もし一夏が最強だったら   作:猫林13世

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テスト終了

 テストの日程なんてものは、集中すればあっという間に終わってしまうものだ。最終日のテストも無事に終わり、俺は今勉強会で教えていた六人と、教師役として手伝ってもらってた二人の問題用紙を預かり、そこに記入されている解答が合ってるかどうかの採点をしているのだ。

 

「おりむ~のおかげで何とかなったと思うよ~」

 

「そうですね。一夏様のおかげで補習は無いと思います」

 

 

 ……随分と低い目標だな。本音と美紀に関してだけ言えば、確かに当初の目的は赤点回避、つまりは補習を受けずに終わらせる事だったので、二人の発言は間違ってはいない。だがあれだけ勉強したんだから、せめてもう少し高い目標を持ってほしかったのが俺の偽らざぬ本音でもあるのだが……

 

「やっぱり一夏君の予想問題の的中率は凄いよね。テスト中に何度ガッツポーズしそうになったか分からないよ」

 

「エイミィの気持ち、私も良く分かるよ。お兄ちゃんの予想問題そのままが本番のテストの問題になってたし、違ってたところもお兄ちゃんの対策プリントよりかは簡単だったしね」

 

「一夏がテストを作ったって言われても納得出来る問題ばっかだったもんね」

 

「隣に居る一夏君を何度か拝みそうになったよ」

 

 

 頼むからホントに拝もうとした事は反省してもらいたい……気配で分かったので威圧して止めたが、テスト中に横を向こうとするのはさすがに駄目だ。試験官があの駄姉で無くてよかったと本気で思ってるんだから……

 

「簪は如何だった? 私はとりあえず前回よりかは出来たと思うけど」

 

「私も静寂と同じくらいかな。一夏には勝てないとは思うけども」

 

「二人は元々出来るじゃんか~! おりむ~の予想問題をやる必要はなかったんじゃないの」

 

「だって一夏の予想問題は本番に近い感覚で挑めるからね。やる必要はあったよ」

 

「そうそう。それに六人だけ一夏君の予想問題をやるなんてズルイからね」

 

 

 採点中なんだから、もう少し静かにしてもらえないだろうか……テストが終わって開放的になってるのは俺でも分かるが、こう耳元で騒がれると気が散ると言うか苛立ってくる。

 

「お兄ちゃん、採点終わった?」

 

「あと一人だ。だから頼むから声のボリュームを抑えてくれ」

 

 

 我慢出来なくは無いのだが、やっぱり気が散るのは確かなのだ。俺はしゃべってても良いから加減しろと頼み、最後の一人である美紀の答案を採点し始める。しかしよくもまあこんなに予想が当たるものだな……自分でもビックリだ。

 さっきからみんなが話しているように、俺が作った予想問題と、本番での問題はかなり類似している。もちろん俺は本番の問題を盗み出した訳でも、問題製作を手伝ったわけでもなく、自分ならこの問題をこう出題するなと考えて作った問題が、如何やら駄姉たちの思考と同じだったと言うだけなのだ。

 

「補習が無かったら、明日遊びに行こうよ~」

 

「良いね! でも、まだ結果が出たわけじゃないよね?」

 

「一夏の採点は正確だからね。解答を写し間違えてない限りこの採点で結果は分かるよ」

 

「つまりテスト終了直後に結果が分かる訳か……緊張しないけど何だか嫌な感じね。テスト後の開放感に浸ることが出来ないなんて」

 

「静寂は別に良いじゃん。私たちはかなりドキドキしてるよ……」

 

「カスミンは心配性だな~。勉強会であれだけ良い結果出してたんだから、そんなにドキドキする必要は無いよ~」

 

「そうですね。香澄さんとエイミィさんは勉強会でも結果を出してましたから良いですけど、本音様と美紀さんは何度か再テストがありましたからね」

 

「須佐乃男、折角忘れてたのに……」

 

 

 須佐乃男の辛辣なコメントに、美紀がガックリと肩を落とした。採点し終わった俺としては、別にそこまでガックリする必要は無いと思ってるんだがな……もちろんまだ美紀は結果を知らない訳だからしょうがないと言えばそれまでなのだが。

 

「終わったぞ」

 

「ホント! ……すぐに教えてくれるのよね?」

 

「何だエイミィ、随分と自信無さげだな」

 

「一夏様や簪ちゃん、静寂は兎も角私たちはそれほど自信ありませんよ……」

 

「学年上位の三人と、私たち六人は違うんだよ、お兄ちゃん」

 

 

 そんな事は分かってるが、別に俺たちだって全く動じない訳では無い。そもそも自分がずっと上位に居られるとも思って無いのだから、緊張感はお前ら六人と大して変わらないと思うんだが……まぁ良いか。

 

「それじゃあ返していくが、これが正式な結果では無い事だけは言っておくぞ」

 

「大丈夫、ミスがあれば、それは私たちの所為だから」

 

「一夏君の採点が間違ってる訳ないしね」

 

 

 この二人の異様な信頼度はなんなのだろう……簪は兎も角として、静寂は何故そこまで俺を信用出来るんだ?

 

「とりあえずまず本音」

 

「ほえ!?」

 

「全教科平均で六十五点だ。これなら補習は無い」

 

「よ、良かったよ~……」

 

「しかしあれだけ出来なかった本音が、まさか合格するとはな……正直思ってなかった」

 

 

 本番前のテストでは、半分も正解出来て無かったのを考えると、この結果は満足の行くものだっただろう。

 

「次、美紀」

 

「は、はい!」

 

「平均七十三点だ。よく頑張ったな」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「あ、あぁ……誤差はあるかもしれないが、七十点を切る事は無いと思うぞ」

 

「嬉しいです!」

 

 

 これなら四月一日家の人間を見返してやる事が出来るかも知れないな……そんな事はしないとは思うが。

 

「次マドカと須佐乃男」

 

「同時ですか?」

 

「同じ結果なのかな……」

 

「別に同じ点数じゃねぇよ。ただそわそわ具合が一緒だったから同時に呼んだだけだ」

 

「そこまで考慮してるとは……」

 

「さすがお兄ちゃんだね……」

 

 

 さっきから妙にそわそわウロウロしてるのがこの二人だったのだ。それが視界に入ってるのが鬱陶しかったので同時に呼んだだけで、本当なら別々で呼ぶ予定だったのだ。

 

「須佐乃男が平均七十八点、マドカが七十九点だ」

 

「一点差ですか……」

 

「もうちょっとで八十だったのにな~」

 

「欲を出すのは良いが、次のテストで失敗したら年間補習って可能性がある事を忘れるなよ。そうなると冬休みの半分は勉強に費やす事になるからな」

 

「……怖い事言わないでよ」

 

 

 マドカの癖として最近気付いたのは、調子が良いと浮かれて詰めが甘くなる事があるのだ。だから釘を刺しておけば最後まで緊張感を持って挑めるだろうと思ったので、一ヶ月以上先の次のテストの事を言っておいたのだ。

 

「次エイミィ。平均八十二点」

 

「嘘ッ!? 八十点超えてるの!?」

 

「頑張ってたからな。これくらいは出来るようになっててもおかしくは無い」

 

 

 候補生でもあるので、本来なら最初からこれくらい出来てほしかったんだが、まぁ結果が出てるんだから細かい事は言わなくて良いか。

 

「後はカスミンだね~」

 

「順番に点数が上がってますから、恐らく香澄さんが一番だったのでしょう」

 

「そうだな。香澄の平均は八十五点だ。十分上位に名前があってもおかしく無い結果だな」

 

 

 正直皆半分よりは上だと分かってるだが、本音と香澄とで差が二十点もあるのがきになるのだ。同じ勉強を同じだけやってきたはずなのに、何故ここまで差が出るのかと……

 

「一夏、私たちのは?」

 

「そうそう。私たちだって結果が知りたいんだけどな」

 

「そう急かすな。静寂が平均九十三点で、簪が九十七点だな」

 

「……分かってたけど二人共凄いね」

 

 

 二人の点数を聞いて、香澄が何とかコメントした。他の五人は口をあけて絶句している……受け入れるには耐え難い真実だったのかも知れないな。

 

「……それで? さっきから問題用紙を持って待ってる二人は何なんだ?」

 

「私たちも採点してほしいな~って」

 

「お願いできますか?」

 

「……一応言っとくが、俺は下級生だぞ」

 

 

 二年の刀奈と三年の虚の問題を見て答えが分かると思ってるんだろうか……

 

「一夏君なら出来るでしょ?」

 

「だからお願いします」

 

 

 如何やら二人の中で俺が採点する事は決定事項らしい……面倒だがついでだからやってしまうか……

 二人から問題用紙を受け取り、軽く目を通す……まぁこれなら何とかなるな。俺は一度置いたペンを再び手にとって採点を始める。

 

「ほえ~……おりむ~が楯無様とおね~ちゃんのテストまで採点してるよ~」

 

「最早何でもありですね」

 

「だってお兄ちゃんだし」

 

 

 この三人には褒美は無くても良いような気がしてきたな……俺の機嫌が悪くなりそうなのを察知したのか、三人は揃って口を押さえて傍から離れていった。

 

「如何かしたのかしら?」

 

「さぁ? あの三人の行動は私には分かりませんし」

 

「……それもそっか」

 

 

 刀奈と虚が不審がって首を傾げていたが、答えが分からないと諦めたのか興味が三人から俺に移ってきた。

 

「終わった?」

 

「後一教科」

 

 

 ただでさえ上級生の解答にペン入れしてるのだ。同級生と同じ時間で終わる訳が無いだろうが……

 

「しかし、さすがは一夏さんですよね。まさか私たちのまで採点してくれるとは」

 

「お前ら二人だけ断る訳にもいかないだろ……ほれ、終わったぞ」

 

 

 二人に採点済みの問題用紙を返し、俺は一息入れる為にキッチンに向かおうとしたのだが、刀奈に腕を掴まれてそれは出来なかった。

 

「何だよ?」

 

「この問題の解説がほしいな~」

 

「……教科書に書いてあるだろ」

 

「一夏君の解説が良いの!」

 

 

 間違えた箇所の確認を早急にするのは良い事だが、それに下級生の俺を巻き込まないでほしかったぞ……振りほどこうとすれば簡単に出来るが、潤んだ瞳で上目遣いされると如何も弱いのだ……結局刀奈の間違えた問題を解説する事になった俺は、そのままの流れで虚の間違えた箇所の説明もする事になったのだった……もう一度だけ言う、俺は下級生なんだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テストが終わり、私たちも一瞬の開放感を覚えたが、すぐさま採点と言う現実に引き戻される事になるのだ。

 

「織斑先生、さすがにこれは織斑君には頼めませんからね」

 

「分かってるさ……だが真耶、どうせ一夏は全問正解なんだから、アイツに頼んでも問題無いだろ。採点の途中で答えを書き換えるような心配も無いしな」

 

「そう言う問題じゃ無いですよ! 織斑君だって生徒なんですから、他の生徒の答案を見せるのは問題になるって事です!」

 

「プライバシーか……親が過保護なだけだろ。それに騒ぐのは成績の良く無い生徒の親だけだろ」

 

「そうですけど……いや、そうじゃないですよ!」

 

 

 納得しかかったのに、真耶はまだ何か言いたそうだった。

 

「何だと言うのだ。一夏が優秀なのも、騒ぐのは親だけだと言うのも事実だろうが」

 

「そうですけどそうじゃないんです! いいですか! 採点は教師である私たちの仕事であって、生徒である織斑君に頼むのは間違いなんです! ただでさえ普段から私たちの仕事を手伝ってもらってるんですから、これくらいは自分でしましょうよ!」

 

「そうだな……間に合わなかったらまた頼めば良いだけだしな」

 

「全然分かってないですね……」

 

 

 真耶がガックリと肩を落としたが、正直そんな事を気にする義理は無い。私は嫌々ながらも答案を手に取り、とりあえず採点していく事にした。第一私の担当は実技のはずだろ。何で座学のテストの採点なぞせにゃいかんのだ、まったく……

 

「織斑先生、もう少しペースを上げてくださいよ。これじゃあ今日中に終わりませんよ」

 

「別に明日も明後日も休みなんだし、急ぐ必要は無いだろ」

 

「お忘れのようなので言っておきますが、明日明後日は織斑先生は政府機関に呼ばれて研修ですよね? そうなると私一人で採点しなければいけなくなるんです! 担任と副担任で採点する決まりなんですから、しっかりと採点してください!」

 

「ならナターシャなり小鳥遊なりに手伝わせれば良いだろ。あいつらだって教師なんだから」

 

「面倒事を人に投げる癖は直した方が良いですよ。一夏君にも怒られますし」

 

「貴様が名前で呼ぶ事を許可した覚えは無い」

 

 

 どさくさ紛れで一夏の事を名前で呼んだ真耶に、私は鋭い視線を向けた。すると真耶は必死になって頭を下げて謝ってきた。……謝るくらいなら最初から言わなければ良いものを。

 

「大体、何で私が研修になど行かなければならないんだ! ISの操縦法など知ってると言っただろうが」

 

「しょうがないですよ。ここは日本政府が作った学校なんですから……織斑君に何度も調べてもらったおかげで、今回の呼び出しには不審な点は無いと分かってるんですから、文句言わずに行ってください」

 

「お前が行けば良いだろ。私は仮病で休む」

 

「仮病って言っちゃ駄目でしょうが! そもそも政府の指名が千冬さんなんですから、私が行っても意味無いですよ」

 

 

 そうなのだ。糞忌々しい事に、政府機関が研修に指名してきたのは私なのだ。実演でもさせるつもりなのか、それとも私に完膚なきまでに叩きのめされたいのかは知らんが、まったく面倒事を押し付けられる身にもなれと言うのだ……

 

「うわぁ……織斑君はさすがですね」

 

「一夏が如何かしたのか?」

 

「全教科全問正解ですよ」

 

「まぁ、アイツならそれくらいは普通だろうな。何せ生徒の身でありながら教える側でもあったんだから」

 

 

 一夏の部屋では落ちこぼれを集めて勉強会を行っていたのだ。参加メンバーの半分以上が私のクラスなのが気になったが、一夏の周りの人間だと考えると何とか納得出来るメンバーだったのだ。

 

「ホント、織斑君の指導力は羨ましいですよね。勉強会に参加してた人は、軒並み好成績ですし」

 

「だがしかしその中にも差は出てるがな」

 

 

 他クラスのカルラの結果は知らんが、既に採点済みの中に一夏が教えてたメンバー全員の答案がある。その中で一番悪いのは布仏妹、一番良いのが日下部だ。その二人の差は二十点あり、これは一夏も頭を悩ませるだろうな。

 

「ですが、布仏さんも一学期の成績を考えるとかなりの進歩だと思いますよ」

 

「当たり前だろ。何せ一夏が教えた生徒だからな!」

 

「……本来なら私たちが教えなきゃいけない生徒の間違いでは?」

 

「真耶、細かい事を気にしてると早く老けるぞ」

 

 

 真耶が言ってはいけない事を言ったので、そう言って脅す。すると真耶は何かに気がついたようにしきりに頷いた。

 

「そうですよね! 織斑君が教えた子の成績が上がるのは当然ですよね! 何せ織斑君は全問正解で学年トップなんですから!」

 

「その通りだ! 一夏は学年トップで全問正解の成績優等生だからな! 教え方が上手くても別に何の問題も無い。むしろこれだけの結果を出して当然なんだ!」

 

 

 ……自分たちで言っていて寂しい気持ちになるのは、恐らくこれが自分たちの責任逃れである事を心のどこかでしっかりと理解してるからだろう……真耶も途中から泣きそうな顔になっているし、私の声も微妙に涙声だ。

 

「……千冬さん、私たちって織斑君から見たら何なのでしょうね?」

 

「少なくとも私は姉だが、お前は知らん」

 

 

 正確には義姉なのだが、そこは今問題では無いのだ。

 

「年上のお姉さん……でも並ぶと織斑君の方が大人っぽいですし……」

 

「無駄乳女じゃないか?」

 

「千冬さん!」

 

「冗談だ、冗談。だから泣きそうになるのは止めろ」

 

 

 まるで私が苛めてるように見られるので、真耶に泣かれるのは勘弁願いたいのだ。

 

「そもそも一夏は、自分が教師の代わりを務めようなどとこれっぽちも思って無いと思うぞ。アイツはそう言うやつだからな」

 

「そうでしょうけども、クラスにアンケートを取れば、誰が一番教師らしいかはっきりすると思いますよ」

 

「……そんなアンケートは取る必要無いし、考える必要も無い」

 

 

 結果はどうせ一夏の圧勝だろうし、そもそも選択肢に一夏を入れてる時点で私の思考も間違ってるのだが……

 

「せめてナターシャ先生や小鳥遊先生みたいに、織斑君から信頼される人になりたいです」

 

「あの二人は一夏と付き合ってるからな。それに教師としての信頼度は、私たちと大して変わらないと思うがな」

 

 

 あの二人は座学が苦手で、実技も一夏の手を借りなければまともに出来ないからな……その点では私の方が上だと言えるだろうな。

 

「ですが、実戦となれば千冬さんより頼りにしてると思いますよ。何せ千冬さんは前線から離れて久しいんですから」

 

「競技者としてもだが、IS操縦者としてもそうだな……まともに動かした記憶が、最近に無いのは真耶の言う通りだ」

 

 

 そもそも教師として入学試験を行ってから、ISを動かした覚えが無い……これまでもそれなりに間は空いていたが、ここまで空くのは初めてかもしれない……研修に呼ばれてる事だし、そこで感覚を取り戻しておくのも悪く無いかもな……

 さっきまで研修に対して全く興味も無かったが、感覚を取り戻すのに使えると思いつくと、何だか楽しみになって来たな。政府の狗を痛めつけるのも爽快そうだし、早いところ研修とやらをやりたい気分だ。

 浮かれきった私は、未だかつて無い速度で採点を終わらせ、土日の真耶の予定をフリーにする事となったのだった。




学年平均は七十点前後だと考えて下さい

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