思わず返事をしたが、碧は五人に遠慮している。
「え~と、一夏さん。私は訓練などがあるので出かけるのは・・・」
「明日と明後日は休みですよね?」
「し、しかし別の仕事が・・・」
「碧さんの主な仕事って俺の護衛ですよね?それなら特に問題なく出かけられると思いますけど。」
「そうですけど、私にも予定が・・・」
「隊長って休みの日は部屋に引きこもってるんじゃ・・・」
「!?」
予定がある事にして断ろうとしたが、部下が自分の休日の過ごし方をバラされたため碧の計画は失敗に終わる。
「余計なこと!!」
「良いじゃないですか。だって隊長、一夏様の事好きですよね。(小声)」
「んな!?」
「バレてないとでも思ってたんですか?バレバレですよ。」
自分の気持ちを言い当てられ赤くなる。
そのやり取りを不審に思った一夏が会話に割り込む。
「それで碧さん。一度返事したんですから出かけてくれますよね?」
「そ、それは・・・」
本心では一緒に出かけたいのだが、仕えている屋敷のトップに位置する人間たちの彼氏と出かける勇気は無い。
そんな事は起こらないと思っているが、万が一クビにでもなったら一夏の傍に居られなくなってしまうのだ。
「しょうがないよ、小鳥遊さん。一夏はこうなったら引かないし、私たちも自分たちで蒔いた種だし、今回は認めるよ。」
「そうですね、お嬢様の発案とは言え、私たち四人ともその計画に乗ったんですから文句は言えませんね。」
「しょ~がないね~。」
「私は納得出来ませんけどね。ですが一夏様が決めた事ですし、後は貴女しだいだと思いますよ。」
「小鳥遊さんは優秀だし、仕方ないかな~。」
遠慮している五人から許しが出て、気持ちがグラつく。
「それと・・・」
「はい?」
楯無に手招きされ、口元に耳を持っていく。
「独り占めしないなら共同戦線に加えてあげても良いのよ?」
「!?それって///」
「まあ、一夏君がOKしたらだけどね。」
「ん?俺が如何かしましたか?」
「いいや~、こっちの話だよ~。だよね~小鳥遊さん?」
「え、ええ///」
「?碧さん、顔赤いですけど大丈夫ですか?」
楯無に仲間に加えても良いと言われ、自分が一夏の彼女になる可能性が出てきたことに顔を赤らめていたら一夏に不審がられた。
「平気です!///」
「そうですか?それなら良いんですけど・・・」
まだ不審がってるが、一先ずは引いてくれたようだ。
「それじゃあ一夏君。私たちはもう行くね~。あっそれと、小鳥遊さんは一緒に来て。」
「は、はい!」
「ん?何かあるんですか?」
「お仕事の話よ♪」
「そうですか。それじゃあ残った人たちはもう一回訓練しますので準備してください。」
碧を連れ出し、残りのメンバーを連れて訓練場から出て行く。
騙せたとは思ってないが、追求もされなかったので一先ずは善しとしようと思う楯無だった。
「いったい何を企んでるんだか。刀奈さんは俺を困らせようと必死だからな・・・碧さんまで巻き込んで何をするのか、楽しめる冗談なら良いがな。」
すでに何かあるとバレているのだが、その事を楯無は知らない。
追求した所で口を割る訳無いので、あっさり見逃したのだ。
「さて、今回は俺が一人で探します。制限時間は5分、開始時間は10分後。それじゃあ始めます。」
一夏から隠れ通せる自信がないのか、すでに負けムード一色の隊員に活を入れる。
「しっかりしなさい!もしこれが実践でもそんな雰囲気でするのですか!それともこの隊は隊長以外は大した事ないんですか?」
一夏の挑発にまんまと乗せられ、隊員たちは気合を入れて隠れに行った。
「簡単過ぎだが、これで少しはまともに隠れてくれるだろうな。」
やれやれとため息を吐きながらほくそ笑む一夏。
実際この部隊の実力は更識の中でも高いのだが、その中でも碧はずば抜けているのだ。
その事を隊員たちも分かっているので、どうせと言った気持ちが少しだけ心の何処かにあるのだ。
その事を指摘して、更に自分たちを大した事無いと言われてはやる気にならない方がおかしいのだが、やっぱり簡単過ぎると一夏は再びため息を吐くのだった。
ちなみに、訓練は一夏が1分で全員を見つけたのだった。
「小鳥遊さんには言ったけど、私は小鳥遊さんなら共同戦線に加えても良いと思うのよね~。」
「それって一夏の彼女にって事?」
十分一夏から離れた場所で、楯無が自分の計画を話す。
それに反応したのは妹の簪だった。
「そうよ。さすがに更識の人間以外は嫌だけど、小鳥遊さんは家で働いてくれてるし、なにより優秀だわ。」
「確かに誰でも良いなんていったら、一夏が可愛そうだもんね。」
「そうだね~。そんな事になったら~、学園のほとんどがおりむ~の彼女さんになっちゃうよ~。」
「しかし、一夏さんの気持ちは如何するんですか?」
一番の問題を虚に指摘されてるのに、楯無は笑顔だ。
「大丈夫よ。一夏君も少しは意識していると思うし、人の心に敏感だからね~。恥ずかしい事はあっさり言うけど、気持ちは大切にしてくれるよ。きっと・・・」
「そうですね~。一夏様は人とズレている箇所もありますが、基本的には真面目な方です。楯無様たちの気持ちを無碍にはしないと私も思います。」
楯無の考えに須佐乃男が同意する。
「もちろん私たちを蔑ろにしないようにこっちも誘惑は続けるけどね♪」
「誘惑って・・・お嬢様は少し慎んだ方がよろしいのではないですか?」
「う、虚ちゃん。何で慇懃無礼なの?」
「そんな事無いですよ。私はお嬢様に慎みを覚えてもらいたいだけですので。」
「おね~ちゃん、こわ~い。」
「本音も少しは真面目になるように教育しましょうか?」
「やぶへび・・・」
虚の態度に恐怖する楯無と、それを指摘して自爆した本音を見て、簪がつぶやいた。
「あ、あの~、私はいったい如何すれば良いんですか?」
一人置いてけぼりな碧は、そう声をかけた。
「あ、ゴメンゴメン。え~と小鳥遊さん。」
「碧で良いですよ。」
「それじゃあ碧さん。」
「はい。」
「貴女、一夏君のこと好きですよね?」
「は、はい///」
一夏の事を好きと認めただけで顔を赤らめる碧を見て五人は、
「「「「「(初心なんだな~)」」」」」
と全員が心の中でつぶやいたのだった。
「え~とそれでね、私たちは最初、一夏君を独り占めしたかったんだけど、それじゃあ関係が拗れるだけだから皆で仲良くすることにしたの。」
「それは何となく聞いています。一夏さんも悩んでいたんですよね?」
「自分の問題に加えて私たちまで問題を背負わせたくなかったから、そうやって落ち着かせたのよ。」
「一夏さんも了承したんですよね?」
「男湯に突撃して無理矢理させた感じだけどね・・・」
「簪ちゃんだって、一夏君の事諦めたくなかったでしょ?」
「当然!」
「なら無理矢理じゃ無いよ。誰も我慢しなくても良いんだから、これが一番良かったのよ。」
簪が言い切った事に頷き、楯無は話を続ける。
「それに一夏君だって平等に私たちを愛してくれている。一人だけを甘やかす事はしないで、なるべく平等に私たちに接してくれている。それは須佐乃男が増えても一緒だった。」
「私はまだ認めてもらってないですけどね。」
「でも、一夏君は須佐乃男も大事にしてるわよね。」
「ええ、それはまあ・・・///」
須佐乃男は彼女では無いが、このメンバー同様一夏に大事にしてもらっている。
専用機だからと言った理由も当然あるのだろうが、一夏は普段須佐乃男を普通の女の子として扱っている。
したがってこの屋敷の部屋は別、風呂も着替えも当然別だ。
だが一緒に出かける時は大抵一夏が金を出している。
「一夏君はきっと須佐乃男の事も加えても平気だと思うけど、やっぱりISの須佐乃男を加えるのはね~・・・」
「私は今の状況でも満足してますので、お気になさらずに。」
「そ?でも本音は?」
「もっと進展したいです!」
「やっぱり・・・」
「それも一夏さんに確認しては如何でしょうか?」
「さすがに彼女六人は多い気がするのよね~。」
「国籍フリーの一夏さんに、日本の概念は通用しませんよ。」
「それもそうなんでけどね~。そもそもその事を使って皆彼女になったんだけど。」
いまだに一夏の所属は決まっていない。
その事で日本の倫理観や常識は一夏に限って通用しないのだ。
だから付き合おうとすれば、実の姉である千冬だろうが、同性の弾だろうが平気なのだが、当然一夏もそこまで見境無い訳ではないのだ。
むしろそんな事を言ったら怒るだろう。
「兎も角、碧さんは如何したいの?一夏君と付き合いたいの?」
「私は・・・」
今まで見ないようにしていた自分の気持ちを確認して、碧は口を開く。
「私は、一夏さんと付き合いたいです!今までこんな気持ちになった事は無いくらい一夏さんの事が好き!」
「もしかして・・・初恋?」
「は、はい///」
今まで暗部で働くために、色々な訓練や実践に明け暮れた碧は当然恋など無縁の世界で生活していた。
その後ISが発表され、適正が高かったためその訓練も積んだ。
ISに関わったため、余計に男っ気が無くなった。
そんな碧が初めて恋をした相手は一夏だった。
しかし一夏には彼女が居る、しかも四人も。
だから碧は自分の気持ちに気付かないフリをしていたのだ。
だが、他に彼女が居ても自分が一夏の彼女になれるかもしれないチャンスが訪れたのだ。
その事で一気に一夏への気持ちが膨れ上がり、もはや誤魔化せないくらいになっているのだった。
「それじゃあ明日、一夏君と出かけておいで。そこで気持ちを伝えちゃいなよ♪」
「そ、そんな簡単に言わないでくださいよ~。」
「どうせ一夏君にもバレてるでしょうし、こうやって何か企んでるのもバレバレでしょうしね。きっと上手く行くわよ。」
「お姉ちゃんは無責任なんだから・・・」
「何時ものことです、簪お嬢様・・・」
「そうだね~。」
「本音だけには言われたくない!!」
「どっちもどっちだと思いますよ~。」
「「ヒドイ!」」
最早こんなやり取りを聞いている余裕は碧には無かった。
「如何しよう如何しよう・・・」
部屋に戻った碧は落ち着き無くウロウロしていた。
一夏には了承の返事をしてしまったし、行き先もさっきメールが来て決めた。
後は明日自分の気持ちを一夏に伝えれば良いのだが、その事が簡単に出来るならここまで慌てる事も無いのだ。
「もしOK貰えたとして、いったい何をすれば良いの?」
今まで誰とも付き合った事の無い碧は、その事もよく知らないのだった。
「え~と、手を繋いだりすれば良いのかな?それともいきなりキス?でもでも違ったら恥ずかしい。」
明日の事なのにすでに碧はテンパっている。
正真正銘初恋であり、初心な碧は一夏と二人っきりと言う展開を想像するだけで頭が沸騰寸前まで追い込まれている。
「一夏さんと二人っきり・・・///」
思考が回復するたびにこのように再び沸騰寸前になってしまっている。
もし今の碧を一夏が見たら、心配して出かけるのを止めるかもしれない。
それくらい普段の雰囲気からかけ離れているのだ。
「落ち着け、落ち着くのよ碧。あせっても良い事なんて無いんだから。よし!冷静になれた・・・でももし一夏さんと付き合えたら・・・きゃ~///」
何を想像したのか、再び興奮状態に陥った。
結局碧が落ち着いたのは、日付が変わる少し前だった。
「いきなりで迷惑だったかな?」
時を遡り一夏の部屋。
一夏は碧の事を考えていた。
もちろん色っぽいような事ではなく、単純に迷惑だったのでは?と言った感じの思考だ。
「刀奈さんに何か吹き込まれてたようだし、あまり負担にならないと良いんだけど・・・」
完全に刀奈が何かを仕込んでいると確信している一夏。
それが碧の負担になる事を心配しているのだ。
すでに一夏も碧の気持ちには気付いている。
だが、自分から何かをするつもりは無い。
選んでもらっている立場なので、自分がどうこう言えるはずも無いと思い込んでいるからだ。
もちろん碧の事は嫌いではない。
だが好きなのかと聞かれたら分からない。
一緒に居て楽だし、とても落ち着く。
今まで周りの年上女性は一癖も二癖もある人が多かった。
刀奈や虚も年上だが、まだ年が近い。
千冬然り束然り、一夏に心労を与える人ばっかだったので、碧のように心休まる女性は初めてかもしれないのだ。
「俺は碧さんの事を如何思ってるんだ?」
自問自答をするが答えは出ない。
確かにここ数日一夏の心労は減っている。
刀奈と本音に仕事をさせたと言うのももちろんあるのだが、碧と会話するのはとにかく楽なのだ。
そして意外と話も合う。
千冬より年上だが、その差を感じさせない話し方。
それでいて年相応の態度、少し慌てる場面もあるが、それすら可愛いと思える容姿。
完全に碧の事を想っているようだが、それでも好きと言い切れない。
「此処まで優柔不断だったのか、俺は・・・」
苦笑いではなく、完全に苦い笑いになっている。
「こんな姿誰にも見せられないな。」
自分自身で呆れているのだ。
他の誰かに見せられる訳が無い。
「普段大人ぶっても、やっぱり俺は子供なんだな。自分の気持ち一つも理解出来ないなんてな・・・」
最早自虐とすら言えそうな一夏のつぶやき。
「考えても仕方ないな、答えが出ないんじゃ。」
そう言って諦め、一夏は読みかけの本に手を伸ばす。
奇しくも内容は自分の気持ちが分からなくて悩む青年の話だった。
一夏が部屋で悩んでいるのと時を同じくして、此処楯無の部屋でも悩んでいる少女が居た。
「本当によろしいのですか?」
「何が~?」
「いえ、小鳥遊さんの事ですよ。」
「ああ・・・」
主であり、妹のような楯無の事を心配する虚。
虚も辛いだろうが、彼女は自分より相手を優先する女性だ。
「本当は嫌だよ。嫌だけど、同じ屋敷で生活してる人で、あそこまで一夏君と仲良いのって彼女だけじゃない?」
「確かに・・・他の人は遠慮したり仲良くなるのを諦めているかですからね。」
「一夏君が近づきにくいってのもあると思うけどね~。」
おどけた風に装うが、楯無の心は穏やかでは無い。
「お嬢様、今は私しか居ません。無理に明るく装う必要は無いですよ。」
「私より虚ちゃんの方が辛そうよ?」
「私は慣れてますので・・・」
「そっか・・・普段から我慢してるもんね。」
「最近は我慢出来てないと思いますけどね。」
苦笑いをしながら楯無を気遣う虚。
「私たちがいくら言っても、最終的に決めるのは一夏君だから。もし一夏君が碧さんの事私たちと同じように大事にしたいと思ってるのなら、私はそれで良いと思ってる。これは嘘じゃない。嘘じゃないけど、やっぱり寂しいと思っちゃうな。」
「お嬢様・・・」
「こんな顔、一夏君には見せられないね。」
今の楯無は泣きそうだ。
昔一夏の胸に抱かれ泣いた事はあるが、泣き顔は見せていない。
羞恥心が無いようで、一番持っているのは楯無だろう。
「ゴメンね。虚ちゃん。虚ちゃんも泣きたいのに・・・」
「私は大丈夫ですよ・・・」
「嘘。今にも泣きそうよ。」
「これ以上は増やさないでくださいね。本当に泣いてしまいますよ?」
「それ、私じゃなくって一夏君に言わなきゃ。」
「発破をかけたのはお嬢様ですよね?」
「あれ?そうだっけ?」
「誤魔化しても無駄ですよ。」
「簪ちゃんや本音もこんな気持ちなのかな?」
「如何でしょう?簪お嬢様や本音は、私たちが思ってる以上に強いですよ。」
「そうなのよね~。いつの間にか強くなってたんだよね・・・」
「一夏さんが来てから急激にですからね。」
二人で顔を見合わせ笑う。
結局、一夏がこの屋敷に来てから自分たちは変わったのだ。
それも良い方向に。
「これじゃあ一夏君に惚れるなって言う方が無理だね。」
「無理ですね。」
再び笑いあい、虚は自分の部屋に戻るのだった。
「でも・・・やっぱり少し寂しいかな。碧さんの結果次第では、私も何時も以上に甘えちゃうんだからね!覚悟しなさい、一夏君。」
誰も居ない部屋で、そう宣言する楯無だった。
心理描写は本当に難しいです。
しかもデートまで行かなかった・・・