準備もしっかりとして、いよいよ体育祭本番となった。一夏君は参加出来ないけど、しっかりと生徒会役員として働いてくれる約束をしたのだ。
「さあ始まりましたIS学園体育祭。実況は私、IS学園生徒会会長更識楯無がお送りします。そして解説は~」
「……妹の更識簪です」
「はい、よろしくお願いしま~す」
私たちも午後の的当て以外は参加出来なくなっちゃったけど、こうやって盛り上げ役としてしっかりと仕事があるのだ。
「それでは最初の競技は定番、障害物競走! もちろん普通のではありませんよ~。さぁ簪ちゃん、ルール説明をお願い」
「参加者はまず衣装を決めるくじを引いてもらいます。そして各チェックポイントで再びくじを引き、そこで着替えてもらいます。時間内に着替えられなかったらカーテンが強制的に落ちる仕組みになってるので、そこでも気をつけてください。そして障害物ですが、割かし命の危険が付き纏いますので、参加者は開始前に念書にサインをお願いします」
念書の内容は、命を落としても学園側に一切の責任を求めないという内容なのだが、もちろん本当に命を落とすような事は無いように注意してあるんだけどね。それを先に言っちゃうとつまらないから言わないんだけど。
「なお、優勝者にはなんと! 新聞部黛薫子が担当して、一夏君とツーショットを撮れる権利が贈呈されまーす!」
一夏君は散々渋ってたけど、最終的には首を縦に振ってくれた。てか振らせたんだけどね~。
「コスプレ衣装のままでも良いし、制服に着替えてからでもOKだから、そこら辺は自分で決めてね~」
「てかお姉ちゃん、これって一夏、納得してるの?」
「もちろんだよ~。ちゃんと許可貰ってるから安心してね~」
私たちの会話で、参加者の戦意が高まったような感じがする。やっぱり一夏君を餌にすると参加者の意欲が上がって良いわね~。
「ではコース説明です。まずスタートしてすぐにある障害は~……高さ十メートルの壁です」
「これを登れば良いの?」
「もちろん普通に登っても良いですが、登り始めてすぐに水鉄砲で攻撃しちゃうからね~。衣装が透けちゃっても文句は受け付けないからね」
招待客も含め、男性は一夏君一人だけなのでさほど問題は無いのだけども、学園の大半の生徒と、招待客は一夏君が主夫だという事を知らないので羞恥心を煽れるのだ。本当はおじ様たちも呼びたかったんだけど、最終的に一夏君と虚ちゃんに止められたのだ。
「普通に登る以外は如何するの?」
「逆転の発想で、穴を掘って下をくぐるってのがあるね~。でもそっちにも当然妨害はあるからね~」
「どんな妨害?」
「掘ったさきから泥を流し込んで嫌がらせをしちゃうぞ~」
「……子供」
その担当は本音なので、子供ってツッコミもあながち間違っては無いんだけどね……てか散々怒られたけど決行しちゃえばこっちのものよ。
「さてさて、壁を越えたら次の障害、定番の網で~す」
「くぐってる間にバケツで水を掛けるんだよね?」
「水じゃつまらないからローションにしちゃった♪」
これでエロさ倍増ね! 客席に男の子が居ないからこそ出来る事。そして一夏君がこういった事で興奮しないからこそ出来るのよ!
「後で一夏に怒られちゃえ」
「その時は簪ちゃんも一緒だからね」
「嫌!」
「それじゃあ続きを説明するよ~。ローション地獄を抜けたら第一チェックポイント、お着替えタイムだね~」
「ここで衣装を変えて次のポイントまで進んでもらいます」
「時間内に着替えられないと下着姿を大公開だぞ~」
その瞬間を薫子ちゃんが狙ってるらしいのだけども、当然そんな事はさせないようにチェックポイントに配備されてる人員は気配察知の得意な人……第一チェックポイントは織斑先生が担当だ。
「チェックポイントを過ぎると第三の障害、沼です」
「折角着替えたのにすぐビショビショになっちゃうわね~」
「ここは特に妨害はありませんので普通に進んで下さい」
「計画してたんだけど、一夏君に怒られちゃったのよね~」
「さすがに爆竹は駄目だよ、危ないから」
だから花火にしようって言ったんだけど、そっちも駄目だって怒られちゃったのよね。
「さてさて、第四の障害は……これまた定番の平均台」
「落ちたら最初からやり直しです」
「周りには様々なものが落ちてますから、気をつけないと危ないですよ~」
「ちなみに何が?」
「よく飼いならされたヘビ」
「……如何言うこと?」
「落ちた人だけを襲うように訓練されてます」
オモチャだけど、ここでバラすと面白くないので、一夏君が考えてくれた嘘をみんなに伝える。面白いようにビビッてくれてるわね~。
「そして平均台を抜けると第二チェックポイント、再びお着替えだね~」
「ここを抜ければ後はゴールを目指すだけですね」
「もちろん障害はあるけど、ここから先は自分で確かめてね♪」
全部説明すると面白くないとの事で、説明はここまで。ここからは実況のお仕事なのだ。
「ちなみにゴールした人には、順位関係なく一夏君特製の豚汁が贈呈されま~す!」
「冷えた身体にありがたい景品ですね」
「途中棄権した人には残念ながらあげられないんだけどね」
「それでは、参加者は衣装を決めるくじを引いて下さい」
全学年合同での競技なので、結構な参加者が居るのだ。見知った顔では、一年生の専用機持ちや篠ノ乃さん、ハミルトンさんなども居る。
「ちなみにこれは当たり前だけど、専用機で障害を破壊するのは禁止ですからね~」
「壊した人には、織斑先生と一夏によるお説教が待ってますので注意してくださいね」
この注意で、セシリアちゃんやシャルロットちゃんが残念そうにしていた。やっぱりするつもりだったのね……
「あともう一個、ISを使うのも禁止ですからね」
「あくまでも自分の身体一つで障害を抜けて下さい」
今度はラウラちゃんが残念そうにしていた……よほど一夏君と一緒に写真を撮りたかったのだろうか……
「それでは決まったかな~?」
「くじに書かれた衣装に着替えて、スタート位置についてください」
ちなみに美紀ちゃんやナターシャ先生は妨害工作をしてもらうので既に配置についている。マドカちゃんや須佐乃男も同様にスタンバっているので此処には居ない。
「レースが始まったら上空から教員がISを使って撮影しますので、客席の皆様はモニター画像でご観戦下さい」
「意外と本格的に中継するんだね」
「一夏君がモニターに繋ぐやり方を教えてくれたからね~。移動しながらでも出来るようになったのよ」
ISの戦闘などをモニタールームで観戦する事は出来たけども、ISを使って撮影、それをモニターに流すのは結構難しかったのだ。
「うわぁ……」
「さて、コスプレも終わったようですし、そろそろスタートと行きましょう~!」
簪ちゃんが言葉を失ってるけども、確かに色々な格好の子が一同に集まると驚くわよね。意外なことに鈴ちゃんの衣装がチャイナ服な事に驚きだ。驚異的な引きの強さね……
「それでは、スタート合図は一夏君、よろしく~」
「あれ? お姉ちゃんがやるんじゃなかったの?」
「だって一夏君に見てもらいたいと思って~」
スタート位置から、一夏君のもの凄い鋭い視線が飛んできてるんだけども、今だけは気付かないフリをしておく事にした。どうせ後で怒られるんだから、今だけは楽しみたいじゃない。
「それではカメラの準備も出来ましたので、後はスタートを待つだけです」
「皆さん、怪我には気をつけてくださいね」
特に第二チェックポイントを抜けた後、危険度は前半の比では無いのだ。どんな反応を見せてくれるかが、今から楽しみね。
「さぁ、スタートしましたIS学園体育祭! 先頭は篠ノ乃箒ちゃんですね。おっぱいがブルンブルン揺れてますね~」
「お姉ちゃん!」
ここから先、私たちは実況と解説だけども、普通に観戦するしか出来ないのよね……妨害工作担当の人、ここから先はお願いね~。
織斑君とツーショットという景品に釣られて参加したけども、周りの目が尋常じゃないくらいギラついてるのを見て、早くも参加した事を後悔している。更識先輩たちの説明を聞いて、やっぱり普通の障害物競走ではなかったと思い知らされた。
「まさかティナまで参加するとはね~」
「そういう鈴だって……織斑君とツーショットなんて鈴なら簡単に出来るんじゃないの?」
鈴と織斑君は旧知の仲だと聞いている。そんな鈴が景品に釣られて障害物競走に参加したとは思えないんだけど……
「アタシの目的は一夏特製の豚汁よ! 写真なんて頼めば撮ってもらえるだろうし」
ここが他の専用機持ちの参加者と鈴の違いだろう。織斑君と仲が良いので写真には興味無し、その代わり鈴ですら滅多に食べられないという一夏君の料理が目的だとあっさりとバラした。
「だからアタシはゆっくりと確実にゴールを目指すわ!」
「でも、あんまりゆっくりだと着替え中に……」
「大丈夫よ! あんなのただの脅しでしょうし」
鈴はそう言ってるけど、あの更識先輩が脅しであんな事言うかな……どうせ脅すならもっと盛大に脅してきそうなんだけど……
「織斑君だ」
「スターターだって言ってたし、居てもおかしく無いんじゃない?」
織斑君がスタートの合図をすると、すぐさま飛び出したのは一組の専用機持ち三人と篠ノ乃さんだ。
「相変わらず対抗心むき出しね」
「ボーデヴィッヒさん以外表情が本気ね……」
「そんなに一夏と写真撮りたいのかしらね」
鈴は興味薄いようだけども、参加してる殆どの人がそれ目当てでこの競技に参加しているのだ。クラスの為、とかそんな殊勝な考えを持ってる人なんて殆ど居ないだろう……体育祭なのにだ……
「そう言えば、体育祭の勝ち負けって、如何やって決めるのかしら?」
「基本的には普通の体育祭と一緒じゃないの? 順位とかつけて」
「目玉競技以外には一夏が参加出来るんだし、一年一組が有利過ぎない?」
「織斑君は怪我の影響で裏方仕事だけだって噂だけど」
この前の亡国企業が攻め込んできた時の怪我が、まだ完全に回復してないようなのだ。それだけ重症だったのか、それともそれ以降も織斑君が忙しく動いてたからなのかは分からないけども、体育祭に織斑君は参加しないと噂されているのだ。
「一夏が出ないんじゃ、それなりに良い勝負が出来そうね」
「かっこつけてるところ悪いけど、鈴も私もビショビショなんだけど……」
壁を登り終えたのは良いが、先頭の篠ノ乃さんたちは見えなくなってるし、次の障害は網をくぐってる間にローションをかけられるのよね……なんか嫌だな……
「箒が網に掛かってたら、捕獲された獣みたいよね」
「鈴、自分の胸が薄いからって……」
「それは関係無いでしょ!!」
しまった、地雷だったか……鈴が胸が薄い事を気にしてるのを知ってるのに、何で言っちゃったんだろう……
「ティナだって大きいし、何でアタシの胸は成長しないのよ! こんな時誰に文句言えば良いの? 国? それとも医者?」
「何で国?」
そんな事を言いながら、次の障害である網に辿り着いた。どうやら先頭集団はこの網の終わりらへんに居るらしい……モニターで見たけど凄いヌルヌルしてるわね……
「あんなに必死になっちゃって……後半バテるわね、ありゃ」
「候補生やそれに準じる体力の持ち主たちでしょ? 大丈夫じゃない?」
特に根拠は無い。だけども性欲で動いてる人間は意外と最後まで持つ事が多いと、この前なんかの雑誌で読んだような……
「何だか気持ち悪いわね」
「目に入らないように気をつけないと」
網をくぐりながら、上から来るローションに視界を奪われないように進んでいく。男性が居たら絶対に参加したくなかったのだけども、生徒会長も分かってるのか招待した人は全員女性だ。
「漸く抜けれそうね」
「何人も通ってるから下もヌルヌル……」
とりあえずゴールが目標の私と鈴はゆっくりと確実に進んでるから大丈夫だが、滑って怪我した人が何人か居るようだ。残念ながら途中棄権らしいが。
「ここがチェックポイントね」
「ほう、凰にハミルトンか。貴様らは随分とゆっくりだな」
「アタシたちの目標はゴールですからね。一夏の豚汁が飲みたいだけですので」
織斑先生が着替えを選ぶくじの入った箱を差し出して、鈴が先に引いた。えっと私の衣装はなんだろうな……
「スク水?」
「ほう、濡れてもエロく無い衣装だな」
「鈴は何だった?」
「園児服……」
「貴様にはお似合いだな」
織斑先生の言葉に、鈴がプルプルと震えだした。ちなみに着替えが終わったトップ集団だが、篠ノ乃さんがバニー、オルコットさんが女教師、デュノアさんがシスター、ボーデヴィッヒさんが猫のコスプレをしている。
「この衣装、誰が決めたのかしら……織斑君だったら嫌だな……」
着替えを終えて鈴を待ってると、やけくそになった鈴が私を置いて先に行ってしまった。別に良いんだけど、ここまで来たら最後まで一緒に行こうよ……
鈴を追いかける為に沼に入り、進み難い泥のなかを必死に歩く。候補生に追いつくのはかなり無理があるわよね……普段からの鍛え方が違うんだから……
漸く沼を抜け、次の障害である平均台まで急ぐが、モニターを見ると平均台では皆苦戦してるようだった。
「(いったい何が?)」
説明ではヘビが居ると言っていたけども、ヘビで躊躇するようなメンバーじゃないんだよね。
「やっと追いついた……」
「あらティナ、何時の間に逸れたの?」
「鈴が置いて行ったんでしょ!」
如何やら鈴の中では、私が遅れたらしい……それにしても園児服、似合ってるわね……
「それで、何でこんなに平均台で苦労してるの?」
「平均台にローションが塗られてて、滑るのよ」
「上手く渡れないのか……」
塗られてるのは数箇所だけなのだが、それを跨ごうと歩幅を変えるとバランスを崩すらしいのだ。さすが生徒会、そこまで計画しての妨害とは……
「さっさと抜けたいんだけど、これが難しくて……」
「じゃあ私も挑戦してみよう」
平均台に足を乗せ、ゆっくりと上を歩いていく。所々にローションが見受けられたので、ゆっくりと避けて歩き、特に問題無く平均台を歩き終えた。
「それじゃ、お先に」
鈴にそう告げて私は第二チェックポイントへと向かう。そう言えば篠ノ乃さんたちもあそこに居たから、もしかして私が今一位?
「ハミルトンさんが一位ですか。意外ですね」
「ここの担当は小鳥遊先生なんですね」
くじが入った箱を差し出してくれたのは、最近臨時教師としてIS学園にやってきた小鳥遊先生だった。
「えっと何々……」
ここで着替えれば、後はゴールに向かうだけ。途中で何かあるらしいけど、それは説明してくれなかったのだ。
「これはまたマニアックな……」
今の格好がスク水、そして次の衣装は何とブルマなのだ。これ考えたの誰よホントに……
「小鳥遊先生は知ってます?」
「何を?」
「衣装考えた人」
「えっと、確か織斑先生と山田先生が考えたって一夏さんから聞きましたけど……恐らく楯無様も考えたんだと思いますけどね」
織斑『君』じゃなくて織斑『先生』の趣味なんだ……それはそれで何だか嫌だったな……聞かなければ良かった。
後悔してもしょうがないので、私はブルマに着替えてゴール目指して動き始める。着替えてる間に他の人も来たらしく、これは最後まで混戦になるんじゃないだろうか。
「これが最後の障害……」
目の前に現れたのは、ゴールが見えない一本の道……しかも幅が狭いロープの道だった。下には何かが蠢いているような池があり、注意書きに落ちたら失格と書かれていた。
「何よこれ……」
「ふん! こんなので躊躇ってる暇は無い」
ナース服を着た篠ノ乃さんが一気にロープの上を歩き出したが、途中でバランスを崩して池に真っ逆さまに落ちていった。
「何だこれは!? ヌメヌメするぞ」
「あれはうなぎだね……なんて悪趣味な障害だ」
デュノアさんが落ちた篠ノ乃さんを見て悪態を吐いてたけど、落ちたら自分もああなるんだよ?
「行きますわ!」
次はオルコットさんが行くようだが、何となくデュノアさんが笑ってるように見えたのは気のせいだろうか……
「このまま……? ちょっとシャルロットさん! ロープを揺らさないでくさだいまし!」
「僕は先に進もうとしてるだけだよ。セシリアこそ変な難癖つけないでよね!」
デュノアさんがロープに足を掛けた結果、先に進んでいたオルコットさんはバランスを崩して落下していった。
「きゃ! 気持ち悪いですわ!」
「暴れるな! うなぎが中に入るだろうが!」
オルコットさんを落としたデュノアさんだったが、因果応報というか何と言うか、自分でバランスを崩して池に落ちていった……見なかった事にしておこう。
バランス感覚には自信がある私は、誰にも妨害されないように進み、何とか渡りきった。それにしても長かったわね……
「あれ? ひょっとしてここがゴール?」
地面にはゴールと書かれたマットが置かれており、モニターには私が映し出されて、その上に一位と掛かれた文字が浮かんでいた。
『まさかまさかの一位はティナ・ハミルトンだー!』
『落ちてった人は煩悩が邪魔したんだろうね』
『エロい事考えてるからバランス崩すのよ』
実況と解説がしみじみとレースを振り返ってると言う事は、間違いなく私が一位なんだ……ハハ……勝っちゃった。
これぞ無欲の勝利なのだろうか……二位は鈴だったので、私たちのクラスは幸先の良いスタートを切れたんじゃないだろうか。このまま体育祭の優勝を目指すわよ!
次回も似たような展開に……