな部屋だが、実際に宴会をするのなら全力で止めなくては!
「普通にカラオケ大会でも良いと思ってるよ?宴会が良いなら・・・」
「全力で拒否させてください!」
「・・・この前の酒盛りが相当大変だったのね。」
「・・・あれは大変でした~。」
「そっか、須佐乃男も途中まで一夏の手伝いしてたんだよね?」
「私は~すぐに寝ちゃったからな~。」
「あの時はスミマセンでした。」
「何の事?」
この場であの惨劇を知らないのは碧さんだけなので、全員は如何説明したものかと困っていた。
「俺の実家で阿呆三人が暴走した酒盛りがついこの間あったんですよ。それに巻き込まれて五人は倒れ、俺は後片付けやら暴走した阿呆の尻拭いで疲れた話ですよ。」
「阿呆三人って?」
「織斑千冬、篠ノ乃束、山田真耶の三人です。」
「一夏君の目が怖い・・・」
「まだ許してないんでしょうね・・・」
「特に織斑先生と篠ノ乃博士はこの前の事件にも絡んでるし・・・」
「おりむ~は怒らしちゃいけないのだ~。」
「それは私も同感です、本音様。」
思い出しただけで腹が立つ!
あれから酒は控えているようだが、反省の色は見られない。
このまま反省しなかったら、またぶん殴るとするか・・・
「お~い、一夏さん?如何したの?」
「ハッ!スミマセン、制裁方法を考えてました。」
「物騒ね・・・」
碧さんはあの騒動をじかに見てないから物騒だと思うのだろうが、他の五人は引きつった顔をしている。
制裁予定者に同情すれば良いのか、俺に同情すれば良いのか悩んでるのだろう。
あくまで予定なので、今すぐ同情する必要は無いんじゃないか?
「そ、それで楯無様。他の秘密は無いんですか?」
この空気に耐えられなかったのだろう。
須佐乃男が無理矢理話題を変えた。
「え、え~と他にはね・・・」
「ワクワク!」
「何かな何かな~!」
「このボタンを押すとね、テーブルが片付いてベッドが出てくるんだよ!」
「「「おお~!!」」」
「露天付きの和室にベッドですか・・・?」
「ふっふっふ~、これを見よ!!」
刀奈さんがボタンを押した途端に畳の部屋が一瞬にしてフローリングの部屋に変わった。
「「「おお~!!!」」」
「無駄にハイテクですね、この部屋。」
「じゃあ戻すね~。」
もう一度ボタンを押して畳の部屋に戻す。
「もちろんこのまま布団を敷いてもOKだよ♪」
「じゃあさっきの機能は何であるの~?」
確かに、普通に布団を敷けばいい話なのに、わざわざ部屋を改造してまでベッドを付けた理由は気になる。
「布団が嫌な人も居るだろうから、私が考案したんだ~。」
「面白いね、お姉ちゃん。変形ロボみたい!」
「私も押したいな~。」
「私もあれくらいのスピードで変形出来たら・・・」
いや、お前一瞬でISに変形するだろうが。
これを言うとまた余計な労力を消費するだろうから心の中に留めておいた。
「後は大したものは無いかな~。」
「掛け軸の裏とかは?」
「襖の中にお札とか?」
「オバケだ~!」
「残念ながらそう言ったものは無いかな~。」
「「「ええ~!!」」」
「欲しかったのか?」
ついつい突っ込んでしまった。
普通女の子はそう言ったものは怖がるものだと思ってたんだが・・・
「だって楽しそうじゃん!」
「ロマンですよ~!」
「お友達になりた~い!」
「・・・そうか。」
何言っても無駄だろうな。
俺は内心ため息を吐きたかったが、また碧さんに押さえられたらたまったもんじゃない。
むしろさっき車の中でキスをしたから、唇で塞がられるかもしれない。
そうしたらまた全員とキスしなくてはならなくなってしまう。
いや、嬉しいんだが途中から勢いが付きすぎて痛いんだよな・・・
「一夏さん?如何したの、また考え事?」
「何でもないですよ。」
「そう?」
「じゃあ今度は探検に行きましょうか!」
「「「おお~!!」」」
「そうですね!」
「私は留守番してますね。」
「ほら、一夏君早く!」
「・・・分かりましたよ。」
このメンバーで探検に行って、俺は疲れずに帰ってこれるのだろうか。
不安もありながら、俺はこの旅館の正体が気になったのでついていく事にした。
「凄い~!」
「本物の銃だね~!」
「でも何でこんな場所にこんなものが?」
「何故でしょうね?」
「気になります・・・」
旅館の一室に入った刀奈さんたちは部屋に似つかわしくないものを発見してテンションが上がっている。
「何してるんですか?」
俺は少し別行動をしていたので合流したのだが、五人が首を傾げていたので思わずそう聞いたのだ。
「一夏君、ほら!本物の銃だよ!!」
「こっちには真剣や槍もある!!」
「これは何だろ~?」
「それは閃光弾ですね~。」
「!?」
「あんまり手を触れないほうが良いですよ。それは危ないですから。」
分かってはいるだろうが、一応注意をしておく。
下手をすれば大怪我ではすまないからな。
「一夏君はやけに落ち着いてるわね~?」
「さっきもありましたからね。」
「何処に!?」
「え?外にあったろ。」
「気付きませんでした・・・」
「私もです・・・」
「まあ、隠してあったから気付かなくても仕方ないと思いますよ。」
「でも、何でこんなものが旅館に?」
「それは碧さんが知ってると思いますよ。」
「そうなの!?」
「恐らく、ですがね。」
さっき前に来た事があると言っていたのが気になったので、グルリと周りを見てきたのだが、やはりただの旅館ではなさそうだった。
しかし、他の四人が知らないのは無理は無いが、当主の刀奈さんまで知らないとは。
「とりあえず、他の部屋も見てみましょう!」
「そうだね!」
「そうですね!」
「ワクワクだよ~!」
「興味あります!」
・・・なんでここまでテンションが高いんだ?
武器を見てテンションが上がるのは、むしろ男の方だと思うのだが・・・
「ほらほら一夏君、置いて行っちゃうわよ~!」
「・・・考える時間が無い。」
テンションの高い五人は他の部屋にも興味津々でさっさとこの部屋を出て行ってしまっていた。
「あんまり物に触れない方が良いですよ!何があるか分かりませんから!!」
「だいじょ~ぶだって!普通の旅館なんだから~!!」
・・・普通の旅館に真剣や銃火器があると思ってるんですか?
暢気に探検を続けている五人とは違い、俺はこの場所の胡散臭さに辟易していた。
「スミマセン、一回部屋に戻ります。」
「分かった~。後で戻ってきてね~。」
「もう一回言いますけど、あまり物に触れないようにしてくださいね!」
「分かってるよ~。おりむ~は心配性だな~。」
「私が見てますので安心してください。一夏さんが居なくなれば冷静になるでしょうし。」
「お願いしますね、虚さん。」
てか、俺が居ると冷静になれないのか・・・
普段の虚さんは冷静そのものだが、こう言った場所に来ると、如何も刀奈さんや本音に釣られてしまうのだろう。
簪同様テンションがおかしくなっているのだ。
「それじゃあ、俺は一旦抜けます。」
「じゃ~ね~。」
刀奈さんが手を振って見送ってくれたのを見て、他の四人も手を振っていた。
別に今生の別れじゃないんだから、あそこまで大げさに手を振らなくても良かったんじゃないか?
「あれ?一夏さん、如何したの?」
部屋に戻ってきた俺を見て、碧さんが首を傾げながら尋ねてきた。
「碧さん、ここはいったい何なんですか?普通の旅館とは思えない節が多すぎるんですが。」
「一夏さんはこう言った事には鋭いですからね。」
「鈍いのは自覚してますよ。」
俺が恋人同士がする事に鈍いのは分かってる。
だが、今はその話では無い。
「それで、ここは更識の軍事演習場ですか?それとも訓練場ですか?」
「・・・なんで分かるの?」
「周りの広い空き地に旅館内にある物騒な物を見れば大体は想像出来ますよ。それに碧さんが前に来た事があるって言ったのが気になりましてね。」
「あっはっは、一夏さんの前で余計な事を言うと駄目だね。あっさりバレちゃう。」
「しかし、あの模擬刀は良く出来てますね。普通の人間には真剣との区別がつきませんよ?」
「一夏さんだって普通の人間でしょ?それを一目で見分けるなんて・・・」
「一目ではないですよ。最初は真剣だと思いましたが、さっきの部屋で見たときは区別がつきました。槍も銃もレプリカですよね。」
「殺傷能力は著しく低いけど、本物同様の重さと威力はあるわよ。」
「それだけで十分危ないですよ。」
互いに苦笑いをして話を続ける。
「それで、如何して当主の刀奈さんがこの場所を知らないんですか?」
「楯無様は軍部には疎いですからね。ISに関係ないこの場所は楯無様も知らないのでしょう。」
「そうですか・・・じゃああくまでも旅館という事で話を進めておきますよ。」
「そこまで機密な場所じゃないよ。」
「いえ、面白がって対戦なんてし初めたら大変ですしね。あくまで本物だという事にしておきたいんですよ。」
「なるほど・・・一夏さんも大変だね。」
「そう思うなら労わってくださいよ・・・」
幸いにこの場所には俺と碧さんの二人だけだ。
人前では恥ずかしいが、二人っきりなら俺も積極的になれる。
「じゃあ・・・ん。」
「ん・・・」
碧さんとキスをして、俺は五人と合流するために部屋を出る。
「碧さん、戻ってくるまでにその赤い顔を治しておいてくださいね?」
「もう///」
照れてる碧さんは可愛いな。
俺は満足して五人の気配を探る事にした。
「あ~一夏君!話は終わったの~?」
「ええまあ、一応は。」
「それで、ここはいったい何なのですか?」
俺が碧さんに確認に行ったのは如何やらバレているようだ。
まあ部屋に行くって言ったんだからバレるか。
「昔は訓練場だったらしいですよ。あの部屋はその時の名残です。立ち入り禁止らしいので、気をつけてくださいね。」
「な~んだ。今でもそうなら対戦したかったのに・・・」
やっぱりか!
刀奈さんは本当に面倒事を提案したがるんですね。
「でも、立ち入り禁止なんて碧さんは如何して知ってるの?」
「いや、それは入り口の地図に書いてあった。」
「そうなんだ~。地図なんて見てなかったよ~。」
「私もです。」
「それじゃあ外に置きっぱなしな物は・・・」
「昔の片付け忘れでしょう。」
本当は最近なんだろうが、今はただの旅館って事にしておきたいからな。
「何時ごろこの場所は訓練場じゃなくなったの?」
「さあ?そこまでは。碧さんも知りませんでしたし、そこまでは俺も分かりません。」
「そっか・・・屋敷に戻ったら調べてみようかな。」
「そんなことする暇があるのなら仕事と訓練をしっかりとしてください。」
あまり興味を持たれても困るので、釘を刺しておく。
「は~い。」
「それじゃあ部屋に戻りましょうか。大体見て回りましたよね?」
「そうだね、疲れちゃった。」
「おりむ~おんぶして~。」
「・・・自分で歩け。」
一先ずは誤魔化せたようなので、俺はホッとしながら部屋に戻った。
次回、露天風呂と一夏の隣争奪戦!
お楽しみに。