買出しから帰宅し、リビングに入っていきなり、
「やーーーーほーーーーー!」
「やっぱり束さんでしたか。」
束さんが抱きついてきたのをかわし、ため息を吐く。
「なんで束さんまで居るんですか。人が居る所嫌いなんでしょ?」
「でもこの空間にはちーちゃんも居るし、箒ちゃんもいる、そして何よりいっくんが居る。だから他の人間が居ようが居まいが束さんには関係なく、この場所は居心地が良い場所なのだ~!」
「・・・頭が痛い。」
ただでさえ大人数なのだ。
そこに束さんまで加われば、この後の心労が容易に想像出来る。
今日俺死ぬんじゃね?
「おい束!貴様私の一夏に何しようとした!!」
「もう飲んでるのかよ!」
「あ~おかへり~いちにゃ。」
「簪?お前酔ってるのか?」
「よってにゃいよ~。」
「酔ってる奴は皆そう言うんだよ。誰だ、簪に酒飲ませたのは!」
「酒じゃないぞ!飲むと体が温まって気分が良くなる水だ!」
「それは日本酒だ!」
「織斑君。教師が生徒にお酒を勧める訳無いじゃないですか~。」
「山田先生、貴女まで・・・。」
「あはははは~おりむ~が三人いる~。」
「本音は呂律は大丈夫なのか。だが目にきてるな。」
「一夏様、この状態を何とかしてください!私はもう駄目です・・・パタリ。」
「ISが死んだフリかよ!」
「だって他の五人はすでにやられてるんですよ!私にこれ以上は無理です!」
「他の五人?・・・マジかよ。」
すでに鈴、セシリア、シャル、ラウラ、篠ノ乃は床に倒れていた。
「これ酒か?明らかに違う理由で倒れてる奴も居るぞ!?」
「何言ってるんだ。勝手に倒れたんだ!」
「やっぱ原因アンタかー!」
「一夏君。私は教師としてやってけるんでしょうか?泣きたいです、しくしく。」
「貴女は泣き上戸なんですか?」
どうやらナターシャ先生は酒が入ると泣くようだ。
しかし、酔うの早いな。
「おい更識姉、布仏姉、お前たちも如何だ?」
「だから生徒に飲酒を勧める教師があるか!」
「これは酒じゃない。麦とまあ色々入ってる金の水だ!」
「それはビールだ!」
「なら葡萄ジュースなら如何だ?」
「まあそれなら・・・ってこれワインだぞ!」
「「ゴクゴク。」」
「って飲んでるし!」
油断して止めるのが遅れたため、刀奈さんと虚さんがワインを飲んでしまった。
なんで確認せずにこの駄姉の勧めたものを飲むんですかー!
「あれ~、急に目眩が~。いりはきゅん、きもてぃわりゅい・・・」
「楯無さん!?吐くならトイレに行ってください!」
「一夏さん、私にもかまってください!」
「虚さんは甘え上戸ですか!?」
「あはは、いっくん楽しそうだね~。」
「これの何処が楽しそうなんですか!」
「さあどんどん飲めー!」
「一夏君、聞いてますか!?私これから如何すれば・・・。」
「なんで一緒に買出しに行ったのにもう酔ってるんですか!?弱いんですか!?」
「私は弱くないです!ただ一夏君が強すぎるだけです!・・・しくしく。」
「何の話ですか!」
「もふたへ・・・はきゅ。」
「わーーー待って待って!楯無さん、こっちです!」
「何処行くんですか!私も一緒じゃなきゃ嫌です!」
「虚さん、今は待って!後でちゃんと相手しますから!」
「ねえねえいっくん、束さんも飲んでいいかな~?」
「へ?まあ束さんは成人してますし、別に良いですけど。」
「本当?じゃあちーちゃん、いっくんが許可してくれたし、久しぶりに飲もう!」
「ああ!久しぶりに飲むか!」
何が久しぶりなのか気になったが、今はそれどころではない。
せっかく掃除したのに、吐かれたらたまったもんじゃない。
「いりかきゅん・・・もふげんきゃい・・・」
「後少し我慢してください!お願いですから!」
何とか廊下で吐く事無くトイレにたどり着いた。
「さあ、思う存分吐いていいですよ。」
「うん、もう駄目。」
背中を撫で、楽になるまでさすり続ける。
しかし刀奈さん、アルコールにここまで弱かったのか。
ワイン一口でここまでなる人も珍しい。
「一夏さん!私にもかまってください!」
「一夏君、私の話を聞いて!」
「後でしますから今は我慢してください。」
まさかトイレにまでついてくるとは。
「ゴメン、一夏君。」
「仕方ないですよ。」
「そうじゃなくて、もう駄目。」
「へ?・・・刀奈さん?」
「すーーすーー」
「寝たのか。」
全部戻してすっきりしたのか、刀奈さんは寝てしまった。
「さて、如何したものか・・・」
トイレから刀奈さんを運ぶには、外の二人が邪魔だな。
普段の二人なら話せば分かるのだが、今の二人は絶賛酔っ払い中なのだ。
「仕方ない、運ぶか。」
いつまでも篭ってたら怪しまれるし、いっそ開き直って刀奈さんを運んじゃうか。
そうと決まればさっさと出よう!
「よっと。」
刀奈さんを抱き上げ、トイレから出る。
「すーー、すーー」
「しくしく・・・」
そこには酔って寝てしまった虚さんと、泣きつかれて眠ったナターシャ先生が横たわっていた。
・・・寝ながら泣いてるよ、この人。
一先ず客間に布団を敷いて、この三人を運ぶか。
他にもリビングで倒れてる人も運ばなきゃな。
俺は客間にあるだけ布団を敷き、酔いつぶれた人を運ぶことにした。
廊下で寝ていた三人を客間に寝かせ、リビングに戻った。
だがそこはさっきより酷いことになっていた。
「さあさあちーちゃん、もう一杯。」
「束こそ、もう飲まないのか?」
「あっ一夏様!如何しましょう、この二人。」
「・・・ほっとけ。」
「おい一夏。何かつまみを作ってくれ。」
「・・・もう少し待ってくれ。」
「いっくん、早くしてね~。」
この二人は本当に面倒くさい。
一先ず倒れている七人を運ぶか。
「須佐乃男、手伝ってくれ。」
「しょうがないですね。」
「スマンな。」
手分けして七人を客間へ運ぶ。
・・・あれ?山田先生は何処行った?
「織斑先生、追加のお酒買ってきましたー!」
「うむ、ご苦労。」
「このメガネは役に立つね~。」
「なに余計なことしてくれてるんですか!」
山田先生が大量に酒を買ってきたせいで、この酒盛りは延長になった。
「だって織斑先生が、買ってこないと裸で織斑君の前で踊らせるって言うんですもん。買いに行くに決まってるじゃないですか!」
「・・・なんかもう、スミマセン。」
あの駄姉め・・・後輩脅すなよな。
「さあ束!追加が来たぞ!」
「そうだねちーちゃん!これで思う存分飲めるね~!」
「どれだけ飲むつもりですか・・・」
すでにリビングは酒の空瓶やら空き缶やらで散らかってるんだが。
「おい真耶!お前も一緒に飲め!」
「良いんですか!」
「なんで目を輝かしてるんですか!」
「いっくんも飲もうよ~。」
「いりません!」
俺は最後の一人である簪を客間に運ぶ。
「じゃあ須佐乃男は~?」
「束様が仰るのであれば一口だけ。」
「じゃあはい!」
「いただきます・・・バタリ。」
「何で飲むんだよ!」
戻ってきたら須佐乃男が酒を飲んで倒れていた。
「一夏~、つまみはまだか~?」
「はいはい、作りますよ。作れば良いんでしょ!」
「早くしてね~。」
俺はこの人たちを殺しても罪にならない気がする。
まあ実際に殺したら問題だがな。
「織斑君、私にもつまみを~。」
「・・・山田先生、貴女相当酒に強いんですね。」
「嫌ですね~、これくらい普通ですよ~。」
「普通ならすでに俺に運ばれてますよ。」
「それも魅力的ですね~。でも、それ以上もお酒が魅力的です。いくら飲んでもお金がかからないなんて・・・もう最高です!」
「金がかからない?・・・まさか千冬姉、これ千冬姉の小遣いからなのか!?」
「ああ、学園から小遣いを貰ったのでな。」
「それはボーナスだろうが!」
「いっくん、つまみはまだかな~?」
「あ~~もう作りますよ!」
こうなったら自棄だ。
買ってきた食材も無駄になりそうだし、大量に作ってやる。
あまったら明日の朝に食べてもらう。
俺は勇んでキッチンに向かった。
「さすが一夏だ。美味いぞ。」
「本当に美味しいです。」
「いっくん、束さんの所に嫁に来ない?」
「ふざけるな!一夏は私のだ!」
「織斑君、私の所でも良いですよ?」
「「黙れ無駄乳!」」
「ヒドイ!私だって好きで大きくなった訳ではないですよ。」
「しかし本当にデカイね~。これは揉むしかないね、ちーちゃん。」
「うむ!」
「ええー織斑君、助けてください!」
「いっくんに助けを求めても無駄だよ~。いっくんは料理してる時は真剣だからね~。周りの雑音なんて気付かないよ~。」
「うむ!」
「助けてくださーい!」
こいつら早く酔いつぶれるか食い倒れてくれないだろうか。
すでに時刻は午後10時。
酒盛りが始まったのが5時少し前だから、すでに5時間は飲んでいる。
客間の様子を確認しに行ったが、誰一人として起きる気配が無かった。
なので各自の宿泊先ならびに家に連絡を入れておいた。
雪子おばさんが勘違いをして盛り上がっていたが、バッサリと誤解だと言ったため落ち込んでいた。
篠ノ乃の家系は勘違いが多いのか?
「一夏ー、追加はまだかー?」
「ちーちゃん、聞こえないって。」
「おっとそうだったな。」
聞こえてるよ!
さっきから山田先生の悲鳴も、お前らの暴走もしっかり聞こえてるわ!
結局この酒盛りは、俺が強制的に終わらせるまで続いた。
「疲れた・・・」
現時刻は夜中の1時。
すでに日付が変わっている。
さっきまで暴走していた三人の相手をしていたのだが、さすがに限界だったので気絶させ強制終了させた。
「何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ・・・。」
自室でぼやく一夏。
普段から千冬の相手や、刀奈たちの相手で慣れてはいるが、今回の騒動はさすがの一夏も疲れを隠せないほど疲れている。
「一先ず寝よう。」
三人を気絶させ、後片付けをし、シャワーを浴び自室で寝る。
この30分は一夏を疲弊させなかった。
だが、明日(日付が変わってるため今日)の朝はまた大変だろう。
なにせ十四人分の朝食を作らなければいけないのだ。
「考えるのは後にして寝る。今はそれだけで良いや。」
こうして苦労した一夏の一日が終わった。
「ん?ここ何処?」
客間で寝かされていた中で、刀奈が一番早く目覚めた。
さすがに布団が足りず雑魚寝だったが、一夏がバスタオルや薄い毛布などをかけたので寝冷えなどは無かった。
「そっか、私確かお酒を飲んで・・・。」
徐々によみがえってくる昨日の記憶。
しかし刀奈の記憶は酒を飲んだ所で途絶えている。
「私どうやって此処に来たの?誰かが運んでくれたのかな?」
一先ず皆を起こさないように静かに客間から出る。
「さすがにこんな朝っぱらじゃ誰も起きてないわね。」
現在の時刻は朝の5時。
普段なら刀奈もまだ寝ている時間だ。
「しかし、私はなんであそこで寝てたのかしら?」
廊下を歩きながら考える刀奈。
玄関に着き、ふと目に留まったものがあった。
「あれ?鍵が開いてる・・・無用心ね。」
そう思い鍵をかけようとしたが、ちょうどドアが開いた。
「あれ?刀奈さん。早いですね。」
「一夏君!?どこ行ってたの?」
「軽くこのあたりをぐるーっと走ってきました。」
「一夏君は何時起きたの?」
「俺は4時前ですかね。」
「何時寝たの?」
「1時過ぎくらいですね。」
「それしか寝てないの!」
「ええ。そんなに驚く事ですか?普段より少し遅いだけで、起きるのは大体こんなものですよ?」
「いったい一夏君の身体はどうなってるのよ。」
一夏の睡眠時間に驚く刀奈。
普段から遅くまで起きてるとは知っていたが、まさか此処までだったとは思ってなかったのだろう。
「ところで刀奈さん、体調は平気ですか?」
「え?うん、なんとも無いけど・・・。」
「頭が痛かったり気分が悪かったりは?」
「平気よ。」
「なら良かった。」
刀奈の体調を確認して安堵する一夏。
しかし刀奈には何故一夏がそんなことを聞くのか分からなかった。
「ねえ一夏君、私昨日の記憶があいまいなんだけど、何か知ってる?」
「知ってますけど、後で分かると思いますよ?」
「今知りたいな~。」
「別に良いですけど。」
甘えた声でお願いすると、あっさり教えてくれると言う。
「刀奈さんはワインを飲んで吐きそうになってたんですよ。」
「・・・なんとなく覚えてる。」
「それで限界が近かったので俺がトイレまで連れて行きました。」
「そこもなんとなく覚えてる。」
「じゃあもう平気じゃないですか。」
「私が知りたいのは、何で私があの部屋で寝ていたかよ。」
肝心の部分をはしょられて少し興奮する刀奈。
「何でって、俺が運んで寝かせたからですよ。」
「ええ!?」
この一言は刀奈に衝撃を与えた。
「何をそんなに驚いてるんですか?近所迷惑ですよ。」
「だって一夏君が寝かせたって・・・」
「ん?何か勘違いしてませんか?」
「勘違い?」
「ええ。トイレで吐くだけ吐いて寝てしまったんですよ?」
覚えてないんですか?と言外に聞かれ、刀奈は思い出した。
「そういえば、私トイレで寝ちゃったんだ。」
「思い出してくれましたか。」
「うん。ゴメンね一夏君。迷惑かけちゃって。」
素直に謝った刀奈だが、
「あれくらいなら迷惑の内に入りませんよ。」
と一夏に言われ困惑した。
「だって重かったでしょ?」
「いえいえ、十分軽かったですよ。」
「嘘。最近太ったもん。」
「強化合宿で痩せたんじゃないですか?」
「そんなことないと思うけど・・・。」
しかし彼氏の前で体重を量る勇気は刀奈には無かった。
「まあ刀奈さんで迷惑って言ったら、あの三人はもはや犯罪ですよ。」
「三人?」
一夏の言う三人が気になったが、一夏の顔を見たら無闇に聞ける問題では無いと悟った。
「さて、三人とも何か言うことは?」
「「「スミマセンでした。」」」
朝の8時になり、リビングで正座させられている大人三人が声をそろえて謝る。
「えーと一夏君。この三人が犯罪レベルの迷惑をかけたの?」
残りのメンバーも何をしたのかと首を傾げている。
「私たちは罪など犯してないぞ!」
「そうだそうだ~束さんは何にもしてないぞ~!」
「私も記憶があやふやで・・・」
「ああん!」
「「「スミマセン覚えてます!」」」
一夏に睨まれ素直に罪を認める三人。
「一夏様、いったいこの三人は何をしたのですか?」
好奇心に逆らえずに須佐乃男が尋ねる。
他のメンバーも同様に気になっているようだ。
「夜中の12時過ぎまで酒盛りした挙句、暴走して山田先生の胸を揉んで遊んでた。」
「織斑教官・・・」
「姉さん・・・」
普段慕っているラウラは信じられないといった感じで千冬を見て、箒の方はゴミを見るような目で束を見ていた。
「それでは山田先生は被害者なのでは?」
須佐乃男が疑問に思った事を言う。
「この人もこの人でつまみを散々食い荒らした挙句に戻した。」
「・・・何処にですか?」
「俺の服に。」
「・・・それで私のは迷惑の内に入らないって言ったのか。」
一夏が言っていた事を理解したと同時に、一夏の苦労が伺えた。
「夜中に洗濯機を回し、部屋を片付け、シャワーを浴びる。なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんですかね?」
「「「反省してます。」」」
「まったく。千冬姉、しばらく小遣い無しな。」
「何故!?」
いきなりお小遣い無しを言い渡され慌てる千冬。
「何故ってボーナスのほぼ全部を酒につぎ込んだ人に渡す金はありません!」
「そんな・・・」
「束さんも当分相手してあげませんよ。」
「そんな~・・・」
しょぼくれる二人をみて、真耶も何かあるのではと内心ドキドキしていた。
「山田先生も掛かった費用は請求しますからそのつもりで。」
「うっ・・・分かりました。」
散々飲み食いした挙句に戻したのだ。
これくらいは仕方ないだろう。
「さて、誰か本音を起こしてきてくれ。」
この騒動の中本音だけは何時も通り寝ていたのだった。
一夏の胃に穴が開かないか心配です。
次回は祭りの話ですね。