もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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今回も移動中の話です。


繰り広げられる心理戦

ポーカーもそろそろ20回を超えて本音が飽きてきた。

 

「ねえねえ~、違うのしようよ~。」

 

「そうだね、お姉ちゃんと一夏ばっかり勝ってちゃつまらないもんね。」

 

 

確かにここまで、俺と刀奈さんで20回中、18回トップを取っている。

しかも本音は、15回もブタだ。

 

 

「じゃあ何やろうか~?」

 

「罰ゲームはまだやるんですか?」

 

「如何しようか~?」

 

 

刀奈さんの狙い撃ちは非常に脅威で、イカサマを疑うくらい的中率が高い。

 

「今度はくじ使わないやつにしようよ。」

 

「一位が最下位に何かするの?」

 

「それなら狙い撃ちは出来ないですね。」

 

「偶々だよ~?」

 

 

・・・嘘だ。

あまりにも的確過ぎる。

あれが偶々なら、相当運を使ったのだろうが、あれは分かって言っている感じがしたので運は使ってないだろう。

 

「本音がルール分かってるやつにしよう。何なら出来る?」

 

「え~とね・・・ババ抜き、ジジ抜き、大富豪、神経衰弱、七並べかな~。」

 

「ババ抜きで良いかな?それともジジ抜き?」

 

「ほぼ同じですからね~。一夏様はどっちが良いと思いますか?」

 

「交互にやれば良いだろ。ほとんどルールも一緒だしな。」

 

「それだと~今どっちだ分からなくなるよ~。」

 

「・・・それは貴女だけよ、本音。」

 

 

妹の頭の悪さに目眩がしたのか、虚さんが親指と人差し指でこめかみの辺りを押さえている。

その気持ちは分かります、俺も残念な姉が居ますから。

 

「そのつど確認すれば平気でしょ。それじゃあババ抜きからだね~。」

 

「お姉ちゃんやる気だね・・・。」

 

「あったりまえでしょ?これなら一夏君がビリになる可能性だってあるんだから。」

 

「一夏さんに勝てるかも知れないのは良いですが、心理戦になったら勝てる気がしませんね。」

 

「さすがにババ抜きで心理戦はしませんよ。それに本音や刀奈さんは本能で選びそうですし、仕掛けても無駄になりそうですし。」

 

「確かに・・・」

 

「ありえますね・・・」

 

 

簪と虚さんが納得をして、須佐乃男も少し考えて同意した。

 

「チョッと!?酷くない、それ!!?」

 

「私だって~本能以外で動けるよ~!?」

 

「当たり前の事を偉そうに言われても・・・」

 

「普通は考えてから動くものですしね~。」

 

「それってISも?」

 

 

須佐乃男の普通が人間のみなのか、それともISもなのか興味を持った簪は、まだ文句を言っている刀奈さんと本音を無視して須佐乃男に聞き迫る。

簪がここまで興味を持つのは珍しい気がするな。

 

「他のISの事は分かりませんが、少なくとも私は考えてから行動しますよ。千冬様のように自宅で自由気ままに動いていたら一夏様に怒られてしまいますからね。」

 

「そうなんだ・・・それじゃあ須佐乃男が悩んだ時の判断基準って何なの?」

 

 

これは会話だけで時間潰れるんじゃないか?

長い間同じ屋敷で生活しているが、お互いの事をじっくりと聞く機会なんて無かったかもしれないし、須佐乃男に関しては人間の姿になれるようになってまだ1月行ったかそこらだ。

この際じっくりと話し合ってお互いを知るのも良いかも知れないな。

 

「私の判断基準は大抵一夏様に怒られるか否かですね~。」

 

「は?俺なのか?」

 

 

黙って聞いていたがいきなり名前を呼ばれて驚いた。

確かに須佐乃男の思考は俺に影響されている部分が多いが、まさか判断基準まで俺に関係していたとは思わなかった。

 

「一夏様に怒られるのは嫌ですからね~。千冬様や束様を見てそう強く思いました。」

 

「確かに一夏君に怒られると怖いよね~。普段から少し怖い雰囲気だけど、怒ると本当に怖いからね。」

 

「おりむ~は怖いな~。おね~ちゃん以上に怖いよ~。」

 

 

本音、それは虚さんの前で言わない方が良かったんじゃないか?

現に虚さんの雰囲気が変わっている。

 

「本音やお嬢様がしっかりと仕事をしてくれれば、私も怒る事は無いのですがね?この場合悪いのは私ですか?それとも仕事をしない二人ですか?」

 

「え、え~と・・・」

 

「それは~・・・」

 

 

余計な事を言って怒られる本音と、それに巻き込まれた刀奈さん。

下手に助けようとすると此方も怒られるので、俺と簪と須佐乃男は話題を戻した。

 

「それじゃあ一夏基準じゃ無い事もあるんでしょ?それはいったい何?」

 

「え~とですね、一夏様に関することは一夏様基準では考えませんね。一夏様の事を一夏様基準で考えていたら、一夏様と同じになってしまいますし。」

 

「確かに、一夏の事を一夏基準で考えてたら意味無いかもね。」

 

 

俺の事なんだから俺基準で良いじゃないかとは言えなかった。

俺はズレてることを自覚しているし、ついさっきもその事で恥ずかしい思いもした。

俺の考え方に似ている須佐乃男も、そこだけは似てないようだ。

 

「一夏様は自分の事を分かっているのですが、世間とのズレが激しいですからね~。ですから、なるべく私がフォローする形を取りたいと思っているんですよ。」

 

 

今まさに考えていた事と似た事を須佐乃男が言う。

だが・・・

 

「今までフォローしてもらった記憶があまり無いのは気のせいか?」

 

「ついつい一夏様を刺激しないようにしてしまうんですよ~。ですから考えていても口に出来ない場合が多々あるんですよ。」

 

 

刺激って・・・俺は肉食獣か何かか?

 

「何となく分かります、その気持ち。一夏さんを下手に刺激すると一気に襲われそうな雰囲気がある気がするんですよね~。」

 

「碧さんまで・・・」

 

「私もその気持ちはチョッと分かるかも・・・」

 

「簪もかよ・・・」

 

 

俺っていったい如何思われてるんだ?

この際だから聞いてみるか。

 

「三人は俺の事如何思ってるんですか・・・」

 

「え~と・・・無気力なライオン?」

 

「戦闘や仕事の時は鷹で、普段は蝙蝠?」

 

「良く動くコアラ?」

 

「初め二つは肉食の感じですが簪、何でコアラなんだ?」

 

 

蝙蝠はどっち着かずな態度でウダウダしたい願望をしっかりと見抜かれてるのだろうが、コアラって・・・

 

「だって一夏って何か眠そうなんだもん・・・だからコアラ。」

 

「眠そうって・・・そんなに眠くは無いんだがな・・・」

 

 

平均睡眠時間は確かに短いが、そこまで眠くないんだが・・・

簪はいったい如何見て俺が眠そうだと感じたのだろうか。

 

「一夏様は眠そうと言うよりダルそうって言った方が正しいかもしれませんね~。皆さんと居る時はそうでもないですが、普段は面倒くさいとか思ってますし。」

 

「余計な仕事を増やされたら誰でも面倒くさいと思うだろうが・・・別に俺だけが特別な訳では無いと思うんだが・・・」

 

「普段しっかりしている一夏様がそう思うだけで余計にダルそうに見えるんですよ。楯無様や本音様のように普段から明るい人が少しへこんだだけで暗く見えるのと同じですよ。」

 

「確かに、今は少し暗いな。」

 

「怒られてますしね・・・」

 

「自業自得だと思うけどね・・・」

 

「三人でトランプでもしますか?」

 

「まだ当分は説教終わりそうにないもんね。」

 

「三人だと何が出来る?」

 

 

さっき上がった中からでも選べるが、三人で大富豪はチョッと面白味に欠ける気がする。

神経衰弱や七並べも車の中では難しい。

そうするとババ抜きかジジ抜きになるか・・・

 

「そうですね~。一夏様はどっちが良いですか?」

 

「・・・またお前は。」

 

「?如何かしたの、一夏。」

 

「いや、何でも無い・・・」

 

 

須佐乃男に思考を読まれた事を簪は知らない。

だから余計な事は言わないで、普通に接しよう。

そうじゃなきゃまた無理難題を言われかねないしな。

 

「一夏様、言ってほしいんですか?それとも嫌なんですか?」

 

「須佐乃男はさっきから何を言ってるの?一夏は何も言ってないよ?」

 

「あまり気にするな。兎も角、ババ抜きかジジ抜きだな。簪はどっちが良い?」

 

「え~と私はどっちでも・・・」

 

 

それはそうか・・・

大して変わらないもんな。

 

「それじゃあババ抜きにするか。」

 

「罰ゲームは有効なんですか?」

 

「三人だし、無しかな~。」

 

「そうだな、この三人なら無理難題は無いだろうが止めておこう。」

 

 

須佐乃男はありえそうだからな。

 

「そんな事無いですよ~。」

 

「・・・お前ゲーム中は止めろよ。」

 

「?」

 

「一夏さんもですが、さっきからいきなり会話してますよね?」

 

「何となく目で言ってる感じがするからそれでいきなりだと感じるんでしょう。」

 

「そうかな・・・」

 

 

簡単に騙せるとは思ってないが疑り深い。

 

「ほら、カード配るぞ。」

 

「負けませんよ!」

 

「う~ん、何かはぐらかされた感じがするけど・・・まあ良いか。私も負けないよ!」

 

 

・・・誤魔化せたか?

別に隠しては無いが、羨ましいと思われかねない。

まあ思われても他の人とは無理なんだが・・・

 

「(私と一夏様だけが出来る脳内会話ですからね~。)」

 

 

またお前は・・・

このように口に出さなくても分かるのは便利だが、近くに居ると大抵の思考は相手にも伝わってしまうので、そこだけは勘弁してほしい。

 

「(私は離れていても一夏様を感じていたいんですけどね~。成長すれば距離なんて関係無くなるんでしょうか?)」

 

 

しらん。

それに俺は四六時中お前の思考など知りたく無いんだが。

 

「(ヒドイ!私にキスまでして!!)」

 

 

あれは無理矢理お前からだろ!

 

「(まあ冗談はさておき・・・)」

 

 

冗談だったのか・・・

いきなり脱力した俺を見て、首を傾げる簪。

だが俺がいきなり脱力したり考え込むのは今に始まった事ではないので、簪も一瞬だけ気にしたがすぐにカードに集中した。

 

「(キスは冗談ですか、距離をなくしたいのは本当ですよ。そうすれば携帯は不要ですし、咄嗟の判断も一夏様に指示を仰げますしね。)」

 

 

いや、咄嗟の判断を確認してる時点で咄嗟では無いんじゃないか?

 

「(良いんです!兎に角一夏様と繋がれる距離を伸ばしたいのは事実なんですからね!)」

 

 

俺はON、OFFの切り替えが出来れば便利だと思うがな。

 

「(確かに私も一夏様に知られたく無い事もありますからね。今度束様に聞いてみましょうよ。)」

 

 

束さんも分からないかも知れないぞ。

結局俺がISに乗れるのも、お前が人間の姿になったのもあの人でも分からなかったし、普通のISは意識を表に出さないものだから、通信の切り方なんて分からないとおもうんだがな。

 

「(諦めたら何も始まりませんよ?)」

 

 

確かにそうだが、なるべくなら会いたくないんだよ。

会えばまた面倒な事になるに決まってるんだし、更にそこに千冬姉まで絡んできたら・・・考えただけで頭が痛くなってきた。

 

「(大変ですね、一夏様も。)」

 

 

須佐乃男と脳内会話をしながら揃ったカードを捨てていく。

ここからは集中してトランプをするとしよう。

 

「(私も集中しますので、いったんここまでですかね。)」

 

 

そうだな。

話しながらでも出来ない事は無いが、簪だけのけ者にするのは可哀想だからな。

 

「(既にのけ者にしてるような気もしますが、確かに可哀想ですしね。それにフェアじゃなくなりますしね。)」

 

 

そう言うことだ。

残ったカードを見ながら俺は如何するか考える。

 

「一夏、終わった?」

 

「ん?ああ、俺は終わったぞ。」

 

「私も終わりました。」

 

「それじゃあ順番を決めなきゃ。」

 

「一番多い簪からで良いんじゃないか?」

 

「私もそれで良いですよ。」

 

「じゃあ時計回りで良い?」

 

「ああ、俺は良いぞ。」

 

「私もそれで良いですよ。」

 

 

順番でどうこうなるゲームでも無いし、あまり気にする必要は無いだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん・・・」

 

「随分悩むな。」

 

「だって一夏が持ってそうなんだもん!」

 

「さあ?如何かな。」

 

「一夏様は持ってるかもしれませんね~。」

 

「お前も体外性格悪いな。」

 

 

実際にババを持ってるのは須佐乃男だが、コイツはさっきから飄々とした雰囲気で勧めている。

簪は俺が持ってるのか須佐乃男が持ってるのか分からないので真剣に俺のカードを選んでいる。

 

「・・・これ!」

 

「揃わなかったようだな。」

 

「むぅ~!」

 

「さあ一夏様!引いてください!!」

 

「楽しそうだな・・・」

 

「一夏様と心理戦なんて滅多に出来ませんからね。」

 

「即断即決!これだ!!」

 

「一夏は悩まないな~。」

 

「上がりだな。」

 

「ええ~!?」

 

「一夏様は強いですね~。」

 

「偶々だろ・・・」

 

 

実際ババを持っている須佐乃男のペースに巻き込まれたら負けていただろうし、本当に偶々だろうしな。

 

「それじゃあ簪様、敗者を決めましょうか。」

 

「須佐乃男が3枚、簪が2枚か・・・」

 

「私は引けば揃いますし楽ですね~。」

 

「はい。」

 

 

簪が須佐乃男に手札を差し出す。

自分の番の時は散々悩むくせに引かせる時はあっさりしてるな。

 

「さあ簪様、引いてください!」

 

「う~ん・・・こっちかな~?いや、こっちかもしれないし・・・」

 

 

長いな・・・

 

「一夏さん、暇なら話しませんか?」

 

「良いですよ。」

 

「一夏さんは須佐乃男と仲が良いんですね。」

 

「いきなり何ですか?」

 

「だって一夏さんは須佐乃男の思考分かってますよね?それに須佐乃男も一夏さんの思考分かってるようですし。」

 

「・・・さすがに鋭い観察眼ですね。確かに俺と須佐乃男は互いの思考がある程度理解出来ます。」

 

「やっぱり・・・」

 

 

碧さんは何処か羨ましそうな顔をしたが、すぐに表情を変えた。

 

「それは須佐乃男が専用機だからなの?」

 

「恐らくは・・・俺が須佐乃男しかISを使えないのは知ってますよね?」

 

「ええ。」

 

 

運転をしながらだが、碧さんは真剣な顔をしている。

普段の可愛い表情も良いが、こう言った表情も新鮮で良い。

 

「俺が須佐乃男を扱えるのは、アイツの声が聞こえたからなんですよ。それから暫く束さんが調べてくれたんですけど、結局俺がISを使えるのはアイツの声が聞こえたからとしか分からなかったんです。人の姿になるまでは脳内会話でしたので、その名残で今も偶に声を出さない会話をするんですよ。」

 

「・・・そうなんだ。一夏さんは他の人の思考が分かるのかもって思ってたけど、須佐乃男の思考は分かってるんだね。」

 

「羨ましい・・・ですか?」

 

 

言いたい事を先に言われて、碧さんは驚いてこっちを見た。

 

「驚くのは良いですけど、ちゃんと前見てください。」

 

「ゴメンね。でもやっぱり思考読んでない?」

 

「違いますよ、前に刀奈さんが同じ事を言ってたので分かったんですよ。」

 

「そうですか・・・」

 

「一夏様~終わりましたよ~。」

 

「分かった。それじゃあ碧さん、俺は戻ります。」

 

「ええ、ありがとね。」

 

 

何に対してのお礼なのか気になったが、これ以上聞いても教えてくれないだろう。

 

「それで、どっちが負けたんだ?」

 

「・・・私。」

 

「ふっふっふ~、私にはあの程度の心理戦など造作も無いですよ。」

 

 

造作も無いってまた古い言葉を・・・

 

「それじゃあ罰ゲームだが・・・虚さんを止めてきてくれ。」

 

「そうですね~。もう随分と怒ってますし、そろそろ良いんじゃないですかね~。」

 

「私に止められるかな?」

 

「簪なら平気だろ。」

 

「なんなら一夏様が呼んでいるとでも言えば来ますよ。」

 

 

間違っては無いがさすがに二人が可哀想だと思ったからなんだが・・・

まあ虚さんも旅行中にあそこまで怒るのは可哀想だしな。

後で慰めてあげるとするか。

 

「虚さん、一夏が呼んでるからもうそれくらいで・・・」

 

「え?そうですね、一先ずはこれくらいで勘弁してあげます。」

 

「疲れた~・・・」

 

「おね~ちゃんは怒ると長いから~・・・」

 

「まだ反省していないようですね?」

 

「してるよ!?もう十分反省してますよ!」

 

「私も~!」

 

「なら、良いですけど。」

 

 

三人もゲームに混ざって、その後は楽しくトランプをしていた。

途中で虚さんの頭を撫でていたのだが、全員が羨ましそうに見ていたのは気付かないフリをした。

さすがに車の中を動き回るのは危ないからな。

 

「(散々動き回ってた一夏様が言うことですか?)」

 

 

言ってない、思っただけだ。

 

「(同じですよ。私には聞こえるんですから。)」

 

 

まあお前は仕方ないだろ。

俺だってお前の心の声は聞こえてたんだから・・・

 

「(んな!?乙女の秘密を・・・)」

 

 

それはもう良い!

須佐乃男とやり取りをしている間に目的地に到着した。

 

「さあ、遊ぶわよ!」

 

 

刀奈さんの一言に全員が頷く。

旅行に来たのだから楽しまなくちゃな。

ちなみに部屋は全員一緒で、俺はまた嵌められた感じになった。




ようやく到着。
次回は再び一夏に迫る彼女たちを書きます。

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