もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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一夏無双開始……


第四世代武装のテスト

 織斑先生に押し付けられた山田先生は、そのまま授業を開始したのですが、正直織斑先生の方がまだ分かりやすいんだよね。でも山田先生も最初の頃と比べればマシになってはいるんだけどさ……

 

「この時間はここまでで。次は実習ですので皆さん第一アリーナに来てくださいね」

 

 

 そう山田先生が言うと、須佐乃男が手を挙げて質問する。

 

「山田先生、私は如何すれば?」

 

「あっ、そうですよね。えっと……須佐乃男さんは自習という事で。それか雪乃さん、月乃さん、花乃さんの案内をしてあげてください」

 

「それは昨日しましたので、自習してます」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 山田先生あえなく撃沈……須佐乃男も一夏君がいないと冷たいよね。

 

「そ、それじゃあ私も準備がありますので」

 

 

 それだけ言い残して山田先生は教室から出て行った。その際に揺れる胸を見て数人が羨ましがってるのが印象的だったけど……

 

「ねぇ静寂、実習ならウチの出番もあるのか?」

 

「そうね……一夏君が慣らしておけって言ってたし、一緒に来てもらおうかな」

 

「ん、了解だ!」

 

 

 そもそも山田先生、実習って自分で言ってたんだから月乃たちを自由にさせちゃ駄目でしょうが……あの人も抜けてるからな……

 

「花乃は? 小鳥遊先生も来るけど」

 

「じゃあ行く。ボクも実習に参加したい」

 

「それでは私は一人でどこかに……」

 

 

 何かを言いかけた須佐乃男だったけども、だんだんと表情が暗くなって来てるような感じがするのよね……何があったのだろう?

 

「分かりました。すぐに向かいますので」

 

「一夏君?」

 

 

 一夏君と須佐乃男は、私や美紀が雪乃や月乃に乗らなければ出来ないISとの会話を、離れた場所でも出来るくらい繋がっているのだ。そのおかげで一夏君は須佐乃男に携帯を持たせずに済んでいるって言ってたけど、会話出来る相手一夏君だけなんじゃないのかな……まぁ緊急時は携帯より直接話せる方が確実なんだろうけどさ……

 

「おりむ~がどうかしたの?」

 

「いえ、武装開発のデータがほしいから手伝ってくれと。一夏様は私が自由になるのを知ってますしね」

 

「だって須佐乃男が実習出なくて良いのは、お兄ちゃんが参加しないからじゃん。だからお兄ちゃんの手伝いをするのは当然だよ」

 

「せっかくゆっくり出来ると思ってたのですが……」

 

 

 そもそもさっきの授業、須佐乃男寝てたじゃない……それでもまだゆっくりしたいのかしら。

 

「それで、一夏君はどんな武装を造ってるの?」

 

「ビット兵器ですよ。昨日からそれの開発製造に勤しんでいるようで、まだ納得のいく物が出来てないようなんですよね……」

 

「一夏様は妥協しない方ですからね」

 

 

 確かに美紀の言うように、一夏君はある程度で納得するような事はしない。だけどそれで忙しくなってるのも事実だと思うんだよね。まぁ一夏君がそれで良いのなら私は何も言えないんだけどもさ……

 

「それじゃあ須佐乃男は第三アリーナだね。お兄ちゃんは何時もあそこを使ってるんだし」

 

「そうですね……? そうなんですか?」

 

「え、何?」

 

 

 いきなり須佐乃男が誰かと話し始めて、ちょっと皆驚いた。事情を知らなければ須佐乃男って見える人なのかなと思ったかもしれないけど、あれは一夏君に何かを言われたからなんだろうな。

 

「データがほしいから一夏様も実習に参加するようです。皆さんの誰かが一夏さんの相手をする事になるでしょうから、覚悟だけはしておいてほしいそうです」

 

 

 ちょっと待ってよ……いきなり一夏君の相手をしろとか言われても困るんだけど……そもそも一夏君相手に私のような漸く専用の機体を持てたレベルではまったく歯がたたないわよ……たとえデータがほしいだけとはいえ、少しくらいは善戦したいし……

 

「誰が相手するの? 本音?」

 

「ほえ!? マドマドがすればいいじゃん! 最近おりむ~と一緒に運動出来なくて寂しいんでしょ?」

 

 

 まぁ普通に考えれば専用機持ちのこの二人が一夏君の相手をするのが妥当よね。私はもちろん美紀もあくまでも訓練機を使う訳なのだから。

 

「困ったな~。マドマドが相手すると思ってたから全然覚悟なんてしてないよ~」

 

「私も。お兄ちゃんの相手なんて私が出来る訳無いもん……明らかに力不足だし」

 

「でも、そうなると誰が一夏君の相手をするの? 私や美紀じゃもっと力不足だし……」

 

「静寂の言う通りだね、悔しいけど……」

 

 

 美紀は一夏君を尊敬しているし、出来る事なら役に立ちたいと思ってるらしいのだけど、今回ばかりはさすがに自重するらしいわね。データ目的とはいえ一夏君の相手は怖いもの……

 

「とりあえずアリーナに行きましょ。最悪先生相手にデータ収集をしてもらえば良いんだし」

 

「でも、姉さんがそれを許すかな……お兄ちゃんが抜けてるから、指導役が少ないって文句言ってるし」

 

 

 そもそも一夏君は教わる側であって、決して教える側では無いはずなんだけどな……織斑先生も一夏君に頼りすぎだよね……

 

「如何するのです? 私や月乃は一夏さんの相手をしても構いませんが」

 

「おう! 一夏っちの実力を体感してみたいしな」

 

「そんな事言えるのは今だけだって……お兄ちゃんの怖さを体感したらもう二度とそんな事言えなくなるよ」

 

 

 マドカが月乃に脅し……と言うか警告をしてる。確かにあの恐怖は体感したら忘れなれないわよね……私はIS戦闘では無く生身で体感しちゃったし……まさか織斑先生と篠ノ乃博士相手にお説教するとは思って無かったし……

 

「おりむ~の相手が務まるのは楯無様くらいだしね~」

 

「確かに。虚さんでも苦戦するのに私たちが出来る訳が無いよ……」

 

「あの~……あくまでもデータが目的だそうなので、そこまで身構えなくても……」

 

 

 須佐乃男の言葉も、今の私たちには入ってこない。だって一夏君の相手ってそれだけ怖いんだものね……

 

「あれ? おりむ~から電話だ」

 

「本当? 聞こえるようにスピーカーモードにして」

 

 

 本音に掛かってきた一夏君からの電話に、私たちは興味津々なのだ。というか、誰を相手に指名するのかが気になってるのだけど……

 

『何揉めてるのかは知らんが、そんなに相手したく無いのなら別に無理強いはしないぞ。何なら纏めてでも俺は一向に構わない』

 

「お兄ちゃん、そっちの方が怖いんだけど?」

 

「そうですよ。一夏様相手に複数人で挑んでも、数の有利なんて意味が無いって分かるだけです」

 

「美紀、貴女ホントに一夏君の事尊敬してるの? 何か畏怖の対象としてみてるようにも思えるんだけど?」

 

「そんな事無いですよ! 一夏様は私をあの閉じきった世界から救い出してくれましたし、こうして学園に通えるのも一夏様のおかげなんです! その一夏様を畏怖の目で見る訳ないんだから! 静寂が一夏様に畏怖を抱いてるんじゃないの?」

 

 

 これほど慌てて否定するなんて……もしかして本当に一夏君の事を……

 

『あー騒いでるところ悪いんだが、そろそろアリーナに移動しないとありがたい出席簿アタックを喰らう事になるぞ』

 

「ほえ!? もうそんな時間なの?」

 

『本音に合わせてたら遅刻だな。普通に来る分にはギリギリってところか』

 

 

 一夏君に言われてから、私たちは時計を確認した。授業開始まであと五分くらいしか無い。ここからアリーナまで歩いて五分、本音のペースにあわせたらその1.5倍はかかってしまうのだ。

 

「ゴメンおりむ~。話は後でね」

 

「急がないといけませんね!」

 

「だから須佐乃男! 私を運んで!!」

 

「……今回だけですからね」

 

 

 そう言って須佐乃男が本音を担いで廊下を走っていく……あ、いや……須佐乃男は正確には空中を走ってるから校則違反にはならないんだっけ?

 

「とりあえず私たちも早足でアリーナまで行くわよ! 一夏君に言われたけど、このままじゃ織斑先生のありがたい出席簿アタックを喰らう破目になっちゃうんだから」

 

「うん。姉さんの攻撃は身長が縮むって噂だからね。これ以上小さいなんて思われたく無いもん!」

 

「でもさ~、マドカっちは小さくて可愛いんじゃない?」

 

「ボクたちも叩かれるのかな?」

 

 

 そんな事を話しながら、私たちは廊下を早足で移動する。本当なら走りたいけど、走ったら今度は一夏君に怒られちゃうからね……織斑先生に叩かれるより、一夏君に怒られる方が何十倍も怖いのよね。

 結局ギリギリで間に合ったのだけども、一夏君の相手を誰が担当するかの話し合いは出来なかった……二組と合同だし、凰さんが担当してくれたりしないかしら……しないでしょうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏様に呼ばれアリーナまで来たのですが、肝心の一夏様が何処にも居ませんね……気配を探ろうにも私では一夏様の気配を正確に掴む事が出来ませんし……

 

「一夏様、どちらですか?」

 

「こっちだ。ちょっと手が離せなくてな」

 

 

 扉の向こうから一夏様の声が聞こえたので、私はそちらに移動する事にしました。正直本音様を運んで第一アリーナに向かったので結構疲れてるんですよね……

 

「一夏様、何の用事で呼びつけたんですか?」

 

「コイツを試すのに、お前が必要だったんだよ須佐乃男」

 

「完成したんですか?」

 

 

 目の前には、一夏様作のビット兵器が置かれています。昨日のと比べると性能が格段に上がってるようですね。

 

「ISのお前なら見ただけで分かるのか。とりあえず試してみて、後は微調整ってところなんだが、正直ビットの適正が俺には無いんだよな……」

 

「いやいや、昨日あれだけ上手に動かしてたじゃないですか」

 

 

 確かに他の武器と比べると苦戦してるようでしたが、それでも十分代表レベルの腕前は持ってる感じなんですがね……一夏様の求めるレベルは高すぎなんですよ。

 

「須佐乃男との相性がよければ、白椿完成後に搭載しても良いんだが、お前は使ってみてどんな感じだった?」

 

「そうですね……基本近距離戦闘が多いので、あのように離れた位置から攻撃するのは新鮮でした。一夏様はマシンガンくらいしか遠距離武器使いませんし、それも相手の弾丸を相殺するくらいにしか使いませんしね」

 

 

 黒雷はありますけど、あれも基本は剣ですからね……伸び縮みするとはいえビットほど離れはしませんし……

 

「それじゃあ止めておくか?」

 

「いえ、一夏様がダメージを負う可能性が下がるので、出来れば搭載してもらいたいです」

 

「……離れててもダメージを負うときは負うと思うんだが?」

 

「でも、近接戦よりかは幾分可能性は下がりますし、相手にトラウマを植え付ける事もなくなるでしょうしね」

 

 

 一夏様が真正面から襲い掛かってきたら、普通の方ならそれだけで戦意を失ってもしょうがないと思いますしね……それだけ威圧感がハンパないですし、恐怖感もそれに比例しますし。

 

「とりあえずは試運転をしてからだな。相性が良いかなんて使ってみないと分からないから」

 

「そうですね。それじゃあアリーナに行きましょうか。第一アリーナでは授業してますし、そこに行けば良いんですよね?」

 

「その前にお前にこれを積まないとな。本格的に積むかは置いておくにしても、試運転の為にはとりあえず積まなければいけないし」

 

「そうでしたね」

 

 

 私はISの姿になり、一夏様にビットを搭載してもらいました。このまま飛んでいけば早いんですが、学内でISを使用するにはいろいろと制限がありますし、そんな事しなくても私と一夏様は空中を駆けて行けますしね。

 

「よし、とりあえず搭載完了。後は試すだけだな」

 

「……特に変化は無いですね」

 

 

 新しく武装を積んだからといって、日常生活にはなんら異変はありません。でもこの前の黒雷の時は若干痺れたんですよね……今はもうそんな事ありませんけど。

 

「あれはあの駄ウサギの設定が高すぎたんだよ。それで俺が調整したから痺れなくなっただけだ。あのままだったらまだ痺れてたかもな」

 

「そうだったんですか……束様もお茶目な事を」

 

 

 一夏様を助けたいのか困らせたいのか微妙な感じなのですが、はっきり言えるのは一夏様の敵では無いと言うことでしょうか。あの人は一夏様と千冬様を裏切る事はありえないでしょうしね。

 

「いや、その方が面白いとか考え出したら分からんがな」

 

「また思考を……ですが、束様がそんな事思いますかね? 千冬様だけでも脅威なのに、それに一夏様まで加わるんですよ? 面白いって理由で命を投げ出すような事はさすがにしないと思いますが。それにクロエさんも全力で止めるでしょうし」

 

「……そこまで言われるとさすがに堪えるんだが」

 

「平気でしょ。一夏様はそんな繊細なお方ではありませんし」

 

 

 傷ついてもへこんでも、次の日には普通にしてますし、そもそもこれくらいで堪えるメンタルの弱さじゃないですしね。

 私は一夏様の抗議をサクッと無視して、空中を駆けて第一アリーナへと向かいました。途中から一夏様に追い抜かれたのですが、何故勝負みたいな感じになってたのか私には理解出来ませんでした……

 

「そういえば授業に出るのも久しぶりだな」

 

「学生のセリフじゃ無いですよそれ……」

 

「しょうがないだろ。専用機製造で忙しかったんだから」

 

 

 そう言って一夏様は授業中のアリーナに堂々と入って行きました。

 

「織斑先生、武装の作動テストをしたいので、誰か付き合ってもらっても構いませんか?」

 

 

 普通なら遅刻者に厳しい千冬様も、正当な理由な上に一夏様からの頼みでは断れないようですね。出席簿アタックも無かったですし、すんなりと希望者を募ってますし……

 

「いないなら私がテキトーに選んでやる」

 

「アタシが相手してあげるわ」

 

「鈴……お前大丈夫か? 頭から煙が出てるが……」

 

「ちょっと遅れただけよ」

 

 

 鈴さんの頭には大きなコブと、白い煙が上っていました。千冬様の攻撃は強烈なんですよね。

 

「それじゃあ場所を少し移して行うように。また見学したいヤツは申し出ろ。織斑兄の動きは参考になるだろうからな」

 

 

 そんな風に聞いたら、見学したい人は沢山居ると思うのですが……案の定全員が手を上げて見学を申し込んでいました。

 

「仕方ないか……織斑兄の動きをよく見て、後でその動きを真似てもらう」

 

「いや、無理でしょ……須佐乃男だから出来る動きってのもあるんだ。訓練機たちが可哀想になるからやめろ」

 

「じゃあ凰の回避動作を真似させるか。それなら訓練機でも可能だろ?」

 

「まぁちゃんと整備してあるから出来ない事は無いが、授業内容は自分で考えろよ」

 

 

 千冬様が楽をしたいだけだということを見抜いた一夏様は、千冬様の頭を、何処からか取り出した参考書で叩きました。凄い音がしたんですけど……

 

「痛いじゃないか」

 

「教師がサボってるからだろ。大体アンタだって出席簿で人の頭を叩いてるんだから、偶には叩かれても良いだろ」

 

「どんな理屈だ!」

 

 

 珍しく千冬様が一夏様にツッコミを入れましたが、一夏様はその事を丸々無視して準備に取り掛かっていました。

 

「さて、内容を聞かずに名乗り出るとは、相変わらず考えなしなのか?」

 

「誰よりも早く一夏の造った武装のデータを取りたいだけよ! 中国だっていろいろと苦戦してるんだから」

 

「それは何処も同じだろうが……まぁ良いか」

 

 

 そう言って一夏様は私に手招きをしました。つまりは無駄話の時間は終わったという事でしょうね。

 

「あくまでもテストだからな。本気になるなよ、面倒だから」

 

「大丈夫だって! アタシを信じなさい!」

 

「鈴だから不安なんだよ……」

 

 

 一夏様のつぶやきは、鈴さんには聞こえませんでした。私は一夏様の合図でISの格好になり、そのまま一夏様に纏わりつきました。

 

「さて、それじゃあ行くぞ」

 

「え、合図とかは?」

 

「だからテストだって言ってるだろ。合図なんてあるか」

 

 

 そういって一夏様はビット兵器を同時に十機展開し、鈴さんの専用機、甲龍に攻撃を開始しました。

 

「ちょっと!? 十機なんて聞いてないわよ!」

 

「何も聞かないで相手を名乗り出たお前が悪い」

 

「クッ、一夏には敵わないわね……ちょ!? 偏向射撃を当たり前のようにするな!」

 

 

 一夏様はビット同士で壊しあわないように、避けられた攻撃も偏向射撃で鈴さんへとぶつけていきます。それにしても同時に十機も扱うだけでも凄いのに、そのあと偏向射撃までするなんて……どんな頭してるのでしょうか?

 

「まだ連動が甘いな……あれをああすれば……」

 

 

 攻撃しながら別の事考えてる!? 一夏様の規格外の能力は理解してるつもりだったのですが、まさかここまでとは……さすがに鈴さんに同情します……

 

「こんなもんか。サンキュ、鈴。良いデータが取れた」

 

「……アタシはそんな余裕無かったわよ」

 

 

 途中から鈴さんはひたすら攻撃から逃げるだけだったのですが、一夏様の追撃をかわしきれるわけも無く、全弾被弾していました……一撃一撃が弱いので、エネルギー切れにはなってませんが……

 

「それじゃあ、邪魔して申し訳ありませんでした。授業を再開してください」

 

 

 千冬様にそれだけ言って、一夏様は第一アリーナから再び第三アリーナまで空中を駆けて行きました……私はこの後何をすれば良いんでしょうか?




鈴、頑張ったけど無謀だろ……

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