私、ナターシャ・ファイルスはアメリカ軍IS部隊所属でイスラエルと共同で開発している
何故過去形かと言うと、このたびIS学園で教師をすることになったからだ。
つい先日、何者かによって暴走させられた銀の福音を止め、私を助けてくれた織斑一夏君とその姉であり、ブリュンヒルデとして有名な織斑千冬さんが色々と裏で手を回してくれたおかげで私は正式に自由国籍を手に入れたのだ。
しかも銀の福音の所有権まで認められた。
普通ならばアメリカ軍から抗議が来ても不思議ではないのだが、これも織斑姉弟が暗躍したおかげで今のところは無い。
一体あの姉弟は何をしたんだ。
私の意志を確認する時に言っていた事を行動に移したとはさすがに思えない。
いくら世界的に有名な姉弟だと言っても、一国相手に一方的な交渉が簡単に出来るとは思えないし、思いたくない。
これから同僚、教え子になる姉弟が得体の知れない人物だなんて恐怖でしかないから・・・。
「それで、ナターシャ先生は何処のクラスの担当になったんですか?」
職員室で席が隣の山田先生が好奇心を隠しきれずに聞いてきた。
山田真耶、彼女はIS業界で意外と有名人だ。
代表レベルの実力を有した代表候補生。
何時代表になってもおかしくは無かったのだが、彼女は代表になる事無く現役を引退した。
しかし、実際に会ってみると本当にそこまでの実力があるのかと疑問に思ってしまうくらい鈍そうだ。
そして・・・
「?」
でかい。
同性の私ですら目がいってしまうくらいの二つのふくらみ、これだけでかいと動きに支障をきたすのではないかと思えるくらいだ。
「えーと・・・ナターシャ先生?」
しかもこの見た目。
本当に同年代かと思うくらい幼い見た目、ひょっとして年を誤魔化しているのではないか?
最強の候補生と噂されていた女性がまさかこんなに可愛いなんて・・・。
「聞いてます~?」
涙目になりながら迫ってくる山田先生。
なんだか楽しくなってきた。
などと遊んでいたら・・・
『バシ!』
何かで頭を殴られた。
「くぉぉぉぉぉ」
痛みで悶絶しながら背後に居る人を確認するために振り返るとそこには・・・
「お、織斑先生!?」
出席簿を持った織斑千冬さんが見下ろしていた。
もしかして
とても普通の出席簿とは思えない衝撃だった。
鉄板でも仕込んでいるのかしら?
「ファイルス先生、何を遊んでいる。」
「い、いえ。遊んでいた訳では・・・」
言い訳を考えていたら・・・
「
所有権を主張された。
「おもちゃじゃないですよ!しかもこれって・・・酷くないですか!?」
「山田先生、何を叫んでいるのですか?五月蝿いですよ。」
「え・・・織斑先生、まさか白を切るんですか!?叫んでいるのは織斑先生のせいですよ!?」
「?・・・私が何かしましたか?」
「酷い!」
・・・これが漫才なのだろうか?
二人のやり取りを見ている他の教師達は笑っている。
「えーと、織斑先生。さっき殴ったのは本当に出席簿なんですか?」
「他に私は何も持ってはいないぞ。」
「ですよね~。」
やはり出席簿だった。
そんなやり取りをしていると・・・
「失礼します。織斑先生は・・・居ますね。」
織斑一夏君が職員室に入ってきた。
「どうかしたか、織斑。」
「どうかしたかじゃないですよ、これ頼まれていた弁当です。」
「すまんな。」
「一つ作るのも二つ作るのもさほど手間は変わらないですよ。」
どうやら姉である織斑先生のお弁当を持ってきたようだ。
「織斑君は料理が得意なの?」
「ん?ああファイルス先生は知らないですよね。趣味なんですよ、料理。」
「趣味レベルでは無いと思うがな。」
「そりゃあ10年くらいやってれば上手くなりますよ。」
「10年?そんなにやってるの!?」
彼は確かまだ15歳のはずだ。
つまり5,6歳から料理をしている事になる。
「まあ両親が居ませんし、姉は忙しかったですからね・・・。」
「そうなんだ・・・。」
まさかそんな早くから両親が居ないとは思わなかった。
「別にファイルス先生が気にする事ではないですよ。最初から居ないものだと思ってますから。」
「そうなの?織斑君って強いんだね。」
「よく言われますけど、俺は別に自分が強いなんて思ってませんよ。」
「相変わらず頑なだな。」
織斑君の答えに反応したのは姉である織斑先生だった。
「両親不在を普通の小1の子供が簡単に受け入れられる訳ないぞ。」
「俺は最初から自分が普通とは思ってません。」
「まあそうだな。」
「そして貴女も普通では無いですよね?」
「それは認めるが、教師に向かって貴女とは何だ。」
「これは失礼しました、織斑先生。」
前にこの二人が会話しているのを聞いた時はもっと砕けたしゃべり方をしていたと思うのだけど、今はまるで違う。
「えーと二人は姉弟なんですよね?」
「そうですけど・・・どうかしました?」
「いえ、この前と随分雰囲気が違うものですから。」
疑問に思っていた事を正直に尋ねた。
「この前?・・・あああの事件の後。」
少し考えた後に小声で織斑君が答えてくれた。
別に職員室内なら皆知っているので小声にする必要ないのに。
「一応生徒も来ますから念のためですよ。」
疑問に思っているのを見透かしたように織斑君が教えてくれた。
「それでこの前と違うのはここが学園だからですよ。公私混同はしないようにきめてるんです。周りに人が大勢居る時はなるべく教師と生徒として話すようにしているんです。」
「そうなんだ・・・。」
「そうだったんですか~。」
私より付き合いの長い山田先生まで納得している。
「あれ?山田先生は知ってるものだと思ってましたけど・・・」
「違いがあるのは勿論気付いていましたけど、何で区別してるのかは知らなかったです。」
「そうですか。」
この姉弟には色々あるのだろう。
「それでナターシャ先生は何処のクラス担当になったんですか?さっき無視されて忘れてましたけど・・・。」
「ファイルス先生の担当?もう決まったんですか?」
「ええ、貴方の居る一組の実技担当補佐よ。」
「そうですか・・・大変ですね。」
大変?
何が大変なのだろう。
学生に教えるくらいなら私にだって出来る。
もしかして馬鹿にしているの?
「してませんよ。そうじゃなくて織斑先生の補佐は大変ですよ?現に何回山田先生が泣きそうになったか・・・。」
「それは言わないでください!」
・・・なるほど。
確かにブリュンヒルデの補佐など私みたいな一介のIS乗りが簡単に出来るはずも無いか。
「それもありますけど、無理難題を押し付けますからね。」
「そんな事は無いぞ。」
「ありますよ~!」
さっきから織斑君、私の心の中を見透かしている?
どうも口に出す前に答えが返ってくる気がするのだが・・・。
「気のせいですよ。」
「やっぱり気のせいじゃないわよ!」
「・・・気のせいです。」
「織斑、認めてしまえ。」
答えをはぐらかそうとしていた織斑君に、織斑先生が隠しても無駄だと言わんばかりに私の疑問に肯定した。
「確かに織斑は人の心がよめる。」
「分かりにくい人は居ますけど、ファイルス先生みたいに顔に出てる人は俺じゃなくてもよめると思いますよ?現に織斑先生も分かってましたよね?」
「さあ、どうかな。」
「それこそ隠しても無駄ですよ。付き合い長いんですから、それくらい分かりますって。」
「そうだな。私もお前の事ならなんとなく分かるしな。」
「そんなに顔に出てました?」
これでも軍人だ。
ポーカーフェイスには自身があったのに・・・。
「普通の人には分からないと思いますけど、俺や織斑先生相手にその程度のポーカーフェイスでは意味無いですよ。」
「私はそこまで鋭くは無いぞ!」
「嘘言わないでくださいよ。」
「嘘じゃない!私は一夏よりか弱いし一夏より神経過敏ではないぞ!」
突如豹変した織斑先生の態度に織斑君は頭を抱え、他の先生達はまたか・・・と言った感じで苦笑いをしている。
「職員室だぞ此処・・・」
「だから何だ!私は一夏ほど化け物じみていない!」
「人の事を化け物扱いするな!」
「げふっ!」
織斑君の振り下ろした拳が織斑先生の頭に直撃する。
・・・あんなに速い一撃を生身で繰り出すとは。
「どうもお騒がせしました。」
織斑先生を気絶させ頭を下げ謝る織斑君。
本当に人間レベルではなかった。
「失礼な、ちゃんと人間ですよ。」
「やっぱ心をよんでいるでしょ!」
「さあ?ファイルス先生の勘違いじゃないですか?」
「勘違いレベルじゃないわよ・・・。」
しれっと嘯く織斑君。
「ねえファイルス先生って呼びにくくない?」
「別に問題は無いですけど・・・嫌ですか?」
「そうね・・・山田先生もナターシャ先生って呼んでるから、織斑君もナターシャ先生で良いわよ。」
「それだと俺だけ特別みたいになりますから、HRで皆にそう呼ばせるようにした方が良いですね。それなら俺も呼べますし。」
「それもそうね。じゃあ試しに呼んでみて?」
イタズラっぽく笑みを浮かべ織斑君に提案する。
「試しって・・・ナターシャさんとは呼んだ事ありますし、必要ですか?」
「うん必要!」
「そうですか・・・ナターシャ先生。」
「・・・いいわねこれ。」
織斑君が呼び方を変えただけで何故か心が震えた。
「ズルイです!織斑君、私も真耶先生って呼んでください!」
「えっ、それはちょっと・・・」
「そうだ!そんなこと私は認めん!」
あっ、復活した。
ガバッと勢い良く起き上がり山田先生に食って掛かる織斑先生。
「何でですか!?私だって名前で呼ばれたいですよ!!」
「一夏の姉としてお前など認めん!」
「・・・落ち着いてくれ。」
「大変そうね、織斑君。」
肩を落としため息を吐く織斑君を心配する。
この子は普段から苦労しているのだろうな・・・。
「大変ですよ。しかも今日は山田先生まで暴走してますし・・・。」
「山田先生は普段はまともなの?」
「まともかどうかはともかく、此処まで暴走はしません。」
「そうなんだ・・・。でも原因は織斑君なんでしょ?」
「不本意ながら、そうみたいですね。」
「モテモテね。」
「やめてくださいよ・・・」
からかってみると、本当に嫌そうな顔をする織斑君。
この時期の男子は女子に興味があるのではないか?
「興味はありますけど、多すぎると胸焼けしますよ。」
「そうなんだ。」
また心をよまれたが、声に出さなくて良いので楽ね。
「すみません、一夏様は・・・居ました!」
ガラガラとドアを開けて一人の女子が入ってきて。
「須佐乃男?どうしたんだ?」
「どうしたじゃないですよ!何で私を置いていったんですか!?」
「別に好んで来る場所じゃないだろ、職員室なんて・・・。」
「場所はともかく一夏様と一緒に居られるなら良いんですよ!」
「お前も五月蝿いよ・・・。」
彼女だろうか?
織斑君に迫る様子は完全に置いて行かれた事を問い詰める彼女だ。
「彼女ではなく、これは俺の専用機です。」
「これは酷いですよ!?」
「じゃあそれ。」
「それも酷いです!」
「・・・専用機?」
如何見ても女の子にしか見えない。
しかも普通に会話してるし・・・。
「特殊なISなので別に深く考えなくても良いですよ。あの事件の前に人の姿になれるようになったらしいですよ。」
「えっへん!」
「・・・褒めてない。」
特殊なISって・・・そんなことあっさりと言っても良いのかな?
普通は隠すんじゃないのかな?
「隠していましたけど、この姿じゃ隠しようがないですしね。福音戦の時にリミッターを外してしまいましたし、もう隠しても意味ないですし。」
「じゃあどう言うふうに特殊なのか教えてもらっても良いかな?」
隠すことが無くなったと言うなら聞きたい。
「そうですね・・・まずこの須佐乃男は第四世代です。」
「第四世代!?」
「ええ。そしてこの須佐乃男を造ったのは篠ノ乃束さんです。」
「篠ノ乃ってあの篠ノ乃博士!?」
「そうですよ。他にISを造れる篠ノ乃を俺は知りませんし・・・。」
「あっさり言ってるけど、とてつもなく凄い事だよ!?」
「そうですか?昔からの知り合いですし、どうも凄さが分からないんですよね~。」
首をかしげそう言う織斑君。
こういった可愛い仕草も出来るんだ・・・。
福音に残っていた映像を見るかぎり、戦闘中の彼はとてもカッコよかった。
だが今の彼は可愛い印象を与える。
これは彼を想っている女子は多いだろうな・・・。
「それも困ってるんですけどね・・・。」
「そうなの?嬉しいことじゃないの?」
「想ってくれるのは嬉しいですけど、彼女達に失礼ですし、何かあると彼女達が嫉妬して散々甘えてくるので疲れるんですよ・・・。」
「彼女・・・達?」
彼女が複数居るの?
それって良いのかな?
「俺も不誠実だとは思いますけど、彼女達から言い出してくれたので今は良いんじゃないですかね?そもそも俺に今国籍がないので、如何とでも出来ますし。」
「そうなの?どれくらい付き合ってるの?」
「3年くらいですかね?中1から付き合ってるようなものですからね。」
「意外と長続きしてるのね。」
普通取り合いにならないのかしら?
「なってますけど、皆仲良いですからね。最終的に俺が苦労すれば解決します。」
「そこでも苦労してるのね・・・。」
「あっ、いたいた一夏君。今日も生徒会の仕事手伝ってね♪」
「まだあるんですか・・・。」
「織斑君って生徒会役員だったの?」
確か生徒会役員は更識楯無さんと布仏虚さん本音さん姉妹の3人のはず・・・
「違いますよ。俺はただの手伝いです。本音のやつがまったく仕事しませんし、楯無さんは普段まともに仕事しませんし。」
「一夏くん。なんで楯無って呼ぶの?」
「ここ職員室ですよ。前から人前では楯無さんと呼んでるじゃないですか。」
「そうだけど、なんか嫌だな~。」
「普段はなんて呼んでるの?」
完全に好奇心からくる疑問だが、恋愛話は気になるものなのだ。
「普段ですか?楯無を襲名する前の名前で呼んでます。」
「そうなんだ・・・」
「お嬢様、早く仕事をしてください!」
「ゲッ、虚ちゃん。」
今度の女子は静かにドアを開けて入ってきた。
更識さんが虚ちゃんと呼ぶってことは、彼女は布仏虚さんなのだろう。
「虚さん、そんなに溜まってるんですか?」
「ええ、一夏さんが居ない間お嬢様はほとんど生徒会の仕事をしてくれませんでし・・・。私一人では限度がありますよ。」
「お疲れ様です、虚さん。」
そう言って布仏さんの頭を撫でる織斑君。
随分と仲が言いのね。
「あ~~虚ちゃんズルイ!一夏君私も!!」
「仕事が終わったら撫でてあげますよ。」
「本当!よ~し頑張るぞ~!!」
そう言ってダッシュで職員室から出て行った更識さん。
生徒会長が廊下を走っても良いのだろうか?
「それじゃあ俺達も行きますか。」
「そうですね。」
「それじゃあナターシャ先生、また後で会いましょう。失礼します。」
「え、ええ。また後で。」
織斑君と布仏さんが出て行ってから・・・
「私も行きますよーー!」
須佐乃男さんが慌てて職員室から出て行った。
「忙しい子なのね、織斑君って。」
しみじみと感想を言って自分の席に戻ろうとしたが・・・
「へ?」
私の机の上に山田先生が横たわっていた。
「一体何があったの?」
このつぶやきに対する答えは無かった。
職員室での会話だけでここまでかかるとは思ってませんでした。
次回はHRからですかね。