一夏から招集がかかり、私たちは外に集まる。バスの中では私とマドカの怒気に耐えられなかった生徒たちが気を失ってる為、ピリついた空気が流れる恐れがある話し合いは相応しく無いと一夏が判断したのだろうな。
「さて、漸く亡国機業の本拠地と思われる場所が特定出来たのだが、そこに実質的リーダーが居るかは分からん」
「そうだろうな。お前は小林ジークムント隆俊の気配を知らないんだから仕方ないだろう」
「気配が分かったとしてもさすがに掴みきれん。ここから何百キロ離れてると思ってるんだよ」
「えぇ!? 一夏君そこまで気配を探れたの?」
刀奈が驚いて声を上げたが、他の人も概ねそんな感じで驚いていた。まぁ俺だってそんなに気配を探れるヤツが居たら驚くさ。
「さっき精神を落ち着かせる為に集中した時に微かに逃げていく亡国企業の連中の気配を掴んだだけだ。普段からそんなに距離を伸ばせる訳じゃない」
「それで一夏、ヤツらは何処に?」
「落ち着け。とりあえずは地図データを……」
「用意出来てるよ、一夏」
「さすがだ、簪」
こう言った作業は簪が一番早くて得意だからな。俺が指示するまでも無く地図データは準備されていた。
「俺たちが今居るのがここ、そして亡国企業の連中の本拠地はここだ」
「遠いな……」
「だから言ったろ? 気配を掴んだのも偶々で、もう一度やれと言われても出来ない距離だって」
「こんな所が本拠地だったのかよ……俺たちが潜伏してた場所から大して離れてねぇじゃねぇかよ……」
「貴女たち幹部なんでしょ? 招集とか無かったの?」
「最近は電話一本で終わりだったからよ。それに俺とスコールは招集されること事態稀だったし、その時は別の場所だったしよ」
まぁ敵対してるとバレているであろうスコールとオータムを招集するほどバカではないということだろう。それくらいの頭は無ければ代理とはいえリーダーなどやってられないだろうしな。
「それで一夏君、今すぐ攻め込むの?」
「敵の体制が整ってない今がチャンスだろうし、こっちには撃退した勢いがあるからな。攻め込むなら今しか無い。それに時間を置けば逃げられる可能性だってゼロでは無いからな」
「でも織斑君。私たち教員は生徒に危険を犯せなどと言えません」
「そうでしょうね。だから静寂や篠ノ乃のように普通の生徒は連れて行きません」
「如何いう事だ」
駄姉が重く深い声で尋ねてきた。だが恐らくは駄姉も理解してるのだろうな。
「代表候補生、それに代表と更識関係者。それとスコールとオータムだけで敵本部に乗り込み殲滅すると言うことだ」
「つまり我々教員も連れて行かないということか」
「碧は連れて行く。更識関係者だからな。だが美紀は残れ」
「わ、分かりました」
納得してないようだが、美紀は大人しくしてくれるようだった。
「私も行くわ」
今まで黙っていたナターシャが手を上げ参加を表明する。だが出来ればナターシャには残った人間の安全を守ってもらいたいのだが……
「一夏、残った生徒の安全は私が確保しよう。この屑親も後で使うんだろ?」
「そう言った事だけは分かるんだな、アンタは。これでもう少し自分の事が出来れば嫁の貰い手もあるだろうに……」
「今は関係無いだろうが!」
この戦いが終われば暫くは落ち着いた生活が出来るだろうし、そうなれば駄姉も結婚を考えた方が良いだろうと思っただけで、決して嫌味ではないのだがな……出来ないと自覚してるが故に嫌味だと受け取るんだろうな。
「それではナターシャにも俺たちと共に本拠地に乗り込むとして……」
「如何したの、一夏君?」
「いや、今ウサギの気配を感じたような……」
「奇遇だな一夏、私も感じたような気がするんだ」
このタイミングであの駄ウサギが登場してきてもおかしくは無いだろうが、正直迷惑ではあるんだよな……話がややこしくなるから。
「ちーちゃーーん! いっくーーん! へぶぅ!?」
空から落ちてきた駄ウサギに俺と駄姉が揃って一撃を喰らわす。これくらいで大人しくなるなら昔から苦労しなかっただろうな……
「痛いよ二人共ー! 何で束さんの顔を殴ったの~?」
「「お前が現れるといろいろ面倒だからだ」」
「わぁお! 息ピッタリだね~、さっすが姉弟!」
「それで、アンタがこのタイミングで現れた理由は?」
「冷たいな~いっくんは。せっかく良いものをもってきてあげたのに」
この人が言う良いものが本当に良いものだった試しなどないんだがな……大抵が面倒事だったり余計な仕事を増やすだけだったし、良いものだったのは子供の時に持って来た花火くらいなものだな……
「今回は大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫! この子たちならきっといっくんの為に働けるからさ!」
そう言って駄ウサギが指を鳴らすと、空から大量に無人機が降りてきた。あれ? 今なんか生身の人間を見たような……
「やっぱりか!」
「え? いっくん如何したの?」
「クロエさんだ」
恐らく操作をミスったのだろう。無人機の中にクロエさんが交じって落ちてきている。
「須佐乃男!」
「了解です!」
急いで須佐乃男を展開してクロエさんを空中で受け止め、安全に地面に降ろす。駄ウサギにしては珍しい失敗だな……台所を吹き飛ばした時以来じゃないか?
「クーちゃんゴメンね~。まさかクーちゃんがまだ準備中だったとは思わなくてさ~」
「いえ、私がトロかったからこうなっただけですので」
「あ、兄上……彼女はいったい?」
「彼女はクロエさんといってな、お前と同じ試験管ベビーだった人だ」
俺の言葉にラウラ以外も衝撃を受けている。まぁ無理も無いか……親がいない子供なんて珍しいからな……
「私は貴女になれなかった存在。だから貴女の方が上です」
「クーちゃんは謙虚だよね~。こんな無能がドイツ軍の隊長で、クーちゃんが捨てられるなんて理不尽だとは思わないの~?」
「駄ウサギは黙ってろ」
「痛い痛い! 頭が割れちゃうよいっくん!?」
アイアンクローで駄ウサギを持ち上げ力を込める。今はこの余計なことばかり話すウサギは必要ないのだ。
「へぶぅ!? ……投げる事ないじゃないかー!」
「何でまだ生きてるんです?」
「それは私が束さんだから! って箒ちゃんじゃないかー! またおっぱいが成長してるじゃないかー。ぐへへ、少し揉まs……って、何で武器を構えるのかな?」
篠ノ乃に襲い掛かろうとした変態ウサギは、そのまま篠ノ乃に追い掛け回されていた。
「さて、本題に戻るとするか。クロエさん、この無人機はここの防衛に使って良いんですね?」
「はい。本当なら一夏様に随行させ戦力とさせたいのですが、一夏様たちのスピードには付いて行けないと判断してここの警備に当たらせます」
「なら私は一夏と一緒に行くぞ。警備が来た以上私が此処に残る理由は無くなった」
「だが駄姉よ。如何やって付いてくるつもりだ? アンタは専用機も持ってないだろ」
「あっ、それなら大丈夫だよ~。 学園から回収した暮桜を改良して持って来たから!」
やはり駄ウサギには暮桜の場所は知られていたのか。まぁあれだけ大規模に襲われたにも関わらず駄姉が動かずに一箇所に留まってればバレるのも無理は無いだろう。
「これで一緒に行ける」
「……好きにしろ。山田先生、そういう訳ですので、残ったメンバーのまとめ役は山田先生にお任せします」
「は、はい! 分かりました」
必要以上に緊張してるような山田先生の背後に、駄ウサギが迫っていた。
「う~ん、箒ちゃんより重量感がある……これは解剖して調べるしか……へぶぅ!?」
「真面目な話しをしてるので大人しくしててくれませんかね? さもないと亡国機業の連中より先に貴女を始末しなくてはいけなくなるので」
「い、イエッサー!」
「一夏君、かなり怖いわよ……」
駄ウサギに殺気を向け大人しくさせたのだが、その間に居た山田先生は恐怖から意識を失ってしまったようだった……
「静寂、山田先生が起きるまでの指示はお前に任せる」
「分かったわ。一夏君、くれぐれも無理はしないでね。他の皆さんも」
静寂に見送られながら、俺たちは亡国企業の本拠地へと向かった。
「何故私がこの屑共を運ばなければいかんのだ!」
「別に置いてきても良かったんだが? 使うのは潰した後なんだから」
「先にいえ! 今すぐ置いてくるから少し待ってろ」
織斑の屑親を運んでいた駄姉は、二人を改めて拘束してバスの中に放り込んできた。まぁあれくらいでは死なないだろうし、中には見張りが居るから問題ないだろうだ。
いっくんたちが飛んでいった方角を見つめながら、束さんはしみじみと思っていた。
「これで世界は安定しちゃうのかな~」
「なんですかいきなり」
「ん~? 箒ちゃんは束さんがISを造った理由を知ってるよね?」
「この世が退屈だったから。面白い世界を創りたかったからですよね?」
「うん、そうなんだけどさ。ISを発表しても束さんが創りたかった世界は創れなかった。それどころかいっくんには住み難い世界になっちゃったし束さんも逃亡生活を余儀なくされちゃったしね」
その所為で箒ちゃんともバラバラに生活しなければいけなくなっちゃったしね……
「でもね箒ちゃん、この戦いが終われば恐らく当分は世界が安定して平和になっちゃうと思うんだよね」
「それは良い事なのでは?」
「うん、世界的に見れば良い事なんだろうけども、束さん的にはまた退屈な日々が戻ってくるだけなんだよね」
無人機を造っていっくんにちょっかいを出すのも飽きてきたし、敵が居ないんじゃいっくんも専用機を造る事もなくなっちゃうだろうしね。
「箒ちゃんは今でも専用機が欲しいって思ってる?」
「最近はそうでも無いですね。自分にはその実力が無いと理解させられましたし……」
「うんうん、漸く自分の無力さを理解したね~。でもそれが成長には必要だったんだよ」
何回か自分の実力を理解しかかってた箒ちゃんだったけども、結局は傲慢な正確が仇をなし成長を阻害していた。それをいっくんもちーちゃんも懸念していたんだけども、箒ちゃんはそれを自覚しないで自分は強いんだと驕っていたのだ。
「恐らく今の私では候補生の誰にも勝てないでしょう」
「そうだろうね。あのイギリス代表候補生の女にも、箒ちゃんは勝てないよ、絶対」
「セシリアですよね。アイツは最近実力を伸ばしてきてますから」
ちょっと前までは傲慢で驕っていたんだけど、いっくんに怒られ須佐乃男の話しを聞いて急激に成長しているらしいのだ。それでもいっくんが白椿をあげたイギリス代表候補生よりかは弱いんだけどね。
「姉さん」
「ん~?」
「本当に姉さんがコアを造って一夏に与えたのですか?」
「如何いう事かな?」
箒ちゃんが落ち着いた雰囲気で話しかけてきたので、束さんもおふざけモードではない声色で答える。こう言ったときにおふざけするといっくんに怒られたからね。きっと箒ちゃんにも怒られると思ったからだ。
「あくまで私の想像ですが、一夏はISのコアを造れるのではないでしょうか?」
「何でそんな事思うのかな~? コアを造れるのは世界で束さん一人なんだよ~?」
「いくら千冬さんや一夏の頼みとはいえ、姉さんがあの二人にコアを造るなんてありえないと思ったからです」
「あの二人って、イタリアとイギリスの代表候補生の事?」
「ええ」
やっぱり箒ちゃんはおバカでは無いんだなと思った。頭に血が上りやすく冷静な判断が出来ない事が多い箒ちゃんだけど、冷静に考えられればこれだけ鋭い推理が出来るのだ。
「確かに束さんはコアを造ってはないよ。あれはいっくんが全部一人で造った専用機、だからいっくんも動かせるはずのISだよ」
「ですが一夏は既に雪乃などと動かせる訓練機もあります」
「そうなんだよね~。最近のいっくんはISにまで愛されちゃってるからね」
女誑しって表現は相応しく無いかもしれないけど、他に適当な表現が見当たらないんだよね。だからいっくんは女誑しって最近の束さんの中ではそうなっているのだ。
「箒ちゃんが使ったその子だって、いっくんが説得して調整したから箒ちゃんが使えたんだよね? そのまま学園の備品にする為に。箒ちゃんが使える訓練機を手に入れる為に」
「私はどうやら学園の訓練機たちに軒並み嫌われてますから」
「そりゃ負けた原因を全てISの所為にする操縦者なんて誰も好かないよ。それに箒ちゃんは自分の実力を過大評価してたから余計にね」
いっくんに勝てないのもISの所為にしてたくらいだし、訓練機たちに嫌われていても仕方なかったんだろうな。
「でも、最近漸く自分が愚かだったと思えるようになりましたので」
「もっと早く反省してれば、束さんだって箒ちゃんに専用機を造ってあげたのにな~」
「今は欲しいとは思いません。もっと自分を高めてからでなくては」
随分と自分の事を落ち着いて見れるようになったんだね、箒ちゃんは。
「あの~束様、そろそろおしゃべりは止めておいて方が……一夏様が突入しますので、我々も援護射撃を」
「データ解析はクーちゃんにお任せするよ~。束さんはいっくんの勇姿を映像に残さないといけないからね」
「姉さん?」
「ん~? あっ! もしかして箒ちゃんも欲しいのかな?」
「な、何をです?」
箒ちゃんも思春期の女の子だもんね。好きな男の子で発散したいって気持ちは良く分かる。けどいくら妹とはいえただではあげられないんだよね。
「特別価格でこれくらいなら許してあげよう」
「だから何の話ですか?」
「クーちゃん、サンプルを箒ちゃんに見せてあげて」
「畏まりました。では箒様、こちらへ」
クーちゃんに案内され箒ちゃんは首を傾げながらモニターの前に座った。そしてクーちゃんが映像をスタートさせるといっきに真っ赤になってしまった。
「は、破廉恥な! こんな事を一夏が!」
「これはあくまでも束様がお作りになったもの。実際の一夏様は関係ありません」
「って言ってもいっくんの映像を元に作ってるから、まったくの無関係ではないんだけどね。でもいっくんには内緒だからね。こんな事してるってバレたら殺されちゃうし……」
既にバレては居るんだけど、物的証拠は押さえられてないから言い逃れ出来てるのであって、これがいっくんに見られたら束さんの楽しみはなくなってしまうだろうな……
「これを知ってるのは?」
「束さんとクーちゃん。後はちーちゃんかな。そういえば眼鏡無駄乳も知ってるんだっけ?」
「その呼び方は止めてください!」
山田先生までこんな破廉恥な映像を……だがしかし……
「箒ちゃん、鼻血出てるよ?」
「べ、別に一夏にこんな事をされたいとか思ってませんからね!」
「もっと激しくして欲しいんだよね? 箒ちゃんはちーちゃんと一緒でいっくんにだけドMなんだろうしね」
「ち、違います! ……ん? 千冬さんと一緒?」
「そうだよ~。ちーちゃんもいっくんにだけドMさんだからね~。殴られたり蹴られたりして興奮する変態さんだから」
「それは束様も同じなのでは? 一夏様に蔑みの視線を向けられてパンツ濡らしたのは記憶に新しいですし」
「なんだよ~。クーちゃんだって大洪水してたじゃないか~」
そしてそのパンツを洗濯したのはいっくん……更に興奮するシチュエーションだったな。
「どれどれ~? 箒ちゃんだって洪水してるじゃないか~。何だかんだいって箒ちゃんも束さんたちと同類なんだね~」
「しかたありませんよ。なんていっても一夏様がいけないんですから」
「いっくんに興奮しない女の子はいないって事?」
まぁいっくんに蔑まれて興奮しない女なんて、どうせろくな女じゃないんだろうしね。
「でもサンプルでここまで洪水すると、本編を見せたらどうなるのかな~?」
「試しに見せてみます? 一番軽いヤツなら無料でも大丈夫では無いでしょうか?」
でもな~、ちーちゃんにはお金もらったし、箒ちゃんだけ特別ってのもな~……まぁ良いかな。
「じゃあ今すぐ流すけど、箒ちゃんの覚悟は良いかな?」
「だ、大丈夫です」
「じゃあスタート!」
この映像はそれほど過激ではない。スーツで眼鏡のいっくん先生が甘くささやいてくれるだけの映像で、束さんやちーちゃんはもうこの映像では満足出来ないのだ。だけどたまに見たくなる不思議な魔力を持っているのだ。
「束様、箒様が鼻血を噴いて倒れました!」
「駄目だな~箒ちゃんは。でもしっかりと大洪水はしてるんだね~」
「やはり箒様も変態だったんですね」
「そこの眼鏡無駄乳、ちゃんと料金払えよ」
無断でいっくんの映像を見てソロ活動をしてた無駄乳に請求書を渡して、束さんは新しいいっくんの映像を手に入れる為に衛星で敵地を調べる。既にいっくんたちは突入していて、戦闘も始まっていたけども、監視衛星でバッチリ映像を手に入れてるので問題は無いのだ! 後はいっくんがカッコよく敵を痛めつける映像に束さんやちーちゃんの映像に差し替えてバーチャルでいっくんに調教してもらうだけだね~うふふ。今から楽しみだ~。
出番最後のキャラが出てきたんだろうな……誰かは自分でも分かりませんが