もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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一夏が束化し始めている……


マッド一夏

 一夏君に呼ばれアリーナに来てみれば、もの凄い大変そうな予感がした。でも一夏君に逆らう事など出来ないし、さらに言えばこのタイミングでの呼び出しならば、専用機に関わる事だろうと、私でも理解出来る。

 

「悪いな、わざわざ授業をサボらせてまで」

 

「ううん、あの授業は苦手だからいいけどさ」

 

「良くは無いだろう……苦手ならいっそのこと受けた方がいい」

 

 

 一夏君の言ってる事は正しいのだろうけども、嫌いな授業を受けるくらいならこうして一夏君の手伝いをしてたほうが何十倍も有意義な時間を過ごせるだろう。

 

「それで、呼び出された理由を聞いてもいい?」

 

「ああ、ちょっとエイミィの専用機を造る上でとあるデータがほしくなってな。悪いとは思ったが時間が無い為に呼び出した」

 

 

 やっぱり専用機の事だったわね……でもデータならある程度集まったって言ってたし、今更なんのデータがほしいんだろう……もしかしてスーツを新調する為に私のスリーサイズとかなの!?

 

「自動照準補助システムの向上の為に、エイミィの射撃データをもう少し……って、何顔を赤らめてるんだ?」

 

「な、何でもないよ? 勘違い恥ずかしいなんて思って無いんだから!」

 

「ふ~ん……勘違いねぇ」

 

「あ……」

 

 

 自爆というのはきっとこういう状況を指す言葉なんだろうな……あっさりと自分が勘違いしていた事を一夏君に言ってしまった私は、さらに顔を赤らめるのだった。

 

「何勘違いしたのかは聞かないでおくが、とっとと平常心を取り戻す努力をしてくれ。別に動揺時のデータがほしい訳じゃないからな」

 

「頑張ります……」

 

 

 一夏君に言われなくても落ち着こうとは思っていた。それにISを纏えばある程度は落ち着く事が出来るし……

 

「あのな、エイミィ……混乱してるのは分かるが、俺の前で着替えようとするのはやめてくれるか?」

 

「!? ゴメンなさいー!」

 

 

 普段女の子しかいないから気にしなかったけども、そうだった……一夏君は男の子で、普通男の子の前で着替え始めたらおかしいじゃないのよ……

 

「あーもう! 私のバカー!!」

 

 

 折角一夏君と友好な関係を築いてきてたのに、今の行動で完全に阿呆の子だと思われたに違い無い。バカな子だと思われるのは別に良い、実際バカなんだし……でも阿呆は嫌だな……

 

「一夏君、私の事阿呆だと思ってるよね……」

 

 

 目の前で着替えようとした私を、一夏君は今まで通りに見てくれるはずが無い。もしかしたら専用機の話しも無くなってしまうかもしれない……

 

「データだけ取って他の人に……なんて事もありえるだろうしね……」

 

 

 候補としては美紀ちゃんかな? だって実力だけなら候補生にも劣らない操縦技術と、実戦経験があるものね。

 

「ううん、諦めたら駄目だ。折角専用機を持てるチャンスなんだから!」

 

 

 IS学園に在籍してる間だけだけど、専用機を持てるのは一夏君のおかげなのだ。その一夏君に呆れられたとしても、実力で認めさせれば問題は無いんだ!

 

「そうと決まれば絶対に認めさせなきゃね」

 

 

 さっきの失敗を取り戻そうと意気込む私だが、正直なんのデータを取るのか分かって無いのであまり意気込んでも意味は無いのかもしれないけどね……

 着替えを済ませ格納庫に行くと、一夏君は何時もと変わらない態度で接してくれた。でもこれで安心出来るほど私が仕出かした失敗は小さくないのだ……

 

「とりあえずこの子を纏って射撃をしてくれ。的はこっちで操作するから」

 

「分かった。でも何時も通りに撃てば良いんだよね? それならもう十分データはあると思うけど」

 

「やれば分かる。それにエイミィの専用機に積む武装がこれで決まると思ってくれても構わないからな」

 

 

 専用機という単語に、私の身体は反応する。候補生でありながら専用機が貸し与えられて無いという事で、周りの候補生からは下に見られていた節があるのだ。その私が、学園に在籍してる間だけとはいえ専用機を持てるのだ。これで反応するなと言う方が無理な話だ。

 

「システム向上と武装を選ぶ上でも、このデータは必須なんだ。だから真剣に取り組んでくれ」

 

「分かった! 絶対に満足させてみせるんだから!」

 

 

 一夏君に呆れられて無いと分かり、私は俄然やる気が出てきた。良く考えれば、一夏君は常に女の子に囲まれているので、目の前で着替え始めようとする子だって今までにいたのかもしれないわね。ほら、あの部屋は一夏君の彼女や妹のマドカちゃんたちも生活してるんだし、一夏君の目の前で着替え始めようとしてもおかしくないのよね。

 

「準備は出来たか?」

 

「大丈夫! 何時でも良いよ」

 

 

 一夏君に返事をすると、少し離れた場所にカウントが現れた。私は集中力を高め、射撃武器を構える。

 

「あ、あれ?」

 

 

 何時もなら真ん中に近い場所に当たるのに、今は得点が入るギリギリの箇所に命中した。おかしいな……まだ動揺してるのかしら?

 

「えい! もう、何で当たらないのよ!」

 

 

 その後も掠りはするのだけども、何時ものように真ん中付近には当たらない。補助システムがあってこれだと、いよいよ私は遠距離武器が使えないと判断されるんだろうな……

 

「よし、次はマシンガンを展開してくれ」

 

「まだやるの? ライフルでこの結果だから、マシンガンじゃもっと酷いと思うけど?」

 

「点数は気にするな。俺がほしいのは『補助システム無し』でのデータだから」

 

「……はい? 一夏君、今この子に補助システムは作動してないの?」

 

「当たり前だろ? システム向上させるためだって言っただろ」

 

 

 一夏君の表情は、とても悪い顔をしていた。何時も一夏君が考えてる事は私の理解を超えているって分かってたのに、今回もあっさりとやられてしまった……

 

「分かったらさっさとマシンガンを展開しろ。武装を開発するのも楽じゃないんだぞ」

 

「一夏君ならそれくらい簡単に出来そうだけどね」

 

「バカ言うな、俺は開発者でもなければ科学者でも無いんだぞ」

 

 

 一夏君の発言に、私は頷きかけてその動きを止めた。だって武器を一から作ってみたり、専用機を一人で組み立てたりと、とても一夏君が言うように開発者や科学者では無いという発言は私的には納得出来なかったのだ。

 

「とりあえずマシンガンは出すけど、当たらないのにデータとして役に立つの?」

 

「その誤差を修正出来るくらいのプログラムが組めれば、遠距離が苦手なエイミィでも実戦で後方支援が出来るようになるだろ」

 

「……苦手だから前でやらせてよ」

 

 

 私は基本的に前衛で戦うのが得意であり、後方支援は出来るならやりたく無いんだけど……

 

「暮れにやる学年別トーナメント、候補生は個人とペアの二種類に参加しなきゃいけないんだろ? それで前衛二人で組んだ時如何するんだよ」

 

「……二人で前衛をするから大丈夫よ」

 

 

 もちろんこんな事で一夏君を納得させられるなんて思って無い。だけど私はそれだけ遠距離攻撃が苦手で、そして出来る事ならしたく無いのだ。

 

「そんなんじゃ代表にはなれないぞ」

 

「……分かったわよ」

 

 

 一夏君の言ってる事は一々正しい。そして代表になれないといわれたのは結構心に響いたのだ。

 

「そういえばあの駄ウサギの開発、上手く改造出来ればISにも使えるかもしれないな……」

 

「え、何?」

 

 

 一夏君が腕組みしながら何かをブツブツと言っているので、私は大声で一夏君に話しかける。

 

「いや、こっちの話しだ。エイミィは射撃に専念してくれ」

 

 

 そういわれて離れた場所にカウントが現れる。しょうがない、気になるけどとりあえずはデータ集めに付き合わなきゃね。ライフルの時とは的のサイズも量も違うので、私はとりあえず的目掛けて撃ちまくる。もちろんテキトーに放った弾丸が的の中心部を射る事など無いので、点数はさほど伸びなかったが……

 

「一夏君、終わったよ」

 

「ああ、良いデータが取れた。これならシステム向上に役に立つだろう」

 

「ホント? 良かった。でも私って補助システムが無いとあんなに酷かったんだね……ちょっとガッカリ」

 

「エイミィは基本的に前衛タイプだからな。セシリアや簪と組めばある程度は上位にいけるかも知れないが、ラウラや鈴と組んだ場合はちょっと苦戦しそうだな」

 

「もう組み合わせの話し? 一夏君って何でも先まで考えてるんだね」

 

「専用機を造らなければいけないからな。誰と組んでもある程度上位にいけるようにしないと、亡国企業相手の時に役立たないからな」

 

 

 私が専用機を貸し与えてもらえる原因の一つが亡国企業に対する備えだ。だからこれは分かってた事なのに改めて言われると緊張する。

 

「まぁあと一日二日で完成するから、そうしたらまた呼ぶ」

 

「分かった。楽しみにしてるからね」

 

 

 丁度一時間、私は一夏君に付き合ってアリーナでIS操縦をした。次の授業は実技なので、このまま着替えないで第一アリーナに移動しよっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エイミィのデータを元に自動照準補助システムの向上に取り組み、ある程度目処が立ったところで俺は携帯を取り出す。

 

『もすもすひねもす~! 何かないっくん? 束さんにラブコー……あ、待って! 切らないでよ!』

 

「……毎回毎回懲りない人ですね、貴女は」

 

 

 電話を掛ける度にこのやり取りをしてるような気がするんだが……

 

『それで、何の用かな~? ひょっとして専用機について束さんに質問かな~?』

 

「いや、そうじゃなく保健室に仕掛けたものについて聞きたいんですが」

 

『……何の事かな~?』

 

「惚けても無駄ですよ。あのホログラム、如何やって作ったんです?」

 

 

 篠ノ乃が束さんの幻覚だと思っていたものは、束さんが仕掛けた映像ホログラムから映し出された束さん本人だ。光の角度や二人に位置の所為で篠ノ乃にしか見えなかったようだが、確かにあれは束さん本人だったはずだ。

 

『いっくんはあれをISに応用出来ないかって考えてるんでしょ?』

 

「何個か問題点はありますが、上手く行けばかく乱には使えるでしょ」

 

 

 もちろん操縦者の技術と、タイミングを計る頭脳が必要になってくるが、刀奈辺りなら上手く使えるんじゃないかと思っている。

 

『あれは箒ちゃんに自分の非を認めさせる為に開発しただけで、ISには使えないよ。それに箒ちゃんはあれを幻覚だと思い込んじゃってるしね』

 

「なら直接言ったら如何なんです? 貴女が半分以上篠ノ乃の事を見捨ててるのは事実なんですから」

 

『直接言って、それで箒ちゃんが挫折しちゃったら嫌だしね~』

 

「一度へし折らないと治りませんよ、あの傲慢と勘違いは」

 

 

 子供の頃からそうだが、篠ノ乃の思い込んで勘違いする能力は凄まじいものだ。これだけ拒絶しているのに、未だに俺と幼馴染だとか思いこんでいるのだから……

 正直言って俺はアイツと幼馴染だなどと認めてないし、知り合いだという事だって出来る事なら認めたくないのだ。

 

『ちーちゃんに思いっきり叩きのめしてもらえば、少しは成長するのかな?』

 

「無理でしょ。臨海学校の時の一件だって、少し経ったら忘れてるんですから」

 

 

 ナターシャの銀の福音を暴走させ、篠ノ乃に俺との実力差を分からせる為に束さんが仕組んだあの事件、あの後少し大人しくなったと思ったのに、夏休みが終わればまた元の篠ノ乃に戻っていたのだ。

 

『いっそいっくんが言ったように箒ちゃんを実験材料にしてもいいよ?』

 

「アンタが言うと洒落に聞こえん。そういうのは篠ノ乃が犯罪に手を染めてから言ってくれ」

 

 

 少なくとも、まだ学園内での破壊行為や暴力行為しかしていない。学内は何処の国の法にも縛られないが、お咎めなしで済ませる訳にも行かない。だからある程度は学園内で処理出来るのだが、さすがにスパイ行為やISの窃盗などを行えば国際機関で捌かれる事になるのだ。そして篠ノ乃はそこまではまだ行っていない。

 

『いっくんへの攻撃行為だけでも、束さん的には重罪だけどね。妹じゃなきゃ消してるよ』

 

「あれくらいで攻撃だと判断するのは可哀想だろ。あれはただのやっかみだ」

 

 

 実際篠ノ乃の攻撃は、俺にとっては何の危険性も無いものであり、また当たっても怪我するような攻撃でも無いのだ。

 

『そういえばいっくん、ちーちゃんに頼まれてあの三人のトイレシーンを映像保存してるんだけど、動画サイトに載せていいかな?』

 

「駄目だ。少なくとも今はな。あいつらが反省しなかったらあの人と貴女の判断で載せても構わないですけどね」

 

『さっすがいっくん、分かってる~』

 

 

 どうせあの人が既に三人に言ってるだろうし、束さんだって冗談抜きでそれをする人だ。ある程度ストッパーを掛けておかないと暴走するからこうして止めるのだが、正直もう一回でも問題行為をすればそれくらいされても仕方ないと思っているのだ。

 

『箒ちゃんだけは身内のよしみでモザイク掛けてあげるけど、あの金髪二人はそのままにしてやるんだから』

 

「篠ノ乃もモザイク無しの方がいいのでは? どうせ貴女がアップしたってバレるんですし、下手にモザイク処理してあればそれが貴女の関係者だとすぐにバレるんですから」

 

『大丈夫、束さんがアップしたなんて誰にも気付かれないようにするから!』

 

 

 まぁ俺には関係無いことだから束さんの好きにやらせるか……

 

「くれぐれも勝手にアップしないでくださいよ? あくまでも問題行為をした後にしてください」

 

『分かってるって! 折角いっくんが反省の機会を与えてあげてるのに、束さんがそれを踏みにじる事はしないよ~』

 

 

 それが本当ならどれだけ楽が出来てた事か……あの人と束さんのこういった発言は、話半分で聞いていたほうが良いと長年の経験から理解しているのだ。

 

『それじゃあいっくん、束さんは映像加工システムの復旧で忙しいから、これで切るね~』

 

「そういえばまた駄姉から金を巻き上げたそうだな」

 

『……バイビー!』

 

 

 都合が悪い話題を振ると、駄ウサギは慌てて通信を切った。まぁそうなるように仕向けたのだが、いきなり切られるのは何だかムカつくな……

 

「まぁいいか。それじゃあ俺も開発に戻って……何の用だ、須佐乃男」

 

「やはりバレましたか」

 

 

 時計に目を向け、今の時間一組は実技の授業だと理解して、俺は須佐乃男に視線を向けた。

 

「進捗具合は如何ですか?」

 

「ある程度は完成してる。だがお前が来たなら丁度良い、この武装を試すから手伝え」

 

「分かりました。しかし如何やって積むんですか?」

 

「そこに置いて展開してから拾えば良い。別に試すだけでお前に積む訳じゃないんだし」

 

「分かりました」

 

 

 試すのはエイミィの機体のメイン武装になる槍だ。黒雷同様に通常攻撃と雷撃が出来るように組み立てたのだが、まだ試してないので本当に雷撃が出るのかの確認をしたかったのだ。

 

「(システム的には問題ないんですよね?)」

 

「だがちゃんと確認しないと危ないからな。俺があの子を動かす訳にもいかないだろ? お前とのリンクを弱めると機嫌も体調も悪くなるんだからな」

 

 

 俺がコアから製造したので、黒椿と白椿の二人は、俺でも動かす事が可能だ。だけどそのためには須佐乃男とのリンクをもう少し弱めないといけないのだ。

 

「(それで一夏様、この槍の名前は決めてあるんですか?)」

 

「そうだな……『紫電の槍』で良いんじゃないか?」

 

 

 正直名前なんてあまり関係無い。重要なのはその性能だからな。

 

「(確かに黒雷は黒い稲妻ですし、この槍は紫の稲妻が走りますしね。良いんじゃないでしょうか)」

 

 

 ……納得されるのもなんかな。さすが俺の専用機と言った所なんだろうが、センスの無さがはっきりとするよな……

 

「(この武装、束様に頼んで私にも積んでもらいましょうよ。右で黒い稲妻、左で紫の稲妻ってカッコよくないですか?)」

 

「はしゃぐな。あくまでもエイミィの為に作った武装だ。お前は既に黒雷があるだろうが」

 

 

 似たような性能の武器を積むのは、バススロットの無駄遣いだと思うのだが……まぁまだまだ要領に空きがあるから良いんだがな。

 

「(これで完成ですか?)」

 

「いや、後は自動照準補助システムを完成させ搭載させなければな。エイミィの遠距離攻撃の酷さは、授業や訓練で如何にかなるレベルでは無かったからな」

 

 

 さっき取ったデータで、エイミィの射撃の腕は十分に理解出来た。体育祭での活躍は無意識で使ってた補助システムのおかげだと、本人も気付いたようだしな……

 俺は須佐乃男を解除して、再びモニターの前で作業を始めた。

 

「一夏様、それでは私は教室に戻ります。それとちゃんとお昼ご飯は食べてくださいね。無茶されて倒れられたら大変なんですから」

 

「分かってる。ちゃんと刀奈に弁当持たされたから心配するな」

 

 

 俺は横においてある鞄から見える包みを指差し、須佐乃男を安心させた。持ってるだけでなく食べないと泣かれると須佐乃男も分かったんだろうな。

 

「さてと、後はこれをこうして……」

 

 

 システムの向上を終わらせて、俺は自動照準補助システムを黒椿に搭載する。これでとりあえずは完成だが、放課後にエイミィに試運転をしてもらって軽く模擬戦でも出来たら最高なんだがな……一応許可申請を出しておくか。

 俺はとりあえず完成した黒椿を見上げながら、コーヒーを啜り一息ついたのだった。




専用機完成間近、模擬戦を考えなくては……

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