タグにも追加しましたが祝須佐乃男擬人化。
そして千冬姉の新たな一面が・・・
夕食時、俺は束さんが言っていた事を千冬姉に伝えるため部屋で食事をすることにした。
本来なら生徒は大広間で、教師は個々に宛がわれた部屋で食事をするのだが、事情を話し俺は部屋での食事になった。
「あら?一夏さんは?」
「分からない。どうやら何かあったらしいんだけど、気にするなとしか言ってなかったし。」
本来なら一夏の隣だったセシリアとシャルはこの場に一夏が居ない事を悲しんだ。
「(クッ、なんてこと。この席を確保するのにどれだけ苦労したと思ってますの!一夏さん、早く来てくださいませ。)」
「(一夏は気にするなって言ってたけど、正直気になるな~。でも何で僕の隣がセシリアなんだろう。本来なら一夏が隣のはずだったのに・・・。一応一席空いてるけど、一夏来るのかな?もし来るのなら早く来てよね!)」
空席をはさんで何故一夏が来ないのかを考えるセシリアとシャル。
程度は如何あれ彼女たちも一夏に好意を寄せる乙女なのだ。
裏でどのような取引が行われたのかは分からないが、一夏の席の隣を確保した二人は落胆を隠せなかった。
一方・・・
「(一夏・・・私は如何したら良い?あれから考えてみたが分からない。姉さんに言われた事も私にははっきりとは分からなかった。もし一夏ならば分かるのだろうか?千冬さんなら?駄目だ・・・どうしても分からない。)」
箒は一夏や束に言われた事を考えていた。
自分より遥かな高みに居る姉や幼馴染とその姉。
その人たちに近づこうと必死に努力した。
その結果全中女子剣道大会優勝と言った輝かしい経歴を手にした。
しかしそれでは全然近づけてはいなかった。
むしろ手にした力は周りから人を遠ざけ、挙句の果てに力に振り回されているとまで言われた。
「(私は何をしたかったのか?ただ闇雲に力を追い求め、手にしたと思ったらその力に振り回され、気がついたら周りに親しい者はおらず・・・こんな風になりたかった訳では無いのに!)」
自分を振り返り、後悔をした。
昔の自分を恥じた。
剣道を始めたころは純粋に剣道を楽しんでいたはずだ。
しかし一夏と出会って、試合をして手も足も出なかったのを、私は恥ずかしい事だと思った。
だから強くなろうと一夏の強さの秘訣を探るために一緒に行動した。
だが、今ならば分かる。
あれは一緒に行動していたのではなく私が付き纏っていたのだ。
一夏や姉さん、千冬さんには敵わなくとも、当時の私は周りと比べたら十分過ぎる実力があった。
だから一夏が別の友達と遊ぼうとするとその友達を力で追いやった。
そうやって一夏に付き纏ったが秘訣など分からず、姉さんがISを発表した為私は一夏のもとから離れてしまった。
もし一夏の傍を離れずにずっと一緒にいたのなら、私は変わったのだろうか・・・いや、寧ろ酷くなっている気がする。
久しぶりに再会した日、一夏が嫌な顔をした気持ちが今更ながら分かった。
一夏にとって私との日々など、耐え難い苦痛だったのだろう。
だが一夏・・・私だってお前の傍に居たい!いや、隣に立ちたい!
箒が真剣に悩んでいる隣では・・・
「(篠ノ乃さん・・・怖い。また何かやらかすのかな?)」
クラスメイトが箒の百面相を見て恐怖していた。
「それで一夏、束はなんて言ってた?」
大広間で繰り広げられている乙女の悩み合戦など露知らず、俺と千冬姉は食後のお茶を啜っていた。
「ああ、詳しい事は何も言わなかったが、この近くで面白い事が起こると言っていた。」
「面白い事?また何かやらかすのか、あの阿呆は・・・。」
「さあ?深く追求する前に姿をくらましたからね。でも用心するに越した事は無いかもね。何しろこっちは戦力が少ない。万が一大掛かりな物だった場合何もしてないよりは幾分かはマシだろうしね。」
「だが生徒たちに言う訳にもいくまい。何時問題が起こるのかも定かではないのだし、徒に不安を煽るのも・・・。」
「日時はおそらく7月7日、篠ノ乃の誕生日だろう。」
俺の断定に首を傾げる千冬姉。
「なぜそう言い切れる?」
「もし篠ノ乃が自分の力をちゃんと制御出来、かつ周りとの連携がある程度のレベルだったのなら専用機をプレゼントしたかもしれない。だが今のアイツに大きすぎる力を持たせるのは危険だって事は束さんも分かっているだろう。だから専用機は諦め、周りを巻き込んでの何かで篠ノ乃に何かを伝えようとするかも知れない。それがプレゼントだと言うかもしれないしな。」
「・・・アイツならやりそうだな。」
付き合いが長いからこその不安・・・俺や千冬姉も束さんの行動はある程度なら読める。
だがある程度では駄目なのだ。
あの人は本気で何を仕出かすか分からないのだ。
それを知っているからこそ、ある程度行動が読めるのが逆に不安なのだ。
「とにかく山田先生に周りの警戒を頼んでおこう。此処のセンサーなら何かあればすぐに分かるしな。」
「生徒たちにはまだ言わない方が良いな。もしかしたら俺たちを振り回して楽しんでいるだけかも知れないし・・・。」
まず無いだろうが、折角の学校行事を不安な気持ちで過ごさせる必要は無いだろうと思い俺は千冬姉に提案する。
「そうだな・・・ところで一夏、お前は誰かに自分の部屋を教えたのか?」
「何を言ってる。そんなの部屋割り表を・・・ああ、俺の名前は生徒に配られた部屋割り表には載ってないんだっけか。」
生徒に配られた部屋割り表と教師陣が持っている部屋割り表には若干の違いがある。
一つは生徒の方には教師陣がどの部屋に居るのか分からないようになっている。
したがって俺の部屋も分からないのだ。
そしてもう一つ決定的な違いは、生徒の方にはこの旅館の半分しか載っていないのだ。
この旅館には作戦室やら武器保管庫など物騒な部屋が多々あるのだ。
関係者以外立ち入り禁止になってはいるが、人間とは好奇心には勝てない生き物なのだ。
もしそのような部屋があると知ったら忍び込もうとする愚か者が居るかもしれない、だからなのかは知らないが、俺がもらった部屋割り表には半分空欄の全体図が描かれている。
「教えては無いが・・・何かあるのか?」
これ以上問題を抱え込みたくないが、何かあるのなら対応しなくてはいけない。
「いやなに・・・この部屋にはお前と私だけだろ?この至福な一時を誰にも邪魔されたくないのだな。」
「・・・こんの駄姉がーーーー!!」
俺は全力で駄姉を殴り気絶させる。
下手に手加減して、また変な事を言われたらたまらんからな。
俺は誰に言い訳をするでもなくそんな事を考えた。
・・・風呂にでも行くか。
確かこの旅館には大浴場があるはずだ。
部屋付きの風呂でもいいが、折角旅館に来たのだから偶には大きな浴槽に入りたい。
そう思い支度をする。
悪い須佐乃男、留守を任せる。
「(承りました。ごゆっくり。)」
旅館の浴室に腕時計をしていく訳にもいかないし、さすがに束さんも此処では仕掛けて来ないだろうしな。
そう思い須佐乃男を部屋に置いていくことにした。
「(フッフッフ・・・準備は整いました。後はどのタイミングでするかですね。)」
置いて行かれた須佐乃男がなにやら企んでいるのを俺は気付けなかった。
風呂に入りながら俺は今考えられる束さんの行動を頭の中で整理する。
1.前みたいに無人機でここら一帯を襲わせる
2.何処かの国のISを暴走させ俺たちに止めさせる
3.白騎士事件のように各国のミサイルを発射させる。
4.何もしないで俺と千冬姉の行動を見て楽しむ
一先ず考えられるのはこの4つだな。
最後のは確率的に低いだろうから実質3つか・・・。
普通の人間相手ならここまで考え込む必要はないのだが、相手はあの大天災、篠ノ乃束だからな。
考え過ぎで丁度良いくらいだろう。
この中から行動を起こすと決まった訳でも無いのだが、だがこの他だろうが何だろうが厄介なものである事は確定的だからな。
俺は考え込みながら風呂から出る。
「あれ?織斑君もお風呂だったの?」
脱衣所から出たら、丁度女子の脱衣所から出てきたクラスメイトに話しかけられた。
「えーと・・・相川さんか。まあ風呂だったな。」
相川さんが居るのならもしかして・・・
「あ~!おりむ~、何処に居たの~?探したんだよ~」
やっぱり本音も居た。
「何処って・・・部屋だが?」
俺はこれ以外答えようのない答えを言う。
「おりむ~の部屋、部屋割りに載ってないんだよ~。何処なの~?」
ああそう言えば普通の部屋割り表には載ってないんだったな。
「事情が事情だけに俺は織斑先生と一緒の部屋だ。その部屋が何処かは言えないがな。」
襖に張り紙が張ってあるから探そうとすれば探せるのだが、だれも好き好んで鬼の住処には来たがらないだろうな。
「えー!織斑君と遊ぼうと思って色々持って来たのにな~。」
「俺が居なくても遊べるだろ・・・。」
「そうなんだけどさ~。やっぱり織斑君と一緒に遊びたかったな~。」
「今度機会があればな。」
「おりむ~、機会は作るものだよ~?」
「なら少しは生徒会の仕事を手伝ってくれよ、本音?」
「あっ、急用を思い出した~・・・じゃあね~おりむ~!」
藪をつついて出てきたのは蛇ではなく鬼だった。
一夏は千冬の事を鬼と表現したが、今の一夏は普通の人間からしたら十分鬼だと言える。
「あっ、逃げたな。」
旅館でいったいどんな急用があるんだか。
逃げていった本音を見送りながらそんな事を思った。
「じゃあ俺も行くわ。また機会があれば誘ってくれ。」
「うん!今回は諦めるけどまた機会があれば絶対誘うからね~!」
相川さんと別れ部屋に戻る。
当然部屋の方向がばれないように遠回りしたので無駄に時間が掛かった。
「やれやれ・・・部屋に戻るのも一苦労だな。・・・ん?誰か居るのか?」
部屋の中に気配が増えているのを感じて身構えるが、別に敵意は感じない。
寧ろ知らない気配が増えて何時までものびている千冬姉でも無いだろう。
でも山田先生の気配では無いし、他の教師の気配でも無い。
だからと言って生徒のはずないし、旅館の人でもなければ、ましてや束さんでも無い。
いったい誰だ?
俺は考えても答えが出ないので襖を開け部屋に入ることにした。
「お帰りなさいませ一夏様。」
そこには見た事のない女性が居た。
女性と言うか女子と表現した方が適切かもしれないな。
見た感じでは俺と同じか少し下くらいな印象を受ける。
「誰・・・え~ともしかして須佐乃男か?」
前に須佐乃男が夢で見た須佐乃男の容姿が確かこんな感じだと言っていたのを思い出し俺は目の前に居る女子に尋ねた。
「さすが一夏様、この程度では驚いてはくれませんか。そうですよ、私は一夏様の専用機の須佐乃男です。」
「いや、十分驚いてるんだが・・・なんでいきなり人間の姿になれたんだ?」
「私も一夏様と一緒でさまざまな経験を積みました。したがって人間の姿になることが出来ました!」
「すまんが説明不足なんだが・・・。」
いまいち要領を得ない須佐乃男の説明で理解するのは難しい。
より正確な説明を求めた。
「ですから一夏様と一緒に居た事によって私も成長したんですよ。」
「成長すると人間の姿になれるものなのか?」
「さあ?少なくとも私はなれました。でも他のISもなれるかと聞かれれば分かりません。」
・・・まさかここにきて別の問題が発生するなんてな。
「いままでの腕時計の形になることは出来るのか?」
とりあえず元々の形にはなれるのかは確認しておかなくては。
もしこのままならば部屋やら色々問題が増えるからな。
「無理ですね。ISの形にはなれますが、元の待機状態だった腕時計にはなれません。しかし部屋なら問題ないですよ。私はISですから立ったままでも休めますし。」
「いや、そういった問題じゃないんだが・・・。」
見た目女子が横で突っ立って寝てたら怖いだろ。
「なら床に寝ますよ?」
「思考を読むなよ!てか、思考は読めるのか。」
「はい!何て言っても私は一夏様と繋がってますからね。この姿でも一夏様の思考を読むことはある程度は可能です。」
「ある程度ね・・・。それなら何時もと変わらないのか。だが何時もと違ってお前の声は周りに聞こえる訳だろ?いきなりしゃべりだしたら驚くぞ?」
「(ならこのように直接頭に話しかける事も可能です。)」
・・・いがいと便利だな。
だがそれだと今度は睨み合ってるように見えないか?
「せめて見詰め合ってると言ってほしかったです・・・。」
「だから思考を読むなよ。」
「ん・・・ん!?おい誰だお前は!!」
あっ、千冬姉が気がついた。
「はじめまして千冬様。私は一夏様の専用機の須佐乃男です。以後よろしくお願いします。」
「・・・はぁ?どういう状況なんだ?まさか夢!?」
「いや、現実だ千冬姉。どうやら成長して人間の姿になれるようになったらしい。」
「そうか・・・もはや何でもありだな、ISって。」
「ああ・・・そうだな。」
姉弟ともども遠い目をしているのだろう。
千冬姉を見ればそんな感じがするし、おそらく俺も同じ感じなのだろう。
「しかし随分と可愛らしい格好だな。これは束がやったのか?」
「いえ、この服は私が作り上げました。似合いませんか?」
「いや・・・まあ似合ってるが・・・。」
なんでゴスロリなんだよ!?
あれか!束さんを参考にしたのか!?
「いえ、千冬様の持っているファッション誌にこのようなものがあったのでそれを具現化しました。」
「何!!千冬姉・・・こんなのに興味があったのか?」
「いや!違う!!これはあれだ・・・偶々このようなものが載ってる雑誌を持ってきただけだ!!」
「しかし、こういったものばっかりでしたよ?」
「うわーーーーーーーー!!!」
別にどのような趣味を持っていても良いが、隠すならちゃんと隠してくれよ。
「千冬姉・・・今度買いに行くか?ゴスロリ。」
「何!?良いのか!?・・・いやこれは。」
「はぁ・・・もう隠しても無駄だぞ。」
「うう~~~~。」
「いったい何時からこんなものに興味があったんだ?」
俺はこういったものは嫌いだと思っていたんだが・・・。
「少なくとも千冬姉が高校生の時は興味なさそうだったんだが。」
「ああ、最近興味が出てきたんだ。」
「最近・・・千冬姉、確か今年24だよな?」
「ああ。」
まあ束さんも同い年なのでこの際年齢は置いておくとしてもあの千冬姉がこんなものに興味を持つなんてな。
「何が原因だ?今までと違い過ぎるぞ。」
「何って、最近一夏が相手してくれないから何か変化でもと思って色々やってきたんだが、効果が無かったからインパクトの強いものをと考えてたら束を思い出してな。こういった服を着れば何か反応してくれると思っていたのだが、ついついはまってしまってな。」
「まああの髪型は驚いたが・・・。」
「気付いてたなら反応しろよ~!」
「さすがに気付くわ!」
この前のショッピングモールで出会った千冬姉は何時ものストレートではなくツインテールだった。
「あれは驚きましたよね~。」
「わ、忘れろ!良いな!!」
「あっ、ああ分かった。」
しかし俺に反応してほしいからってツインテールは少し子供っぽい気がするんだが・・・。
「(まあ千冬様ですし・・・。)」
それで納得できるのもなんだかな・・・。
「とりあえず千冬姉の趣味は分かった。今度暇が出来たら買いに行くか。」
「ああ!頼む!!」
「そこまで喰い気味になるなよ。」
俺は若干呆れながら布団を敷く。
「一夏様、私の布団は何処ですか?」
「お前立ったままで良いって言ってただろうが・・・もう一組布団があったからそれを敷け。」
「分かりました。一夏様の隣に敷きますね~。」
「一夏の隣は私だ!」
「・・・はぁ。」
休もうとしているのに何でこんなに疲れるんだろう。
俺はため息を吐きながらそんな事を思った。
ちなみに隣が二つあることに気がついたのはもう少し後だった。
本当は福音戦後にするはずだったのですがこっちの方が面白いかなと思い早めに擬人化させました。
次回は福音戦になります。