もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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思いのほか時間が掛かった・・・


今後の予定

「う~ん・・・」

 

 

身じろぎをして、徐々に頭が覚醒していく。

私は今何処に居るのだろう?

確か一夏さんと出かけて、それから・・・あれ?

思い出して、一気に目覚める。

 

「私、眠ってしまったのですね・・・」

 

 

目を開くと、一夏の膝が視界いっぱいに広がっていた。

 

「すみません一夏さん、重かったですよね?」

 

 

ずっと自分を膝枕していたのだ、疲れているに違いない。

そう思い謝ったのだが、一夏は反応しなかった。

 

「・・・一夏さん?」

 

 

不審に思い再び名前を呼んだ。

もしかしてあまりにぐっすり眠ってしまったので、呆れているのかもしれない。

しかし、やはり一夏は反応しなかった。

 

「一夏さん、如何しました?」

 

 

頭を上げ、一夏の顔を覗き込む。

 

「う~ん・・・」

 

「一夏さん?・・・寝てる。」

 

 

虚程ではないが、一夏も日ごろから忙しくしているのだ。

今日だって虚を気遣って虚がゆっくり出来るように一緒に出かけてくれている。

 

「一夏さんも疲れてますもんね。今度は私の番ですね。」

 

 

一夏の体を自分の方に倒し、頭を膝に乗せる。

 

「そう言えば、一夏さんの寝顔をゆっくり見るのは初めてかもしれませんね。」

 

 

前に本音が見たと言っていた時に、

 

「あれは他の女の子に見せちゃ駄目!絶対に惚れちゃうから!」

 

 

と、何時もの間延びしたしゃべり方ではなくしっかりとした口調で言っていたのを思い出した。

 

「確かにこれは見せられませんね。」

 

 

普段誰よりも遅くまで起きていて、誰よりも早く目覚めている一夏だ。

屋敷に居る人間で、一夏の寝顔を見たことがある者が何人居ることだろうか。

それくらい一夏の寝顔は貴重なのだ。

 

「一夏さんも疲れてるのに、私なんかに気を使って・・・本当に優しい人ですね。」

 

「・・・虚さんほどじゃ無いですよ。」

返事を期待してなかったつぶやきに、真下から返事がきた。

 

「起きましたか?」

 

「ええ。すみません、重かったですよね?」

 

「平気ですよ。そもそも少しの間しかしてませんし。一夏さんこそ重かったじゃないですか?ずっと膝枕していて。」

 

「平気ですよ。俺も途中から寝てたみたいですし、気にしなくて良いです。」

 

 

互いに互いを気遣う。

苦労人二人ならではのやり取りだ。

 

「今何時です?」

 

「え~と・・・5時前ですね。」

 

「随分と寝てたみたいですね。確か私が横になったのが1時前ですから、4時間も寝てた計算になりますね。」

 

「疲れてたんですから仕方ないですよ。それに、虚さんの寝顔は可愛かったですし、それに寝言も・・・」

 

「へ!?私何か言ってました!?」

 

「ええ。私は本音みたいなしゃべり方は出来ない。一夏さんに甘えられない。ってずっと言ってましたよ。」

 

「///一夏さん!忘れてください、お願いですから!!」

 

「忘れろって言われても・・・まあ誰にも言いませんから安心してください。」

 

「それじゃあ意味が無いんです!」

 

「?」

 

 

そもそも一夏に知られたくなかった事なのだから、一夏が覚えてたら意味が無い。

しかしその事を言う訳にもいかず、虚は顔を真っ赤にするしかなかったのだ。

 

「そろそろ帰りましょうか。」

 

「そうですね・・・」

 

 

騒ぎ疲れてまともに会話する気力も残っていない虚。

それを心配して、

 

「虚さん、まだ疲れてるみたいですし、おぶりましょうか?」

 

 

また恥ずかしい事を平然と言ってのける一夏。

 

「それは恥ずかしい・・・でも、お願いします!」

 

「良いですよ。それじゃあ乗ってください。」

 

 

この男に恥ずかしいと言う感情は無いのかも知れない。

顔を真っ赤にしている虚とは対象に、一夏の顔は普段通りだった。

 

「それじゃあ帰りましょうか。」

 

「え、ええ///」

 

 

普通に人の居る道を、虚をおぶりながら歩く一夏。

そのせいで虚の顔は更に赤みを増している。

 

「い、一夏さん。もう平気です、下ろしてください!」

 

「ん?でも顔赤いですよ?風邪でもひいたら大変ですから、遠慮せず乗っててください。」

 

「顔が赤いのは一夏さんのせいです・・・」

 

「俺の?何かしましたか?」

 

「こんな人が見ている所でおぶられたら普通恥ずかしいですよ!それを一夏さんは飄々として。余計に私が恥ずかしいんですよ!」

 

「俺だってそう言った感情はありますけど、虚さんが俺の分まで恥ずかしがってくれてるんで、俺は平常心で居られるんです。」

 

「そんな事言って・・・ズルイですよ一夏さん。」

 

「歪んでるんでしょうね、俺は。だから真っ直ぐな虚さんや他の三人が羨ましいですよ。素直に感情表現出来るなんて、俺には無理ですから。だから俺の代わりに恥ずかしがったり喜んだりしてくれるのが嬉しいんですよ。」

 

「でも、如何してそこまで歪んでしまったんですか?一夏さんがこうなるなんてよっぽどな原因があるとしか思えませんよ。」

 

 

虚の知っている一夏は、周りに流される事は決して無い。

しかし生まれつきとも思えなかったのだ。

 

「大した理由では無いんですけど、俺の周りには、ある意味自分の気持ちに正直な人が多かったですよ。自分がつまらないから好きにして良いと考える知り合いとか、自分が全面的に正しいと思い込んでいた昔なじみとか、俺にベタベタしてくる残念な姉とか、その他にも居ますけど、絶対にああはならないと思ったらこんなひねくれた性格になったんですよ。悪い意味で反面教師ばかりだったんですよ。」

 

「昔から大変だったんですね・・・」

 

「それが当たり前だと思ってたんで大変だとは思わなかったですね。ですがそれが異常だと分かった時にはすでにこんな性格でしたし、直すのも無理だと諦めてましたしね。それが刀奈さんや虚さんが言う鈍感な部分の原因だとは分かってるんですけど、いざその場面になると、やっぱり鈍くなってるんですよ。」

 

「そうですか・・・でもあまり恥ずかしい事は言ったりしたりしないでくださいね?」

 

「まあ、善処します。じゃあ降りますか?」

 

「いえ、このままで。」

 

「?恥ずかしいんですよね?」

 

「恥ずかしいですけど、それ以上に嬉しいんですよ。こうやって一夏さんに甘えられるのが。」

 

 

下ろそうとした一夏にギューとしがみつく虚。

 

「じゃあゆっくりと帰りますか?長い時間甘えてもらった方が俺も嬉しいですしね。」

 

「これからは私も、もっと素直に甘えられるようにしますね。ですから今日はこのままでお願いします。」

 

「分かりました。それと虚さん、当たってますよ思いっ切り。」

 

 

しがみついた事により普通におぶるよりも虚の慎ましい胸が一夏の背中に当たっているのだ。

 

「気にしませんよ。一夏さんだって、こんな胸当てられても嬉しく無いですよね?」

 

 

どこか自虐的な虚の態度に一夏は苦笑いをした。

 

「別に大きさなんて気にする必要ないんじゃ無いですか?」

 

「だって男の人は大きい方が良いんですよね?」

 

「さあ?それは個人の趣味ですし、俺は気にしません。そもそも胸の大きさで人を好きになる訳じゃないでしょうし。」

 

「そうなんですか?てっきり皆が皆好きなのかと思ってました。」

 

「勘違いですよ。趣味は人それぞれですし、男と女で理想って結構違ってるものですよ?」

 

「へ~え、そうなんですか。知りませんでした。」

 

「まあ知らなくても困らない事ですからね。」

 

 

帰路をゆっくり歩きながらそのような会話している虚と一夏。

虚は気づいていないが、当然二人を監視している人間は居るのだ。

虚は更識家当主の専属のメイドであり、布仏家次期当主候補筆頭であり、一夏は世界中が注目する世界初の男性IS操縦者だ。

この二人を更識の人間が護衛も無しに出かけさせる訳が無いのだ。

 

「(碧さんに比べると、やっぱり気配の消し方がイマイチだな。これじゃあ勘の良い奴にバレるな。明日の特訓ではもう少しマシになるように碧さんと鍛えた方が良いな。)」

 

 

当然監視に気付いている一夏は、頭の中でそんな事を考えていた。

 

「一夏さん?どうかしましたか、急に黙ってしまって・・・」

 

「いえ、大した事ではないですよ。休み前にどっかに行こうって言ってたけど、特に予定もたててないと思っただけですよ。」

 

「そう言えばお嬢様がそのような事言ってましたね。後で聞いてみましょうか。」

 

「そうですね。予定が合えば、また何処かに出かけるのも良いですし、一日だけでも合えば出かけるのは可能ですからね。」

 

「私は料理の練習もしたいですね。」

 

「時間が合えば付き合いますよ。」

 

「お願いしますね、一夏さん。」

 

 

ようやく屋敷が見えてきたので、虚は一夏の背中から降りたのだった。

 

 

 

 

 

「お帰り、一夏、虚さん。」

 

「ああ、ただいま簪。」

 

「ただいま戻りました、簪お嬢様。」

 

「随分とゆっくりしてきたんだね。何処に行ってたの?」

 

 

時刻は5時過ぎ、出かけたのが10時だからゆっくりしてきたと言う表現は正しい。

 

「大して遠くには言ってないぞ。近くの公園で昼寝してきただけだし。」

 

「本当?」

 

「ええ、本当です。互いに疲れていた様で、ぐっすりと寝てしまいました。」

 

「まあ虚さんはお姉ちゃんと本音の相手で疲れるもんね。一夏も虚さんの手伝いや、その他にも色々してるもんね。二人共疲れが顔に出ないから勘違いしがちだけど、疲れてない訳ではないもんね。」

 

「そりゃあ俺も虚さんも人間だからな。疲れもすれば病気にもなるさ。」

 

「私は一夏さんほど人間離れしてませんよ?」

 

「それはそうですけど・・・」

 

「一夏の人間離れっぷりは半端無いもんね。」

 

「だから俺だってへこむんだぞ。自覚しているとは言え、言われるとやっぱりへこむんだよ・・・」

 

 

へこんでいる一夏を見て声を抑えて笑う簪と虚。

このように一夏がへこんでいる姿はとても愛らしいと思っているので、ついつい一夏の事をへこませようとするのだ。

 

「まあまあ一夏、そんなにへこまないで。一夏の知り合いにはもっと人間離れした人が居るじゃない。」

 

「慰めになってないぞ。あれと比べられて喜ぶと思うか?」

 

「全然!」

 

「なら言うなよ・・・」

 

 

一夏の言うあれとは、当然千冬の事だ。

人間離れした攻撃力(出席簿アタック)、人間離れした破壊力(料理)、人間離れした執着心(ブラコン)、それと比べられて喜ぶ神経を、一夏は持ち合わせて無かった。

 

「でもそこが一夏さんの可愛い所ですよ。」

 

「そうそう。人間離れしてるのにやけに人間味があるんだよね、一夏って。」

 

「人間味って、俺は人間だぞ。」

 

「分かってるよ。でもそう言った感じなんだよ。」

 

「そうですね。それが一夏さんなんですよね。」

 

「何なんですか、まったく・・・」

 

 

三人で話していると、碧がやって来た。

 

「お帰りなさいませ、一夏さん、虚様。」

 

「ただいま碧さん。刀奈さんたちの様子は?」

 

「とりあえずしっかりと仕事はしている様子です。グチは言ってますけど。」

 

「そうですか・・・ありがとうございます。」

 

「いえ、仕事ですから///」

 

「「むっ!」」

 

 

一夏と碧が会話している雰囲気を感じ取って簪と虚が頬を膨らます。

碧は一夏にお礼を言われて、完全に照れている。

学園の女子や、須佐乃男と言った様々な敵に加えて、まさか屋敷内にも敵が居るとは思ってもなかったのだ。

 

「ねえ一夏。」

 

「何だ?」

 

「一夏って小鳥遊さんと仲良いよね?」

 

「そ、そんな事ないですよ///」

 

「普通に訓練を一緒にしたり、問題点を話し合ったりするくらいだぞ。」

 

「でも一夏が名前で呼ぶのってあまり居ないよね?」

 

「う~ん・・・弾や数馬、蘭に鈴、セシリアにシャル、後はラウラとナターシャ先生かな?四人を除いたらだけど。ああ!後束さんもか。」

 

「本当に少ない・・・一夏、友達居ないの?」

 

「そんな事無いと思うけど・・・少なくともクラスメイトとは仲良いと思うぞ?いや思いたい・・・」

 

「ああ!またへこんじゃいました・・・」

 

 

自身の交友範囲に自信が持てずに、再びへこむ一夏。

それを見て虚が慰める。

 

「一夏さん。そこまでへこむ事ないじゃ無いですか。一夏さんには私たちが居ます。ですので心配しないでください。」

 

「そうだよ一夏。私たちが居るし、最近はクラスメイトたちとも会話出来るようになったって本音が言ってたから大丈夫だよ!」

 

「そうかな・・・そうだと良いけど・・・」

 

「か、可愛い///」

 

「「むっ!」」

 

 

へこんでいる一夏を見て、つい本音がこぼれた碧。

再び簪と虚が碧を睨む。

 

「な、何ですか?簪様、虚様。」

 

「べっつに。」

 

「何でもないですよ。」

 

「如何した?二人共ピリピリしてるようだが?」

 

「気のせいでしょ。」

 

「気のせいです。」

 

「?」

 

 

二人の態度に首を傾げる一夏。

だが、例の鈍感のせいで原因は分からなかった。

 

「一先ず部屋に戻りましょう。荷物を置きたいですし。」

 

「そうですね。私も部屋に行きます。」

 

「じゃあ私も戻ろうかな。」

 

「では私もこれで。」

 

 

四人とも部屋、持ち場に戻る事にして、気まずい雰囲気は霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うえ~ん終わらないよ~。」

 

「楯無様~泣きたいのは私も一緒ですよ~。」

 

「いかに一夏君と虚ちゃんに頼りっきりだったのが分かるわね。私じゃ分からない事も多いのよね~。」

 

「私なんて~もっと分からないですよ~。」

 

「ね~!」

 

 

仕事場で繰り広げられている会話を廊下で聞いていた一夏は、思わずため息が漏れた。

 

「誰か居るの~?」

 

 

そのため息で一夏に気付いた刀奈が声をかける。

正確には誰かが居るのに気付いただけで、一夏だとは分かっていないのだが・・・

 

「俺です。刀奈さん、本音、仕事は終わりましたか?」

 

「一夏君!?えっともう少し・・・」

 

「そうそう~後少しだよ~・・・」

 

「本当ですね?虚さんも呼びますよ?」

 

「ゴメン、まだ1/3くらい残ってる。」

 

「そんな事だと思いましたよ。」

 

 

やれやれとドアを開け仕事場に入っていく一夏。

その一夏の姿を見て気まずそうに笑う刀奈と本音。

 

「これに懲りたら、普段から虚さんに頼らずに自分で仕事してくださいね?本音も分かったな?」

 

「「は~い・・・」」

 

「それじゃあ残りを終わらせましょう。俺も手伝いますから。」

 

「ありがとうね~。私じゃ分からない事があるから困ってたんだ~。」

 

「私も~わからない事が多くて困ったよ~。」

 

「・・・なんで当主である刀奈さんと、布仏家の人間である本音が分からなくて、部外者の俺が分かるんですかね~?」

 

「え~と・・・」

 

「それは~・・・」

 

 

一夏の口撃に冷や汗をたらす刀奈と本音。

いかに仕事をしていないかがバレバレなのだ。

 

「少しは虚さんの負担を増やすの止めたらどうです?かわいそうですよ。」

 

「分かってるんだけどね~。」

 

「おね~ちゃん優秀だから~・・・」

 

「反省してください!」

 

「「は、はい。」」

 

 

一夏に怒られ、シュンとしてしまった刀奈と本音。

 

「そこまで落ち込まれるとこっちが困るんですけど・・・」

 

「でも~・・・」

 

「おりむ~に怒られるとね~・・・」

 

「「へこむよね~。」」

 

 

声を揃えて言う刀奈と本音。

それを聞いて呆れる一夏。

 

「それなら怒られないようにしてくださいよ・・・」

 

「「は~い」」

 

 

再び声を揃えて言う刀奈と本音。

今回は苦笑いですませた一夏は、残りの仕事を終わらせた。

 

「そうだ今度皆で出かけようって話があるので、予定を後で教えてくださいね。」

 

「分かった!」

 

「は~い!」

 

「それじゃあ俺は終わったので部屋に戻ります。」

 

「「ええ~!」」

 

 

話しながらも仕事を終わらせた一夏と、話に集中していて終わってない刀奈と本音。

これが普段から仕事をしている者としていない者の差なのだ。

ちなみに・・・

 

「結局終わらなかったんですね・・・」

 

「「ご、ごめんなさい・・・」」

 

 

不安になって戻ってきた一夏が、終わらせられなかった二人の仕事を片付けたのだった。




次回須佐乃男帰還!
そして一夏との訓練風景を書きます

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